はっちゃんZのブログ小説

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送霊師ものがたり

この物語は特殊能力を持つスラリとした男子大学生と可愛い女子高校生が主人公となっています。この二人は現実のこの世界へ影響を及ぼしている異なる波長の世界に生きる生物(霊魂、悪霊、悪魔など)と戦って解決していきます。
時に霊魂の存在を信じていない警視庁迷宮事件係(通称038(おみや)課)の二人の刑事とタッグを組んだり、またある事情からこの刑事二人に知られない様に行動して事件を解決していきます。この物語の主人公は、小生の他の作品である『武闘派なのに、実は超能力探偵の物語』の「妖?行方不明者を探せ」の章に出てきた二人です。

主な登場人物
桐生遼真(きりゅう りょうま)
桐生一族で桐生 翔の従兄弟。20歳。都内有名私立大学3年生。身長178センチ、体重70キロ。淡いダークグレイの眼鏡を掛けており、鼻筋の通った顔で人を惹きつける切れ長の眼で金色の輪郭の暗褐色の瞳を持つ青年両親が狐派の人間で多くの異能を持つ。霊を霊界へ送る力(金環力)を持つ。

桐生真美(きりゅう まみ)
桐生一族で17歳、都内有名私立女子高校2年生。身長163センチ、長い黒髪をシュシュでまとめている。普段はややブルーがかったレンズの眼鏡をかけており、丸顔に真っ黒の長い髪、やや厚めで真っ赤な唇が目立つ。猫のような丸い眼を持ち銀色の輪郭の深い暗赤色の瞳を持つ女性。両親が狐派の人間で多くの異能を持つ。霊を自縛させる力(銀環力)を持つ。

桐生夢花(きりゅう ゆめか)
桐生一族で15歳、都内有名私立女子中学3年生。真美を”お姉さま”と慕う。魂や霊魂の記憶を観る力を持つ。

新宿桐生探偵事務所 
桐生翔:所長、遼真の兄貴分、桐生一族の次期頭首候補。
    ※私の他作品『武闘派なのに、実は超能力探偵の物語』の主人公。
館林百合:翔の許嫁、館林一族のお姫様、現在は探偵事務所事務員。

警視庁38課(迷宮事件係、通称038(おみや)課)刑事 
宮尾徳蔵警部:翔と仲の良い都倉警部と同期でたまに一緒に酒を飲んでいる。
小橋光晴刑事:格闘のプロのプロレスラーさえも失神させた経歴を持つ。

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

話の大筋に全く変更はありませんが、18歳未満が閲覧できないため、こちらとは性描写部分を変えています。

<もくじ>

第1章:記憶喪失の男

1.新生活

2.

3.

4.

5.

6.

7.

8.

9.

10.

11.

12.

 

さざなみにゆられて-北海道編-

小説期間:2000年平成12年4月1日~

あらすじ:

さざなみにゆられて-山陰編-の続編です。

山陰地方で生まれた美波は写真集で見た富良野などの北海道の雄大な風景に憧れ、

自分のことを全く知らない人の街で一人で暮らしてみたいと北海道の大学を受験。

小樽商科大学に無事合格し義父の影響で銀行員を目差す。

両親は米子市にいたが、2000年に義父の勤務する銀行の合併に伴い、

偶然札幌市へ異動となる。

北の都『札幌』を中心に各季節ごとに趣きを変える北海道内の自然や観光名所を含めて

慎一、静香、美波、雄樹、夏姫の生活が始まる。

悲しい事件は起りません。おだやかに時間が過ぎていくだけです。

※20年も経つと観光場所や食べ物も変わっているため、整合性を合わせるためにお店や食べ物は最近のものに変えています。ご容赦下さい。

 

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

話の大筋に全く変更はありませんが、18歳未満が閲覧できないため、こちらとは性描写部分を変えています。

 

登場人物

日下慎一 現在41歳、1999年静香と再婚。山陰支店では預金課で勤務している。

     2000年4月より関西中央銀行と札幌振興銀行が合併し「六花銀行」となる。

     2000年に北海道札幌市へ再度融資課員(支店長代理)として異動。

日下静香 現在39歳、17年前に夫と死別し娘(美波)を一人で育てた。

                  1999年5月に日下慎一と再婚。現在妊娠中。

日下美波 現在19歳、鳥取県米子東高から北海道小樽商科大学へ入学し青春を満喫中。

日下雄樹 2000年夏に生まれる男の子。

日下夏姫 2000年夏に生まれる女の子。

 

もくじ

1.札幌へ              

2.初めての胎動

3.美波の戸惑い           

4.慎一の自覚と不安

5.初出勤             

6.二人でコーヒー

7.美波の誕生日           

8.YOSAKOIソーラン祭り

9.美波、学生生活スタート       

10.独立への一歩

11.母の再婚と強がり娘       

12.サークル

13.ゲレンデ            

14.雪のイベント

15.誕生              

16.子供たちのお披露目

17.お宮参りと育児への参加              

18.銀杏の下で

19.シシャモ祭りとラムジンギスカン    

20.お食い初め

21.美波の憂鬱                                        

22.流氷観光1

23.流氷観光2           

24.流氷観光3

25.桃の節句                                           

26.静香始動            

27.支笏湖とオコタンペ湖1                   

28.支笏湖とオコタンペ湖2     

29.端午の節句                                        

30.美瑛と富良野1         

31.美瑛と富良野2                                  

32.すながわスウィーツロード1   

33.すながわスウィーツロード2            

34.美波、YOSAKOIへ出場1

35.美波、YOSAKOIへ出場2   

36.子供達の誕生日

37.函館港まつりへ1-地球岬-        

38.函館港まつり2-森駅-

39.函館港まつり3-ホテルにて-     

40.函館港まつり4-花火大会-

41.函館港まつり5-ホテルの朝食-   

42.ねぶた祭り1-青森へ移動-

43.ねぶた祭り2-青森観光1-          

44.ねぶた祭り3-青森観光2-

45.ねぶた祭り4-祭り本番-       

46.青森から函館へ-竜飛海底駅-

47.函館観光1                     

48.函館観光2

49.函館観光3-恵山岬-         

50.洞爺観光-有珠山・昭和新山-

51.洞爺から札幌-昭和新山牧場-     

52.偶然の再会-望羊中山-

53.美波の恋?           

54.ドライブへの誘い

55.彼とドライブ1-小樽から帯広へ-    

56.彼とドライブ2-幸福駅-

57.彼とドライブ3-然別湖・東雲湖-  

58.秋桜祭り

59.七五三参り            

60.旭山動物園1

61.旭山動物園2                      

 62.クリスマス

63.層雲峡氷瀑祭り                                 

64. 支笏湖氷濤まつり 

65.雪遊びとさっぽろ雪まつり    

66.平岡公園梅まつ

67.童話村たきのうえ芝桜まつり   

68.美波内定のお祝い

69.友人と内定のお祝い       

70.

    

 

さざなみにゆられて-山陰編ー

*あらすじ*

山陰地方の町、米子市で小料理屋「さざなみ」を営む静香・美波親子と

関西生まれの銀行マンの慎一とのふれあいを描く。

山陰地方の豊かな四季の中で三人三様の心の傷が癒される時間を描く。

読者の対象年齢は20歳以上に設定しています。

*登場人物*

後藤静香 小料理屋「さざなみ」の店主。

                  地の食材を美味しく食べさせてくれる店。

     店ではいつも弓浜絣を着ておりおだやかな笑顔の女性。

                  娘と二人暮らし。

後藤美波 静香の娘。高校一年生。明るく人懐こいところがある。

日下慎一 春に米子へ新規開拓を目的に赴任してきた独身の銀行マン。

 

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

話の大筋に全く変更はありませんが、18歳未満が閲覧できないため、こちらとは性描写部分を変えています。

 

*改訂について*

内容は数年単位で徐々に見直しを行っています。

目次の後に(改)となっているものは見直して内容を若干変えています。 

~もくじ~

1.赴任(改)      

2.「さざなみ」初来店 (改)

3.秀峰大山へ(改)   

4.静香のまなざし、美波のまなざし(改)

5.面影(改)             

6.追憶1(改)

7.追憶2(改)            

8.美波の秘密

9.がいな祭りと境港         

10.がいな大花火大会

11.美波、秋の県大会新人選へ出場  

12.帰途の二人

13.とまどい            

14.師走、三人で

15.帰省、遠い記憶         

16.初詣

17.移り変わる記憶         

18.桜街道

19.二人で出雲へ          

20.母の再婚

21.彼との距離           

22.浴衣1

22.浴衣2             

24.突然の辞令

25.それぞれの思い         

26.いつもの音

27.美波のがまん          

28.慎一の約束、静香の願い

29.異動の朝            

30.湯呑

31.壊れた携帯           

32.霧と痛みの世界

33.間違い電話           

34.幸恵の疑問

35.静香親子、神戸へ        

36.春の息吹

37.再赴任             

38.再び『さざなみ』へ

39.美波の受験           

40.美波の言葉

41.旅立ちの日           

42.広すぎる家

43.最初の夜            

44.相性

45.新婚旅行、娘と1        

46.新婚旅行、娘と2   

47.業界再編への動き、そして

『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語

あらすじ

桐生 翔(きりゅうしょう)は新宿の片隅で私立探偵業を営む。困った人を助けたいと思う正義感あふれる若い探偵が、この小さな探偵社を訪れるクライアントから持ち込まれるさまざまな依頼を真摯に解決していく。

ある日突然超能力(テレポーテーション)に目覚めるが、本人もその能力をあまり信用しておらず発現頻度も曖昧で使い方もよくわかっていないまま物語は進んでいく。

翔の高い格闘技術と最新探偵道具を使い事件の核心を掴み解決していく姿と恋人百合とのラブラブな場面を楽しんで欲しい探偵小説。 

尚、この小説は「小説家になろう ミッドナイトノベル」https://syosetu.com/site/about/ でも同じ作者名にて掲載しています。

そちらでは話の大筋は全く変わりませんが、18歳未満は閲覧が不可能なためこちらとは性描写の内容を変えています。

 

~もくじ~

1.絶体絶命のはずなのに?      

2.翔、帰還?! 

3.京(狂)一郎、見参!       

4.『葉山館林研究所』到着 

5.いつ出るの?超能力!                      

6.葉山館林邸1

7.葉山館林邸2                          

8.テロ教団から都民を救え!1

9.テロ教団から都民を救え!2     

10.テロ教団から都民を救え!3

11.「目黒館林研究所」完成       

12.臓器売買組織を壊滅せよ

13.ストーカー事件を解決せよ!1 

14.ストーカー事件を解決せよ!2

15.ストーカー事件を解決せよ!3 

16.ストーカー事件を解決せよ!4

17.百合との出会い1                     

18.百合との出会い2

19.百合との出会い3           

20.百合との出会い4

21.幼い兄妹を救え1                           

22.幼い兄妹を救え2

23.幼い兄妹を救え3          

24.幼い兄妹を救え4

25.幼い兄妹を救え5       

26.翔とミーアと百合1

27.翔とミーアと百合2                      

28.局アナ盗撮事件を解明せよ1

29.局アナ盗撮事件を解明せよ2  

30.局アナ盗撮事件を解明せよ3

31.局アナ盗撮事件を解明せよ4  

32.局アナ盗撮事件を解明せよ5

33.未知の物質は?        

34.桐生事務所ビル改築

35.オレオレ詐欺団を壊滅せよ1      

36.オレオレ詐欺団を壊滅せよ2

37.オレオレ詐欺団を壊滅せよ3     

38.オレオレ詐欺団を壊滅せよ4

39.オレオレ詐欺団を壊滅せよ5  

40.お化けアパートの怪1

41.お化けアパートの怪2             

42.お化けアパートの怪3

43.お化けアパートの怪4             

44.お化けアパートの怪5 

45.お化けアパートの怪6     

46.初めてのくちづけ

47.百合、実家で相談する     

48.翔、久々に実家へ帰る1

49.翔、久々に実家へ帰る2    

50.百合、初めて桐生家へ

51.翔、初めて葉山館林家へ1   

52.翔、初めて葉山館林家へ2

53.翔、初めて葉山館林家へ3   

54.翔、初めて葉山館林家へ4

55.新宿探偵事務所スタート1   

56.新宿探偵事務所スタート2

57.新宿探偵事務所スタート3    

58.新宿探偵事務所スタート4

59.逆恨み1            

60.逆恨み2

61.逆恨み3               

62.消された記憶1

63.消された記憶2           

64.消された記憶3

65.怪しいクライアント      

66.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ1

67.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ2 

68.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ3

69.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ4  

70.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ5

71.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ6  

72.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ7

73.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ8  

74.痴漢冤罪ビジネスの闇を照らせ9

75.遺族の恨みは晴れるのか1     

76.遺族の恨みは晴れるのか2

77.遺族の恨みは晴れるのか3             

78.遺族の恨みは晴れるのか4

79.遺族の恨みは晴れるのか5             

80.遺族の恨みは晴れるのか6

81.遺族の恨みは晴れるのか7              

82.遺族の恨みは晴れるのか8

83.遺族の恨みは晴れるのか9             

84.遺族の恨みは晴れるのか10

85.遺族の恨みは晴れるのか11           

86.遺族の恨みは晴れるのか12

87.遺族の恨みは晴れるのか13           

88.遺族の恨みは晴れるのか14

89.遺族の恨みは晴れるのか15            

90.遺族の恨みは晴れるのか16

91.遺族の恨みは晴れるのか17    

外伝1

92.特訓1 (浅間別荘編1)          

93.特訓2(浅間別荘編2)                   

94.特訓3(浅間別荘編3)       

95.特訓4(浅間別荘編4)   

96.特訓5(浅間別荘編5)                       

97.特訓6(浅間別荘編6) 

98.特訓7(浅間別荘編7)                       

99.特訓8(葉山編1)        

100.特訓9(葉山編2)                      

101.特訓10(葉山編3)                   

102.特訓11(葉山編4)                    

103.妖?行方不明者を探せ1       

104.妖?行方不明者を探せ2             

105.妖?行方不明者を探せ3          

106.妖?行方不明者を探せ4             

107.妖?行方不明者を探せ5            

108.妖?行方不明者を探せ6             

109.妖?行方不明者を探せ7  

110.妖?行方不明者を探せ8             

111.妖?行方不明者を探せ9       

112.妖?行方不明者を探せ10           

113.妖?行方不明者を探せ11  

114.首都を防衛せよ1                     

115.首都を防衛せよ2       

116.首都を防衛せよ                      

117.首都を防衛せよ4      

118.首都を防衛せよ5                      

119.首都を防衛せよ6   

120.首都を防衛せよ7                      

121.首都を防衛せよ8   

122.首都を防衛せよ9                      

123.都を防衛せよ10     

124.首都を防衛せよ11

125. 学園を守れ1        

126.学園を守れ2

127. 学園を守れ3        

128.学園を守れ4

129. 学園を守れ5        

130.学園を守れ6

131.新たな旅立ち‐龍鱗一族の誕生‐

 

『武闘派!』なのに、実は超能力探偵の物語<外伝1>

百合との婚約編 

<この物語の位置>

 この物語は「遺族の恨みは晴れるのか事件」と「特訓」の章との間に位置する物語で時間軸的には両章の物語の3年前に位置します。恋人の百合との関係が深くなり今後にも繋がる部分ですので外伝として作成しました。

ただ料理に関しての記述は「特訓」部分と重なる部分もあるため「特訓」部分の編集を実施予定です。その部分はご容赦下さい。

 

百合との婚約1

百合との婚約2

百合との婚約3

百合との婚約4

百合との婚約5

百合との婚約6

 

1.新生活(第1章:記憶喪失の男)

「うん、お母さん、わかったよ。きちんとご飯作るから心配しないで。
 うん、うん、わかってる。変な男には気を付けるから。
 わたしもう大学生だよ。もう大人なんだから心配しないで。
 まあね、確かにまだ子供な所もあるけどがんばるから。
 こんなに安く良い部屋を借りられて良かった。
 そんなに心配なら今度おかあちゃんも遊びにおいでよ。
 うん、わかった。待ってるよ。
 じゃあね、これからも色々と片付けあるからじゃあね」
琴美は札幌に住む母親の理恵からの電話を切った。

今年の春から東京都内の私立女子大に入学することになりこの部屋を借りた。
東京はどこも家賃が高くて途方に暮れていたところ、
偶然小さな不動産屋を見かけて何気なく入り
家賃の希望を話したところ、この部屋を紹介された。
この家賃は一年間だけという条件の
格安の掘り出し物だとの物件で駅にもスーパーも近い部屋で相場の半分だった。

ふと気になったのはこの部屋を紹介してもらった時、
不動産屋の社員が部屋に入ってすぐに、
なぜか表情が硬くなり部屋中を見回している事だった。
「どうかしましたか?」
「いえ、今日は肌寒いですね」
「そうですか?結構暖かいと思いますが・・・」
札幌育ちの琴美にとっては、東京は暖かく全く寒さは感じなかった。
窓から明るい日差しが差し込む部屋は素敵だった。
東京の人はこれくらいの温度を寒く感じるのだと不思議に思ったものだった。

大学でも新しい友達が出来て、授業も一緒で席も隣同士で受けている。
友人の景子は、神戸の生まれでおしゃれに敏感な女の子だった。
札幌っ子の琴美も東京のおしゃれに敏感な友達が多かった。
景子の部屋は分譲マンションの1LDKで結構なお嬢様のようだった。
景子が部屋でタコ焼きパーティ(タコパ―)をするというので
夜も遅くなったためお泊りをしたが、
分譲マンションで壁が厚いためなのか物音もせず静かだった。
琴美の部屋は、壁の薄い賃貸マンションのせいか
たまに夜中に「トントン」とDIYの作業をしている様な音の響く事があった。
右隣のOLのお姉さんに偶然会った時、その事を話すと
「私もここに越してきてすぐなんだけど、あの音には困ってるの。
 本当に誰が夜中にあんな音を立ててるのかしら。
 今度、不動産屋へ文句を言ってやろうと思ってるの。
 寝不足はお肌への天敵なのに・・・」
左隣の中年の女性へ挨拶した時、
「ねえ、夜中に隣で変な音を立てないでくれる?
 うるさくて眠れないわ。
 あなたの前の人もそうだったわ。
 だけど自分じゃないって言い張ってたけど・・・
 えっ?
 あなたじゃない?
 あなたも困ってる?
 そう?
 じゃあ・・・誰・・・かしらねえ」

大学生生活で忙しく楽しい毎日は瞬く間に過ぎ春の連休週間が訪れた。
さっそく母親が娘に会いたくて札幌から飛んできた。
夫のDVが酷いため、
生まれたばかりの琴美を心配し離婚した母親はシングルマザーとなり、
乳飲み子の琴美を育てながら特技の洋裁で寝る間も惜しんで働いた。
その結果、今ではブティックを経営するまで成功したのだった。
琴美も将来は洋服デザイナーになりたくて東京へ出てきたのだった。
「ピンポン」
「はーい」
「いらっしゃい、お母さん」
「ふー、やっと着いたわ」
「羽田から結構乗り継いで疲れたでしょ?」
「まあね、でもたまに東京には来てるから慣れてるわ」
「そうだったね」
「それはそうとあなた、キチンとご飯食べてる?よく眠ってる?」
「うん、キチンと食べて眠ってるよ」

母親の理恵は、久しぶりに見た琴美の顔色が悪く、
目の下に隈ができている事に気がついた。
「そう?顔色が少し悪いけど」
「大学の授業も忙しくなってきてるし少し疲れてるのかもね。
 でも大丈夫。せっかく夢の東京に出て来たんだから」
「そうだね。あまり無理をするんじゃないよ」
「うん、わかってる」
「それはそうと、この部屋はどう?」
「うん、まあまあいいよ」
「ねえ、あなたは何も感じない?」
「何を?」
「うーん、何も今まで変な事は無かった?」
「別に無かったよ。お母さん、変だよ。
 まあ札幌からだから疲れてるのね。お茶でも入れるね」
台所へ立った娘の後ろ姿を見ながら母親の理恵は部屋を何度も見回した。

娘にも誰にも言ってはいないが、
理恵には昔から霊感があり見えない世界が見えることがあった。
直接的に娘に危害が加えられる悪意ではないが、何者かが潜んでいる気配がわかった。
それ以上に娘の体調の変化も気になった。
「ねえ、琴美、お母さんと一緒に外に出ない?」
「うん、近所を見てみる?いいよ。今晩のご飯の準備もあるしね」
「そうね」
二人はお茶を飲んでしばらくゆっくりとして外へ出た。
部屋の中では聞かれる可能性が高いからだった。

「そうそう、琴美、引っ越した後、神社とかお参りしたの?」
「あっ、色々と忙しくて忘れてた。
 それに近くにあるからいつでも行けると思って忘れてた」
「まあ、じゃあ、とりあえず今から行きましょう」
「そうね。お母さんと一緒で良かった」
「ふふふ、やっぱり、琴美はまだまだね」
「へへ、ごめんなさい」
「その神社はどこなの?」
「近くだよ。こっち」

その神社は、目黒にあって皇居の裏鬼門の方向になり
江戸が出来る前から関東の守護として
安倍清明系列の京都と関係の深い由緒ある神社だった。
偶然にもこの神社は、
この物語の主人公の桐生遼真の実家であった。
母娘は手水舎で心身を清め、拝殿前にて手を合わせた。
帰りに社務所に寄り「御札」などを見た。
理恵は「学業守」と「健康守」を購入した。

その時、社務所で巫女をしていた桐生真美は、
隣にいる娘さんの身体に黒い霧の様な物が纏わりついているのが見えた。
それが彼女の生気を吸い取っているように見える。
真美はお守りをこのまま渡すのはいけないと思い、
「少々お待ちください」
と断った上で、急いで遼真の方へ向かった。
真美の顔つきに異変を感じた遼真はその状況を聞き、社務所の窓口で待つ母娘を視た。
遼真はすぐさま、白い人形(ひとがた)へ印を結び、健康守の中へ入れた。

理恵は神社からの帰り道に喫茶店へ入り、ネットで事故物件の検索を始めた。
珈琲とオレンジジュースを頼んでる内に見つかった。
やはり琴美のマンション、

それも琴美の部屋で不審な死体の見つかった事件が発生していた。
「琴美、おかしいと思ったらあの部屋は事故物件よ」
「えっ?事故物件って何?」
「ネットで調べると、不審な死体がお前の部屋で見つかってるわ」
「えっ?嘘?」
「だから相場の半分の家賃だったのよ」
「お母さん、どうしよう」
「お前の借りた不動産屋の電話番号を教えて」
理恵が電話を掛けると『もうその電話は使われていない』とアナウンスされている。
コーヒーとジュースを急いで飲んで不動産屋へ行くと閉店していた。
契約書に載ってる大家さんに電話を入れて状況を話すと
大家も『それは借りる時に不動産屋が言ってる筈』と言い張っている。
不動産屋が無くなった今となっては「言った言わない」に意味はなかった。
途方に暮れた理恵の目の前に
神社の付近で偶然見つかった不動産屋「桐生建物」が現れた。
母親の理恵は、現在住んでる娘のマンションの部屋を再度聞くと
やはりネット情報の通りに死体が見つかった部屋だった。
幸いにもこの部屋は
最近ある潰れた不動産屋から物件管理の権利を引き継いだとの事だった。
理恵の話から桐生建物は、同じ業界としてのお詫びとして
同じマンションで階数の異なる部屋を同じ家賃で賃貸契約を進めた。
引越も同じグループの桐生運輸で何と翌日にすることとなった。
そして、その夜、桐生一族から
桐生遼真へ除霊の依頼があった。

(つづく)

69.友人と内定のお祝い

父の勤務する六花銀行への内定が無事決まった美波は、急いで彼に電話を入れた。
彼は非常に喜んでくれて、『ぜひともお祝いをしたい』と言ってくれている。
ただ彼はこの4月から新しい部署への異動となり、
初めて一緒になった同僚や新しい得意先ばかりで毎日が忙しく、
土日は土日で実家の果物などの収穫や加工の手伝いもあって、
なかなか美波と会えない日々が続いている。
まあ銀行に限らず会社は、年度始めと終わりに忙しいのは当然で仕方なかった。
そんな時、
美波の友人の芳賀さんも札幌市内にある大通り公園に面する場所に
支店のある大手製薬会社の業務系社員として内定が決まった。
他の友人たちも順調に内定が決まってきている。
二人の内定のお祝いとして、
芳賀さんと一緒に札幌市内へ遊びに行こうということになった。

小樽駅を10時頃に出て、札幌駅で降りて、天気がいいので大通り駅まで歩いた。
本州ではもう梅雨に入って、温度も湿気の高い毎日が続いているようだ。
札幌でも少しの期間は“蝦夷梅雨”というものはあるが、たとえ雨が降っても
美波も家族も好む北海道の特徴の一つである、
“サラリとした肌合いの気候”で過ごしやすかった。
美波の生まれた故郷の鳥取県米子市は、山陰地方で中国山地の影響もあり、
太平洋から北上してくる梅雨前線の雨が、中国山地に南側の瀬戸内海側へ落ちるため、
四国地方や瀬戸内海地方の山陽地方と違い、フェーン現象の様になり、
山陰地方は梅雨の時期に関しては雨が少なく晴れている日が多い。
また、夏の温度も四国地方や瀬戸内海地方の山陽地方と比べ最高温度も1-2度低い。
逆に梅雨以外の日は、年間を通じて湿気が多く、各家庭に除湿器は欠かせない気候だった。
美波は懐かし気に高校生まで過ごした山陰地方に思いを馳せながら、
大通り公園で過ごす多くの人々が、柔らかく明るい日差しの中で
綺麗に整備された咲き誇る花壇やテレビ塔をバックに写真を撮ったり、
生キャラメルやソフトクリームなどを食べているのを見ていた。
二人はテレビ塔を昇って大通り公園を高い場所から見て、
塔のアンテナショップで小物を見て、弟妹のおもちゃを買いこんだ。
二人が喜ぶ、手のひらに乗るサイズの様々な色の動物のぬいぐるみだった。

お昼は少し豪勢にと思い、大通り駅から近い店で値段的にもお手頃な
ガッツリ系なのに美容にも良い『松尾ジンギスカン札幌大通南一条店』にした。
この店は中央区南1条西4丁目16-1南舘ビル1階にあって、昼間から多くの客で賑わっている。
二人は『特上ラムランチセット』を頼んだ。
すぐ卓へ二人前の特上ラムジンギスカン、野菜盛合せ、ライス、味噌汁が運ばれてくる。

このジンギスカン料理に関して、
農林水産省ホームページの『うちの郷土料理』から抜粋すると
歴史・由来・関連行事としては、
大正時代、第一次世界大戦の勃発により、羊毛の輸入が困難になると、国策として、綿羊飼育が奨励された。当時、北海道でも綿羊飼育が盛んとなり、このころから羊肉が食べられるようになったといわれている。第二次世界大戦後、衣料資源の不足によって、日本全国各地で羊毛需要がさらに高まるが、次第に輸入羊毛や化学繊維が国産羊毛に普及すると、北海道内では綿洋飼育から羊肉用の飼育へと変わっていった。「ジンギスカン」は当時の羊肉消費拡大のために根づいた料理といわれている。
ジンギスカン」の発祥は諸説あるが、昭和のはじめごろ、羊肉を食べる習慣のなかった日本人向けに中国料理の「コウヤンロウ/カオヤンロウ(羊の焼肉)」を参考に考案されたなど、いわれている。
いまでは全国的にも有名となり、平成19年(2007年)には「石狩鍋」、「鮭のチャンチャン焼き」とともに、「農山漁村の郷土料理百選農林水産省主催)」に選ばれている
食習の機会としては、
戦後しばらくして、一般家庭まで広がったとされ、現在では、1年を通して各家庭の食卓にも並ぶことが多い。春には花見、夏にはバーベキューなど、家族や友人などで集まる際、屋外でジンギスカンパーティーをすることもある。
飲食方法としては、
羊肉には独特の臭みがあるため、食べ方は生のまま羊肉を焼いてタレにつけて食べる「ジンギスカン」と、あらかじめ醤油ベースなどの特製タレに付け込まれた羊肉を焼く、「味付きのジンギスカン」の2種類がある。
北海道の家庭では、「ジンギスカン用の鍋」を持っていることが多い。ジンギスカン鍋は中央が盛り上がり、焼く部分に溝がある。その形状から、羊肉の肉汁がまわりの野菜に流れ落ちることで味が染み込み、美味しくいただける。一緒に焼く野菜は家庭によってさまざまである。
羊肉は、生後1年未満の子羊の「ラム」と生後2年以上の「マトン」のどちらも食される。「ラム」は、臭みが少ないのが特徴であり、「ラム」と比べて「マトン」の方は多少クセがあり脂が乗っていてしっかりとした味が特徴である。

二人は、熱くなったジンギスカン用鍋の上に厚切りの「特上ラム」を並べ、
周りの溝の部分へキャベツ、玉ねぎ、ニンジン、もやしなどを並べた。
『ジュウジュウ』と美味しそうな焼ける音と匂いが立ち上る。
ジンギスカン用鍋から立ち上る白い煙は、
各テーブルの上に設置された集煙器へ吸われ洋服に匂いが付かない工夫がされている。
ラムは元々脂肪分が少ない肉質で、
特に羊肉の脂肪は、人の体温では溶けず体内へ吸収されないため
高蛋白低脂肪食として非常に健康に良いと言われている。
二人は『こんな豪華なダイエットならいつでもいいね』と笑ってガッツリと食べた。
やがて肉が十分に焼けて、肉汁が野菜へしみ込んだら食べ時でタレに浸けて食べる。
羊独特の香りが鼻腔をくすぐる。
よく考えると少しかわいそうだが、
まだ生まれて1年以内のミルクで育った子羊の柔らかい肉は美味しかった。

丸井今井三越などでウインドーショッピングして、
3時のおやつには、(札幌はスイーツの店が多過ぎて絞ることが難しいのだが)
今回は、大通西3丁目北洋大通センター大通ビッセ1Fにある
「きのとや大通公園店・KINOTOYA Café」にした。
この「きのとや」という洋菓子店は、本店は白石区にあって、
1983年創業の歴史のある店で地元に愛され続ける人気の店である。
創業当初はケーキやシュークリームなどの生菓子が中心だったが、
北海道大学と提携したクッキー「札幌農学校」がヒットし、
それを機会としてその後バームクーヘン・焼きチーズタルトなども作り始めて
それらも人気となり、2014年には東京進出しているという情報がある。
「きのとや大通公園店・KINOTOYA Café」に入ると、
大通り公園側の壁が、
全て大きなガラス窓で解放されており、
明るく暖かい日差しが降り注いでいる。
店内の席は62席もあり、
ひろびろとして多くの老若男女が笑顔でスウィーツを楽しんでいる。
美波たちは、コーヒーと紅茶、
人気ナンバーワンスイーツの『オムパフェ』と『極上牛乳ソフト』を頼んだ。

『オムパフェ』
ふわふわのオムレット生地に、カスタードクリーム・バナナ・ぎゅうひ・粒餡を詰めこんで、その上にたっぷりの生クリームとイチゴ・キウイ・ミカンなど6種のフルーツがたっぷりと飾られたボリューム満点のスイーツ。518円の価格の割には豪華で非常にお得なケーキだった。

『極上牛乳ソフト』 
席に運ばれて来た時、その巻かれたソフトの高さに二人ともびっくり。
手に持つとずっしりと感じる重量感で、クリームをスプーンで取って口の中に入れると『モッチモチ』の食感で通常のソフトクリームのようにさらっとなくならず、ゆっくりと溶けて行く感じで、さすが北海道と笑みがこぼれるほどの、今までのソフトクリームの概念を覆すようなミルクの濃厚さと甘すぎないクリームが舌を直撃する。コーン部分もこんがり焼かれたカリカリの薄いワッフル生地で美味しかった。価格も388円とこれも非常にお得感がある。

「キャアー、甘くておいしい・・・」
ジンギスカンでダイエットした意味が無かったね」と二人は大笑いした。
二人は、スイーツのカロリー消費を考えて実家まで歩いた。
家には二人が感激した『オムパフェ』をお土産にした。
そして夜まで弟妹と遊んで晩御飯も食べて小樽まで車で送ってもらったのだった。

68.美波内定のお祝い

先週の滝ノ上芝ざくら公園で楽しんだ後に

美波から内定の嬉しい話があったので今週土曜日はお祝いの予定だった。

最近、静香の初めての投資がうまくいっており、

持っていた通信関係の会社が高くなって株式分割をした上に、

すぐに株価が2倍へ育ったため、半分を利確し全てを恩株にした。

静香はその儲けで美波への就職内定祝いの物でも買おうと思い立った。

子供を抱っこして夫婦はデパートへ行き、Gショックの次の時計を探した。

夫婦も持っている好きなメーカーで

若い女性には可愛くて見た目が落ち着いているエルメスの時計を選んだ。

 

いよいよ土曜日の夕方となった。

美波も昼前に帰ってきて嬉しそうに子供達と遊んでいる。

お祝いの店や内容を色々と考えたが、

高級レストランなどは小さな子供がいる家族連れには不向きだったので、

個室でゆっくりとできて子供達が動いても気にならない店を選んだ。

店はススキの繁華街にある「すき焼 三光舎」にした。

家でもすき焼きはするのだが、

一度商売物のすき焼きを食べてみたいと思ったし、

以前、米子に居た時に3人ですき焼きを食べたことを思い出したのだった。

あの時は、美波も米子東高校生で多感で不安定な年齢の割には、しっかりした女の子だったことを慎一は昨日のように思い出していた。

 

「すき焼 三光舎」は、

北海道旭川市が発祥で、大正六年に創業している歴史あるお店である。

お店の特徴としては、

旨さにこだわった割り下に、

創業時から受け継がれる『秘伝のみそ』を使った伝統の味付けと

店主自らの目で厳選して仕入れた上質な

口に入れた瞬間にとろけてしまうような柔らかさの

品質と味にこだわり厳選した黒毛和牛ロース肉のみを使用した「すき焼」、

自慢のたれが魅力の「しゃぶしゃぶ」、

極上の「ステーキ」などを初めとして、

大型ワインセラーを設置し、当店のソムリエールが厳選した料理に合うワインを

豊富に取り揃えていることである。

それ以上に、個室などゆったりとくつろげる空間のある事が家族連れには人気だった。

お部屋に案内されると子供達も喜んで走っていたが、

やがて料理が運ばれてくるといつもとは違う雰囲気を感じ取って

慎一の膝へ雄樹が、美波の膝に夏姫が座っている。

 

コース料理とは別に一品料理として

子供達用に「自家製カニシュウマイ」と「ホタテバター焼き」を一皿ずつ頼んだ。

「自家製カニシュウマイ」

 取れたてのズワイガニの身をほぐして、みっしりと詰めたカニシュウマイ。

 シュウマイの身がホロホロと口の中でほどけてカニの旨味で一杯になります。

「ホタテバター焼き」

 濃厚な北海道牛乳から作り出されたバターの塩味により、

北海道の海の栄養を全て宿した貝柱の優しい甘さ、

コリコリした歯ごたえが特徴のヒモ部分の美味しさが強調されている一品。

鼻腔を刺激するバターとホタテの香りに手が止まりません。

 

さて『雪コース』の始まりである。

「ホタテと甘海老のカルパッチョ

 大きく育った旬の甘海老とホタテの貝柱のそれぞれ異なる甘さが、北海道の海の豊かさを実感できる贅沢な一品です。

「焼きシャブとアスパラガスのバター焼き」

軽く焼かれたロース肉の焼きシャブ。

薄いがしっかりとした歯ごたえが感じられる肉質。

肉本来が持つ赤身肉の美味しさと脂の甘味が感じられる一品。

アスパラガスのバター焼き

  旬の太いグリーンアスパラガスの鮮烈な緑とバターの塩味で強調される甘味。

  穂先から根元まで一本全てがあり、各部分の食べ比べによる美味さの経験。

「黒毛和牛ローストビーフ

 5ミリほどにカットされながらも柔らかさの失われていない肉質、

しっとりとして真っ赤なレアな赤身の濃い美味さ、

それを引き出す北海道産の赤ワインで作られたソースと

皿に添えられた北海道で自生する山わさびを付けると一層美味しさが引き立ちます。

 

やっと、本日のメイン料理に入るようだ。

部屋のお世話をしてくださる和服姿の中居さんがにこやかに卓に近づいてくる。

中居さんの両手で運んできた大きな皿一面に広げられた、

細かい|脂肪《あぶら》のサシの入った分厚い真っ赤なロース肉が目に入った。

その豪華な肉の皿を見た途端、

今までそれなりに結構食べてきた筈なのに空腹を覚えてしまった自分がいた。

「〝特〟特選黒毛和牛ロースすき焼」

「さあ、皆さん、これからメイン料理のすき焼きに入ります。

 まずは卵をお箸で溶いてくださいね」

卓上にはたっぷりの割り下に『秘伝のみそ』が入っている鉄鍋が置かれた。

『秘伝のみそ』の色は、黒に近い色合いでやはり普通に売っている物ではない。

 

中居さんは、卓上コンロに火を付けて、

長い菜箸でそっとその『秘伝のみそ』を割り下へ溶かしている。

鍋の周りが少し泡立ちブクブクしてきた。

中居さんが熱くなった鉄鍋の割り下の中へ、

長い菜箸で肉を一枚ずつ浸していく。

浸したその一瞬、

温度が下がったのか割り下が静かになるがすぐに泡立ちブクブクし始める。

肉の周りの泡立つ割り下で、

真っ赤なロース肉の色が一気に変わっていく。

すぐに肉は軽く上下をひっくり返された。

肉には、まだ赤い色が残っている、

柔らかさといい、

肉本来の甘さといい、

本当に美味しいその一瞬に

その肉片はすっと持ち上げられ、

各自の卵椀へそっと入れてくれる。

「さあ、皆さん、熱いうちにお召し上がりください」

子供達もじっと見ている。

子供には熱いので冷めてからと思い、

慎一はすぐさま溶き卵を絡めた肉を口に運んだ。

 

最初の一瞬は、溶き卵の黄身の甘さが感じられた。

その甘さの上にすぐさま甘辛いすき焼きの味が広がる。

すぐに歯や舌に触れている、

熱くて分厚いその肉片を噛みしめる。

卵の甘さ、

割り下の甘辛さ、

ロース肉の赤身の美味さと脂肪の甘さ、

それら全てが口の中で一体になっている。

声が出なかった。

目を見張って、中空を見つめている。

ずっと残る口の中の味を楽しんだ。

今まで食べたすき焼きとは次元の異なる味だった。

その後、割り下へ野菜が入れられて肉の味の移った野菜を食べた。

すぐに卵とロース肉を追加し、今度は慎一が中居さんを真似て作った。

本当に美味しかった。

最後の締めで「お食事」として、

ご飯かきしめんか牛しぐれ茶漬けと香の物と言われたので

全員が「牛しぐれ茶漬け」を頼んだが、

せっかく鍋に美味しいタレが残っているのが勿体なくて

追加できしめんを2人前だけ頼んでみんなで分けて食べた。

肉と野菜の味が中までしみ込んだきしめんは最高だった。

「牛しぐれ茶漬け」はというと、

これはきしめんまで食べてすき焼き味に満足した舌を保ったまま

最後にさっぱりとした牛肉のしぐれ煮の茶漬けで、

今日一日だけで様々な牛肉の美味しさを経験できたと確信できるものであった。

それらを食べ終わると、デザートが出た。

子供たちの好きな旬のイチゴとメロンだった。

家族全員満足した夕食で、タクシーで帰ると子供たちを風呂に入れて寝かせた。

 

子供達を寝かせた後、慎一がコーヒーで

「美波スペシャル」と「静香スペシャル」を淹れて三人でゆったりとしていた。

今日の昼にお祝いを買った帰りに、

札幌市中央区西4丁目駅前の「フルーツファクトリー」でタルトを買っている。

子供達を寝かせた後に、ゆっくりと大人だけで食べることを計画していたのだった。

目の前には

『さくらももいちごのフルーツタルト』

 さくらももいちごは高価な徳島県産のイチゴで甘さと酸味のバランスが絶妙で、

一つのタルトの中に4-5個近くは入っている贅沢なフルーツタルト。

『タルトセブン』

 7種類近くのフルーツがたっぷりでカラフルなタルト、季節ごとの美味しさを味わえる。

『ティラミス』

 北海道産マスカルポーネをたっぷり使用したなめらかで口溶けが良くコーヒーにぴったり。

この3つのタルトを3人でシェアしながら、眠っている子供には悪いが

大人だけでお祝いの日の最後のデザートを楽しんだ。

 

静香がそっと慎一へ美波への「内定祝い」を手渡した。

慎一が、美波へ

「美波、内定おめでとう。良かったね。これは少し早いけどお祝いだよ」

「えっ?ありがとう。すごく嬉しい。開けて良い?」

「ええ、どうぞ」

「あっ?この時計、エルメスね?

私もお父さんお母さんと一緒でエルメスって好き」

「せっかくだからお父さんとお母さんが好きな時計にしたよ。

社会人になって今のようなGショックもないからね」

Gショックもお気に入りだからスポーツの時には使うわ」

「まあ、Gショックも気に入ってくれて良かった」

「それはそうと今日のすき焼きはすごかったね。

 すき焼きって元々御馳走だけど、あんな御馳走は初めてだったわ」

「そうよね?あんなすき焼きがあるなんて、お母さんも驚いたもの。

 お父さんが色々と調べていたけど、その甲斐があったわね」

「そうだな。他の店で『いしざき』という店もあったけど、

『三光舎』は、それほど高価ではなく一般的で気安いし、

個室も予約できるし子供達も気を使わなくていいから決めたんだ」

「あなた、正解だったわね。

雄樹も夏姫も大喜びで『すき焼き』ってお風呂で言ってたわよ。

もう『すき焼き』って言う言葉を覚えたみたい。

さすがあなたの子供だわ。食いしん坊さんだわ」

「そうね、お父さんが食いしん坊だと家族みんなが食いしん坊になるね。

 でも、あんな店なら大歓迎だわ。お父さん、またよろしく」

「わかったよ。美波もまた何かおめでたいことをよろしくな」

「わかったわ。雄樹や夏姫の良いことの時にも私を呼んでね。すぐに来るからね」

「ふふふ、昔からお前は食いしん坊だったからねえ」

「ええ、お母さんの娘ですからねえ」

三人は大笑いして今日という日を心から喜んだ。

67.童話村たきのうえ芝桜まつり

5月中旬が近づいてくると街中の家々の花壇にもそろそろ芝桜が咲き始める。

この花は首都圏では山梨県河口湖で開催される「富士芝桜まつり」でも有名だが、

北海道では全道の街中で咲き誇る道民に愛される花である。

 

芝桜とは

学名:Phlox subulata

和名:シバザクラ(芝桜)その他の名前:モスフロックス

科名属名:ハナシノブ科 / フロックス属

形態:多年草

原産地:北アメリ

草丈樹高:20~100cm(茎の長さ)

開花期:4月上旬~5月下旬(開花期間は1~2週間ほど。地域による)

花色紫,ピンク,白,青,複色

特徴:茎は芝のように広がり、春にサクラに似たかわいい花を咲かせます。

    一面に花を咲かせる様子は、花の絨毯のようで圧巻であり、

    常緑で、地面を覆いつくすように密生します。

 

5月の最終土曜日に「童話村たきのうえ芝ざくらまつり」を計画している。

住所は、北海道紋別郡滝上町字滝ノ上市街地4条通2丁目1番地

開催場所は、芝ざくら|滝上《たきのうえ》公園

開催期間は、5月中旬~6月上旬の約1カ月間で

開催規模は、約10万平方メートルにわたる芝桜が一面に咲く

入園料は、大人(高校生以上)500円、小人(小・中学生)250円、小学生未満無料

※芝桜の3分咲きが認められた日(開花宣言)の翌日から入園料有料。

 

当日は遠方への遠征の時と同様に太陽が昇る前に出発する予定だった。

会場の|滝上《たきのうえ》公園までのルートは、

途中まで前回の旭川氷瀑祭りと同じで、そこからは一直線の道筋だった。

静香も前日からお弁当の準備を始めており、

雄樹と夏姫も明日にはドライブと聞いて喜んでいる。

美波からは彼とのデートで一緒には行けないと連絡を受けている。

いよいよ太陽が昇る前にマンションを出発した。

まだ冷たい風の中を走る高速道路から見える街は、

灯りもまばらでまだひっそりとしており静かに眠っている。

しかし徐々に太陽が地平線に近づくたびに空は藍色そして水色へと変わる。

やがて地平線から太陽が昇り始めると

沿道の街に生活の光が灯り始め、人々の一日の始まりだった。

子供達はまだスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。

出発して2時間ほど経ったのでトイレ休憩として

深川市にある「|音江《おとえ》PA」に停まった。

ここは、トイレと自販機というシンプルなPAだが、

トイレは綺麗な木の板の外観で可愛く、

広場にはベンチがあって、その目の前には綺麗な花壇が設置されている。

そこで起き始めた子供達を少し遊ばせて、

新鮮な北海道牛乳や温かいコーヒーを飲みながら休憩した。

次の休憩場所は、「|比布《ぴっぷ》大雪PA」だった。

ここも「|音江《おとえ》PA」と同様の設備だが、

家族で用意した朝ご飯を食べて、

子供にも遊ばせる場所が必要なので

ゆっくりとあまり人の居ないPAを選んでいる。

このPAからは、雄大な大雪連峰全体が見える。

たまに吹く涼しい風が北海道の山々の香りを運び、

原生林の緑にドライブで疲れた目が癒された。

トイレ横の道を進むと「比布大雪展望広場」という公園があり、

そこにはオブジェがあってベンチの脇には花壇がある。

ベンチに座って可愛い花を見ながら家族でサンドイッチやコーヒーを飲んだ。

ここからは少し進んで比布JCTから高速を降りて旭川紋別自動車道へ入る。

比布北ICを越え、江島ICから上川国道を北上し、浮島トンネルを越える。

そこから広がる滝ノ上原野を道なりに進むと滝ノ上市街地に到着する。

 

市街地からは近くの山々に紫色やピンク色の山肌が目に入って来る。

そしてしばらくすると芝桜の甘い香りが街中を包み込んでいる。

この「芝ざくら滝上公園」の一面に咲き誇る芝桜に関して、

その始まりは、昭和32年(1957年)に、「みかん箱一杯」程度の芝桜の苗を

滝上公園の入り口に植えたことからだそうで、

以降約50年間地域の人々が継続して芝桜を育成してきたらしい。

それが今では10万平方メートルの大群落になったそうだ。

北海道は古代から残されている自然も素晴らしいが、

人の住む町は全て人が手作りで作って来たと言う素晴らしさがある。

どこの町に行ってもそこに住む人々がコツコツと作り上げてきた趣がある。

そして、そのように感じるたびに

厳しい自然と向き合い精一杯生きてきた先人達の努力には頭が下がる思いだった。

 

駐車場に車を停めると荷物を持って公園へ向かう。

子供たちはすでに景色に気を取られており、

活発な雄樹はどこに走り出すかわからないため、

静香が雄樹と手を繋いで歩いている。

大人しい夏姫は片手に荷物を持った慎一と手を繋いで歩いている。

車窓から見た山肌も立派だったが、

公園へ入るとそこら一帯が芝桜の甘い香りに包まれる。

山肌に作られた遊歩道を歩く。

遊歩道の両側には無数に芝桜の小さな可愛い花弁が咲き誇っている。

 

しばらく歩くと高い場所に多くの人が並んでいるのが見えた。

『何があるのだろうか?』と近づいていくと、

そこには「幸せの鐘」が設置されており、

みんなが笑顔で鐘を鳴らしたり

その鐘をバックに写真を撮ったりしている。

その場所は、園内で一番高い展望スポットで

そこから|滝上《たきのうえ》の街を見下ろすと

街に点在する家の屋根の色が、

童話に出て来る家の屋根の様に可愛い赤色や青色の瓦が使われている。

無数の小さな花弁の芝桜に囲まれた童話に出て来る様な穏やかな村。

慎一は童話村という意味が初めて分かったのだった。

 

今日は、週末のためイベントとして「おまつり広場ステージ」で

YOSAKOIソーランの演舞が開かれている。

大音響で派手な掛け声に踊りで会場が熱気に溢れている。

別の週末には音楽ライブやゲーム大会など、さまざまな催しが実施されているらしい。

ふと空を見上げるとヘリコプターが飛んでいる。

公園の全景を空から楽しむ「ヘリコプター空中散歩」も開催されているらしい。

ネットで調べるとパノラマと芝ざくらのコントラストを空から眺めるのは、この時期だけの特別な体験だと説明されている。

 

歩き疲れたので山から下りて、静香が用意したおにぎりの昼食を食べて、ショッキングピンクの「芝ざくらソフトクリームの幟」のある売店でソフトクリームを買った。濃い北海道牛乳が使われたピンク色の芝桜風味のソフトクリームで、一口含むと芝桜の風味が口一杯に広がり、芝桜特有の甘い香りが鼻腔へ抜けていく。それ以外に「芝ざくら蒸しケーキ」も食べてゆっくりとする。子供達はお腹一杯になって、お店の周りを走り回っている。

午後2時頃となり、子供達も少し眠くなってきている。

急いで車に乗り込むと「道の駅 香りの里たきのうえ」へ向かう。

滝上町の特産品は、ジャガイモ・かぼちゃ・スイートコーン・メロン・七面鳥だった。

この道の駅は、童話の世界に出てきそうな外観の建物で

ハーブの香りに包まれて木工芸品の展示販売コーナーやたくさんのお土産が売られている。滝上町ゆるキャラ「ピコロちゃん」の顔ハメパネルが設置されている。

娘の美波へのお土産にサクサク食感の「芝桜の彩スィートクッキー」を

家でのお菓子に「桜クッキー」と桜の葉が入った薄皮饅頭「桜の散歩道」を

家でのお酒のおつまみに、ミント風味の「スティックチーズケーキ」を

最後に北海道特有で特徴のある味と香りの「行者にんにく酢」を料理用に買った。

帰り道は朝に来た道の逆回りで、

眠る子供達を見ながら夫婦で色々と話しながらゆっくりと札幌への道を戻った。

翌週の月曜日に美波からうれしい連絡があった。

なんと美波が就職活動をしていた慎一の働く六花銀行への就職が内定したのだった。

美波も大喜びで彼も喜んでくれているらしい。

就職が決まれば後は、勉強と学生生活の締めくくりの一年となる。

66.平岡公園梅まつり

北海道もやっと厳しい冬を越えて、待ち遠しい春がやってきた。
本州の梅は2月に咲くが、北海道は梅も桜も4月下旬から咲き乱れる。
5月の連休は、「平岡公園梅まつり」へ行った。
この公園は、札幌市清田区にあり札幌中心部から車で約30分の場所で住宅街の中にポツンとあって駐車場も広く行きやすい場所にあった。その平岡公園を代表するのが、6.5ヘクタールの敷地に約1200本植栽されている梅林だが、その他広場や遊具の公園があって、一日中子供を遊ばせるにはちょうど良かった。
特に梅まつりには近所も含めて札幌市内から多くの人が昼夜を分かたず訪れている。
マンションを午後に出発して平岡公園の東地区の遊具や広間で子供達と遊び、暗くなってからも観梅する事にしている。
静香が3時のおやつにと子供達の好きなドーナツと手巻きクレープを作っている。
昼ご飯を食べてマンションを出発した。
1番駐車場には既に多くの車が停められており、バス停から来ている人々も多かった。
先ずは「梅の香橋」を渡り、梅林を散策する。
白梅や紅梅が咲き乱れ、強い梅の香りに包まれた。
子供達も梅の花びらが咲き誇る綺麗な風景に目を奪われている。
遊歩道を道なりに歩いて行くと「花の広場」に着き「梅園橋」を渡ると東地区に入る。
遊具広場や多目的広場で子供達と遊ぶ。
静香は公園の片隅にピクニック用にシートを敷いて座っている。
遊具広場にある、高さ10mのロープ製遊具ネットクライミング
子供達だけでなく中学生にもとても人気で
見た途端、雄樹はすぐさま走り寄りそろそろとロープを登り始めた。
夏姫は慎一の手を引っ張り一緒にと誘ってくる。
足元は砂場なので落ちても心配はしていないが、
父親が近くにいると安心なのか、
少し高い場所に行くと雄樹が「見て見て」と言ってくる。
夏姫も徐々に慣れて来たのか雄樹の近くへと登り始めた。
そして二人で「見て見て」と笑っている。
他に大きな子供も昇って遊んでいるため、
結構揺れるみたいで二人ともそれほど高くには登れていないが
他の大きなお兄ちゃんやお姉ちゃんと同じように登れていることで楽しそうだった。
しばらくすると持ってきた「砂遊びセット」を使って砂場の隅で二人で夢中に遊び始めた。
そうなると父親は必要無くなるのでシートに戻ってコーヒーを飲んだ。
風に運ばれてくる梅の香りが心を清々しい気持ちにさせてくれる。
そろそろ夕方の雰囲気が出て来ている。
梅園の中に立つポールに灯が点き始めた。
4人はシートを片付けて梅園へと入って行くと幟が見えた。
「梅シュークリーム」
「梅ソフトクリーム」
子供達がじっと見ているので
どちらも二つずつ頼んで、シュークリームは家でのお土産にした。
道内産の濃い牛乳で作られたクリームへ、
良い|塩梅《あんばい》で梅のさわやかな甘酸っぱさが練り込まれたソフトクリームで初めての味だった。
抱っこされた子供達も口の周りをクリームだらけにして食べている。
あたりは多くの観光客が梅を見上げて歩いている。
すっかり暗くなるとスポットライトに白梅や紅梅が映し出され始めた。
昼間に見える多くの梅林の光景も素晴らしいが、
夜は昼間よりライトアップにより白色や紅色が強調され、
夜空に星が見え始めると梅の花の香りがより強くなっているように感じた。
梅園を一周すると駐車場へ向かった。
今日の晩御飯は石山通の南22条西11丁目にある『伊予製麺』の予定だった。
うどんと言えば、全国的に讃岐うどんが有名で強い腰のある麺である。
慎一は香川県に居た事もあってうどんと言えば讃岐うどんと思っていたが、
この店で初めて食べた時、讃岐うどんほど強い腰の固い麺ではなく、
少し柔らかめだが腰はある様な固さで子供も噛みやすいうどんだった。
それ以降、家族でうどんを食べる時にはここに来ている。
大人用に釜揚げうどんを二つと素うどんを一つ、
天婦羅は、かき揚げと竹輪の磯部揚げと子供用に鶏天二つにした。
セルフうどんは自分で好きなだけ葱や生姜や天かすを入れられるため気楽である。
子供には子供用のお椀に分けて食べさせる。
鶏天は手に握らせるとそのままかぶりついている。
その間に夫婦は出汁に葱と生姜と天かすを入れて釜揚げを食べる。
釜揚げうどんは、木製の桶に茹でたうどんを釜湯と共に直接器に移したうどんのことで、麺の表面の柔らかさと新鮮な麺の弾力を味わえる出来立てのうどんの美味しさが楽しめる最もシンプルなメニューである。
この釜揚げうどんによく似たもので、湯だめうどんというものがあるが、これは出来上がった時一度冷水で締める工程があるため、再度熱い湯に入れるため麺の表面が固くなり若干美味しさが落ちます。
慎一は香川県高松市で勤務した時に、屋島町の四国村にある『わら家』と言う茅葺き屋根の店へ『たらいうどん』を良く食べに行ったことを思い出す。わら家のうどんは大きな|盥《たらい》に入っていて、出汁の入った容器も時代劇に出て来る『貧乏徳利』のような大きなもので珍しかったことと、天婦羅の盛り合わせやしょうゆ豆が美味しかったことも思い出した。このしょうゆ豆は、香川県の郷土料理の一つで乾燥させた空豆を炒り、熱々のまま醤油やみりん、唐辛子などを合わせた調味たれに漬け込んだもので、煮豆とは違い、口の中に入れるとポロッとほぐれる食感が楽しめる。それにしょうゆ豆は皮ごと食べるので、皮には食物繊維が豊富に含まれており身体には優しいものである。今となっては良い思い出だった。

65.雪遊びとさっぽろ雪まつり

正月休みは雪の降り積もる北海道神宮へ初詣をし、
いつものように境内の左右にある露店商でポテトやアイスを買って食べながら帰って来た。
そしてお昼からお酒を飲んでゆっくりとして過ごした。
慎一と静香夫婦は今までスキー経験が無かった。
本当は本格的に習ってみたいのだが、
子供達がもう少し大きくなるまでの辛抱と夫婦で話し合っている。
昼間はホームセンターで買った子供達用のソリを持って近くの公園へ行き、
小さな雪山になっている高い部分から滑って遊ばせた。
雄樹は、楽しそうにソリを持って雪山の上まで歩いて上がって滑った。
夏姫は、『とうたんと一緒に』と膝に座って滑った。
それを見た雄樹も『僕も』と催促してくる。
大人と一緒に滑るとスピードが早くなるのでより楽しいようだった。
しばらくすると遊具の近くで大きな雪だるまを3人で作った。
子供の身体と同じ高さの雪だるまを作り、手や足や顔を付けた。
次にお家用に小さな雪だるまを作った。
二人とも一心不乱に雪を丸めてそっと頭を乗せている。
二つの雪だるまが出来たので家へ帰ることにした。
夏姫を肩車して、
雄樹をソリに乗せて雪の積もる歩道を曳いて帰る事にした。
雄樹は嬉しそうにソリの乗って周りを見回している。
夏姫も何度も振り返って手を振って笑っている。
マンションに着くと、
すでにベランダから見つけていたのか静香が玄関へ出て来ている。
二人はソリに乗せた自分の作った雪だるまを母親へ持って行く。
「あらあら、可愛い雪だるまを作ったわね。
 二人ともすごいわ。
 じゃあせっかくできたのに溶けたら困るので
 雪だるまさんはベランダに座ってて貰ってね。
 みんな、寒かったでしょ?
 おぜんざいを作ってますから一緒に食べましょう」
「ゼン・ダイ・・・食べる」と雄樹
「デンザイ、食べる」と夏姫
「さあ、それは楽しみだ。
 父さんはソリを片付けてから部屋に戻るからね」
とソリを片付けるために地下室のトランクルームへ向かった。
片付け終わって部屋に入ると
香ばしい餅の焼けた香りとぜんざいの甘い匂いが漂ってくる。

冬の北海道は全エリアで雪関連の行事で盛り沢山だ。
札幌市では「さっぽろ雪祭り」が2月上旬から中旬にかけて開催される。
その同じ時期に小樽市では「小樽雪あかりの路」が開催される。
その他近隣では、みんなで行った「支笏湖氷爆祭」や美波の行った「層雲峡氷爆祭」、「旭川冬まつり」など各町での雪まつりがある。

美波は地元の『小樽雪あかりの路』へ友人と行くそうで札幌には来ていない。
慎一達は『さっぽろ雪まつり』へ出掛けた。
土曜日の夜は大きなイベントがあるため午後から大通公園へ向かった。
既に多くの観光客がいっぱいで凍った雪道の上を滑らないようにヨチヨチと歩いている。
雪の経験の無い外国人と思われる人達はやはり滑って転んで笑っている。
慎一も子供を抱っこしているので転ばないように注意して歩いた。
道端には多くの屋台が出ており、
子供達が好きな『揚げイモ』『じゃがバター』を買った。
『揚げイモ』
大きなカリッとしたホットケーキの生地で包まれたジャガイモが串に刺さっている。
拳くらいの大きさで子供は1個で満足している。
『じゃがバター』
蒸かしたじゃがいもからホカホカの湯気があがり黄色いバターがトロリと溶けている。
寒い時にはホクホクのジャガイモが一番。笑顔がこぼれます。

通路のいたるところでずっと
『止まらないで下さい。逆回りはしないでください』とアナウンスされている。
自衛隊や企業が作った見上げるような大きな雪像から
市民が作ったと思われる2メートルくらいの高さのものまで
長い公園にところ狭しと飾られている。
昼間のため雪像をゆっくりと見ることができる。
雪像には精一杯作った人の思いが詰まっているように感じた。
家族で作った雪像は、子供達の喜びにあふれている。
外国人グループが作った雪像は、
芸術性にあふれたものも多く、作成している彼らの笑顔が輝いている。
降り積もる雪で隠れた雪像を雪を払って直している人もおり、
手がとても冷たそうだったが心から祭りを楽しんでいる。

さっぽろ雪まつり』は、
1950年が初めての開催で、札幌市内の中高校生が美術科教諭の指導の下に6基の雪像と元国鉄管理局が祭りに合わせて、札幌駅前に雪像を作ったものだった。
雪像の作成イベントは、1954年(第5回)から市民制作の像が加わり、
次に陸上自衛隊、商社、市の出張所が加わり、
現在のように様々な参加者による多数の像が並ぶスタイルが定着した。
この祭りが有名になったのは1972年の札幌オリンピックの時で世界的に雪まつりが紹介され、これ以降海外からの観光客も目立つようになり、その後国際親善を目的として海外都市の派遣による「国際雪像コンクール」も始まった。

暗くなってくると「ホワイトイルミネーション」が大通会場全体を照らし始める。
子供達のお腹を少し空いてきたみたいなので、焼きトウモロコシを買った。
イルミネーションに照らされた美しい雪像
雪で作られたステージ上で芸能人やお笑い芸人などのイベントが開催されている。
老若男女がじっとステージ上を見つめている。
歌あり笑いありで寒い中であっても時間の過ぎるのが早かった。
子供達が眠くなり始める時間なので家へと帰ることにした。
家に帰り子供とお風呂に入って
テレビを見ながらゆっくりとしていると
今日一日歩いて疲れたのかもう子供達がウトウトし始めた。
子供達を寝かせている間、慎一がコーヒーの準備を始めた。
静香がニコニコ笑いながら戻って来た。
「あなた、今日はすごく楽しかったわね。
 雪まつりって本当に綺麗よね。
 子供達も大喜びで明日も雪だるまを作るんだって」
「そうだろうな、しかし子供は元気だね」
「そうね、でも子供は元気がなによりね。やっぱり札幌っていい街ね」
「そうだな。食べ物も美味しいし空気も綺麗だし人も暖かいよね」
その夜は子供達に邪魔されないため、久々に夫婦の熱い交流があった。

64.千歳・支笏湖氷濤まつり

美波の氷瀑祭りの話を聞いて慎一は居ても立っても居られず、翌週の土曜日に|支笏湖《しこつこ》|氷濤《ひょうとう》まつりに行くことを決めた。
一瞬同じ|層雲峡《そううんきょう》|氷瀑《ひょうばく》まつりにしようかと思ったが、旭川は最近旭山動物園で行っているし、距離が遠く時間が読めないので同じ氷の祭りのある支笏湖を選んだ。
美波は当日用事があるようで来ないのは残念だが残りの4人でいく事にした。
支笏湖は春や夏にも何度もドライブがてら4人で来ているが、札幌から約1時間の近郊にある湖で、どこまでも湖底が見えて、目の前に佇む山々を湖面に映し出すくらい日本一水質のよい湖だった。

この祭の開催期間は、一番寒さが厳しい1月下旬から約半月間で、美波の行った「層雲峡氷瀑まつり」や札幌市の「さっぽろ雪まつり」と並び、北海道の冬を代表するイベントであった。
ここで開催される|支笏湖《しこつこ》|氷濤《ひょうとう》まつりの特徴は、
透明度の高い支笏湖千歳川)の水をくみ上げて凍らせた氷の美しさにあるらしい。
支笏湖の透明度が高い理由としては、この湖がプランクトンの発生が少ない『貧栄養湖]』であり、幸いにも生活排水の流入もないため濁りが非常に少ないらしい。昨年2002年には透明度30.7メートルという記録がある。
この非常に透明度の高い水をゆっくりと時間をかけて凍らせるため、完成した氷も不純物が少なく青い光を通しやすくなり、ライトアップしなくても青く輝く氷ができる。そのため昼間も『支笏湖ブルー』と呼ばれる淡いナチュラルブルーの氷のオブジェを存分に楽しめるのだった。

開催者の話では、この祭開催のヒントとなったのは『しぶき氷』という自然現象だったらしい。これは水深が非常に深い支笏湖は湖面が凍ることがなく、強い風によるうねりや高潮によって岸に吹きつけられた湖水が桟橋などに氷の柱や玉状になって凍りつくと言うこの湖う特有の現象で、透明度の高い『支笏湖ブルーの氷』は、マイナス7~8℃くらいの微風時と言う冷え込みの状態の時にできやすいらしい。
このしぶき氷を、スプリンクラーによる噴霧で人工的に再現したのが氷濤のオブジェである。
これらのオブジェは、鉄骨や自然木や農業機材などの素材に千歳川の水を噴霧して氷濤はつくられる。オブジェの中には完成してから骨組みを抜くなどのものもあり大変なこだわりを持って、約2カ月もかけて作られている。
 
夜に花火や太鼓演奏などのイベントがあると聞いているため夜遅くなる事を覚悟して家を出た。
今回は道央自動車道大谷地ICから千歳ICまで移動し、下りて真町泉沢大通を進み、本町2丁目の信号を左折し支笏湖通に向かう。支笏湖通まで行けば一本道だった。道なりに進んでいくとラッシュに会った。
だいぶ人が集まっているようだ。帰りも考えて静香が準備したご飯は正解だった。
静香は朝に帰りのラッシュを想定して、いつもの『大野海苔』と『ゆめぴりかのおむすび』とお漬物とお茶を多めに準備している。
湖まで時間のかかる事を覚悟したが、諦めて帰る車もあって思ったより早く着くことができた。
会場の駐車場はほとんど車で詰まっていた。誘導員の指示に従いながら停めた。
雄樹は車の中で退屈をしていたので早速走って滑って転んでいる。
夏姫は今起きたところでいつものように抱っこをせがむ。
もう夕方でライトが明るく感じる様になってきている。

会場の方へ向かうと立札で「苔の洞門」と書かれている。
このオブジェは一番歴史が古く最も人気が高い。湖の南側にある名所の「苔の洞門」を氷で表現した幻想的なエリアで、苔をイメージさせるために緑の氷の土台にトドマツとエゾマツを使い、ちょうど洞門を歩くかの様な雰囲気で歩いていると、仄かに松の香りがうっすらと漂ってくる。
ホームページでは、このオブジェの苦労が語られている。
「苔感を出すために外側から水を噴霧し、時間をかけて水を徐々に染みこませ、松の葉をうっすらと凍らせている」
その他、会場では
巨大な氷壁が間近に迫る「ビッグマウンテン」、
会場内を広く見渡す展望スポット「天空回廊」や「ブルーシャトー」などへ登った。
このオブジェは、全て氷で出来ておりまさに氷の回廊の雰囲気で、
そこでは氷に慣れている道産子も滑って転ぶ人が多かった。
この高いオブジェの頂上からは、
会場全体が見ることができて幻想的にライトアップされた会場が見渡せた。
子供達用にオブジェとして
「アイススライダー」は、あまり混雑していないので何回でも挑戦できた。
「チャイルドリンク」は、長靴のまま氷滑りを体験できて子どもしか入れないエリアで、体が硬く転倒時にケガをしやすい大人は入場禁止となっている。子どもはヘルメットの着用が義務付けられており、人数制限があるので、子供達は安心して伸びのびと氷滑りを楽しんでいる。
雄樹は「アイススライダー」に夢中になり、夏姫は「チャイルドリンク」で滑って遊んでいる。
また別のコーナーでは「湖底の水族館」はヒメマス・ブラウントラウト・ウグイといった支笏湖に生息する魚を氷漬けにして展示している。

だんだんと寒くなって来たので、フードサービスの小屋へ入った。そこにはそばやうどん、肉まん、おでんなども売っていたが、北海道名物、炭火で焼き、バターを乗せた「じゃがバター」が売られている。それはとても大きなジャガイモで、子供の顔の半分くらいの大きさで驚いたものだった。
種類を聞いてみると大滝村の「洞爺」というじゃがいもを使用しているとらしい。
今度、スーパーで売っていれば買おうと思うくらい美味しかった。

しばらくすると「氷濤ダイナミックナイト」開始のアナウンスが響いた。
このグループのメンバーは「支笏湖国際太鼓」のメンバーが中心になっていると説明されている。
みんなが真っ白い息を吐きながら和太鼓の演奏が始まった。
奏者は、男性が多いのかと思っていたが以外に女性も多く、
『はっ』と一斉に声が上がり、
会場や山を震わせる力強い和太鼓の音が会場に満ちた。
この寒い中でも両袖の無い法被を着て両腕を露出して元気一杯に撥を揮っている。
観客も慎一も寒さを忘れてその和太鼓の演奏に心を奪われた。

そろそろ花火の時間18時30分が近づいてきた。
花火を見るのにちょうどいい場所とアナウンスされている会場に近い展望台のある山道へ向かった。
やがて花火大会が始まった。
空で咲く花火の下には、ライトアップされた氷のオブジェがありその様が美しかった。
花火の時間は約15分ほどだったが、夏の花火とは異なった感覚で、冬の冷たい空気の中を上がる花火の迫力に圧倒された。最初から終わりまで拍手喝采が絶える事は無かった。
花火が終わるとさすがに観客も車へと移動し始めた。
慎一達も疲れて眠りかけた子供を抱っこしながら車へ急いだ。
帰り道は雪道でそれなりのスピードしか出せないが
渋滞になることもなく順調に道央道へ上り一気に家まで帰った。

63.層雲峡氷瀑祭り

美波の就職活動もいよいよ佳境に入っている。
もうじき2月だし4年生になる前の内定を目指している。
美波としては父の勤める六花銀行も考えているが、
身内の採用でもし父へ迷惑を掛けたらと思うとなかなか切り出せなかった。
そんな時、2月の始めに前田さんからドライブのお誘いがあった。
|層雲峡《そううんきょう》|氷瀑《ひょうばく》まつりだった。
1月下旬から開催されており一度も見た事がないのでいつかは行きたいと思っていたし、彼に就職の相談もしたかった。
彼に誘われたのは2月8日土曜日で、
当日は派手な花火大会があって少し帰るのが遅くなるけどごめんと言ってきている。
小樽のマンションへ遅く帰るのもみんなに色々と勘繰られて嫌なので実家に帰る事にした。

当日、彼と10時頃に小樽駅の前で待ち合わせて旭川へ向かう。
層雲峡氷瀑祭りは、夕方から会場で過ごす事にして、途中|神居古潭《かむいこたん》へ回った。
ここは旭川でも屈指の景勝地で秋の赤や黄色に染まる山肌は非常に美しいらしい。
この「カムイ」と名の付く地名だが北海道には複数カ所あって、
『カムイ=神』でカムイと名の付く場所は、アイヌの人々の神聖な場所だった。
雪の積もる駐車場に車を停めて、石狩川の急流に架けられている木製の橋を渡った。
吊り橋ではないが、歩くとギシギシと音が出て、
途中で止まっていると、他の人の歩調に合わせて揺れて怖かった。
恥ずかしかったけど、彼の手が差し出してくれたのでそっと握ったものだった。
橋の下を流れる石狩川の両岸の岩は、ゴツゴツで表面には拳大の穴がたくさん開いている。
立て看板の説明では、
この場所は穏やかな石狩川が急に細くなって渓谷になる場所であり、深さも一番深いところで70mもある。
当時、交通手段が船だったアイヌの人々にとって、この場所は一番の難所で、何度も事故が起きたようだ。彼らはそれを神が起こしているとして恐れた。
またこの地形は「神居古潭おう穴群」という名称で旭川市指定の天然記念物に指定されている。
両岸の岩には拳大の穴がたくさん開いていることから、アイヌの人々は「魔神の足あと」や「魔神の頭」に見立てていると説明されている。

橋を渡ってしばらく歩くと、駅の跡地があった。
神居古潭駅」となっており、「おさむない/いのう」と駅名看板に記載されている。
どうやらここは国鉄の線路が引かれていた場所のようで、ここは1969年(昭和44年)10月1日に廃止になったと記載されている。サイクリングロードとして整備されていて、旧駅舎は休憩場所となっている。またこの駅舎は、1989年(平成元年)に復元され旭川市の指定文化財にもなっているようだ。
そこを奥へ進んでいくと、鉄道ファンには垂涎ではないかと思われるSLが止まっている。
その他、トンネルや鉄橋跡や線路も一部分残っていてコアなファンにはたまらない展示物と思われた。
このSLは、以下3台が置かれ、
・「キュウロク」の愛称で親しまれた「29638」蒸気機関車
・「デゴイチ」でおなじみの「D51」型機関車、
・「貴婦人」の愛称を持つ「C57」型機関車、
今でも走れそうなとてもキレイな状態で保管されている。
特にC57 に関してはラストナンバー(最後に作られた番号)だと説明されている。
この駅の跡地をさらに奥へ進むと、急な山登り区間になり看板に「神居岩へ」と書かれている。
雪も深いし道幅も狭くなるので今日はあきらめて、
『ここは秋にもう一度来たいね』と二人で話しながら車へ戻った。

遅めのお昼ご飯のために旭川市内へ走り、「あさひかわラーメン村」を目指した。
この村は、1996年8月に旭川が誇るべきラーメン文化をもっと広く知ってもらおうという市民意識の盛り上がりの中で誕生した。
村と命名されてる割には思ったより小さい建物で外観の壁には、北海道東海大学旭川校の学生たちによってテーマ 「旭川・ラーメン・結・絆」が描かれ、旭山動物園の動物たちが、大雪山や街並みをバックに、ラーメンを美味しそうに食べている。
村内は当地で生まれた有名な8つの店「青葉」「まつ田」「いし田」「天金」「山頭火」「さいじょう」「平和」「梅光軒」が入っている。
二人は現在の旭川ラーメンの基礎を作ったと言われている店の一つ「蜂屋」へ入った。
湯気の立つラーメンが目の前に運ばれてきた。
運ばれてきた瞬間、旭川ラーメンの特徴の豚骨など動物系と魚介系を使って取ったタブルスープの香りが空腹だった二人を直撃した。
いつまでもアツアツのスープが冷めない様に表面がラードで覆われていて、食べ終わるまで楽しめた。そして麺も中太の縮れ麺で加水率が低くスープによく絡んだ。
二人はフウフウしながら一気に最後のスープまで食べきった。
何も話さない二人は食べ終わった後、どちらからともなく笑い合った。

あさひかわラーメン村を出た二人は層雲峡へ向かった。
駐車場には既に多くの車が止まっており、会場内もどこもかしこも人で一杯だった。
|層雲峡《そううんきょう》|氷瀑《ひょうばく》まつりは、
旭川市の東側にある上川郡上川町にある層雲峡の石狩川河川敷を利用した1万平方mの広さで開催される冬季に行われるイベントである。
この祭りの始まりは1976年(昭和51年)で今回で28回で、2月1日から3月16日までの約1ヶ月半の間、開催されている。第1回は北海道恵庭市出身の彫刻家、竹中敏洋氏の指導のもとに発案されたものらしい。

冬の夕暮れは釣瓶落としどころでない早さでストンと落ちて行く。
いつの間にかあたりはもう薄暗くなってきている。
会場の光が急に明るく感じられた筈だった。
二人は滑らない様に知らず知らずの内に手を握り合って展示されている氷の造形を見て歩いた。
特に高さが約15mもある展望台は見上げてしまうくらい大きく綺麗だったし、氷の階段を滑らない様に恐る恐る上がっていくと、頂上では素晴らしい眺望でライトアップされた会場内を一望できた。
他に展示されている氷柱、碧き氷のトンネル、アイスドーム、神社なども様々な色彩でライトアップされ美しかった。
「氷爆神社」の氷の鳥居にはたくさんのお賽銭が張り付けられてる。
美波はとりあえず内定の成功をお願いした。

しばらくすると会場内に花火のアナウンスが流れた。
阿部さんが『札幌への時間があるので戻りながら見ようよ』と言ってくる。
美波もそれに気がついて時間の経つ早さに驚いたものだった。
駐車場に戻る時に最初の打ち上げ花火が始まり歓声が上がる。
上ばかり見ていると転んでしまうのでとまたもや二人は手を繋いで歩いた。
車に戻るとフロントガラスに雪が積もって真っ白なので雪かきをした。
暖機運転でフロントガラスの氷が解けるまでしばらく待って花火を窓越しに見ている。
打ち上げ時間にして10分程度だが、冬空に上がる花火もまた趣があって良かった。

どちらからともなく言葉が少なくなり静かになって、
彼が美波の方を向いて「日下さん、好きだ」と呟いた。
その言葉を聞いて美波はうなずいてそっと目を瞑った。
彼のぎこちない硬めの唇が美波の唇に重ねられた。
以前から想像してたより美波は自然に初めてのキスを受け入れた。
もう美波の耳には花火の音は聞こえなかった。
ただ自分の心臓の音に驚きながらじっと彼の香りに包まれていた。

その夜、美波は両親に就職で父の勤める六花銀行を受けていいかどうかを相談した。
彼が、六花銀行ならちょうどいいのではないかと奨めてくれたからだ。
将来的には彼の勤める銀行と六花銀行の提携の話も上がっていると話してくれた。
早速、慎一は人事部の友人に以前から聞かれていた娘の就職についてお願いした。
人事部も小樽商科大学の学生でそれも慎一の娘なら間違いないと太鼓判だった。

62.クリスマス (札幌テレビ塔にて)

七五三が済み子供が大きくなったと言っても、

大人の都合通り静かにしているわけではないので

今年のクリスマスも家の中でしたいと考えていた。

ただ慎一は以前から考えていた事で、

今年は「さっぽろテレビ塔」へ登り

夕方までに一度、暗くなってから一度、

高い場所から大通り公園を見てみたいと思っていたのだ。

さっぽろテレビ塔は、今年2月からリニューアルのため休止していたが、

4月にやっとリニューアルオープンとなったばかりで登っていなかった。

クリスマスシーズンになると

大通り公園自体が、大きなクリスマスツリーを模したものとなっている。

さっぽろテレビ塔をツリーの一番上の星として、その下に飾られる物は公園内のあらゆる場所で様々な形の物がネオンで飾られライトアップされている。

それらがテレビ塔の上から見ると公園全体がクリスマスツリーの形に綺麗にライトアップされているように見えるのだった。

さっぽろテレビ塔」は、札幌におけるテレビ放送開始を機に1956年(昭和31年)に建設され、地上からの高さは147.2mの建造物で、場所は札幌市街地の中心を東西に延びるグリーンベルトの大通公園の東端にあり、市街地を南北に流れる創成川べりに位置している。

ホームページから歴史を見ると、(作者編集)

1956年(昭和31年6月)  テレビ塔建設着工

    (昭和31年12月) 塔体が完成

1957年(昭和32年12月) 3階屋上プラネタリウムオープン

1958年(昭和33年7月)  皇太子殿下(今上天皇)、高松宮ご夫妻、ご来塔

1961年(昭和36年10月) テレビ塔の地上から60m(30階相当)に日本初の「電光時計」設置点灯

1962年(昭和37年10月) 3階屋上プラネタリウム業務廃止

1971年(昭和46年11月) 「第11回札幌オリンピック冬季大会」前に新設された札幌地下街

                [オーロラタウン(東西)・ポールタウン(南北)]のうち

                オーロラタウンテレビ塔地下西側が直結。地下1階映画劇場廃止。

1972年(昭和47年2月)  「第11回札幌オリンピック冬季大会」

1976年(昭和51年4月)  大通公園特設売店でトウキビ販売開始(札幌観光協会からの委託による)

    (昭和51年6月)  札幌市営地下鉄東西線(琴似―白石間)開業にともない、

               テレビ塔地下南側と地下鉄コンコースが直結

当日は、午後に家を出てタクシーを拾ってさっぽろテレビ塔へ移動した。

タクシーの窓からは春まで残る根雪が道路脇に積もっているのが見える。

今年は例年より早めに大雪が降ったため、子供を抱っこしての移動は大変だった。

テレビ塔では3連休の初日でもあり、クリスマス前でもあり、

海外からの観光客を始め高齢者も若い人もたくさん集まっている。

テレビ塔の周りには、手作りのアイスリンクが作られており、子供達も滑って遊んでいる。

雄樹と夏姫も同じ年齢の子供たちが遊んでいるアイスリンクに興味津々で

遊ばせてみるとヨロヨロしながらそっとリンクを歩いて喜んでいる。

テレビ塔のフロアガイドを見ると

地下1階には、グルメコートがあり、ラーメンや蕎麦、コーヒー専門店がある。

1階エントランスコートでは、

5月から着任した非公式キャラクター『テレビ父さん』のぬいぐるみが観光客と一緒に写真を撮っている。

そこにはショップがあり、『テレビ父さん』のお土産がたくさん並んでいる。

リンクで遊び飽きた子供たちはぬいぐるみに興味津々で近くでじっと見ている。

そして、ショップで売ってるテレビ父さんの小さなぬいぐるみを触って笑っている。

振ると『ボヨヨーン』と大きな音が出るので面白がってずっと鳴らしている。

その他エントランスコートには、雪印パーラーがあり客で賑わっている。

そこに立ってる幟には

 真っ赤なボディ

 緑の腹巻

 ピーンと立った一本ヅノ

 そしてチョビヒゲがチャームポイントです。

と謳っている。

この『テレビ父さん』のノホホンとした笑顔と腹巻と言う格好で

全く垢抜けしない感じが何か良かった。

それに細かいプロフィールというものが設定されていて慎一は気に入った。

以下はそのプロフィールである。

誕生日:昭和32年8月24日

身長:147.2m

体重:1000トン以上(最近測っていません)

仕事:テレビ塔

趣味:温泉と仕事が趣味ですな

特技:スキー(そこそこ)

好きな食べ物:ラーメン、カニ、ルイベ

好きな色:赤と緑

大切な物:家族

好きな街:札幌、ミュンヘン

好きな言葉:一期一会

長所:自分で言うのもなんですが、真面目なところでしょうか

子供達も何となく満足した感じになったので

エレベータに乗って3階スカイラウンジまで登る。

そこには洋食レストラン、スーベニアショップ、テレビ父さんのほほんパークと

3階スカイラウンジから約60秒で着く地上90.38mの展望台へのエレベーター乗り場がある。

ここは地上からは大して高くないが、窓からはテレビ塔周辺が良く見える。

ここから展望台までは有料であるため、家族分を買っていよいよ登ることとなる。

エレベーターから降りると展望台は観光客で一杯だった。

いよいよ展望台から札幌市を見渡した。

眼下には、

真っ白に染まる大通公園

遠くに見える青い日本海

雪に煙る石狩平野を背景に札幌市が静かに広がっている。

この光景だけでも上った甲斐はあるのだが、

夕方になって街へ灯りが入るとどうなるのか楽しみだった。

この日は珍しく展望台から3階スカイラウンジまで

点検時にしか使わない外の階段を使って降りていくイベントがあった。

ドアから出る前に子供達を暖かくして、

しっかりと背負って、展望台のドアから出る。

90.38mの高い場所のせいか吹く風は非常に強く

雪も吹き付けて来て耳が痛かった。

子供達も目を細めて不思議そうに外を見つめている。

点検時に作業員しか歩くことのない階段を使うという新しい試みは嬉しかった。

鉄骨の間から見える街の風景も目新しく感じた。

滑りやすい雪の積もる階段を注意して降りて行くとやがて3階に着いた。

3階のドアから入ると

エレベーターの降り口とテレビ父さんのほほんパークが目に入った。

少し身体が寒くなったので、洋食レストランへ入ってケーキや飲み物を頼んだ。

そこで夕闇が迫るまで過ごすつもりだった。

ゆっくりしていると徐々に窓の外が暗くなってきている。

街のビルの灯りが目立ち始めてきた。

瞬く間に夜の帳が下りてきた。

ホワイトイルミネーションが見え始めた。

地上から見上げた大通り公園内のネオンなどでライトアップされた物は

近くにあるためはっきりとはわからなかったが、ちょうどこの距離から見ると

それは金色のベルだったり、銀色の星だったり、赤と緑色のトナカイだったりと

元々想像していたが、それ以上に綺麗ですばらしかった。

この展望台からは、さっぽろ雪まつりYOSAKOIソーラン祭りなどのイベントも一望できるし、何度も来たいものだ慎一は思った。

搭乗記念としてライトアップされた大通り公園を背景に有料の家族写真を撮った。

みんないい顔で笑っている。

雄樹がちょうど昼間に買ったテレビ父さんの『ボヨヨーン』音を鳴らしたので、

全員爆笑で『はい、チーズ』代わりにちょうど良かった。

あと少しすると正月休みなので今年も北海道神宮へ参拝するつもりだった。

61.旭山動物園2

次に「あざらし館」へ入るつもりだったが、
行列が続いているので少し休憩を入れる事にした。
ざらし館の横に旭山動物園中央食堂があった。
そこはフードコートになっており、子供達も気楽に入れる。
ここでしか食べられない一品のザンギこと唐揚げとジンギスカン唐揚げ、
フライドポテトと濃厚なアイスクリームや新鮮なジュースを頼んだ。
そこで軽くお腹に入れてをあざらし館の横を通って北へ歩くと、斜面に休憩所があった。
そこの隣に「とんかつ井泉」の幟がひるがえっている。
以前、札幌大丸地下で買って食べた時、美味しかったので覚えていたが、
旭川でも食べられるのは嬉しかった。
この店は東京上野が本店の「箸で切れる柔らかトンカツの店」として有名だった。
追加で食事という事でみんなで一つずつカツサンドを摘まんだ。
子供達は満足すると、斜面の広場へ走って行き、二人で追い駆けっこして遊んでいる。

慎一は子供のとっては歩いて見るだけではいまいちなのかもしれないと感じた。
そこで「あざらし館」は後にして「こども牧場」へ向かった。
ここは、人と動物が触れ合える唯一の空間で、
大人しいウサギ、モルモット、ハムスター、イヌが放し飼いにされており、
その子たちを子供たちが抱っこしたり触れたりすることができた。
夏姫は、「ウサギさん可愛い」笑っている。
じっとしている子ウサギを膝へ乗せて、その柔らかい背中をそっと撫でている。
雄樹は、仔犬を抱っこしたり、モルモットやハムスターを抱っこしている。
二人とも優しい目で動物たちを抱っこしており一番満足そうだった。
 
子供達が小動物で十分に満足した顔つきになったので、「あざらし館」へ向かった。
この館は、ゴマフアザラシが飼育されており、
屋外には北海道内の漁港をイメージするために、小さな漁船やテトラポットが置かれている。
またアザラシの野生環境を再現するために、オジロワシオオセグロカモメも飼育されている。
館内に入れば、ぺんぎん館とは異なる設備で、アザラシの特徴的な泳ぎを観察できる「マリンウェイ(円柱水槽)」や大水槽、その他「洞窟窓」があった。今まで見た動物園と異なり、アザラシの動きをより野生に近い状態で見せている。
子供達も今度は『アザラシさん』と言いながら見ている。
夏姫は相変わらず甘えん坊ですぐに抱っこをせがむので抱っこをすると
今度は雄樹それを見て、僕もとせがんでくる。
慎一としては二人を左右に抱っこしてあざらしを見ていく事になる。
二人から良い匂いが漂ってくる。
結構ずっしりと来るが、子供を持った幸せを感じる一瞬だった。 
もしかしたら二人ともそろそろ眠くなってきているのかもしれなかった。

美波はお友達の芳賀さんと以前流氷観光に行って水族館で生あざらしを見ているが
そこのアザラシは人が来ないと氷の張った屋外で眠っており、
美波たちが近づくと水へ飛び込んで逃げるような感じで
それはそれで自然のアザラシの姿だったのかもしれないが、
間近でこんなに早く元気に泳ぐ姿を見るのは初めてだったので感激した。
母親の静香へ『紋別流氷観光』の時の事をふたたび話をすると
「私も行ってみたいけど、きっと船酔いして楽しめないかも」と首をかしげてる。

ざらし館を出ると
すでに肌へ当たる太陽の光が弱くなり、頬に当たる風も冷たくなってきた。
子供達の歩く速度も遅くなり、そろそろ帰る事を考えた。
正門へ向かう左側に「ととりの村」「フラミンゴ舎」がある。
「ととりの村」は、施設全体を網で囲み、水鳥たちが自由に飛びまわることができ、水鳥本来の姿を観察できるようになっている。飼育されている鳥はオオハクチョウ、コクチョウ、ヒシクイインドガン、ハクガン、マガモカルガモキンクロハジロ掲示板には説明されている。
そこにある観察用の道を歩き、『ガーガー』とか色々な鳥の声がそこらじゅうに響いており、自然の中での鳥たちの姿が見える。
まるで森の中を歩いているような、人間と鳥たちが同じ空間を分け合ってるような気がした。
そこから「フラミンゴ舎」への入り口はあるが、冬季は開園されていないため入れなかった。
掲示板には、ベニイロフラミンゴ・ヨーロッパフラミンゴ・チリーフラミンゴの3種類のフラミンゴを飼育しており、間近でフラミンゴたちが歩く姿や休んでいる姿、エサを食べている姿などが観察できると書いてあった。

いよいよ子供たちから『抱っこ抱っこ』の声が出始めた。
慎一が二人を抱っこすると二人ともしばらくするともたれて眠ってしまった。
車について、一人ずつチャイルドシートへ寝かせて帰途に着いた。
まだ数え3歳の初旭山動物園は、全体の25%も見ないうちに終わった。
今後は何度も来て、全体を見るのに何回も来ることになると思って、
子供たちの可愛い寝顔を見ながら考えた。
帰りは美波を小樽まで送るため、札幌ICから札幌北IC方向へ向かい、
札幌西ICから札樽道へ入り、一気に小樽へと向かう。
車の窓から夕陽が静かに沈む日本海が見える。
美波は大学3年生で就職活動中の気晴らしで今日は付き合っている。
先輩の阿部さんと色々と相談に乗って貰っているようだが、
地銀にするか都市銀にするかで悩んでいるらしい。
ずっと北海道で暮らして行きたいと思うなら地銀がいいとは思うし、
日本中を色々と回って行きたいなら都市銀がいいと思うし、
慎一としては、自分が勤めている「六花銀行」がいいのでは?とは思っている。
現場は統合してすぐでまだカラーが出て来ていないし、
実際に人手も足りていない部門もあるから新入社員の入行に積極的だったからだ。
人事部の知人にそれとなく聞くと、親の職業が結構大切と言われた。
銀行は固い職業なので最近は親の仕事などが信頼できるものかどうかで判断してて
親が銀行、それも身内ならキチンとしているという事で縁故採用も多いのが現実だった。
しかし、美波の気持ちがわからないので一切何も言わずにその判断は美波に任せている。
もし母親に相談してきたらそう答えるように夫婦で相談している。