はっちゃんZのブログ小説

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58.新宿探偵事務所スタート4「偶然の大手柄」

【依頼内容】

依頼人氏名:篠原 由梨絵様。

依頼人状況:主婦

種類:ペット探し 猫

   (名前)ベン(種類)ベンガル(色)シルバー&スモーク・タビー

経過:昨日昼から戻ってこない。近くの公園を探したが見つからない。

   心配なので何とか早く見つけて欲しい。

金額:日当10,000円、救出料金50,000円

 

クライアントの邸宅は、市ヶ谷で納戸公園の近くだった。

翔は、クライアントの邸宅付近をネット検索し公園を中心に探すこととした。

いざ現場に行って周辺を見て回ったが皆目検討が付かなかった。

好奇心の旺盛なネコのようなので、事故にでも遭っていないかと注意しながら歩いた。

自宅から納戸公園の間をくまなく探すも一切手掛かりが無い。

道行く子供や大人一人一人に写真を見せて探した。

唯一の情報は、愛猫家からのもので、

やはり納戸公園内でよく似た柄のネコが歩いていたというものだった。

この付近には、なかなかいないネコちゃんだったので覚えていたらしい。

 

翔は最初の勘が外れていないことに自信を持ちながら公園に集中して捜索した。

ふとこの公園には昼間にもかかわらず中国人らしき人達が多いことに気がついた。

近くに中華料理屋も多いので何もおかしくないが、

その割には人数が多いし、ほとんど働いていない様子だった。

翔の勘が何かを囁いている。

とりあえず簡単な変装をして、彼らを見張る事とした。

彼らに不審に思われれば、ネコを探しているという理由付けが活きてくる。

夕方に彼らを尾行していくと小さな汚いビルへ入っていく。

 

「市ヶ谷Cビル」と看板が付いている。

少し離れてビル全体を観察すると屋上にやたらとアンテナの多いことに気がついた。

偶然ホームレスを見かけて、ネコの写真を見せると記憶にあるそうで、      

このビルに入って行ったらしい。

結構高そうなネコだったから捕まえて売ろうと思っていたようだ。

 

翔は、ビル1階の管理人室へ行き、ネコの写真を見せてみると

管理人は一瞬、口ごもり目が泳いでいる。

「いや、見たことがない。知らないよ」

「そうですか、残念です。このネコを見つけたら10万円貰えるんですけどねえ」

「10万円?そりゃあすごいなあ、あのネコ、いやすごいネコだなあ。

 まあ見つけたら連絡してあげるから俺にも少し分けてよ」

「もちろんそれはいいですよ。お願いしますね」

翔はそっと管理人の机の裏へ小さなマイクを貼り付けて退室した。

 

近くのカフェでゆっくりと盗聴に入った。

しばらくすると管理人に中国訛りの日本語が聞こえてくる。

「さきの日本人はなにようあるか?」

「迷いネコを探しているそうです」

「ネコ?どんなネコある?」

ベンガルという珍しいネコなようです」

「もしかして昨日捕まえたあのネコか?」

「今、どうされています?」

「捕まえて檻に入れている。あんなことしたたから折檻ね」

「あの高いアンテナの上に乗って折ったのだから仕方ないか。でもなあ」

「あのアンテナはすごく重要なアンテナ、ぽうえいしょのてんぱせんぷ傍受てきるね」

「ネコだから知らないでしょう。もう離してあげません?可哀想で」

「タメタメ、新しいアンテナ来たら、おかずにして食うあるね、

 ネコはぷた肉みたいで美味しいあるよ」

「ネコを食べるのですか?わかりました。でしたら私が肉にしてあげましょう」

「あなた日本人なのにネコ化けるの怖くないあるか?」

「いや、僕は犬が好きですから関係ありません」

「じゃあ、ばらして肉だけにしておきますから安心してください」

「お前、確か元肉屋たったね、任せたある。3階の部屋の檻に入れてるよ」

 

翔は場所がわかったので、夕方まで待ってビル裏の階段から3階へ昇った。

そっとノブを回すと幸運にも鍵がかかっていなかった。

そっと耳をすませば、微かに『ニャーニャー』と泣き声が聞こえる。

その部屋の電気は消えているので誰もいないと思い、そっと入ると男が一人寝ていた。

「お前、たれ、とろぼうか?」

翔は、すっと近寄ると水月に当身を喰らわせて失神させた。

檻に入った『ベン』を胸に抱いて、すぐさま部屋から出た。

廊下に二人の部下がいて翔へ殴りかかってくる。

翔は『ベン』を抱っこしながら、

二人の攻撃を避けて後頭部への一撃で眠らせた。

 

無事、『ベン』を保護して、都倉警部へ急いで連絡し、盗聴内容について知らせた。

警部は防衛省のメンバーとも打ち合わせ現場へ急行し一味を捕らえた。

本国からの指示で防衛省の情報聴取を目的としてこのビルを買っていたらしい。

目の前に駐屯所もあるのにも関わらず「スパイ天国の日本」の縮図を翔は知った。

クライアントにベンを渡しこの依頼は終了した。

後日、都倉警部から管理人室机の裏の盗聴装置を返してもらった翔だった。

これらの依頼をこなしていきながら翔の探偵事務所は、

警察にも協力し新宿で少しずつ名前が売れていくようになった。

(つづく)