はっちゃんZのブログ小説

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送霊師奇譚

この物語は特殊能力を持つ男子大学生と女子高校生が主人公となっています。この二人は現実のこの世界へ影響を及ぼしている異なる波長の世界に生きる生物(霊魂、悪霊、悪魔など)と戦って解決していきます。

内容的には悲しく切ない場面が多い物語となっています。
時に霊魂の存在を信じていない警視庁迷宮事件係(通称038(おみや)課)の二人の刑事とタッグを組んだり、またある事情からこの刑事二人に知られない様に行動して事件を解決していきます。この物語の主人公は、小生の他の作品である『武闘派なのに、実は超能力探偵の物語』の「妖?行方不明者を探せ」の章に出てきた二人です。

主な登場人物
桐生遼真(きりゅう りょうま)
桐生一族で桐生 翔の従兄弟。20歳。都内有名私立大学3年生。身長178センチ、体重70キロ。淡いダークグレイの眼鏡を掛けており、鼻筋の通った顔で人を惹きつける切れ長の眼で金色の輪郭の暗褐色の瞳を持つ青年。両親が狐派の人間で多くの異能を持つ。霊を霊界へ送る力(金環力)を持つ。

桐生真美(きりゅう まみ)
桐生一族で17歳、都内有名私立女子高校2年生。身長163センチ、長い黒髪をシュシュでまとめている。普段はややブルーがかったレンズの眼鏡をかけており、丸顔に真っ黒の長い髪、やや厚めで真っ赤な唇が目立つ。猫のような丸い眼を持ち銀色の輪郭の深い暗赤色の瞳を持つ女性。両親が狐派の人間で多くの異能を持つ。霊を自縛させる力(銀環力)を持つ。

新宿桐生探偵事務所 
桐生翔:所長、遼真の兄貴分、桐生一族の次期頭首候補。
    ※私の他作品『武闘派なのに、実は超能力探偵の物語』の主人公。
館林百合:翔の許嫁、館林一族のお姫様、現在は探偵事務所事務員。

警視庁38課(迷宮事件係、通称038(おみや)課)刑事 
宮尾徳蔵警部:翔と仲の良い都倉警部と同期でたまに一緒に酒を飲んでいる。
小橋光晴刑事:格闘のプロのプロレスラーさえも失神させた経歴を持つ。

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

話の大筋に全く変更はありませんが、18歳未満が閲覧できないため、こちらとは性描写部分を変えています。

<もくじ>

第1章:記憶喪失の男

1.新生活

2.おみや課刑事登場

3.男との対話

4.捜査開始

5.霊を見る力。記憶を見る力。

6.304号室の二人

7.記憶の世界へ1

8.記憶の世界へ2

9.記憶の世界へ3

10.姉妹との戦い1

11.姉妹との戦い2

12.姉弟との戦い3

第2章:いつまでも美しい女

1.多摩湖変死体事件

2.竜神様のプレゼント

3.霊査1 物に宿る記憶

4.霊査2 須田範宣氏の証言

5.美女の慈善家

6.捜査1 須田氏の人生

7.捜査2 現場と竜神様

8.霊査3 多摩湖周辺

9.美真野家の秘密1

10.美真野家の秘密2

11.捜査3

12.捜査4

13.魔法陣、悪魔、地獄、天使、天界について

14.潜入、そして藤原との戦い

15.魔女の悲しみ、神父の罪

16.真の敵との戦い1

17.真の敵との戦い2

第3章:みいつけた

1.公園にて

2.乳児誘拐事件発生

3.子育て

4.捜査1

5.捜査2

6.霊査1 石碑の声

7.霊査2 柄島真弥・茉優の物語

8.霊査3 柄島一馬・和馬の物語

9.霊査4 中島茉緒・美緒の物語

10.和馬と美緒の道行き

11.事件の顛末

第4章:迷い里からの誘い

1.無差別殺人事件、悲惨な事故の発生

2.迷い里伝説

3.霊査1 6月26日事件犯人木村の場合

4.霊査2 7月25日事件犯人浜口の場合

5.霊査3 8月23日運転手天山氏の場合1

6.霊査4 天山 聡氏の場合2

7.霊査5 天山 聡氏の場合3

8.迷い里、道切村へ侵入

9.迷い里、道切村での戦い1

10.迷い里、道切村での戦い2

11.迷い里、道切村での戦い3

第5章:真美を救え

1.事件発生

2.遼真、出発する。

3.萩原マリコの物語

4.遼真、真美を発見

5.白猿(びゃくえん)との戦い

6.怨霊、猿野花(さのか)の物語

7.十字路の悪霊(埋められた呪詛)

8.すみれ、決別の涙、そして

9.遼真の後悔

第6章:母と共に

1.遼真と母

2.怪事の始まり

3.深き淵に潜むモノ

4.襲撃

5.遼真覚醒、そして母は

第7章:私の中の誰か

1.遼真の背中へ

2.多摩湖の桜吹雪

3.真美の友人の悩み

4.舞華の悪夢

5.臓器の記憶

6.舞華の笑顔

7.霊査1(木村瑠海の悲しみ1)

8.霊査2(木村瑠海の悲しみ2)

9.霊査3(木村瑠海の悲しみ3)

10.捜査1(友人恵理那)

11.捜査2(上田の情報)

12.捜査3(ハングレ組織、狂次の情報)

13.霧派桐生紅凛と黒狼の登場

14.霧派始動

15.レッドシャーク団との戦い1

16.レッドシャーク団との戦い2

17.レッドシャーク団との戦い3、そして瑠海の鎮魂

第8章:占い死

1.テロ

2.選挙演説

3.捜査1(シシトー教団)

4.捜査2(宍戸家情報)

5.霊査1(旧宍戸家の居間)

6.霊査2(旧宍戸家夫婦、鷲と鈴女の部屋)

7.霊査3(旧宍戸家鷹の部屋)

8.捜査3(東アジア平和会)

9.捜査4(シシトー神の館へ潜入)

10.捜査5(令和獅子党1)

11.霊査4(令和獅子党2)

12.霊査5(怪死の現場)

13.シシトー神教団と令和獅子党の躍進

14.霊査6(古代日本の歴史)

15.淫獣1

16.淫獣2

17.シシトー神との対話

18.シシトー神との戦い

19.御社の創建

第9章.魔族の蠢動

1.入学

2.新入生歓迎コンパ1

3.新入生歓迎コンパ2

4.再び龍神様の元へ

5.白美姫の出現

6.白美姫、力を開放

7.戦いの後

第10章.アイの叫び声

1.目を覚ました娘

2.新製品 “エモフォン”発売

3.雷電山1

4.雷電山2

5.夫婦のアパート

6.霊査1(倉持夫婦の過去とアパート内の光景)

7.霊査2(ある日の光景)

8.霊査3

9.

10.

11.

12.

13.

14.

15.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さざなみにゆられて-北海道編-

小説期間:2000年平成12年4月1日~

あらすじ:

さざなみにゆられて-山陰編-の続編です。

山陰地方で生まれた美波は写真集で見た富良野などの北海道の雄大な風景に憧れ、

自分のことを全く知らない人の街で一人で暮らしてみたいと北海道の大学を受験。

小樽商科大学に無事合格し義父の影響で銀行員を目差す。

両親は米子市にいたが、2000年に義父の勤務する銀行の合併に伴い、

偶然札幌市へ異動となる。

北の都『札幌』を中心に各季節ごとに趣きを変える北海道内の自然や観光名所を含めて

慎一、静香、美波、雄樹、夏姫の生活が始まる。

悲しい事件は起りません。おだやかに時間が過ぎていくだけです。

※20年も経つと観光場所や食べ物も変わっているため、整合性を合わせるためにお店や食べ物は最近のものに変えています。ご容赦下さい。

 

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

話の大筋に全く変更はありませんが、18歳未満が閲覧できないため、こちらとは性描写部分を変えています。

 

登場人物

日下慎一 現在41歳、1999年静香と再婚。山陰支店では預金課で勤務している。

     2000年4月より関西中央銀行と札幌振興銀行が合併し「六花銀行」となる。

     2000年に北海道札幌市へ再度融資課員(支店長代理)として異動。

日下静香 現在39歳、17年前に夫と死別し娘(美波)を一人で育てた。

                  1999年5月に日下慎一と再婚。現在妊娠中。

日下美波 現在19歳、鳥取県米子東高から北海道小樽商科大学へ入学し青春を満喫中。

日下雄樹 2000年夏に生まれる男の子。

日下夏姫 2000年夏に生まれる女の子。

 

もくじ

1.札幌へ              

2.初めての胎動

3.美波の戸惑い           

4.慎一の自覚と不安

5.初出勤             

6.二人でコーヒー

7.美波の誕生日           

8.YOSAKOIソーラン祭り

9.美波、学生生活スタート       

10.独立への一歩

11.母の再婚と強がり娘       

12.サークル

13.ゲレンデ            

14.雪のイベント

15.誕生              

16.子供たちのお披露目

17.お宮参りと育児への参加              

18.銀杏の下で

19.シシャモ祭りとラムジンギスカン    

20.お食い初め

21.美波の憂鬱                                        

22.流氷観光1

23.流氷観光2           

24.流氷観光3

25.桃の節句                                           

26.静香始動            

27.支笏湖とオコタンペ湖1                   

28.支笏湖とオコタンペ湖2     

29.端午の節句                                        

30.美瑛と富良野1         

31.美瑛と富良野2                                  

32.すながわスウィーツロード1   

33.すながわスウィーツロード2            

34.美波、YOSAKOIへ出場1

35.美波、YOSAKOIへ出場2   

36.子供達の誕生日

37.函館港まつりへ1-地球岬-        

38.函館港まつり2-森駅-

39.函館港まつり3-ホテルにて-     

40.函館港まつり4-花火大会-

41.函館港まつり5-ホテルの朝食-   

42.ねぶた祭り1-青森へ移動-

43.ねぶた祭り2-青森観光1-          

44.ねぶた祭り3-青森観光2-

45.ねぶた祭り4-祭り本番-       

46.青森から函館へ-竜飛海底駅-

47.函館観光1                     

48.函館観光2

49.函館観光3-恵山岬-         

50.洞爺観光-有珠山・昭和新山-

51.洞爺から札幌-昭和新山牧場-     

52.偶然の再会-望羊中山-

53.美波の恋?           

54.ドライブへの誘い

55.彼とドライブ1-小樽から帯広へ-    

56.彼とドライブ2-幸福駅-

57.彼とドライブ3-然別湖・東雲湖-  

58.秋桜祭り

59.七五三参り            

60.旭山動物園1

61.旭山動物園2                      

62.クリスマス

63.層雲峡氷瀑祭り                                 

64. 支笏湖氷濤まつり 

65.雪遊びとさっぽろ雪まつり    

66.平岡公園梅まつ

67.童話村たきのうえ芝桜まつり   

68.美波内定のお祝い

69.友人と内定のお祝い       

70.旭川にて1-三浦綾子記念文学館-

71.旭川にて2-初めての彼の部屋

72.旭川にて3-彼からのお祝い-

73.梅雨の晴れ間、定山渓へ1

74.梅雨の晴れ間、定山渓へ2

75.北竜ひまわりの里

76.子供達の習い事とえこりん村

77.道央旅行1(襟裳岬・広尾・大樹・忠類)

78.道央旅行2(トマムリゾートで夕食・雲海テラス)

79.道央旅行3(ファームでランチピクニック)

80.道央旅行4(ミナミナビーチと夕食)

81.道央旅行5(朝食とラフティング、ヤギの郵便屋さん)

82.転勤の打診

83.美波の初恋の終わり

84.秋の道東旅行1(丘珠空港から阿寒湖へ)

85.秋の道東旅行2(阿寒湖湖畔にて)

86.秋の道東旅行3(摩周湖と屈斜路湖にて)

87.秋の道東旅行4(屈斜路湖湖畔から知床へ)

88.秋の道東旅行5(知床第一ホテルにて)

89.

90.

 

 

 

 

 

 

 

 

さざなみにゆられて-山陰編ー

*あらすじ*

山陰地方の町、米子市で小料理屋「さざなみ」を営む静香・美波親子と

関西生まれの銀行マンの慎一とのふれあいを描く。

山陰地方の豊かな四季の中で三人三様の心の傷が癒される時間を描く。

読者の対象年齢は20歳以上に設定しています。

*登場人物*

後藤静香 小料理屋「さざなみ」の店主。

                  地の食材を美味しく食べさせてくれる店。

     店ではいつも弓浜絣を着ておりおだやかな笑顔の女性。

                  娘と二人暮らし。

後藤美波 静香の娘。高校一年生。明るく人懐こいところがある。

日下慎一 春に米子へ新規開拓を目的に赴任してきた独身の銀行マン。

 

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

話の大筋に全く変更はありませんが、18歳未満が閲覧できないため、こちらとは性描写部分を変えています。

 

*改訂について*

内容は数年単位で徐々に見直しを行っています。

目次の後に(改)となっているものは見直して内容を若干変えています。 

~もくじ~

1.赴任(改)      

2.「さざなみ」初来店 (改)

3.秀峰大山へ(改)   

4.静香のまなざし、美波のまなざし(改)

5.面影(改)             

6.追憶1(改)

7.追憶2(改)            

8.美波の秘密

9.がいな祭りと境港         

10.がいな大花火大会

11.美波、秋の県大会新人選へ出場  

12.帰途の二人

13.とまどい            

14.師走、三人で

15.帰省、遠い記憶         

16.初詣

17.移り変わる記憶         

18.桜街道

19.二人で出雲へ          

20.母の再婚

21.彼との距離           

22.浴衣1

22.浴衣2             

24.突然の辞令

25.それぞれの思い         

26.いつもの音

27.美波のがまん          

28.慎一の約束、静香の願い

29.異動の朝            

30.湯呑

31.壊れた携帯           

32.霧と痛みの世界

33.間違い電話           

34.幸恵の疑問

35.静香親子、神戸へ        

36.春の息吹

37.再赴任             

38.再び『さざなみ』へ

39.美波の受験           

40.美波の言葉

41.旅立ちの日           

42.広すぎる家

43.最初の夜            

44.相性

45.新婚旅行、娘と1        

46.新婚旅行、娘と2   

47.業界再編への動き、そして

『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語

あらすじ

桐生 翔(きりゅうしょう)は新宿の片隅で私立探偵業を営む。困った人を助けたいと思う正義感あふれる若い探偵が、この小さな探偵社を訪れるクライアントから持ち込まれるさまざまな依頼を真摯に解決していく。

ある日突然超能力(テレポーテーション)に目覚めるが、本人もその能力をあまり信用しておらず発現頻度も曖昧で使い方もよくわかっていないまま物語は進んでいく。

翔の高い格闘技術と最新探偵道具を使い事件の核心を掴み解決していく姿と恋人百合とのラブラブな場面を楽しんで欲しい探偵小説。 

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

そちらでは話の大筋は全く変わりませんが、18歳未満は閲覧が不可能なためこちらとは性描写の内容を変えています。

 

~もくじ~

1.絶体絶命のはずなのに?      

2.翔、帰還?! 

3.京(狂)一郎、見参!       

4.『葉山館林研究所』到着 

5.いつ出るの?超能力!                      

6.葉山館林邸1

7.葉山館林邸2                          

8.テロ教団から都民を救え!1

9.テロ教団から都民を救え!2     

10.テロ教団から都民を救え!3

11.「目黒館林研究所」完成       

12.臓器売買組織を壊滅せよ

13.ストーカー事件を解決せよ!1 

14.ストーカー事件を解決せよ!2

15.ストーカー事件を解決せよ!3 

16.ストーカー事件を解決せよ!4

17.百合との出会い1                     

18.百合との出会い2

19.百合との出会い3           

20.百合との出会い4

21.幼い兄妹を救え1                           

22.幼い兄妹を救え2

23.幼い兄妹を救え3          

24.幼い兄妹を救え4

25.幼い兄妹を救え5       

26.翔とミーアと百合1

27.翔とミーアと百合2                      

28.局アナ盗撮事件を解明せよ1

29.局アナ盗撮事件を解明せよ2  

30.局アナ盗撮事件を解明せよ3

31.局アナ盗撮事件を解明せよ4  

32.局アナ盗撮事件を解明せよ5

33.未知の物質は?        

34.桐生事務所ビル改築

35.オレオレ詐欺団を壊滅せよ1      

36.オレオレ詐欺団を壊滅せよ2

37.オレオレ詐欺団を壊滅せよ3     

38.オレオレ詐欺団を壊滅せよ4

39.オレオレ詐欺団を壊滅せよ5  

40.お化けアパートの怪1

41.お化けアパートの怪2             

42.お化けアパートの怪3

43.お化けアパートの怪4             

44.お化けアパートの怪5 

45.お化けアパートの怪6     

46.初めてのくちづけ

47.百合、実家で相談する     

48.翔、久々に実家へ帰る1

49.翔、久々に実家へ帰る2    

50.百合、初めて桐生家へ

51.翔、初めて葉山館林家へ1   

52.翔、初めて葉山館林家へ2

53.翔、初めて葉山館林家へ3   

54.翔、初めて葉山館林家へ4

55.新宿探偵事務所スタート1   

56.新宿探偵事務所スタート2

57.新宿探偵事務所スタート3    

58.新宿探偵事務所スタート4

59.逆恨み1            

60.逆恨み2

61.逆恨み3               

62.消された記憶1

63.消された記憶2           

64.消された記憶3

65.怪しいクライアント      

66.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ1

67.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ2 

68.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ3

69.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ4  

70.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ5

71.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ6  

72.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ7

73.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ8  

74.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ9

75.遺族の恨みは晴れるのか1     

76.遺族の恨みは晴れるのか2

77.遺族の恨みは晴れるのか3             

78.遺族の恨みは晴れるのか4

79.遺族の恨みは晴れるのか5             

80.遺族の恨みは晴れるのか6

81.遺族の恨みは晴れるのか7              

82.遺族の恨みは晴れるのか8

83.遺族の恨みは晴れるのか9             

84.遺族の恨みは晴れるのか10

85.遺族の恨みは晴れるのか11           

86.遺族の恨みは晴れるのか12

87.遺族の恨みは晴れるのか13           

88.遺族の恨みは晴れるのか14

89.遺族の恨みは晴れるのか15            

90.遺族の恨みは晴れるのか16

91.遺族の恨みは晴れるのか17    

外伝1

92.特訓1 (浅間別荘編1)          

93.特訓2(浅間別荘編2)                   

94.特訓3(浅間別荘編3)       

95.特訓4(浅間別荘編4)   

96.特訓5(浅間別荘編5)                       

97.特訓6(浅間別荘編6) 

98.特訓7(浅間別荘編7)                       

99.特訓8(葉山編1)        

100.特訓9(葉山編2)                      

101.特訓10(葉山編3)                   

102.特訓11(葉山編4)                    

103.妖?行方不明者を探せ1       

104.妖?行方不明者を探せ2             

105.妖?行方不明者を探せ3          

106.妖?行方不明者を探せ4            

107.妖?行方不明者を探せ5            

108.妖?行方不明者を探せ6            

109.妖?行方不明者を探せ7  

110.妖?行方不明者を探せ8             

111.妖?行方不明者を探せ9       

112.妖?行方不明者を探せ10           

113.妖?行方不明者を探せ11 

114.首都を防衛せよ1                     

115.首都を防衛せよ2       

116.首都を防衛せよ3                     

117.首都を防衛せよ4      

118.首都を防衛せよ5                      

119.首都を防衛せよ6   

120.首都を防衛せよ7                      

121.首都を防衛せよ8   

122.首都を防衛せよ9                      

123.都を防衛せよ10     

124.首都を防衛せよ11

125. 学園を守れ1        

126.学園を守れ2

127. 学園を守れ3        

128.学園を守れ4

129. 学園を守れ5        

130.学園を守れ6

131.新たな旅立ち‐龍鱗一族の誕生‐

 

7.霊査2(ある日の光景)(第10章:アイの叫び)

遼真達は休憩を入れて、心を強くして再度霊査に入る。
2021年8月20日夜、粕夫が鴬子へ
「明日、ドライブにでも行くかい?」
「ドライブ?どこに行くの?」
宇都宮市の北側で船生街道沿いの下小池町にある雷電山まで行こうかなと思ってる」
雷電山?ふーん、何かあるの?」
「あまり人も来ないし山頂からは景色も綺麗らしいらしいよ。
 最近、仕事が立て込んで忙しかったから骨休みだな」
「へぇいいよ。何か良い事あったの?
 仕事も無くドライブとか初めてだよね。明日晴れみたいだから楽しみだわ」

翌日の車中で粕夫と鴬子への会話が聞こえてくる。
アイはいつものようにボストンバッグに入れられて後部シートに放置されている。
「もしかしたら俺の正体とこのアパートが、
 この前殺した奴の組織にばれたかもしれないと
 昨夜俺の組織から連絡があった。お前はどうする?」
「あんたはどうするの?」
「俺はまた顔を変えて別の隠れ家に引っ越すよ」
「私も一緒に、お願い、何でもするから・・・」
「まぁお前には結構仕事を手伝って貰ったりしてるからそれはいいけど。
 問題は・・・アイだな」
「アイも一緒ではいけないの?今までもこの子を仕事にも使ってたじゃない」
「まぁな、でも仮に追われた時はこんな子供が居ては何かと邪魔なんだな」
「・・・確かにそうね。この子は足手まといでしかないわね」
「だろ?」
「なら今日のドライブはこの子とのさよならドライブってこと?」
「・・・」
「帰り暗くなってから、
 あなたが以前言ってた、何とかポストにこの子を置いていくのね」
「・・・まぁそうだな。
 最後だからこの子も楽しい思いをさせようか」
「うん、わかったわ。ドライブなんてこの子も喜ぶわよ。
 仕事以外は外に出してないからきっと驚くわね」
「まぁそれならいいな。そろそろ着くぞ」
「はい。雷電山って意外と高くないのね」
「ネットでは380mくらいの高さの山らしいよ。
 この駐車場に停めると目立つから山の中腹まで行ってみよう」

夫婦の車は山頂まで続く道を進む。
山の途中から別の道に入って行く。
「どこに行くの?」
「もし敵が来てもその車がわかるようにこの細い道で止めておく」
鴬子は『そんな所に停めたら、もし敵の車が来たら逃げられないのに・・・』
と思ったがそれを言葉にはしなかった。
車を停めて鴬子は弁当や飲み物の袋を持って車から出た。
粕夫は後部座席のアイの入ったバッグを持つと山頂へと歩いて行く。
山頂に着くと眩しいばかりの晴天で暑いほどだった。
山頂に生えている木陰に移動してシートを敷いた。
そこで初めて粕夫はアイをバッグから出した。
アイは急に明るい世界へ出されたため、両手を目に当てぎゅっと目を瞑った。

3歳の同じ年齢の子供より小さく細いその身体
あまり陽に当たったことのない青白い肌
頬が痩せているため、やたら目だけが大きく見えるその顔
ハサミで切られた様なバサバサでおかっぱの髪型

ピクニックシートの上には
今まで食べたこともなかった色々な食べ物が並べられている。
甘くてマヨネーズの酸味が食欲をそそる卵サンド
歯応えのある分厚いハムが挟まっているハムサンド
ソースがたっぷりとかかったカツサンド
甘くてフワフワの出し巻き卵
初めて飲んだコーンスープの香ばしい甘さ
甘辛くてカリカリしている鶏の唐揚げ
果物の盛り合わせ
さっぱりとしたリンゴジュース

アイはテレビでしか見たことの無かった様々な食べ物に目を奪われた。
「さぁ好きなだけ食べろ」
「良かったね。アイ、たくさん食べてね」
「・・・」
アイは驚きながらも食べ物を見てこっくりとうなづく。
アイは無心にサンドを頬張り、ある程度お腹が膨れると
ジュースを飲みながら辺りを見てトンボに気付く。
アイは自分の周りを飛び回っているトンボを不思議そうに見つめている。
「この子、トンボを見てる」
「まぁほとんど外に出してないから珍しいんだろ」
「そうね。本当に美味しそうに食べてるわ。
 私、この子のこんな表情、初めて見たかもしれないわ」
「こいつももうそろそろ3歳だから
 色々なモノに興味を持ってこれからそれを覚えていくんだろうな」
「そうね。あなたのお陰でこの子も私も今まで生きてこられたわ。ありがとう」
「う・・・まぁ、お前やこいつが居る方が俺の仕事がしやすいからな」
「そういえば、あなたからあまりご両親の話を聞いたことが無いわ」
「親?・・・俺に親は居ない。俺は3歳から一人だったよ」
「3歳から・・・それは大変だったわね」
「生きるためには何でもしたさ。そして今の俺がある」
「そうでしょうね。あなたの生命力は強いものね。この子もそうだけど」
「俺の子ではないけどこいつは強いな。こんな環境でも元気に生きてる」
「?・・・そうよね?
 身体は他の子よりずっと小さいけどこの子はすごいわ」
シートの上にあったコンビニで買った食べ物も全部無くなった。
アイは物珍しそうにシートから降りて裸足で草の上を歩く。
雑草の先が足の裏を刺激しているのかつま先立ちで歩いている。
やがてそれにも慣れたのか徐々に早く歩き始める。
初めての広い草原で足元の小さな花を見つけてはじっと見ている。
自分の身体の周りを飛んでいるトンボを追いかけ始める。
やがて蟻の巣を見つけたのか座り込んでじっと見ている。
今までとはアイの顔つきが変わり、口の両端が上がり始め歯が見えている。
「へぇ、あの子って笑う事があったんだね。初めて見たよ」
「・・・そうか、ふーん・・・
 そうそう、あそこに太い木の柵のあるのが見えるだろ?」
「ええ」
「あの場所の先には垂直に近い崖があって素晴らしい景色が見えるらしいよ」
「そうなんだ。どんな景色かしら」
「じゃあ行って見るか」
粕夫はアイに近寄るとアイに向かって両手を広げた。
「アイ、おいで。抱っこしてあげる」
アイは言っていることが分からずにじっと粕夫を見ている。
「あなた、今まで抱っこなんかされたことないからアイにはわからないよ」
「そうか、仕方ないな」
粕夫はアイの両脇に手を入れると抱き上げた。
アイは一瞬、驚いた様に『ビクッ』となり逃げようとする。
粕夫は笑いながら胸に抱いた。
身体を固くしているアイは虚ろな目で粕夫の顔を見ている。
しかし粕夫から何もされないことがわかったのか徐々に身体から力が抜けるのがわかった。
やがて肩車に変わる頃にはアイの身体から緊張が解けた。
「じゃあ、綺麗な景色を見ようか」
「うん、アイも何か嬉しそう。ふふ、この子のこんな表情は初めて」
「そりゃあ良かった」
三人は徐々に木の柵へと向かって歩いて行く。やがて到着する。
「本当にここからの景色は綺麗。きっと紅葉の季節ならもっと綺麗よね」
「そうだな・・・確かに綺麗な景色だ」
粕夫はアイを肩車から胸へと抱き替えた。
アイは高い所が怖いのか粕夫の服をじっと掴んでいる。

「じゃあアイ、さようなら」

粕夫はアイの顔をじっと見ると
抱きかかえたアイをサイドスローで木の柵の向こうへと投げた。

「?!、アイ、アイ・・・」
鴬子はその出来事に驚いて声も出なかった。

粕夫は崖下へ落ちて行くアイの姿をじっと見ている。
アイの身体は、ゆっくりと回りながら落ちて行く。
途中で突然の強い風が二人に吹き付けた。
アイの姿が見えなくなると
粕夫は胸ポケットからタバコを取り出して火を点けた。
「ふー」
「・・・なぜ?何とかポストにって言ってたんじゃないの?」
「何とかポスト?あぁそれは昔に俺が言ったな」
「今回、俺は言ってないよ。お前が言ってただけだよ」
「そんなぁ・・・」
「お前さぁ、実際にアイが生まれた時すぐに殺そうとしてたし、
 アイツを育てるのも嫌々だっただろ?」
「そんなこと・・・」
「いや、お前は飯もほとんど食わせなかったし育てようともしなかったよ」
「・・・」
「それに俺は今朝に車の中で話しただろ?
 俺達は逃げないと行けないって。
 あんなのがいたら逃げるのに邪魔だろうが、まぁ拳銃の盾くらいにはなるけど」
「なんかあの子が可哀想に思えてきた」
「今までさんざん育児放棄やネグレクトしてて今更何を言ってるのかな。
 それにあの子はこの世に戸籍も無いし死んでも何も変わらないさ」

その時、晴天だった空が一転俄かにかき曇り、崖下からも霧が発生し始めた。
瞬く間に山頂付近が真っ白の霧に覆われて、ポツポツと雨が降り始めた。
二人は大きな木の下へ避難した。
空一面の黒雲に血管の走行の様に稲光が走る。
「雷雨だからすぐに止むだろ、それまでここで待とう」
「そうね。しかし山の天気の急変って怖いね」

二人が雨宿りしている樹木に向かって天からの光が走る。
『バリバリ』
『ドーーーン』
「?! ギャー」
二人の身体を上から下へ何万ボルトもの電流が貫く。
死んだ二人の肉体にその後も何本も雷が貫いていく。

アイが落ちて行った崖下にも天空から何本もの雷が降り注ぐ。
『バリバリバリバリ』
まるでそれは獣の叫び声の様で、長い間その音が響き渡っている。

6.霊査1(倉持夫婦の過去とアパート内の風景)(第10章:アイの叫び)

さて宮尾警部と小橋刑事が新潟と秋田へ旅立った日、
遼真と真美は祈祷所にて雷電山山頂の落雷事故現場で地縛されていた倉持夫婦の調査へと入った。
雷電山では夫婦は同じ場所で地縛されていたため喧嘩していたが、
今は別の人型に入っているため静かである。

今日の夢見術は危険な可能性も高いため、
いつも見て貰っている夢花ちゃんの代わりに母親の夢代さんに来てもらっている。
以前の『迷い里の誘い事件』の折には、
夢見術で夢花ちゃんの祖母の夢乃さんに手伝って貰ったのだが、
今回も是非にと張り切っていたが同時に京都で別の依頼があり、
代わりに夢花ちゃんの母親の夢代さんに上京して貰った。
遼真は催眠呪文を唱えながら人型の霊を眠りの世界へと誘う。
白紙の上に乗せられて興奮し始めていた霊もやがて静かにうつらうつらし始めた。
夢見術に入る夢代さんの両隣に夢花と真美が待機している。
夢代さんが粕夫の霊の夢の世界へ潜入していく。

倉持粕夫の魂の夢から色々なシーンが流れて来る。
実は彼は日本人ではなくベトナム人だった。
名前:グエン・ヴァン・ナム
出身:ベトナム戦争の激しかった地域の村にあるグエン家の末裔
過去からの出来事:
グエンの祖母は、ベトナム戦争時、平和な村民しかいなかった小さな村へ突然襲って来た韓国人兵士に襲われて何人もの兵士に犯されて最後には腹部を銃で撃たれるも奇跡的に助かる。
偶然にもその時妊娠してしまいグエンの母親グエン・テイ・ユエンが産まれる。
母親グエン・テイ・ユエンは、幼い頃よりライダハンとして村民から蔑まれた。
ある程度働ける年齢になると生まれた村から逃げるように都市へと出て行った。
そこで母親は若いヤクザな男と知り合い、一緒に住むようになり子供が出来た。
その途端にその男は家を出て行き、二度と帰ってこなかった。
母親グエン・テイ・ユエンは、貧民街で暮らしグエン・ヴァン・ナムを産んだ。
病気がちだった母親はグエンが3歳の頃に亡くなった。
幼い頃はそうでもなかったが成長するにつれてグエンの容貌が非常に韓国人の血が色濃く表れ始め、
とうとう貧民街の人間からも差別され憎まれて、
幼いグエンがいつしか闇社会へと入っていったのは生きるためには自然なことだった。
母親から聞かされた祖母からの出来事を脳裏に刻み、
自分の身体に流れる最悪の出自を恨みながら生きて来た。
グエンは顔つきが韓国人に非常に近く、韓国人の標的に近づきやすいため、

標的が韓国人専用の殺し屋となったのは自然の成り行きだった。
ある時、ある組織にとって裏切者のある財閥の重要な人間の一人を消したがために今度はその敵組織から追われることとなった。
過去に殺した男の中から戸籍を買い、闇で整形して顔を変えて日本へ密入国し、
今度は日本人の戸籍を買い日本の闇社会で殺し屋となった。
3歳の時から孤独だったため、他人を全く信用していなかったが、
ある時、山中で女と出会い偶然産まれた赤子を見て、
赤子を育てる夫婦のカモフラージュを思いついてアパートの一室で住み始める。

倉持鴬子の魂からも色々なシーンが流れて来る。
彼女も日本人ではなく隣の独裁国家出身の女だった。
名前:金 麗花
過去からの出来事:
4年前に喰うや喰わずの生活の苦しさから家族に黙って、
一人だけで夜中に警備の目を盗み漁船で日本海へ出奔した。
しばらくすると大嵐に遭い濁流に呑まれる木の葉のように舞いながら、
エンジンも壊れ漂流し飲み水も食い物も無い、命からがら意識ギリギリで秋田県の海岸に到着した。
その後、海岸を歩いていると日本人ではない組織の人間に声を掛けられ、
秋田市内に住む同じように逃げて来た同郷の人間へ紹介された。
その時に日本人となり生活するために戸籍も買って夜の街に溶け込んだ。
戸籍は今まで日本国内で人知れず殺されたり行方不明となった人間の物で全国系暴力団の組織から買ったのだがこの代金が非常に高かった。
その支払いは、普通の仕事では無理なため、覚せい剤や麻薬の販売を手伝わされたりしていたが、
最後には夜の街で身体を売って稼ぐしかなかった。
そのうち父親のわからない子を宿してしまい、
流そうとい思っているうちに月日が過ぎてもう流せなくなった。
産み月が近づいて来ると産んだ子は土に埋めてしまおうと考え、
深い山の中をあても無く彷徨ううちに偶然深い森の中で炭焼き小屋を見つけた。
その小屋の中で休んでいる時、暗殺の失敗で追手から逃げていた暗殺者グエンが小屋に入って来た。
彼は邪魔なので麗花を殺そうとした。
麗花は必死で殺さないように懇願し、
隠れるなら自分の背中の後ろにある藁の中へ彼に隠れるように言った。
もし麗花が裏切れば麗花自身も殺せるから彼はその話に従った。
しばらくすると彼の追手が小屋のドアを開けて入って来た。
彼の追手からの質問中に突然陣痛に襲われた妊婦の麗花は、
追手に嘘を教える事で小屋に隠れていた彼を救った。
彼は小屋から出て行った追手を後ろから追跡し全員を殺して追跡を振り切った。
それから彼が再び小屋に戻って来た時には子供が産まれていた。

小屋の中での出来事:
麗花は何とか子供を産み臍の緒を切り、胎盤を引き出した時には全身の体力を使い切り眠っていた。
彼は興味無さそうに泣いている赤子を見ている。
麗花はどうせ土に埋めてしまう子供だからと考えて、
すぐに殺してしまおうと弱々しく泣いている赤子の首を強く絞めた。
その時、『ゴリッ』と音がして赤子の喉の骨が陥没した。
その瞬間、その赤子から声が消えて激しい息遣いだけが漏れてくる。
だがまだその赤子は生きていた。
彼は驚いた様に麗花を見ている。
「なぜわざわざ産んだのに殺すんだ?」
「別に望んで産んだ子でもないし単に流せなかっただけだから」
「じゃあここに捨てていくか?
 どうせすぐに死ぬし、小屋の外に置いておけば死体は野生の獣が食べるだろ」
「そうなんだけど、祟られるのも嫌なんだ。
 でもこの子は声が出なくなったみたいだから恨まれないかな?」
「きちんと葬りたいって、
 首を締めて殺したならそいつに祟られて当然じゃないか?
 それに声が出ないと恨まれない?初めて聞く話だな」
「えぇ私の生まれた村ではそんな言い伝えがあるの。
 恨みの言葉を相手に掛けられないとその人間の恨みは届かないって」
「お前の子供だからお前に任せるけど、しばらく一緒に住んでみるか?
 俺も一応世間的には家庭をカモフラージュしておきたいし。
 途中で邪魔になる様ならその時に捨てればいいんじゃないか?
 この国には何とかポストとかあるようだしどうでもなるんじゃないか?
 それに鳴き声も出てないしうるさくないならいいんじゃないか?」
「あなたがそれでいいならお願いします。一緒に住んでください」
「わかった。俺の名前は倉持粕夫ということになってる」
「私は鴬子だから倉持鴬子ね。よろしく」
「この子はどうする?」
「そうねぇ。この国には確か50音とかがあるから最初の『アイ』でどうかしら。
 仮に他人に聞かれてもおかしい名前じゃないし。
 でもどうせこの子の戸籍は作れないから部屋で育てるだけだけど」
「どうでもいい。まぁわかりやすのがいいな。
 あいうえおの『アイ』ね。わかった」

ある日の出来事:
倉持夫妻はアイに赤ちゃん用の服を着せるとボストンバッグにアイを詰め、
バッグを車の後ろに置くと遊園地へ連れだした。
その遊園地に標的が家族で来るとの情報を聞いたからだった。
標的は夫婦で3歳くらいの女の子を連れて遊んでいる。
標的の男がトイレに行くようで妻と娘から離れてトイレへ向かう。
深く帽子を被った粕夫はアイを抱っこしてその後ろに続く。
標的の男が小便器に立って用を足している。
男はすぐ後に入って来た粕夫に警戒の目を向けたが
その胸に抱っこしているアイを見て警戒を解いた。
「可愛い女の子ですねえ。私も娘が一人います」
と笑いながら視線を逸らす。
粕夫はその男の後ろを通りながら誰も他にいない事を確認して
アイの胸の前に収納した切れ味の鋭い細い刃の付いたナイフを抜き、
肋骨を避けるようにその男の背中から心臓へ一気に突き通した。
「グアッ」
男は驚いた様に粕夫とアイを振り向いた。
しかし男はすぐに小便器へ顔を突っ込んで動かなくなった。
粕夫はアイの背中にナイフを格納すると粕夫はアイを幼児用ベッドに置き、
その男の死体を大便器の部屋へ運んでアイを抱っこしてトイレから出た。
粕夫は鴬子に嬉しそうに話した。
「この子がいると相手も警戒を解くので仕事がしやすい」

アパート内のアイのシーンが次々流れて来る。
粕夫は部屋にカメラを設置しており常に備えていた。
襲撃があって敵が部屋に待ち伏せがある場合に備えているのだった。
そのことを鴬子は知らずにいる。
仮に敵が部屋で待ち伏せをしている時は、
粕夫は鴬子とアイの命を捨てて逃げるつもりだった。

酒を飲んで眠っている母親の隣で1人だけでがんばって寝がえりを成功させたアイ
誰も居ない暗い部屋の中で椅子の脚に手をかけ初めて立って歩いたアイ
オムツを替えて貰えないで肌が被れて、オシッコのたびに泣き叫ぶアイ
1日1回から2回の最低限の少量の食事でも痩せ衰えながらも生きているアイ
一日中薄暗い部屋の中で殆ど1人だけで汚い人形に話しかける笑顔の無いアイ
両親が居る時には親の行動や顔を見ながら何事にもビクビクとしているアイ
母親に呼ばれ急いだため、
偶然テレビの前を横切っただけで粕夫から蹴られ殴られて息も絶え絶えのアイ
母親からオシッコを言えなかったと折檻されるアイ
母親からせっかくの食べ物を落としたとタバコの火を押し付けられ泣き叫ぶアイ
今日は嫌な事があったからと顔を見せるなと殴られてタンスの中で泣き叫ぶアイ
何日も一人で放っておかれて、あまりの空腹のためティッシュペーパーまで食べるアイ
埃や垢で黒い涙の跡を残したまま部屋の隅の汚れた毛布に丸まって眠るアイ
その手にはいつも汚れた女の子の人形が握られている。

ここでさすがの夢代さんもあまりの光景に耐え切れなくなり夢見術から戻ってきてしまう。
涙ながらに遼真へお詫びをするも遼真もほとんど放心状態であった。
隣にいる真美と夢花の二人は抱き合って、その光景を泣きながら見つめている。

なぜここまでアイちゃんはここまで虐待を受けなければならなかったのか
なぜアイちゃんはこんな環境でも生き続けることができたのだろうか
なぜヒトはここまで圧倒的に力の弱い者に対して残忍になれるのか

両親二人が落雷で同時に亡くなった今となってはその答えを知ることはできないが、
確かにあのアパートの一室には『アイ』という少女が生きていたことは判明した。
不思議なのは生きていた筈の『アイ』の魂がこの世のどこにも見えないことだった。

『アイ』はどこにいるのか
『アイ』の肉体はどこにいるのか

5.夫婦のアパート(第10章:アイの叫び)

次に三人は倉持夫婦の住んでいたアパートへ向かった。
築年数も30年以上の古いタイプの横に長い上下4室ずつある2階建てアパートで、
三人がアパートへ着いた時、先に駐車場で待っていた大家に部屋へ案内された。
広さは2DKでキッチンは小さく、居間や寝室の畳も古く、
壁も塗り直されているが壁の押しピンの跡など生活の染みなども多くあった。
壁も薄い様で隣室のテレビなどの生活の物音が良く聞こえた。
大家は気持ち悪そうに部屋を見回して
「ではお帰りの折には声を掛けて下さい。
 勝手なことを申すようですが、次に貸したいと思っていますので
 可能なら死体とか関係無いと証明して貰えたらありがたいです」
とお願いされて大家は駐車場に停めている車へ戻って行った。
倉持夫婦の部屋は、業者が片付けている途中であったため、
まだまだ室内には物が乱雑に散らばっている。
そんな遺物の中に小さな女の子の物と思われる物が散在していた。
しかし、今の時間に在室している同じアパートの住人に聞いてみても
やはり当時の捜査内容と同様に子供の声は聴いたことが無いと証言している。

小橋刑事が、部屋にあるオモチャを手の上で転がして弄びながら
「宮さん、単に子供のオモチャが好きなだけのかもしれないっすねぇ」
「うーん、そうかなぁ。
 ただ気になるのは、
 ここにあるオモチャだけど、ずっと使われていた感じがしないか?
 このぬいぐるみとか結構汚れてるし、使い込まれた感じがする。
 ほら、この小さなプラスティック人形なんて噛まれた後まであるぞ。
 歯形も小さいし大人が噛んだ跡とも思えないぞ。
 それにいい大人が、そんなことしないんじゃないか?」
「そういえばそうっすねぇ。
 でも住人も子供の声を聞いていなかったんすよねぇ?
 男と女のアレの音とかの大きな声で聞こえて困ったとは言ってたじゃないっすか。
 もしこの部屋に子供が居て虐待とかしていたら、
 泣き声とか聞こえると思うっすけどねぇ。本当に子供が居たらっすけどねぇ・・・」
「子供の存在があまりに濃厚だから大家は、警察へ相談してきたのだろう?」
「そうっすけど、当時の捜査では子供は居なかったんすよねぇ?」
「まぁな、子供は戸籍にも載っていなかったらしいな」
「それならやっぱり子供は居なかったということっすよねぇ」
遼真は部屋の中を見て回りながら、今度は携帯を取り出した。
「真美?もう帰ってきたの?
 わかった。じゃあ準備が出来たらメールして」
「はい、遼真様、如何ですか?
 何か危険な事はありませんでしたか?」
「あぁありがとう、何も無かったよ」
「今、倉持夫婦の部屋の中にいる。特に危なそうな人は居ないから安心して。
 真美からの連絡後にいつものように送るから画像をお願いするよ」
「わかりました今から水垢離しますから少々お待ちください」
「わかった。しばらくは部屋の中に居る人と話しているよ」
 遼真は携帯で真美に連絡した後、部屋の隅に行って話している。
「遼真君、どなたが居られるのかね?」
「数年前にこの部屋の中で亡くなった高齢の女性と話しています」
遼真はそう答えるとずっと話し込んでいる。
「ふんふん、ありがとうございました。そうなんだやはり居ましたか」
「遼真君、何かわかったかね」
「はい、やはり女の子はここに一緒に住んでいたようです。
 三歳くらいの女の子で『アイ』という名前でよく夫婦から虐待されていたそうです。
 なぜか言葉は出せなかったみたいです。可哀想によく泣いていたそうです。
 ある日、夫婦とこの部屋を出て行ってから今日まで戻って来ていないそうです」
「うーん、嫌な予感が当たったな。参ったな。
 その子は部屋の中やこの辺りにはいないのかな?」
「はい、部屋の中にはこの女性だけです。
 それにアパート内にもこの周りにもそれらしき女の子の姿はないですね」
「もしかして今もその子は生きている可能性はあるのかな」
「そうですね。それはまだまだ証明できません。
 うん、ちょっといいですか、真美からです。
 はい、遼真・・・わかったよ。
 ・・・準備は出来たのか、じゃあ今から送るよ」
「警部、遅くなりましたが、今から部屋の中の物の記憶を探りに入ります。
 私は気になった物を手当たり次第に探りに入りますからしばらくは話せません。
 お二人も色々と調査することがあるでしょうからそちらを優先して下さい」
宮尾警部と小橋刑事は、捜査書類の内容を確認しながら部屋の中を見回った。
遼真は、精神を集中して、少女の物と思われる人形やオモチャ、
夫婦の物と思われる家具などに籠る残留思念をサイコメトリーしていった。
真美から涙ながらの声がテレパシーで送られてくる。
『なんて・・・なぜこんな幼い子供になんてことを・・・』
『うん、真美、可哀想だけど頼むよ。
 もしかしたらこの子を探したら

 夢ちゃんにもお願いしなければならないかもしれない。
 でも夢ちゃんにはあまりに酷い世界だからそばにいる真美が守らないと・・・
 今は辛くてもこの子を探し出すことが大切だから・・・』
『はい、遼真様、わかっておりますがあまりに理不尽で・・・』
『そうだね。この夫婦に怒りを感じるけど我々はそれではいけないよ』
『そうでした。もっと冷静になれるように頑張ります』
『この光景を送れるのは真美にしか頼めないからお願いするよ』
『はい、わかっています。でも・・・申し訳ありません』

遼真はサイコメトリーで多くの情報を集めた。
「警部、この部屋に居たアイという少女は長い間酷い虐待をうけていたことは確かです。
 周りに人間が聞いていない様に声が出なくなっていたのではないかと思います。
 原因としては、このラトルから見えた光景は、
 生まれて間もなく泣き始めたアイちゃんに困った母親が首を締められて、
 その時に柔らかい喉の骨が骨折し変形して、
 その後、声帯が機能しなくなったのではないかと思います」
「喉を?・・・」
小橋刑事はその話を聞くと自分の喉辺りを触りながら
「苦しかっただろうなぁ。かわいそうに・・・」
「そうだな・・・その上、行方も知れないとか・・・
 とりあえず今日はここまでにして、
 明日からは倉持夫婦の実家に調べに行くぞ」
「行く前にうちに寄ってくれますか?
 夫婦と子供の写真はお渡しできると思いますので・・・」
「写真・・・そうだったな。でも捜査書類には二人の写真があったけどねえ」
「写真を見せて下さい。この二人は僕が視た二人とは違いますね」
「違う?どういうことかな」
「言葉通り、二人は写真とは全く似ていませんよ。他人としか思えないです。
 その写真は幼い頃の写真だから

 警察の方でもあまり注意しなかったのかもしれませんね。
 その二人だと言う先入観があれば、その写真を見ても、

 そうかな?と周りの住民も思うし、整形でもしたのかなとか思うし、

 捜査員の方もそれ以上は考えないと思います。」
「確かになぁ。事故死だからそうだと思うよなぁ。まさか他人とは思わないよなぁ」
「だとしたらその二人は誰なんすかねぇ。それにアイちゃんも気になるっす」
「えぇと、粕夫は・・・新潟?
 鴬子は、秋田県?・・・ふう、二人ともえらく遠いっすねぇ」
「まあ、再捜査という事はそう言う事だ。
 同僚だからあまり言いたくは無いが、事故との意識が強過ぎて、
 それに当時は他の事件で忙しかったんだろうけど、
 倉持粕夫と鴬子の実家には電話で連絡しただけと言うのが気になる」
「二人の写真は実家の近くの警察署員が貰って本部へ送って来たと書いてありますね」
「まぁ黒焦げの炭になってるから当時も写真と見比べようがないよな。
 とりあえず明日から夫婦の実家の新潟と秋田に行くぞ」
「おいっす。まぁ確認しないと始まらないっすからねぇ」

翌朝、警部は遼真の家に寄り

アパートに住んでいた倉持夫婦らしき男女の写真を貰った。
「本当っす。遼真君の言った通り、全くの他人すねえ」
「そうだな、ここまで違うとなると驚くしかないな」
その後宮尾警部と小橋刑事は、新潟と秋田の倉持夫婦の実家へ行き、
過去の嫌な記憶から忘れたいと思っている夫婦の身内から嫌な顔をされながら、
遼真から渡された顔写真を確認させた結果、身内全員から
『どなたですか?見たことも無い人間です』との証言が得られた。
家族から再度色々と話を聞いたが、新しい情報は全く無かった。
夫婦ともに一族からも疎まれるくらいの不良だった中学卒業後、
家出してその後一切家にも帰って居らず、連絡も無く、
みんなが死んだものと思っていたら
事故死だと聞いてそこで初めてそれまでは生きていた事を知った。
逆に死んだことでもう煩わされることがないのだと思い安心している様子だった。
警部は遺伝子検査のため、
両親から口腔細胞や毛根の付いた毛髪を採取して保管して帰京した。
この再捜査結果をそのまま上に報告するわけにはいかなかった。
遼真のサイコメトリーで作成された夫婦の顔写真は証拠にはならなかったからだ。
仮に本当の中学校時代の倉持夫婦の写真をアパートの住人に見せて、
このアパートに住んでいた夫婦は倉持夫婦ではない他人だったと証明されても、
『それじゃあ、この夫婦は誰なの?』と言う話になり、
結局、捜査が元の木阿弥となり、再捜査は困難となる。
遼真のサイコメトリーや霊能力を明らかにして、
この写真を明確な証拠として実証するためには、
警察の常識や世間への反響を考えても非常に大変な作業になることは明確だった。
普通の人間には、この二人は倉持夫婦ではないと証言できないのだ。

4.雷電山2(第10章:アイの叫び)

次に山頂の落雷場所にも行き、黒焦げの炭となった夫婦のあった場所を調べた。
遺体の近くの木に黒焦げの場所もあり、その枝も炭になっていたのを確認した。
「遼真君、ここが事故現場みたいだ。何か見えるかね?」
「えぇ、この落雷事故現場で夫婦の霊は自縛されていますね」
「えっ?・・・自縛って、ずっとここにいたってことっすか?」
「ええそうです。その焼けた枝の下に夫婦で並んで立っています」
「夫婦でかね?」
「そうです。どうやらなぜ死んだのかわからないので居るみたいで、
 どうも夫婦喧嘩をずっとしている様です」
「夫婦喧嘩?」
「はい、お互いの首を締め合っています。
 こんなにお互いが憎み合っているのに夫婦だったのですねえ」
「死んだ後にもずっと罵り合って首を締め合っているの?」
「そうです。片言の日本語で『仕事がどうだ』とか言い合っていますね」
「仕事?何のことだろうか・・・遼真君、聞いてもらえるか?」
「はい、ただ一人ずつにしないと落ち着いて話が出来ないので、
 とりあえず一体ずつ居て貰って落ち着いて貰いましょう」
遼真は、ポケットから人型を二枚取り出すと呪文を唱えた。
そして二枚の人型をそっと白布に包んだ。
「警部、祈祷所でやらないと危険なので、明日でもよろしいですか?」
「あぁ全然慌てない。君の都合の良い時でいいよ」
「それに捜査資料の夫婦の顔が違うようです。現場はここなのに・・・」
「顔が違う?どうしてだろうか・・・ちょっと調べる必要があるな」
「わかりました。今夜に警部へ夫婦の顔写真を送ります」
「なぜそんなことが?不思議だなぁ、待っているよ」
 
山頂付近の木の根元や斜面の色の変わった土などを一通り再度丹念に見回った。
山頂の北東側は切り立った崖になっていたが、近寄らない様に木の柵で守られている。
そっと崖下を覗き込むと眩暈するくらいに垂直に切り立っており、
崖の下には多くの木が茂っているだけで地面までは何も見えなかった。
遼真は、柵の傍に佇む人へ話しかけている。
「あなた、どうしてここに居られるのですか?」
「ふんふん・・・そうなんですか・・・」
「遼真君、何かあったのか?」
「えぇ、この人に聞いたところ、
 以前に下に落ちた女の子がいたらしく、
 気になってこの場所から移動できないみたいです」
「以前って、いつかね?」
「彼の服を見るとどうやら今の時代では無さそうですね。
 彼の話からは女の子が落とされたみたいです。
 ただ彼らに時間の概念はありませんから、
 その墜落事件がいつなのか詳しく調べる必要はありますね。
 とにかく今からこの崖の下に行く道を探さないといけないです」
「・・・やっぱり嫌な予感が当たったぞ」
「そうっすねぇ、でも仮にこの事故に関係しているとしても
 聞いた相手が普通の人が見えない相手なだけに証言の信憑性が問題っすよねえ」
「そうだ、だからこの事故が事件であるとはっきりするまでは黙っておけよ」
「おいっす、まぁ霊の証言は誰も信じないっすけどね」

崖の上の霊の証言を確認するため、
崖の下に続く道を地図上で調べたが見つからなかった。
仕方なく三人はスマホの地図を見ながら遊歩道の途中から、
道なき道へ入ってその方向へ歩いて行った。
ときおり可愛い鳥の声が深い森の中に響く。
「今の鳴き声の鳥って何でしょうね?わかればいいのになぁ」
「我々にはわからないが、バードウォッチングが趣味の人には
 鳥達が何を話しているのかその雰囲気できっとわかるかもなぁ」
「そうなったらその人は可哀想で焼き鳥とか食えないっすね」
「まぁな、でも普通焼き鳥の鳥はニワトリだから気にしないだろ」
「そう言えばそうっすね」
たまに頭の上を横切る鳥や枝で並んで囀っている姿を見ていると
バードウォッチングが趣味の人の気持ちがわかるのだった。

やがて三人は崖の真下辺りへ到着する。
その空間は鬱蒼と茂った草や木によって日光が遮られ薄暗かった。
崖の直下には古い石組があり、辺りに古い木切れが散らばっている。
その破片をよく見ると元はどうやら古い祠のよう思えた。
その中の一つの木片には大きな黒い染みや黒く焦げた跡があった。
遼真はすぐにその黒い染みの付いた木片を拾った。
「遼真君、もしかしてその黒い染みは・・・」
「はい、何者かの血のようですね。でも人間か動物かはわかりません。
 この色合いから見て時間的にそれほど昔ではないですね」
「もしかしてその血は・・・
 倉持夫婦の女の子の可能性があるのかな?」
「DNA検査をしてからじゃないと何とも言えませんがその可能性はありますね。
 この後に倉持夫婦の部屋へ行きますからそこで毛髪などを採取したいですね」
「そうだな」
遼真は、そこらに散乱している古い祠の木片の多くを集め始めた。
その時、それらの切れ端に混じって、
小さな“付け根が黒く焦げたセルロイド製人形の小さな片腕”があった。
遼真はこれがあまりにこの場にそぐわない物でとても気になったため、
それも白布で丁寧に包みそっとリュックへ詰め込んだ。
「遼真君、何をしてるっすか?」
「はい、この祠がここに建立されていた理由がわかればいいと思いまして、
 それに必要なら、今度ここに来て、
 この祠を新しく直して再びここにお祀りする必要があります」
「遼真君、どのような祠かわかるかね?」
「いえ、今は何もわかりません。
 この木片や血液などから記憶を辿るにも、傍に真美が居ないため危険で出来ません。
 帰って過去の文献などで調べ、その危険性を事前に調べ把握し、
 そして木片などから記憶を探る作業に入る必要があります。
 それと警部、ここには結構多くの霊がいます。
 彼や彼女達はどうやら成仏を希望している様なので、
 我が家へお招きし然るべき場所へお送りしたいと考えています。
 とりあえず一時的に用意してきたお位牌へ入って頂きたいと考えています。
 よろしいですか?」
「あぁもちろんいいよ」
「そんなにはかかりませんから少しお時間を下さい」
「そのぅ、そこに居られるのは・・・もしかして自殺した人達っすか?」
「ええ、そういう方も居られると思います。
 何人かは相当に身体が傷ついている方も居られますから・・・・。
 ただ皆さん、着物姿とか結構昔の服装なので自殺とは限らないですよ」
「そんなにたくさん居るっすか?」
「えぇ、まぁ宮尾警部や小橋刑事は見えないし、お二人は彼らを苦手でしょうから、
 あちらで少し離れてお待ち下さい」
「遼真君、そのぅ、途中でも彼らから何かわかったら後で教えてくれよ」
「わかりました。
 でも彼らは生前に非常に苦しい思いをしています。
 ですから自分の事しか興味が無いかもしれません。
 少し前の女の子の事を何か覚えていてくれればいいのですが・・・
 まぁ我が家の祈祷所で彼らを然るべき場所へ送りながらお聞きします」
「まぁ頼んだよ。可哀想になぁ」
「ここには僕が居ますからいいですが、居ない時に
 あまり彼らに同情すると警部に付いて行きますから気を付けて下さい」
「?・・・そうなのか・・・わかった。
 今さっきの言葉は取り消す・・・今の言葉は・・・う、嘘だ」
遼真は、リュックから白木の位牌を取り出し慎重に古い石組の上へ置いた。
そしてその場で自縛されている霊をお位牌に乗り移らせる呪文を唱え始めた。
「遼真君、今日はお位牌とか・・・いつもと違うね」
「えぇ、この辺りには今まで来たことがありませんでしたから、
 もしかして色々と迷っている方々が多いのではないかと思いまして」
「いつも思うんだが、普通はそんな行為は誰かに依頼されてするものだし、
 うーん、何かさもしいが、お金も貰ってないのによく出来るもんだなぁと思うね。
 実際に憑依されたりの危険性もあるんだよね?」
「まぁそうですが、そうならない様に常に準備はしています。
 それにこれは僕の天職と思っていますからそういう風には考えたことはないですね。
 それに彼らが成仏する時、僕は彼らからたくさんの気持ちを貰っていますから
 ご褒美と言えば、それが僕や真美へのご褒美ですかねぇ」
「たくさんの気持ちがご褒美か・・・我々俗人にはよくわからない気持ちだな」
「まぁ僕が好きで昔からしていることですから気にしないで下さい」
「まぁな、すまないな・・・つまらないことを言って悪かった」
「そうなんすか。それはすごいっすね」
「もうそろそろですね。みんな、素直に入ってくれています。
 宮尾警部に小橋刑事、お待ち頂きありがとうございました。
 みんなもお二人へお礼を言っていますよ」
「そんな・・・大したことじゃないから。
 じゃあ、遼真君の用事も済んだ事だし、これから倉持夫婦の部屋へ向かおうか」
「お礼・・・やはり何も聞こえないっすね。さむ・・・早く行くっす」
「はい、そうしましょう」
遼真はその場を去る前に、その祠のあった付近へ深く頭を下げた。

3.雷電山1(第10章:アイの叫び)

警視庁警視庁迷宮事件係(通称|038《おみや》課)の宮尾警部と小橋刑事は、
捜査資料を読んで、『現場百回』の言葉通り、先ずは宇都宮市へ向かった。
宇都宮駅を降りた二人は、栃木県警に顔を出し本部長へ再調査開始の挨拶をした。
本部長は喜んで二人を迎えた。
現在栃木県内だけで無く日本中で、老若男女を問わず突然激しい感情に駆られた殺人や傷害事件が頻発しており、捜査人員も足りないくらい大変な状況だった。
そんな折に、警視庁警視庁迷宮事件係(通称|038《おみや》課)の二人にこの事案をお手伝いして頂けるのはありがたかったのだった。

先ずは事故現場の雷電山に向かった。
雷電山の麓に到着した二人は麓の駐車場から山を見上げた。
資料通りそれほど高い山ではないが、気のせいか空気が重かった。
「こんなあまり高くない山の天辺で雷に?」
宇都宮市って、昔から“雷都”と言われるくらい雷が多いらしいぜ」
「へぇ“雷都”か、初めて聞いたっす。今日は大丈夫なんすかねえ」
「・・・(空を見上げて)こんなに晴れてるから大丈夫だろ」
「まぁ、しょっちゅう空をよく見ることにします」
「お前の方が、背が高いから、落ちるとしたらお前が先だな」
「宮さん、冗談でもそんな怖い事を言うのやめて下さいよ。
 俺、雷って昔から嫌いだったんすよ」
「へぇ、お前、幽霊以外にも苦手なものあったんだな」
「幽霊もそっすけど、雷も元が見えないっすからねえ。
 とにかく相手が生身の身体で無いのって苦手っす」
「まあ、長い付き合いだからその気持ちは理解できるな。
 気を付けて、現場に行こうや。
 ちょっとゴロゴロし始めたら危ないからすぐに降りようぜ」
「わかりました。天気が変わる前にさっさと調べましょうや。どうせ事故だし」
「それはわからないぞ。事件かも・・・」
「それは無理があるっすよねえ。自然現象っすからねえ」
「まぁな、とりあえず見ようや。さぁ上がるぞ」
「了解、でも遼真君や真美ちゃんの関係しない事件で良かったっすねえ」
「うーん、それはわからないだろ。わしはその可能性も高いと考えているぞ」
「・・・久しぶりに、あの二人に会えるのは嬉しいっすけど、
 あの二人が得意とする、見えない系の奴は苦手っす」
「まぁな、そうならないことを祈るだけだな」
「・・・宮さんの刑事の勘は侮れないっすから、嫌な予感がするっす。はぁ・・・」
「ほぅ、お前も良い勘してきたな。
 実は色々と考えて今日は遼真君を呼んでいるんだ。ほれ、あの車がそうだ」
遼真が駐車場の端の車から出て来た。
「宮尾警部、小橋刑事、お久しぶりです。
 昨夜、警視庁の都倉警部からも連絡が来ていました。
 今回僕が呼ばれたのはあの落雷事故関係ですよね?」
「遼真君、良くわかったな。何か気になることでもあったのか?」
「まぁそれは現場を見てからにしましょう。まだ何もわかりませんから」
「遼真君、今日は一人なのか?」
「はい、真美は講義でちょっと手が離せなくて今日は来ていません」
「いや、別に良いよ。
 真美ちゃんももう大学生か・・・確か、うちの娘と同じだったな・・・
 そう言えば・・・春の歓迎コンパでは大変だったな」
「あの折には大変お世話になりました。
 あの時は、僕も関西に居たので身動きが取れなくて困りました。
 お陰様で真美達が無事で良かったです」
「どうだろう・・・我々が、侵入した時には殆ど終わっていたけどねえ。
 まぁ、娘みたいな真美ちゃん達が無事で良かったよ。じゃあ行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな」
「遼真君、何かこれ・・・系が居る時は教えてね。苦手っすから」
「わかりました。ちなみにそこにも居ますよ。散歩してる人」
「ひえっ」
小橋刑事が見回すも何も見えず、キョロキョロとしている。
遼真は、その散歩している霊に聞いている。
「最近、この辺りの事故で死んですぐみたいで、
 昨年の落雷事故のことは新聞記事でしか知らないらしいです。
 ついでに彼は行き先がわからないみたいなので今夜送ります」
と言って、ポケットから出した人型に何か呪文を唱えてその霊の居る場所へ向けている。
小橋刑事は、白い人型を大切に白布に包んでいる遼真の姿をじっと見ている。
「宮さん、いつも俺には全く見えないっすけど、宮さんはどうですか?」
「俺も見えないよ。でもそういう存在は信じているぞ。
 彼らにとって遼真君達はまるで仏様の様な存在だろうなと思っている。
 俺達はこの世に生きている人間を救えばいいだけだ。さぁ行くぞ」
「はい、以前に憑依した人間に襲われた時は魂消ました。
 本当にプロレスラー以上の力や跳躍力でしたからねえ」
「宮尾警部に小橋刑事、お待たせしました。さぁ行きましょう」
三人は、資料を持って駐車場から雷電山へと登っていく。

ここで「雷」についてであるが、
歳時記によれば「雷」は夏の季語であり、日本において雷の多い季節は夏と冬とされているが、発生する季節は地域に偏りがあり、夏に多いのは太平洋側、冬に多いのは日本海側である。
実は冬の雷は世界的にも珍しいと言われていて、日本の日本海沿岸やノルウェー西岸などごく一部の地域のみの現象である。
実際の年間雷日数の都道府県ランキング(2022年気象庁集計)では以下順位である。
01位石川県(金沢)76日
02位福井県(福井)72日
03位富山県(富山)69日
04位秋田県(秋田)62日
05位岐阜県(岐阜)55日
06位山梨県甲府)53日
07位長野県(長野)51日
07位静岡県(静岡)51日
07位奈良県(奈良)51日
07位鳥取県鳥取)51日
11位栃木県(宇都宮)50日
11位滋賀県彦根)50日
11位京都府(京都)50日
宇都宮市は、昔から「雷都」と呼ばれる有名な街である。
不思議な事に「雷都」の割には、宇都宮市は1年間に観測される「雷日数」は日本で10位以内に入っていない。
しかしその「雷都」と言う称号は、夏に限っては、ふさわしいと思われる。
気象台によると、宇都宮市の4~9月の雷日数の平年値は24・2日で、全国で最も多い。
その理由は、気象台によると、地形が関係していて、北側に日光連山や那須岳などの山地が連なり、南側は平野部となっているため、南寄りの風が入りやすく、暖められた空気が山の斜面に沿って上昇し雷雲が発生するためと考えられると言う。

三人は雷電山の山頂への遊歩道をゆっくりと慎重に歩いている。
「宮さん、ここの奥の細い山道に車がずっと停められていたんすね?」
「そうだな、こんな本道から離れた奥の細い場所になぜ車を停めたんだろうな」
「・・・もしかしたら車を隠す必要があったんすかねえ」
「お前にしては、鋭いな。
 確かにここだったら普通は登山する人は入ってこないな」
「これは・・・まだ車のタイヤ痕が残ってるっすね。
 写真は・・・現場は今でも殆どそのまま保存されてるっすね」
「そうだな、最近は雨もあまり降らないそうだからきっと残ってるんだな」
「確認のため、ちょっとここら辺りをしばらく見て回ってみようか」
「それがいいですね」
「?・・・なぜっすか?」
「いや、子供の遺体とかあるかもしれんだろ。捜査資料に書かれてあっただろ?」
「えっ?・・・確かにそんな考察もあった様な・・・
 でも戸籍に無かったし、隣に住んでる人間も子供の声はしなかった筈っすよね?」
「まぁ確かに荒唐無稽かもしれんが、車内や部屋にある子供の髪の毛が気になる。
 もし本当に子供が居ないなら車内や部屋に髪の毛などは残らないだろ?
 それも、その母親らしき女とDNA鑑定で親子に近い関係だと証明されたんだろ?」
「そういう風に捜査報告書はなっていましたね。
 でもその子供自身の戸籍も無かったし、
 夫婦の身内からも子供は知らないと言ってるし、
 その子供の存在は否定されているとなっているっす」
「もし仮にその子が居たとしたら、
 その子はこの山か部屋の近くに居たりしないかと言ってるんだ」
「この山に?・・・・」
小橋刑事は周りをそっと見回して、ブルブルと身体を震わせた。
「宮さん、止めて下さいよぉ。怖いじゃないですか。
 見て下さいよ。腕に寒イボが出てるじゃないっすか」
「本当だ、ブツブツしてるな。
 根性の無い奴だな。相手は子供じゃないか。
 まぁそんな心配は無いと思うが少し遠くまで確認してみようや」
「はぁ・・・」
「お二人はここら辺りを見回って下さい。何かあれば声を掛けて下さい」
遼真は、またもや遊歩道を彷徨っている彼らを見つけたためか声を掛けているようだ。
小橋刑事は、額に脂汗を滲ませながら意識的に遼真の方を見ない様にして歩いている。
三人は、倉持夫婦が停めた車から歩いて行ける離れた場所を丁寧に見て行った。
捜査報告書に載っていない掘り返した後や斜面を歩いていて柔らかい場所などを調べたが、
捜査報告書と同様にやはり怪しい場所は見つからなかった。
遼真も後ろについて見回ったエリアでは、亡くなった子供の霊はいない様だった。

2.新製品 “エモフォン”発売(第10章:アイの叫び)

ここから時間軸は、落雷事故が新聞に掲載される半年前に遡る。

三沢正志の経営する『三沢工業』から秋の新製品が発売された。

それは“骨伝導型のイヤフォン”で単価は3000円だった。

その特徴として、

通常のイヤフォンと異なり耳の穴にはマイク部分を差し込まなくても音楽を聴くことができ、そして耳は塞がないので車のクラクションやその他の生活に必要な音を遮る事は無かった。そして特筆すべき事として骨伝導タイプなので耳小骨機能不全など伝音性が原因で不自由をしている聴覚障碍者にも使用できた。

側頭部を5ミリほどの細いカチューシャで頭部を挟み込む様になっている。

またカチューシャ素材の表面は個人の好みに合う様に様々な色の物が用意されている。

見た目は、とある超有名ロボットアニメに登場する少女の両側の側頭部に設置されているコネクターに近いものである。

そしてそのコネクターの側頭部へ接着する骨伝導部分の上にアクセサリーの取り付けが可能となっており、生活の色々な場面毎に交換も可能でカチューシャ本体の色やアクセサリーを好きに交換することができた。

新発売当初は、アニマルタイプと植物タイプのみだったが、その後モフモフ好きには堪えられないネコやウサギなどの耳タイプ、薔薇や桜などの花を象ったタイプも発売した。

この製品を多人数のアイドルグループが、ライブでネコミミエモフォンを使ったことや

バラエティ番組の収録で、

「同じ曲を聞いても他の製品よりも断然エモい、聞いているうちに感情が爆発します」と紹介されたため、驚きを持って爆発的に日本中へ拡散して行った。

三沢工業としても会社に寄せられるお客様の要望に応えるため、アクセサリーに関しても他の会社と協同して次々と新しいアクセサリーを販売し充実させていった。

その後、昆虫タイプ(クワガワの角やカマキリの腕などの触角様タイプ)、

アニメ会社との提携で、有名作品のヒーローの顔、作品内と同じタイプの被り物タイプ、

最後には、VR用ゴーグルの様に音楽とゲームなどへの組み込みも可能とされている。

この製品は海外からの観光客にもインスタグラムやXなどの媒体で拡散された。

単なるイヤフォンなのだが、聴覚障碍者にも優しいとの好印象もあり

“エモフォン”の評判は世界中へ拡散していった。

三沢工業の “エモフォン”の売り上げは爆発的に伸びて、

数年後には東証のグロース市場上場も視野に入るのでは?と囁かれ始めている。

 

ある日の夜中、正志が寝ていると引き裂かれる様な悲鳴が響き渡った。

「いやー、やめてー、きゃあー、おちるー」

正志は急いで|来愛夢(らいむ)の部屋へと走って行った。

来愛夢の部屋の中からは悲鳴が続いている。

「来愛夢、パパだ、入るよ」

ドアを大きく開けて部屋へ踏み込む。

来愛夢は、真っ青な顔色で大きく目が開かれ、身体を大きく逸らせ、

両手をバタバタ動かしながらベッドの上で叫んでいる。

「来愛夢、パパはここに居るぞ」

と正志はそっとベッドに入り、震える娘の身体を抱きしめた。

「お父様、怖いの、私を抱きしめて」

「うん、わかったよ。ずっと抱きしめているよ。安心して眠りなさい」

しばらくブルブル震える身体を強く抱きしめていると次第に震えもおさまった。

「・・・お父様、怖かったわ・・・お父様、ありがとう。こうしていると落ち着きます」

「それは良かった。このまま朝まで一緒に眠ろうか?」

「お父様は明日もお仕事ありますのに・・・いいのですか?」

「いいよ。これから毎晩一緒の部屋で寝るかい?

 来愛夢、お前が怖い時は、いつでも隣にいるよ。

 仕事で遅い時には家政婦さんに部屋に居て貰うから。

 それにお前のアイデアで出来たエモフォンが、

たくさん売れる様になったから会社もしばらくは安心だよ」

「本当にいいのですか?お父様、嬉しい・・・」

来愛夢は正志の胸の中で安心したのかスヤスヤと眠り始めた。

そのたびに『一緒の部屋で寝よう』と言っていたが、

来愛夢が『お父様はお仕事があるので邪魔はしたくありません。大丈夫です』と

健気なことを言うので心配ながら別々の部屋に寝ていたのだった。

 

来愛夢は長い間の眠りから目を覚ましてから、

今まで何度か夜中に怖い夢を見て悲鳴をあげている。

正志としては、目に入れても痛くないほど愛している娘の悲鳴を聞くのが辛く、

主治医の先生に相談しているが、

「そんな悪夢を見る理由はわかりません。そんな学会報告もありません。

 これほど長期間の植物状態から目覚めたケースそのものがほとんど無いのです。

 もしかしたら悪夢は、長い間、ずっと横になっていた影響、

動きたくても動けなかった苦しい意識からなのかもしれないし、

 髄膜炎の原因となったウィルスへの恐怖を身体が覚えているのかもしれません。

 とにかく私も三沢さん、あの日、あなたから連絡があって、

来愛夢ちゃんを見た時の驚きは今も鮮明に覚えています。

8月21日、私はこの日は一生忘れられそうもありません。

それよりもお父さん、

生まれてからずっと眠っていて目覚めてほんの半年余りの少女が、

筋力が十分でなくまだ走ることはできないけれど、

手足を自由に動かすことが出来て、

これほどの会話や思考が出来ているのは奇跡と考えて下さい。

ましてやこんなに幼いのにパソコン操作まで出来てすごいじゃないですか?

娘さんは目覚めた当初は、声も発することも出来なかったのですよ。

お父さんは、彼女が『パソコンを欲しい』と言ったとおっしゃいますが、

少し使い方を教えただけで、パソコンで色々な情報を取ったにしても、

いつの間にかこんなにまで難しい言葉を発することができる子供を知りません。

天才少女が目覚めたのですよ。素直に喜びましょう」

と医師も驚きを隠せない表情で正志へと話す。

 

三沢工業の新製品“エモフォン”が世界にも徐々に注目され始めると、

大手電機メーカーが三沢工業へ合同事業の話が入って来始めた。

それは『VRゲーム用のゴーグルへの組み込み』と『ロボット型ペットとの会話』だった。

前者は主に若い人が対象であり、後者は高齢者が対象だった。

 

VRゲーム用のゴーグルへの組み込み』

三沢工業は、有名ゲーム会社とも提携し、部品の作成や原案などの打ち合わせを行った。

このゲームは、新しいゲームの世界へプレイヤー自身が入り込み、その世界の住人といて生活したり戦ったりすることが出来るものだった。

その世界での自分の身体の動きは、

手足を自由に動かせる人は、手に操作スティックを握り、腕や足にアタッチメントを装着し、その場で普段と同じ様に身体を動かしてゲーム世界でアクションをすることも可能だった。

その他、素晴らしい点としては

現実では歩けない人でも腕に握ったスティックを使って歩き走り、

手足も動かせず寝たきりでスティックやアタッチメントが使用不可能な人でも、

ゴーグルの画面の設定を変えて、画面内にあるアクションウィンドウの指示部分に視線を合わせるだけで、あらかじめプログラムに従って自動的に画面内で自らの希望する動きが可能だった。

このゲームは、身体障碍者を含めてあらゆる人が参加でき、それによりその世界において、世界中の見知らぬ人と知り合いになり遊ぶことができた。

こういう世界においても、声も自分の好きな声に変える事が出来て、従来の電子的でない音声が喜ばれた。その点、聞こえる声に感情を感じさせることのできるエモフォンの技術は最適で、時間を忘れてプレイヤーがゲームの世界へ没頭する事ができた。

 

『ロボット型ペットとの会話』

三沢工業は、元々ロボット型ペット“アニマロボ”を販売していたが、

新型のロボット型ペット作成のために、研究実績のある動物学者や有名ソフト会社へも声を掛けて打ち合わせを開始した。

この事業は最近増えて来ているお一人様だけでなく、高齢者のペットブームが背景にある。

高齢者が生きたペットを飼いたくても、己の寿命とペットの寿命を考えると簡単には飼えないのが普通で、なかなか寂しさを紛らわすことが出来なかった。

その募る寂しさが、最近増えつつある高齢者の引っ掛かりやすい詐欺の遠因でもあった。

このロボット型ペット(犬又は猫)は、犬語、猫語がインプットされており、

例えば『ワンワン』『ニャーニャー』と泣くと、事前に登録した声、孫の声だとか好きな芸能人などの声で、エモフォンからは感情の籠った声で『おはようございます』と聞こえる様になっており、また本人と何度も会話する事によりAIによる学習で的確な受け応えが可能で、それにより顧客本人だけの情報の会話ができた。

これらの機能により、本物では出来ない日常のペットとの他愛のない会話も可能となり孤独感も少なくなり、寂しさからの詐欺などの被害も減ると期待された。

その他の機能としてスマホにもあるような機能、例えば調べ物や音楽を流したり、カーテンの開け閉めなどの簡単な依頼ならこなすことができた。人間と違い何度同じ依頼をしても嫌がられる事無く寡黙にこなした。

普段のペットとの会話内容は電子媒体に記録され、その人の日常変化や認知症の早期発見に役立てる事もでき、ペットの目のレンズから入る高齢者の健康状態もモニターしており、病気など突発の出来事などに対する身内又は警察や救急へ回線を繋ぐ事が出来て非常に便利だった。

これらの製品は非常に世間へセンセーショナルに喧伝され、三沢工業とタイアップした企業の株価は将来の成長を期待され急成長した。

 

これらの発想は、いつも突然に社長の正志の脳裏へ訪れた。

娘の頬の柔らかさを感じながらお話をしている時

寝室で娘の静かな寝息を聞きながら眠っている時

祖父の趣味でもあった人形収集で、新旧の人形が置かれている部屋の中で娘と一緒に埃を拭く掃除をしている時に突然浮かぶのだった。

それは脳へ急激に電気が流れ込むかのような速さで脳裏に輝く様に浮かぶのだった。

1.目を覚ました娘(第10章.アイの叫び)

『チチチチ・・・』

さわやかな朝の訪れを鳥が知らせてくれる。

三沢正志はパチッと瞼を開けると大きく伸びをしてベッドから起き上がった。

ローブを羽織って二階のベランダへ向かう。

ベランダには丁寧に手入れされた薔薇が咲き誇っている。

金属製のオシャレなジョーロへ水を入れて、『今日も綺麗に咲いてくれてありがとう』と声を掛けながら薔薇の根元へ撒いていくのが日課だった。

その日課も最近はお座なりになり、気もそぞろに撒き終えると急いで部屋へ戻る。

そして部屋を出ると娘|来愛夢《らいむ》の部屋へと向かう。

やや緊張しながら逸る心を抑えながらそっと扉をノックする。

「はーい。どうぞ」と声が聞こえる。

「パパだけどいいかなぁ。もしかして起こしちゃったかなぁ」

「ううん、来愛夢も今、起きた所よ。どうぞ」

「来愛夢、おはよう。今日も良い天気だよ」

「そうですね。お父様、おはようございます」

そっとベッドから起き上がり、父親へ静かな微笑みを向ける娘。

 

濡れた様な漆黒の長い髪、大理石の様な白い肌、下弦の月の様な眉、

切れ長の目、黒曜石の様な瞳、やや細く高い鼻筋、薄く小さな真っ赤な唇、

パジャマの襟元からは生まれて一度も直接太陽の光に当たった事ものない様な真っ白い肌が見える。

 

その姿を見つめる正志の目に涙が溢れ頬をつたう。

「まぁお父様、私を見る時はいつもお泣きになるのですね。私はもう大丈夫ですよ」

「そ、そうだったな。

今までお前のその可愛い目も声も聞けるとは思っていなかったからな。

 ごめんよ、さぁ下へ降りてご飯でも食べようか」

正志は来愛夢の肩へローブを掛け、来愛夢は両手を伸ばして肩の高さに上げる。

そっと壊れ物を包むかのように来愛夢を抱き上げた。

抱き上げられた娘はその細い腕を父の首に回してスベスベの真っ白な頬をくっ付ける。

愛娘の体温を頬に感じて正志は心の底から喜びが湧きあがるのを感じた。

同時に家族の傍から急に居なくなった妻明日香への憎しみも感じた。

その激しい憎しみの感情を感じたかの様にその憎しみをなだめるかのように

首に回されていた娘来愛夢の細い腕は、今度は父の頭をギュッと強く抱きしめている。

しばらくすると正志の表情に滲み出ていた憎しみが溶けて行った。

 

三沢|来愛夢(らいむ) 4歳 

生まれた直後にウィルス性脳膜炎に罹患し目を覚まさないまま現在に至っていたが、

ある日、突然目を覚まし父親や家政婦を驚かせる。

 

三沢正志

来愛夢の父親 40歳

戦前はこの地の大地主だったが戦後に土地は没収され現在に至る。

薔薇に囲まれた歴史のある洋館に住み、宇都宮市にある電気製品工場の社長。

趣味としてバードウォッチング、古い時代の人形集め

 

三沢明日香

来愛夢の母親 32歳

寝たきりの娘の世話に疲れ、若い男と遊んでいたが1年前に家出している。

 

8月のお盆を過ぎた日曜日の朝刊に

雷電山山頂にて若い夫婦が落雷にて死亡」と掲載された。

雷電山は宇都宮市の北側、船生街道沿いの下小池町にある386mの山である。

この山から東北東へ伸びる山々、寅巳山、浅間山と共に豊かな自然に溢れており、

多くの動植物達が共生し生き生きと暮らしている。

世間的には栃木県でバードウォッチングは、渡良瀬遊水地、戦場ヶ原、大沼森林公園、栃木県民の森、井頭公園が5大スポットとして有名であった。

雷電山のあるこの一帯はバードウォッチングが趣味の人達にとっては、

『鳥の楽園』として知る人ぞ知るエリアでもあった。

また宇都宮市は”雷都”と呼ばれるほど落雷の多い都市であるため、

山間部での天候の急変には常に注意して歩いていた。

正志は仕事にキリが付いた週の土曜日の朝方暗いうちに家を出て、

よくバードウォッチングで雷電山一帯へ行っていた。

正志はデジタルカメラを戸棚から出して事故当日辺りの記録を確認すると、

枝に“瑠璃色に輝く夏鳥界のスター”オオルリの夫婦の並んで楽しそうに話し合っている姿が映っている。しかし正志には当日の記憶だけがなぜか無かった。

 

この野鳥オオルリは、祖父に教えて貰って正志が生まれて初めて写真に撮った鳥である。

その美しい瑠璃色が好きで以降、見掛ければ必ず撮影する様にしている鳥だった。

オオルリは東南アジアから中国大陸へ移動して夏に日本を訪れる鳥で、

ヒタキ科であり同種の「オオルリ」「コルリ」「ルリビタキ」の3種は「瑠璃三鳥」といわれ、日本で見られる代表的な青い野鳥である。特にオオルリは柔らかく澄んだ声でよくさえずるため、「ウグイス」「コマドリ」と並んで「日本三鳴鳥」と言われている。

体長は約16㎝で『ピィーチュリ―ジジッ、ピーリーリー』と鳴く声が可愛いかった。

 

ただこの事故の発覚は事故当時より1年近く遅れた。

理由は雷電山中腹の山道から普通は誰も行かない場所へ車が長い間停められていたため、

地元の人間が間違ってこの山道を偶然通りかかった折、不審に思い警察に通報したのが、

発見の最初だった。

車中に置かれていた車検証や荷物から乗っていた人間がわかった。

警察は事件かもしれないと考えて車中の毛髪などの証拠を調べ、

登録されていた住所のアパートの部屋に残された毛髪などを調べて

夫婦の名前は「倉持|粕男(かすお)・|鴬子(ようこ)」と特定された。

しかし車中及びアパートの部屋の中にはもう一人、

|鴬子《ようこ》と関係があると考えられる遺伝子の毛髪が残されていた。

警察が近所の人間に聞き込んでも普段から夫婦の喧嘩する声は聞こえても、

子供の声は聞こえてこなかったし、戸籍を調べても鴬子に子供は居なかった。

その捜査と同時並行して雷電山一帯を捜索した所、

山頂に近い藪の中から腐敗した黒焦げ死体が二体見つかった。

その黒焦げ死体は何度も強力な落雷を受けたのか殆ど炭と化していた。

 

その遺体は遺伝子検査の結果、「倉持粕男・鴬子」と特定された。

当時の天候を調査した所、夕方に突然漏斗状の黒い雲が山頂に発生し、

何回も山頂へ落ちる激しい落雷が記録されていた。

その経過があって警察の捜査本部は落雷事故として処理した。

警察は夫婦の親族などに色々と当たった。二人とも生まれた場所は違っていたが、

『グレて不良になり中学卒業後家を出て、15年以上会う事も連絡された事も無く行方不明だった。昔に警察にも届けている』と言われ、誰もが相続等は放棄してきており、仕方なく行政が遺体を近くのお寺に供養した。

 

このアパートの大家は、他県に住んでいることもあり、少し前に夫を心臓発作で突然亡くしたため、遺産相続等で色々と忙しかったため落雷事故に関しては全く知らなかった。

警察からの倉持夫婦の話は、不動産経営していた夫が対応しており妻は全く知らなかった。

また賃貸契約上、倉持夫婦の部屋の家賃は、倉持粕男が社長で経営していた輸入品会社名義の銀行口座から定期的に引き落とされていた。

しかし、口座の残金が無くなり、ある時期から引き落とせなくなったため、

大家は書面にて家賃請求を何度も繰り返したが、

全く会社からも夫婦からも返事が無いため、不審に思いアパートへ訪れた。

呼び鈴を鳴らしても反応も無く、倉持夫婦の部屋に全く人の気配の無い事を知り、

合鍵で開けて部屋に入った途端、足の踏み場もないほど荒らされていた。

急いで警察へ届けて雷電山での事故の経緯を知らされて驚いたものだった。

 

新聞掲載から1年近く経ったある日、

警視庁警視庁迷宮事件係(通称|038《おみや》課)宮尾徳蔵警部の元へ秘密裏に事件再調査の要請があった。

群馬県警として当初事故として処理していたが、

アパートの大家が依頼した若い夫婦の部屋を片付けていた業者から大家へ

「夫婦以外に子供もいたのかもしれない。もしかしてその子の遺体でもあるのではないか

と言われた。その点をはっきりしないと次の人に貸すことができない」との相談があったからだった。

県警としては、当時の捜査の結果、子供は居ないものとして捜査を打ち切っていたが、

居ないにしては実際の現場にはあまりに多くの証拠が見つかっている。

だが、それ以上の捜査は暗礁に乗り上げ、今後の捜査方針を考えあぐねていた。

そんな状況でのアパートの大家からの再要請を無碍には出来なかった。

別の会議で県警本部長から困っているとの話を聞いた警視庁の都倉警部が

警視庁警視庁迷宮事件係(通称|038《おみや》課)を推薦したのだった。

 

さて警視庁警視庁迷宮事件係では朝にお茶を飲んでいると宮尾警部が部長室へ呼ばれ、

しばらくすると台車に捜査資料の入った段ボール箱を山の様に盛って部屋へ戻って来た。

小橋光晴刑事が、

「宮さん、ボスは何て?新しい事件っすか?」

「そうだ。一度は捜査が終わった事件だが、確認のため再捜査するらしい」

「再確認?」

「その資料にも書いてあるが、民間人からの要請だ。

 ただウチとしても事故として処理したのだがそれでは済まない事実が出たそうだ」

「へぇ・・・それではすまない事態・・・

 うーん、何か嫌な予感が・・・

 どれどれ・・・落雷事故?

 これって確か少し前に新聞に載ってたっすね」

「そうそう、落雷により夫婦が焼け死んだ事故だ」

「それって確か事故っすよね?

落雷は自然現象だから殺人事件にはならないんじゃないっすかねえ」

「まぁそれを再確認して欲しいとの要請がボスから来たのさ」

「ふーん、どれどれ・・・わぁ・・・

 二人とも真っ黒に焼けてるじゃないっすか・・・

 人間の身体って焼けるとこんなに捩れるもんなんすねえ」

小橋刑事はその発達した胸の前で腕をクロスさせてブルブル身体を震わせた。

7.戦いの後(第9章:魔族の蠢動)

「真美ちゃん、遅くなってごめん。大丈夫だったかい?」

何と新宿で探偵事務所を開いている遼真の従兄の翔さんと

彼の婚約者の館林百合さんがドアを開けて走って来た。

「真美ちゃん、大丈夫?」

と急いで百合が心配そうに倒れている真美を抱き起こした。

「翔さん、百合さん、ありがとうございます。助かりました」

「真美ちゃん、よく頑張ったね。すごいわ」

「いえ、これは白美姫様の力です」

「白・・・美姫様?・・・そう、とにかく良かったわ。

 翔さん、いつもあなたが飲んでる『元気君』を出して」

「おお、そうだった。これ一発で元気一杯だよ」

百合が真美の口元へ『元気君』の瓶をあてがう。

甘くさわやかな液体が口中から喉へ流れて来る。

しばらくすると身体が暖かくなってくるが身体はまだ動かせなかった。

「遼真君、今、真美ちゃんを助けたよ。

 うん、今、都倉警部や宮尾警部に来てもらってる」

「翔兄さん、ありがとうございました。

 真美はどうですか?

 怪我してませんか?」

「うん?

 あぁ全然大丈夫みたいだぜ。

 うん?電話変わろうか」

遼真が真美の耳元に携帯電話を当てる。

「真美、大丈夫だった?」

「はい」

「良かった。

 心配したよ。

 無事で良かった」

「遼真様、ここの強力な結界を壊して頂きありがとうございました。

 お陰で遼真様へ連絡が出来て真奈美達も無事でした」

「真奈美ちゃんも?・・・そうだったのか・・・それは良かったね。

 真美、そんな強い相手にすごく頑張ったね」

「はい、この前、竜神様に教えて頂いた御方にお任せしました」

「?・・・この前、ああ真美の身体に潜む力のことだね。

 それはすごいや。

 詳しい話は後で聞きたいな。

 とりあえず今日はゆっくりと休みなよ。

 もう無理しちゃ駄目だよ。

 明日の午後には急いで帰るからね」

「はい、待っています。

 翔さん、百合さんありがとうございました」

やがて宮尾警部や小橋刑事達も現れた。

宮尾警部が心配そうに

「真美ちゃん、無事だったか?

 実は工藤家から都倉へ電話があって探していた所だったんだ。

 そんな時、ちょうど翔君から

 この場所でのコンパの話を聞いたものだから急いで来たんだ」

現場へ駆けつけた警察官や救急隊員が倒れている真奈美達を運び出す。

都倉警部は倒れている男達の顔を見て驚いていた。

彼らは広域暴力団の外道会系の組員で、

今まで覚醒剤販売や闇ビデオや売春斡旋や奴隷販売などの犯罪で

警視庁から全国指名手配を受けていた男達だった。

翌日のニュースではこの事件が多くの番組で報道された。

それに伴い最近大学生の蒸発事件にも焦点が当てられ捜査が始まった。

男達の自供で過去の開催されたコンパの被害者や犯罪が明らかにされ、

裁判で主犯は死刑判決、それ以外は無期懲役の判決を受けた。

遼真は翌日午前中に京都市内へ向かい、真美用のお土産を買いこんだ。

みんな真美の大好物ばかりで彼女の喜ぶ顔が浮かぶ。

★京都祇園あのん本店「あんぽーね」

 長年培ってきたあんこ作りの技法を生かして、和・洋の枠を超えたお菓子作りをしている“京都祇

 園あのん”で販売されている。小豆の旨味と、まろやかでほのかな酸味のマスカルポーネが抜群に

 マッチし、サクっとした最中の皮も絶品サクサクもなか。

 あんことマスカルポーネチーズクリームを自分で詰めて食べる“和洋折衷のもなか”で、お店の

 おススメは、少しあんこ多めの「あんこ6:マスカルポーネ4」。

小多福おたふくの「おはぎ」

 カラフルな見た目がインスタ映えすると話題のおはぎ店で、かわいい見た目でギフト・プレゼン

 ト・贈り物にも最適。代々受け継いできた小ぶりのおはぎ、月ごとに12種類用意され、「こしあ

 ん」「きなこ」などの定番から季節限定品も作られている。

マールブランシュ京都「加加阿カカオ365」

 365日の毎日模様が変わるチョコレート。ひと口食べると、まわりのチョココーディングがパリッ

 と崩れて、滑らかで口どけのいいショコラが味わえる。

都松庵としょうあん「AN DE COOKIEアンデクッキー

 1950年創業の餡製造会社が運営している店。小麦粉を一切使っていないクッキー。

 生あんを生地に練りこんで、口の中に入れると、フワフワでホロホロと崩れて小豆の甘味が

 広がる新食感のあんこ スイーツ。

これらを鞄に詰めて遼真は急いで東京へと向かう。

その途中で琵琶湖や富士五湖にも寄り竜神様へ御礼の御神酒を味わってもらった。

どの竜神様も真美達が無事だったことと力が現れたことを大層に喜んでくれた。

琵琶湖の竜神様から聞かされた話では、

真美の血脈に眠る神の眷属である白蛇族の白美姫は、

太古から定期的に自らの血族を増やすため分身体で人界へ降りて来ていたらしい。

一番最近に降りて来た時代は、江戸時代鎖国令が出た折で、

海外からの魔族の侵略も若干静かになっていた頃だった。

その時に偶然山の中で魔物と戦っていた桐生一族の強い男に出会った。

その魔物は非常に強かったため、白美姫もその戦いに加勢した。

しばらく二人で一緒に旅するうちにお互いが惚れて夫婦となったらしい。

そして夫婦には可愛い女の子の双子が産まれた。

神の眷属で無限に近い寿命のある白美姫にとって

人族に変化して人として暮らす時間はほんの一瞬の時間だった。

我が子達が大きくなり嫁に嫁ぎ、

夫も年老いて行きその夫を見送って白美姫は分身体を魔界へ戻す。

そのように太古から何度も強い人族との間に子を為してきた。

分身体が味わう人族としての幸せな気持ちは、

永遠に魔界を監察する白美姫にとって束の間ではあったが深い喜びだったようだ。

最後に多摩湖に寄り、報告とお礼をして家に戻るともう夕方だった。

智朗さんとウメさんが玄関に待っていて遼真の荷物を持つと居間へと向かう。

ウメさんがお茶を出しながら

「真美ちゃんは昨夜帰って来て今日の昼前に起きてシャワーを浴びて

 お昼ご飯を食べてまた眠っていますがどうしますか?」

「起きてたら会いたかったけど眠ってるならいいや。起きたら教えてください」

「遼真様、真美ちゃんから『遼真様が帰ってきたら起こして下さい』と言われていますよ」

「うーん、じゃあ、部屋に入っていいかどうかを聞いてきてよ」

「はい、わかりました。慌てて起きるかもね」

ウメさんが急いで真美の部屋へと向かう。

部屋から真美の声がボソボソと聞こえてくる。

「えっ?お帰りになったの?

 ウメさん、ねえ寝癖は大丈夫?目が腫れてないですか?」

「大丈夫です。いつもの様に可愛いわよ」

「そんなんじゃなくて・・・変なところ無いですか?」

遼真が廊下から声を掛ける。

「真美、ちょっと入って良い?」

「は、はーい。どうぞ・・・と言うのも変だわ」

ベッドに起き上がりパジャマの上にカーディガンを羽織った真美の姿が目に入る。

少し頬が痩せているがいつもの真美がそこにいた。

「真美、無事そうで良かったよ。

 そうそうこちらに来る途中、琵琶湖や富士五湖多摩湖竜神様方に

 真美の無事の報告と御礼がてら御神酒を奉納してきたよ」

「遼真様、ご心配かけてごめんなさい。今度こそ真美は・・・」

「わかった。良いから良いから、今はゆっくりとしてよ。

 まだ身体が十分に動かせないんだって?実は僕もそうなんだよ。

 バトルバイクで自動運転機能があったから帰って来れたみたいなものさ。

 昨日大量の霊糸を東京まで跳ばすのは無理があったみたいなんだ」

「遼真様、本当にありがとうございました。

 あの時、私は必死で早く遼真様に声が届きますように、

 遼真様が私の気配に気がついてくれますようにと祈って戦っていたの」

「そうなのか。早く気がつかなくてごめんよ」

「ううん、そんなことを言っていません。

 遼真様は私のことに気がついてくれましたし、

 あの強い結界を丹波篠山に居ても壊してくれました。

 それだけで私は嬉しかったです」

「一瞬、嫌な予感がしたのでちょっと約束を破るけど真美の気配を探ったんだ。

 いつもは真美の気配が感じられるのにあの時は感じられなかったから焦ったよ」

「それであの場所がどのようにしてわかったのですが?」

「うん、都内にいることはわかってるから家を中心に同心円状に探って行ったんだ。

 するとその中で普段とは違う場所が観えなかったから、もしかしてと考えて、

 キインに入らせようとしても入れなかったからこれはおかしいと思い、

 クインにも探らせると真美の匂いがここで消えていると言ってくるので

 真美はこの結界に閉じ込められていると確信して霊糸を跳ばしたんだ」

真美は遼真へ今回の魔族の事件の全てとその時に自分の身体に起こった現象と力、

自分の血脈に潜む白蛇族白美姫のついて思い出す様にゆっくりと話した。

遼真も真美へ竜神様から聞かされた白蛇族白美姫の過去の物語を伝えた。

話が終わる頃、ウメさんがコーヒーと紅茶を持ってきた。

遼真は京都で買ってきたお土産を鞄から出した。

やはり真美の大好物ばかりだったのでお大喜びでテンション爆上りだった。

智朗さんやウメさんも一緒にワイワイ言いながら食べていると

徐々に真美の顔色も良くなってきていつもの可愛い真美に戻った。

夕食後、遼真は社務所で手を合わせて『白蛇族白美姫』へ感謝の気持ちを伝えた。

『ほぅ遼真は、わらわが遥か昔夫とした強き男によく似ておるなぁ。

 このまま行けばわらわの血脈も順調に続いていきそうじゃわい』

と白美姫は独り言を言っているが遼真の耳には届いていなかった。

6.白美姫、力を開放する(第9章:魔族の蠢動)

「うむ、確か昔世界中でその菌の感染が流行って多くの人間が死んだのであったな」

「ふん、いつまでもわしを小物と思うなよ。

 お前がこの世に現れても無駄だったな。

 如何に神の眷属であるお前が強かろうと、

 街中に無数に放たれた我が下僕にどうすることも出来ないであろう。

 こいつらを滅ぼそうとするならば、人間と共に滅ぼすしかないだろうな。

 さあ、お前達、早くこの部屋から出て行くのだ。

 そして人間共を苦しませて殺してしまえ」

「そうはさせぬ。待てい!」

 

その瞬間、

白美姫の真っ赤な目が大きく開けられその目から赤い光が発せられる。

白銀の髪が逆立ち、身体が白い輝きを発し、下半身が蛇の様な胴体に変わった。

同時に部屋中にその身体から発せられた大音声で、

街へ解き放たれそうになっていたドブネズミ達も

白美姫の真っ赤な目を見たまま動けなくなっている。

「お前達・・・わしの言う事を聞け・・・」

鼠男爵もドブネズミ達も蛇に睨まれた蛙の様になって動くことが出来ない。

「この鼠達は可哀そうだがこの世界でこれ以上生きさせる訳にはいかない」

「クソー、身体が動かない・・・」

「そろそろお前達は元に戻って貰おうか。その前に『瘴気分離』・・・」

「な、何・・・」

白美姫は、両手を広げると

鼠男爵を除いて、手先の男達とドブネズミ達を白い霧が包んでいく。

男達やドブネズミ達から多くの瘴気と思われる黒い霧が立ち昇っていく。

それらは空中で大きな塊となりフワフワと浮かんでいる。

武器を持っていた男達やドブネズミの身体から

モヤモヤした黒い霧が一切出なくなって目から光が失われている。

その瘴気を白美姫はその妖艶な口元から吸い込んでいく。

真っ赤なその目がキラキラと輝いている。

蛇の胴体とした下半身の腹部が徐々に膨らんでいく。

「美味いのう。

 わらわもお前達魔界の生き物と同様に瘴気を餌とできるからのう。

 この世に魔界ほどの瘴気は無いから、今のお前が持っている瘴気が

 無くなれば今お前達の持っている力も使えなくなるであろうしなあ。

 さきほど使った力の分を補充するにはちょうどいいのう。

 そして・・・『絶凍死』・・・」

その場で動けないドブネズミは真っ白に凍結されて眠っている。

どうやら体内のペスト菌をも完全凍結させてしまった様だった。

「さて最後は、お前だな」

「!?・・・待て・・・」

白美姫の目が再び赤く輝き、

白蛇輪はくじゃりん

と鼠男爵に向かって発せられた。

鼠男爵の周りに張られていた真美の自縛印に重なる様に白銀色に輝く円環が現れた。

「な、なんだ・・・」

その白銀色の円環は鼠男爵の周りを廻り始め徐々に太くなり始める。

鼠男爵が苦悶を浮かべて叫ぶ。

「何だ、身体に力が入らない。身体が1ミリも動かないぞ。クソー」

しばらくすると白銀色の円環は太くそして長く伸び始め

まるで蛇が獲物を捕まえる様に鼠男爵の身体全体に巻き付き始めた。

『ミシミシ、バキバキ』と鼠男爵の身体から音が聞こえる。

「白蛇め、わしの計略を邪魔しおって、

 ぎゃー、身体中の骨がバラバラになっていく・・・」

首以外身体全てに円環が巻き付くとその円環の一番上に顔が出来始める。

「お前の身体にある瘴気を全て吸ってしまおうか」

その顔に口が出来ると鼠男爵の頭からかぶり付いた。

「いやー、止めてー、食べないで・・・」

鼠男爵の顔が白銀色の口に包まれるとその声は消えた。

徐々に鼠男爵の身体が小さくなりその白銀色の白蛇に全てを飲み込まれた。

そして『プッ』と最後にその口から小さな紫色のドブネズミが吐き出された。

その場には、全てを吸いつくされてボロボロになったドブネズミが倒れている。

「ではお前達は魔界へ帰れ」

白美姫が目の前の空間を抉じ開ける様に両手で広げた。

するとその何も無い空間にピシッと切れ目が入り大きく広げられた。

その大きく広げられた切れ目から見える空間は、

暗い赤紫色の空気に満たされた魔界の風景だった。

その空間からは数多くの悲鳴や唸り声が響いてくる。

「・・・止めてくれ。嫌だ、わしは帰りたくない。

 あんな世界には帰りたくない。お願いだ止めてくれ・・・」

「本来、お前が棲むべき場所なのさ。じゃあ」

「止めてくれー、嫌だ―・・・」

鼠男爵だった薄汚れたドブネズミは悲鳴を上げながらその空間へ吸い込まれていく。

やがて多くのペスト菌に犯され凍らされた鼠達も引きずり込まれて消えて行った。

全てが吸い込まれた時、その空間の割れ目は閉じられた。

「真美、観えたか?これがわらわ、いやそなたの力だ」

「はい、観てました。私に本当にこんなことができるのでしょうか・・・」

「これはわらわの本当の力の一部じゃ。

 今のそなたの身体で出来ることはここまでだった」

「まだこれ以上の力があるのですか?・・・」

「今はまださっきの力さえまだ出来ないであろうなあ。

 しかしそなたの心が今よりももっと強くなれば出来る筈じゃ」

「心を強くですか?・・・」

「そう、そなたが眠るわらわを起こした様に自分の思いのため、

 他人のために自らの力だけで魔と戦う心を持つことじゃ」

「私だけでですか・・・」

「そうじゃ、戦いに絶対は無い。どうなるかは誰にもわからない。

 今後はわらわももしかしたら敗れて死ぬことがあるかも知れぬ」

「そんな・・・」

「そなたが一緒に戦っている遼真が、もし敵に倒されたらどうする?」

「遼真様は強いです。そんなこと・・・」

「そうかな?シシトー神様がもし悪神だったらどうだった?」

「そ、それは・・・」

「あの時、遼真は自分が敗れて死ぬことを覚悟した。

 だから敵に背中を向けてお前を抱きしめてそなただけは守ろうとした」

「そんな・・・!?」

「わらわは今までそなたの中から遼真の戦いはいつも見ていた。

 あの男は本当に力も強く誰にでも心優しい男だった。

 悪霊や妖怪にさえも情けを掛けた。

 悪霊もその優しさに触れて絆されて霊界へ戻って行った。

 だからこそ戦いの最中シシトー神様もその遼真の心に気付いた。

 己の命を捨ててまで人間を守ろうとする者が悪い人間の筈が無いからのう」

「あの時、そうだったのですか・・・私は本当に・・・」

「だが、今、そなたはその身を捨てても彼らを守ろうとしたじゃないか?

 あの状況を一人だけで切り開こうとしたではないか?

 その決意を見て、わらわはそなたに声を掛けたのじゃ」

「そうだったのですか・・・あの時は必死だったので覚えていません」

「そなたはいずれわらわの力の全てが使える様になる。

 それまで必死で心と身体を鍛えることじゃ。

 今後、もしそなたの身に危ないことがあればわらわがまた声を掛ける。

 そなたはわらわの貴重な後継者だし、この世でのわらわの器だからな。

 そろそろお前の肉体も限界が来た様じゃ。しばらく眠れ」

「はい・・・」

「そろそろみんながそなたを助けにくるころじゃ」

その時、真美の身体が白く輝くと元の体型へ戻っていく。

真美は身体が全く動かなくなっていることに気がついて倒れこんだ。

5.白美姫の出現(第9勝:魔族の蠢動)

この部屋の結界を張っているのは、この部屋の地下室に棲む『魔界の鼠男爵』。

夜の新宿の街の持つ濃密な磁場、人間の金や色欲などの薄汚い欲望に満ち溢れ、

霊的に見れば耐え難い汚臭を放っている世界へ降りた魔物。

多くの人間へ魔界の手の者を憑依させ真美へ襲ってくる。

真奈美を始めとして多くの新入生は部屋の隅で倒れている。

倒れている彼らの周りに『護身陣』を張り魔物の憑依から守っており、

テーブルの上にある食器へ退魔呪符の力を纏わせ鋲として投げて

魔物に憑依され操られて襲って来る人間の魔成分を浄化して倒していくも

倒しても倒しても何度も憑依されて襲ってくる。

真美は憑依された人間を傷つけることも出来ず防戦一方となった。

その時、真美の脳内へ小さな声が響く。

「・・・わらわの声が聞こえるか?・・・わらわの血を引く娘・・・」

「?!・・・はい、聞こえます。あなたは・・・」

「わらわは神の眷属白蛇の精、白美姫はくびき、そなたの血に潜む者。

 そなたは魔と対峙し魔を滅する力を欲するか?」

「はい、私はこの人達を救いたいのです。私の身はどうなってもいいのです」

「わかった。今までわらわの血を継ぐ娘でそこまでの覚悟を持つ者は居なかった。

 そなたこそがわらわの後を継ぐに相応しい者。

 そなたならわらわの力を託すことができそうじゃ。

 しかし残念ながらそなたの力はまだまだ弱くその魂は幼い。

 たぶんわらわがそなたの身に顕現して全ての力を揮えば、

 まだ小さく幼いそなたの魂の器は粉々に壊れよう。

 それではそなたが死んでしまうでのう。

 今の一時だけそなたの魂をわらわのいる世界へ預けよ。

 その間はわらわがそなたの身に入って戦おう。

 そなたはわらわの居たその世界からその戦いぶりを見て力の使い方を覚えよ」

「はい、お願いします。まだまだ幼いままで申しわけありません」

「いや、そうでもない。この身体鍛えてるし結構使い易そうじゃ。

 そろそろそなたの慕う男の力がここへ集まってきているぞ。待っておこう」

「えっ?遼真様の力が?」

「ああ、遼真は必死でそなたの行方を捜していたようじゃ。

 もうじきこの結界も無くなるであろう。

 まぁわらわが壊してもいいのだが遼真に任せよう」

 

その時、霊的視覚の備えた人間なら

丹波篠山にいる遼真から真美の閉じ込められた新宿のビルへと押し寄せる

白く輝く長い霊糸の束が観えている筈である。

『ゴォー』

その白く輝く霊糸の束の先端がすごいスピードで結界へと突き刺さった。

『ガツン』

張られていた強力な結界が大きく震え白く輝き、

徐々にその結界の壁にピリピリとヒビが入って行く。

「何?なんだこの力は・・・我が結界が・・・」

『パリーン』

張られていた結界が粉微塵に砕け散った。

「真美、真美、大丈夫なの?」

「遼真様、真美はここにいます。

 やっと遼真様の声を聴くことが出来ました」

「?!・・・真美、無事だったか?・・・良かった・・・

 今から一族に連絡をして助けに行って貰うから何とか頑張って。

 僕に翔兄さんみたいにテレポーテーションの力があれば

 今すぐにでもそこに跳んで行くんだけどごめんよ。

 とりあえずキインとクインを送るから彼らと一緒に戦っていて」

「はい、わかりました。待っています」

『フッ』

と一瞬でキインとクインが真美の足元へ現れる。

「キイン、クイン、ここにいるみんなを守って、お願い」

『『クーン(了解)』』

霊獣管狐のキインとクインは、

倒れている真奈美達の近くに跳ぶとすぐさま周りに護身陣を張り直し、

怪人の方を向いて歯を剝きだして威嚇している。

「もう遼真とは話したか?

 嬉しそうな顔をしておるの。

 後はそなたはじっと見ておけば良い。では我に任せよ」

「はい、お願いします」

真美の表情が一瞬無くなると、全身が白い光に包まれた。

真美の身体がみるみる変わっていく。

長く黒い髪が根元から一気に白銀の髪へ変わり、

若干幼いスタイルだった真美の身体が、

胸も大きくなり始め、ウェストも細くなっていく。

色白の肌のその皮膚表面には銀色の小さな鱗状の物が浮き上がってくる。

真美は、元々銀色の輪郭の深い暗赤色の瞳を持っていたが

その瞳が真っ赤に染まり爬虫類の縦長の瞳に変わる。

「おい、女、お前は誰だ・・・?!・・・その目は・・・」

「ふーん、お前、魔鼠まそだな?

 あれだけブルブル震えて魔界で隠れ潜んでいたのにここにいたのか?」

「何を言う。我は魔界の帝王『鼠男爵』である」

「魔界の帝王?鼠男爵?ははははは、大層な名前だね。

 知らなかったよ。

 では魔界の・・・ていお・・・ははははは

 可笑しくて腹がよじれるよ。もう邪魔くさいねえ、

 ネズミ、お前は魔界へお帰り」

「お、思い出したぞ。

 お前はいつも魔界の結界の周りで見張ってる女。

 確か・・・はくじゃの白・・・美姫か・・・なぜここにいるのだ?」

「私はどこでも居ることができるのさ。

 ここにいる私は魔界の周りにいる本体とは別の分身体だよ」

「ということは、本体ほどは強くはない筈。

 だから我の張った結界を壊せなかった」

「いや壊せたけど、ちょっと頑張ってる男がいたから任せたのさ」

「えっ?その男は神の眷属なのか?」

「いや、お前が馬鹿にしてる人間の男だよ」

「人間にそんな力がある筈が無い。そんな男に会ったことはない」

「そりゃあ今まで運が良かったねえ。

 もし会ってたらきっと封印されてたか、

 それともお前が必死で怯えて隠れていた魔界へ送り返されたかもねえ」

「別にわしはみんなに怯えて隠れていた訳ではない。

 わしの身体が単に小さいからみんなから見えにくかっただけだ・・・」

「何を言ってるのか?小さな声だから聞こえないねえ」

「うるさい、お前、人間の身体に入っていていつもの力が出るのか?

 お前の身体からはそんなに強い力は感じられないぞ」

「久々に人間の身に入ったから良くわからないけどねえ」

真美の顔をした白美姫は、

首をコキコキ鳴らしながら手を背中に回したり、屈伸など運動し始めた。

「それとお前、いつも持ってるあの三又の槍もないではないか。」

「ああ、三叉槍さんさそうね。

 いつでも取り寄せることが出来るよ。

 お前程度にあの武器はいらないだろうと思ってね」

「馬鹿にしやがって・・・許さん。

 わしも人界に降りて300年近く経って相当に力を付けたのだぞ」

「ほう、そりゃあ、怖いねえ。ああ、怖い怖い」

「クソー、もう許さんぞ」

鼠男爵は、両手を上に向ける。

すると足元の穴から次から次へと

黒い小さな影が次々と無数に湧き出て来て黒い影で部屋が埋まり始める。

それらは都内の下水道に潜んでいた無数のドブネズミであった。

その一匹一匹に魔物が憑依している。

そのドブネズミは鼠男爵の身体にも入って行き

どの様な作用か不明だがそれらが合体して行き鼠男爵の身体が大きくなっていく。

そして更に大きくなった鼠男爵の手が振られた。

「皆の者、その女も人間も一緒に骨の髄まで食い尽くしてしまえ」

途端に部屋の床を埋めていた黒い影が真美や真奈美達へ一斉に向かう。

倒れていた男達は憑依されて立ち上がり武器を持って襲ってくる。

真奈美達への憑依はキインやクインが護身陣で守っているので心配していない。

だが肉体を持つドブネズミには効果は無い。

管狐のキインやクインが近づくドブネズミ達に電撃や火炎を出して迎撃する。

ドブネズミは焼かれたり感電して殺されても押し寄せる勢いは衰えない。

真美の顔をした白美姫の元へ武器を持った男達と共に襲い掛かる。

白美姫の身体の周りには

球状に結界が張られていて男達の武器やドブネズミの牙は通らない。

「うぬ、強いな。こうなれば次の手じゃ」

鼠男爵の方へドブネズミ達が集まっていく。

良く見ると鼠男爵の身体から蒼色の霧が出てドブネズミ達へ流れていく。

「ドブネズミ共、街の中へ出て行って人間を襲え。

 お前達はドアを開け放て、ドブネズミを解き放て。

 ははは、人間共、白蛇め、ペスト菌に犯されて死んでしまえ」

鼠男爵が部屋にいる無数のドブネズミへ指令を出した。

それまで真奈美達や白美姫を攻撃していたドブネズミ達の動きが急に変わった。

男達は鼠男爵の指示通りにドアを開け放とうとドアへと移動していく。

このままではペスト菌に犯されたドブネズミが東京中に解き放たれてしまう。

4.再び龍神様の元へ(第9章:魔族の蠢動)

さて時間軸は少し遡る。

真美の家族が帰った翌日に遼真と真美はバイクで多摩湖へ向かった。

もちろんバトルヘルメットやスーツなどバトルシリーズに全身を包んでの出発だった。

以前は恥ずかしくて遠慮気味に遼真の腰に手を回していた真美だが、

今日はウメさんから注意される前にしっかりと抱き付いて背中へ頬を当てている。

遼真は背中に当たる大きくなった二つの膨らみにドキドキしながら出発した。

真美は新しい大学生の生活のことを色々と遼真に聞き、

遼真も一年生の時の授業の講義や教授などの話をしながら多摩湖へと向かう。

いつもの様に多摩湖や地の地鎮に関係のある神社へ参拝した。

多摩湖へ着くといつものボート貸出店へ行くとボートに二人で乗る。

今日も多くの家族連れやカップルが楽しそうにボートを漕いでいる。

今年も昨年と同様に天気が良く湖の周りの山には桜が咲き誇っている。

多摩湖の真ん中へ着くといつもの様に辺りに濃い霧が立ち込める.

「遼真、真美、久しいな。待っておったぞ」

竜神様、いつもありがとうございます」

竜神様、いつも守って頂きありがとうございます」

「うむ、二人が頑張ってるからなあ。わしも楽しみじゃ」

竜神様、今日も美味しいお酒と料理をお持ちしました」

「おうおう、天気を晴れにしていた甲斐があったな」

「では、存分にお飲みください」

「うーん、良い香りじゃ、これは綺麗な水で出来ている酒だな。

 今回は近畿地方のお酒か?」

「はい、そうです。篠山の名水で作られた物です。

 竜神様、どうぞお召し上がりください」

 

真美が会席膳の重箱を水面へ浮かべる。

重箱の周りが渦巻き、そして重箱が底へと引きずり込まれる。

しばらくすると洗われて綺麗になった重箱が浮かんで来た。

「遼真、真美、いつもすまんな。

 実は今日は琵琶湖と富士五湖の同胞が遊びに来ていてな。

 偶然昨夜、お前達のことを話したら、

 『わしだけそんな美味しい思いするのは許せん』と言うので

 お前たちを紹介がてらみんなを呼んだのじゃ」

「では竜神様達、さきほどの量では足りないですよね・・・」

「真美、もう一つのお弁当も食べて頂こうよ」

「は、はい、では竜神様、

 会席膳ほどの出来では無いですが、これをお召し上がりください」

竜神様、まだまだお酒はありますからドンドン行って下さい」

と遼真が我が家の竜神様用に買った多摩の地元のお酒も全て飲んでいただいた。

「遼真、真美、気を使わせてすまんな。

 みんな喜べこれをツマミにまだまだ飲めるぞ」

遼真と真美を包む霧が渦巻き七色に輝いている。

他の竜神様にも喜んでもらっているようだ。

「遼真に真美よ。みんな大喜びじゃ。

 今度は琵琶湖や富士五湖の方にも立ち寄って欲しいとリクエストが出たぞ」

竜神様方、琵琶湖と富士五湖にも必ず顔を出させて頂きます。

 いつもこの国をお守り頂きありがとうございます」

「うん、それはそうと真美、お前に話しておきたいことがあるがいいか?」

「はい、シシトー神様からお聞きになったのですか?」

「そうじゃ、シシトー神様から真美、お前の血筋について聞かれたのじゃ。

 それでシシトー神様はそれをお前に伝えたのじゃな」

「はい、何のことかわからないので不安なのですが・・・」

「お前の魂に潜んでいる力のついてじゃ」

「シシトー神様は、遼真様には凄い力をお与えになったのですが、

 私の身体はその力を受け付けないとかおっしゃられて困惑しています」

「そうだろうな。お前も遼真と共に戦う力が欲しかろうな」

「はい、私は今すぐにでももっともっと強くなりたいのです」

「真美、そんなに焦らなくてもいいよ。僕がいるから大丈夫だよ」

「遼真様、ありがとうございます。ですが私の願いは変わりません」

「真美、わかった。

 お前の身体には『白蛇の精』の血が流れている」

「白蛇の精?」

「おお、元は我ら龍族と同じ系統の血筋であったが、途中から分かれた。

 我らが人界の中で力を発揮する一族であるならば、

 白蛇族は神様の命により人界と魔界の間に棲み、

 魔界から人界への魔族の侵入を防いでいる一族じゃ」

「人界と魔界の間・・・」

「お前と初めて会った時からワシはお前の身体に潜む血には気がついておった。

 我々龍族も白蛇族も寿命は長いため、時折人里に降りてたまに子を為すのじゃ。

 お前はその血脈を引き継いでおるようじゃ。

 お前もその魔眼を持って生まれたであろう?

 魔物や悪霊がお前に近寄れない力を持つ目が白蛇の精の血筋の証拠じゃ」

「白蛇の血筋・・・私の身体にはそのような血が・・・」

「白蛇の精は、魔界の生き物、魔族の必要な力の源である瘴気を吸い込む。

 魔族の力を奪う力があるのじゃ。その身体にある白き鱗が吸い取るのじゃ」

「魔を吸い取る?・・・確か・・・」

「そう、お前が前の妖怪との戦いで使った吸魔石じゃ。

 そんな形をしておったじゃろ?それが白蛇の鱗石じゃ」

「あの石が・・・白蛇の精の鱗?・・・」

「そう、お前に相性が良かったはずだぞ」

竜神様、では私はその『白蛇の精』の力をいつ使える様になるのですか?」

「それはお前、いやお前の身体に潜む血しか知らないとしか言えない。

 ワシも過去にその血筋の女と何度も会ってはいるが、

 その力を顕現させた者を見た記憶がないのじゃ。

 何?・・・琵琶湖の・・・ふんふん・・・おお、そうか。

 真美、過去、歴史で言うなら縄文時代に顕現した者がいたそうな。

 当時隣の大陸は人族と魔族が一緒に棲んで居り瘴気に溢れていた。

 その大陸からこの平和を愛する島の人間を争わせようと魔族が攻めて来た時に

 この島の神々やわしら龍族や白蛇族など多くの神の眷属が魔族を撃退した。

 そして神が当時あった地獄の底の世界に並行して

 更に強い結界に囲まれた世界『魔界』を作り人界と分けさせた。

 その魔界と人界の狭間を守る門番として白蛇の精が神様の命でついたらしいぞ」

「そんな昔なのですか・・・

 でも門番がいるのになぜ魔界から出てきたのでしょうか」

「どうやら最近と言ってもだいぶ前から人界で濃い瘴気の発生事例が多いらしくて、

 魔界との境の結界の様々な場所に小さな穴が開いて一瞬繋がることがあるらしい。

 その穴は小さい穴だからそれほど大きな魔物は出ていないそうなのだがな」

「小さいと言っても魔物ですよね?」

「そうじゃ、人間には彼らを殺すことは出来ない。

 ただ奴らの力の源となる瘴気を無くしてしまえば簡単に封印できるはずだぞ」

ここで時間軸は現在へ戻る。

部屋の奥に立つボスと思われる黒い怪人は

「そうだ、いいことを思いついた。

 このお嬢が守ろうとしている奴らに俺の手の者を憑かせて襲わせるか」

ボスの手から小さな影が走り出て、彼女たちへ向かう。

「?!・・・そんなことはさせないわ」

真美は『護身陣』を発動させて真奈美達を包む様に広く球状に張った。

「「「!!!」」」

小さい黒い影達がいくら齧りついてもその『護身陣』を突破することは出来なかった。

真美は胸に入れている『退魔呪札』を食器の上に置き、呪文を唱える。

『退魔札』が白く輝き食器全体へと広がっていく。

そして魔物に憑依され操られて襲って来る人間へ鋲として投げた。

『退魔呪札』の力で、憑依されて操られている人間の魔成分は浄化されて倒れていく。

しかし倒しても倒してもそれらは何度も憑依して襲ってくる。

真美は憑依された人間を傷つけることも出来ず防戦一方だった。

だが、まだ手元には多くの食器もあるし時間を稼ぐことは出来た。

その間に

『遼真様へ連絡出来たら・・・』

『遼真様が私と連絡できないことに気がついてくれれば・・・』と祈った。

「ほう、お嬢というのは間違いだったな。女、何者だ」

「お前にそれを話す必要はないわ。お前は魔界へ帰りなさい」

「ふん、たかが人間の分際で何を言ってる?

 その結界がどこまで強いのか試してみようか」

「?!・・・そんな・・・くっ・・・お前なんかに負けないわ」

「ほう、なかなかやるな。こうなればお前達、我に戻れ」

男達にも憑いていた部屋中に居る無数の黒い小さな影が怪人へ集まっていく。

彼らが憑いていた男達は離れるとその場でバタバタと倒れていく。

そして怪人の身体はみるみるうちに大きく膨れ上がって来る。

魔人の身体の内から徐々に強くなる力が感じられる。

『このまま守るだけではいつかこの護身陣を破られてしまう』と真美は考えた。

そこで怪人の身体へ全ての黒い小さな影が入り込んだ瞬間を狙って

『自縛印』を唱えて怪人の周りに逆三角形の白い印を張った。

「?!女、何をした。

 う、動けない・・・。

 小癪な女め。お前達、あいつらを襲え」

倒れていた男達は、目を覚ますと手に武器を持ってノロノロと歩いていく。

『護身陣』と『自縛印』の二つを張るのは大変な集中力が要った。

ただこの二つの力は生身の人間には効かない。

あの男達が真奈美達を襲うことを阻止できなかった。

真美が一人で戦っているその頃、遼真は突然嫌な予感に襲われた。

いつもは無意識に感じている真美の気配が

都内から全く消えてしまったことに気がついたのだ。

心配になって急いで真美へテレパシーを送っても通じない。

『真美、真美、どうした。どこにいる?何があった?』

キインとクインに聞いても二匹とも真美の場所がわからず困惑している。

物理的距離が無関係の霊獣がその場所を感知できない場合には

霊的生物によりこの世界の中で

強い結界が張られている世界に閉じ込められている可能性が高かった。

従って都内にいるはずの真美は、遼真や霊獣たちから観えない場所に居ることとなる。

遼真は急いで丹波篠山にある獅子刀神社の社務所の中で

護摩を焚きながら都内の霊的に観えない場所を探った。

都内は広くなかなかその場所を特定することは出来なかった。

霊的に観えない場所を探る行為には、

何の伝手も無い場所を一つ一つ探り続けるため非常に力と根気が必要だった。

都内に遼真が観えない場所は数か所あるが、一か所だけ通常では無い場所があった。

その場所は「新宿」にあるビルだった。