はっちゃんZのブログ小説

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104.妖?行方不明者を探せ2

今、テレビで話題になっているのは『日本版スパイダーマン』だった。

目撃した人の話では、ビルからビルへと軽々と移動して

『まるで映画のスパイダーマンみたいだった』と証言したので

それに飛びついたマスコミからは

スパイダーマンあらわる』と報道された。

テレビ的には犯罪の匂いのない雰囲気のため、

都市伝説の類いの扱いでそれほど大袈裟なことにはなっていない状況だった。

バラエティ番組「これは一体なに?とってもミステリー」でも面白おかしく報道されている。

 

一瞬、翔は戦闘服のバトルハンドのことを思い浮かべた。

バトルハンドは打撃力を高めており、その衝撃から掌を守る以外に、

粘着質のクモの糸状の物質を噴射しネットにする能力がある。

翔自身は、普通なるべく監視カメラからは隠れて偵察や調査行動をしている。

それを目撃されたのではないかと危惧したが、

その期間はちょうど東京には不在だったため

自分が目撃された訳ではないと安心した。

市井の人々の視線が上を向くのをあまり歓迎しなかったからだった。

 

事件への手がかりが一向に掴めない日が続く。

そんな時、桐生家頭首の祖父麒一から電話があった。

『お前の従兄弟の遼真が事務所へ顔を出すので会って欲しい』

とのことだった。

従兄弟の遼真とはもう10年以上会っていない。

確か現在は大学3年生で都内の私立大学へ通っているはずだった。

人を惹きつける切れ長の眼を持つ少年の顔の記憶がよみがえる。

幼少よりあまり格闘術の方は好きではなかったようだが、

爺さんからは不思議な力を持っていると聞かされている。

 

オレンジ色の鰯雲の隣に一番星が光る頃、遼真が事務所を訪れた。

驚いたことに高校生らしき女の子も一緒だった。

久しぶりに会った遼真は、少年の頃と変わらない雰囲気だった。

 

『桐生 遼真(きりゅう りょうま)』

身長178センチ、体重60キロ、やや細めの体型

淡いダークグレイの眼鏡を掛けており、鼻筋の通った顔で

人を惹きつける切れ長の眼で金色の輪郭の暗褐色の瞳を持つ青年

 

『桐生真美(きりゅう まみ)』

身長163センチ、シュシュで黒いロングへヤーをまとめている。

ややブルーがかったレンズの眼鏡をかけており、

鼻筋の通った丸顔でやや厚めの真っ赤な唇が目立つ。

猫のような丸い眼を持ち銀色の輪郭の深い暗赤色の瞳を持つ女子高校生

 

「翔兄さん、お久しぶりです。この方が百合様ですね。

 初めてお目にかかります。

 私は遼真、桐生遼真。

 翔兄さんの従兄弟です。

 これからもよろしくお願いいたします」

「はい、百合です。ご丁寧にありがとうございます。

 今お茶でも用意しますね」

「あっ、お茶は私が用意させていただきます。

 翔様、百合様、初めてお目にかかります。

 遼真様のおそばでお手伝いをさせて頂いています。

 桐生真美です」

「えっ?いや、私が、そう?

 まだ高校生なのにすごい。

 ありがとうございます。

 恐縮です」

「おお、遼真、久しぶりだな。

 しばらく見ないうちに大きくなったなあ。

 大学生活はどうだ?楽しいだろ?」

「ええ、まあ仕事も忙しいけどそれなりには楽しんでいます」

「真美?さんだったかな。初めてお目にかかります。

 同じ一族なのになかなかお会いできなかったね。

 いつも遼真を助けてくれてありがとうございます」

「翔様、そんなにご丁寧にお話しされなくて結構です。

 私はずっと京都の方にいましたからお会いできなかったのだと思います。

 3年前に東京へ転校してきました。では給湯室に」

その時、アスカが既にお茶を用意して持ってくる。

遼真と真美はまじまじとアスカを見て驚いている。

アスカがデスクへ戻ると遼真と真美が

『あの人が噂のOJO(オジョウ)システムのアスカさん・・・驚いた』

『遼真様、私も驚きました』と眼を丸くしている。

 

遼真達から聞かされた話として、

高尾山の北側の森の中には、ある『祠』があった。

獣道しか通じていないその場所は、森の大変深い場所にあり、

その存在は非常に修行を積んだ数少ない修験者しか知られていなかった。

仮に迷って一般市民がその祠の近くに行ったとしても

目には映らないような術が掛けられており見えない場所にあるはずだった。

それは修験者の間では『あやかみの祠』と伝えられていた。

 

江戸時代の始め頃、この魔物、いや怪神(別名:あやかみ)は

近くの村に出没し多くの村人を誘拐し食べたそうだ。

ある時、その村を偶然通りかかった一人の武士と霊力の強い法僧が

二人で長い戦いの末に魔物を退治し、

その魂を祠へ封印したと村の記録には残っている。

その祠が最近何者かによって壊されて魔物がこの世に復活し、

一日も早く退治するか祠へ返さないと日本が大変なことになると聞かされ、

二人からその捕獲に協力して欲しいと依頼されたのだった。

 

高尾山は、現在では新宿から電車で1時間くらいの距離にあり、日帰りで登山を楽しむことができる山で、ミシュランの三ツ星も獲得した非常にメジャーな場所である。

しかし、山岳信仰の山として歴史としては1300年以上あって、奈良時代中頃、信仰心の篤い聖武天皇からの勅命を受けた僧侶の行基によって高尾山薬王院が開山されている。

その開山の600年後に、京都の高僧俊源大徳が入山し、荒廃していた寺院を現在のような寺院へ改修した。この俊源大徳を薬王院では中興の祖とした。

中興の祖である俊源大徳は薬王院の東側にある高尾山琵琶滝での修行により、飯縄大権現の霊感を感得し、これが高尾山における飯縄権現(カラス天狗)信仰の始まりとなった。それ以降、本尊は『烏天狗』となり高尾山は薬師信仰と飯縄権現信仰の霊山として知られ修験道の場として発展してきた。

 

翔としては『魔物』や『神』と言われても

今までと勝手が違って全く訳もわからず、

二人にどんな風に協力するのかもわからなかった。

しかし、現在都内で頻発している老若男女の多くの行方不明事件は

その魔物の可能性が高いと遼真は言ってくる。

(つづく)