はっちゃんZのブログ小説

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

78.道央旅行2(トマムリゾートで夕食・雲海テラス)

 トマムの山肌に大きなタワー状のホテルが見え始めた。
今夜と明日に宿泊予約している星野リゾートトマム ザ・タワーである。
ホテルの駐車場に着き、大きめのトランクケースや荷物を持ってフロントへと進む。
大きなホテルで玄関から多くの観光客の笑顔が見える。
フロントでチェックインして鍵を持って予約していた「ファミリートリプルルーム」へと向かう。
エレベーターに乗る頃には子供達は大喜びで笑っている。
この部屋は、スタンダードツインルームよりも広めのお部屋に可動式の低床ベッドとロフトベッドを設置されており、ベッド2台はくっ付けても利用できるため、夫婦の真ん中に子供達を挟んで寝させて、美波はロフトベッドで寝て貰うのでちょうど良かった。特にベッドの周りは小上がりが設計されており、靴を脱ぐことができるので清潔な上にほっとできる環境だった。
部屋の中に入るともう子供達は騒ぎ始めて部屋中を走り回り、
美波のロフトベッドにも上がっては降りてを繰り返して大喜びだった。
雄樹は二つをくっつけたベッドの上でゴロゴロ転がっているし、
夏姫は美波とロフトへ上がり『今晩は美波姉ちゃんと寝るの』と言い始めている。
子供の予約については、7歳~11歳は、別料金だが、6歳以下は、お部屋の定員数と同数を上限に添い寝は無料だったから宿泊料は大人料金3名分で良かった。

 夕食は、「森のレストラン ニニヌプリ」に決めた。
このレストランは、針葉樹林の森の中たたずむ開放的なファミリービュッフェレストランで、野生動物も顔を出す森のレストランらしい。ちょうど子供の専用スペース「ぱくぱく広場」もあって、子供達のペースで周囲を気にすることなくゆっくりと過ごせるから安心できた。
ディナーのコンセプトは「肉ビュッフェ」で、
北海道を代表する4種類の出来立ての肉料理を食べることが出来る。
メニューは、
「牛肉の鉄板焼ハスカップソース」
「ラム肉のジンギスカン
「鶏肉の新子揚げ」
「豚肉のポルケッタと山わさび
当然のことながらどの肉も美味しかった。
どの肉もコーナーにいるコックさんがお皿へ綺麗に盛り付けてくれるので美味しかった。
慎一はビールやワインを頼んで飲みながら、
全て肉を精力的にテーブルへ持って来てはサラダに果物にたっぷりと食べた。
 この「山わさび」は、北海道の山の中でよく採れる特産品で
原産国がフィンランド、別名「西洋わさび、ホースラディッシュ」と呼ばれ、
北海道では割とポピュラーな香辛料である。
一般的なわさびは、「本わさび(山葵)」と呼ばれ、沢や田んぼなど水の流れるところに生えて茎が緑色で、すりおろした時も緑色だが、「山わさび」は、読んで字の如く山で採れるわさびで、北海道などの寒い地域の山に自生しているが自分の家の庭でも移植して育てることができるわさびらしい。
よく外食でステーキやローストビーフなどを頼んだ時に添えられている薬味で、見た目は白っぽくて、繊維状で生姜をすり下ろしたものに似ていて、その味は鼻を突く様なツンと来るクリアな辛さである。
スーパーでも道の駅でもたまに見た目が木の枝の様な山わさびが売られている。
道産子は寒い時期には山わさびを買ってすり下ろして瓶に保存して、
家での焼き肉へ使ったり醤油とまぜてご飯に乗せて食べている。
その上品な香りとツーンと来る辛さは道産子の食欲を大いに増進させる。

 食事の後には雄樹と夏姫の二人が本格的なパティシエに変身し、季節ごとのオリジナルスイーツづくりができる「リゾナーレキッズスタジオ」に申し込んでいる。
これは時間的には20分くらいのものである。
少し緊張した二人の顔が見える。
二人はコックコートとコック帽に着替え、スタッフから手順や生クリームの絞り方など、簡単なレクチャーを受けてスイーツづくりを始めた。一生懸命にソースやフルーツを順番に入れて、生クリームを絞り、クッキーやチョコレートなどを自由にデコレーションしていく。
夏場はファームエリアで過ごす牛をイメージした牛柄の「モーモーロールケーキづくり」となっている。
雄樹はチョコが好きなのでたっぷりのチョコとクッキーをトッピングし、
夏姫は大好きな生クリームと色とりどりのフルーツでトッピングしており、
パティシエテーブルの二人が目を輝かせて各々趣向をこらしたオリジナルスイーツを作っている。
特に夏姫は家でもお菓子作りなどには良くお手伝いをしており手元に危な気が無かった。
そして完成したケーキを二人はにこやかにテーブルへ持ってくる。
夏姫が腰に手を当てて『どうぞ召し上がれ』と笑っている。
子供達が着替える間にジュースやコーヒー・紅茶を用意して帰ってくるのを待っている。
子供達が戻ってきて、急いでロールケーキを5つに切って食べる。
「僕のチョコケーキはどう?」
「夏姫のフルーツケーキはどう?」と嬉しそうに聞いて来る。
「どっちもすごく美味しいよ、コーヒーに最高」
「雄樹も夏姫もじょうずに作ったわね。今度お家でも作ろうね」
「雄ちゃん、夏ちゃん、おいしいわ。今度姉ちゃんにも教えてね」
二人の口の周りはチョコとクリームで彩られ無心に食べている。
「雄ちゃん、チョコとクッキーが美味しい」
「夏ちゃん、フワフワクリームとフルーツが美味しい」とお互いを褒めている。
隣の席の夫婦が話しているのが聞こえたが、ここの冬のスイーツ体験は、トマムの雪景色をイメージした「雪だるまパフェ」らしく、パフェグラスに好きな果物や、生クリームを盛り付け、雪だるまのメレンゲやスキー板がデザインされたクッキーをトッピングできるらしい。
その夜は、部屋の風呂に入りゆっくりとして翌朝の雲海テラスのために早めに眠った。
子供達には翌日の服を着せたまま眠らせている。
 
 翌朝、太陽が昇る前に起きて、
まだ眠っている子供達をそっと抱っこして車に乗って、
雲海テラスを見るためにゴンドラ駅へと急ぐ。
まだ外は暗いにも関わらずすでに多くの人が電気の付いた駅内に並んでいる。
美波が嬉しそうに
「雲海テラスって楽しみ。なかなか見れないんだって」
「そうなの?もし今日が駄目でも明日の朝があるから楽しみね」
「お母さんか美波が、何て言うのか『晴れ女」とかの『クモ女』なら見れるね」
「やめてよ。クモがクモでも違う方を想像したじゃないの」
「悪い悪い、確かにな。
 ごめんごめん、でも雲海を見れたらなと思ってね」
「二日もあるのだからきっと大丈夫。
 それよりここに雲海の出来るメカニズムとか書いてあるわ」
「ああ、以前ネットで調べたことがあるわ」
「確かお前、以前、帯広に遊びに来た時だったね」
「う、うん、そうよ・・・」
「まあこんな写真みたいな光景を一度は見てみたいね」
「そ、そうだね。楽しみだわ」
「う、あれっ?・・・ここどこ?」
「雄樹、おはよう」
「うーん、あれっ?・・・美波姉ちゃん、おはよ」
「夏ちゃん、おはよう」

 15分ほどのゴンドラに乗って山頂駅まで向かう。
窓からはまだ明けていないトマムの山々の重なりが見える。
やがて山頂駅へと到着する。
暗い中でも雲が近くまで来ているのがよくわかる。
「真っ白、姉ちゃん、これは何?」
「夏ちゃん、これは雲よ。いつも見てるでしょ?お空にいる雲よ」
「ここってお空の上なの?」
「雄ちゃん、お空より低いかな。ここは高い高いお山の上よ」
「ふーん、雲さんの海みたいだね」
「そうそう、えらいわ。雲の海と書いて『ウンカイ』っていうのよ」
「ウンカイ?へえ」
と子供達も興味津々で美しい雲海を見つめている。
この雲海は太平洋から日高山脈を越えて流れ込むというダイナミックなものだった。
途中で雲の中に突き出しているスカイエッジから下界を見たが、
足元から遠くの山の頂までフワフワした絹の様に細かい真っ白の雲の海が続いている。
雲の形をした大きな白いハンモックで出来た『クラウドプール』に入り雲の中を見る。
雲海で浮かぶ様に高く設置された椅子の『クラウドバー』には人だかりですでに座れない。
斜面の上に大きくせり出した、雲型の歩道で吊り橋のような構造の『クラウドウォーク』。
そこを歩くと少しユラユラと揺れており、ちょうど雲の上を歩いているような気分だった。
少しして「雲Cafe」の予約時間が来たので店へと向かう。
真っ白い雲の中に佇む店「雲カフェ」に入ると幸運にも窓際の席が予約できている。
夏とは言え早朝のためまだ少し寒いので、
雲海コーヒー、雲海ココア、雲海オレ、雲マカロン、雲マシュマロを各々一つずつ頼んだ。
窓の下まで雲の海が広がり、その海からヒタヒタとフワフワの波が打ち寄せてくる。
 雲カフェの雲海テラスでゆっくりとした後は、
雲海ゴンドラ山頂駅舎にある「うどんとおにぎりのお店椀八」へと向かう。
少し寒いのと簡単に食べられるから都合が良かった。
少し待って店内へ入る。
肉うどんとおにぎり(明太子)セット、
カレーうどん2つ、
きつねうどん、
おにぎり2個(ツナ、サケ)を頼んだ。
やがてみんなの前に熱々の湯気の立ったうどんが卓へ運ばれてくる。
子供達も子供用椀にカレーうどんを入れて貰って大喜びで食べている。

 美波は、今度彼に会った時にこの雲海の話をしようかと思ったが、
ここしばらくは全く会えていなかったことが気になっている。
6月半ば、大雪山旭岳をロープウェイに乗って山頂へ上がってから会えていない。
その時は、美波がお昼弁当を作って、彼も大喜びで食べてくれたものだった。
それから急に土日も会えなくなり彼のマンションにも行っていない。
たまに連絡はあるが、『忙しくて会えない。ごめん』ばかりだった。
もう成人しているので母にも相談していないが、母が何かを感じているのはわかった。
やはり、昔から『双子母娘』なので隠し事は出来なかった。
美波にしても初めての恋なので彼とは戸惑いながらの関係だった。