はっちゃんZのブログ小説

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1.多摩湖変死体事件(第2章:いつまでも美しい女)

季節は夏も終わり、
警視庁迷宮事件係 通称 038(おみや)課の窓からは、
少しずつ色付き始めた街路樹が見える。
宮尾徳蔵警部は、
紙コップに入った渋茶を一口飲んでそんな街を静かに見ている。
「ふう、もう秋だな・・・」
「そうですね。
 宮さんがため息とか珍しいですね。
 何かありました?
 最近ずっとそのファイル読んでますが、
 何か気になる事件でもあるんすか?」
「ああ、ちょっとな。
 この季節になるといつも思い出すんだ」
「どんな事件なんです?」
「ああ、だいぶ前になるが、未解決事件の一つなんだ。
 多摩湖に血を抜かれて真っ白になった死体が何体も沈んでいたんだ。
 それと仏さんはお腹に小さな穴が開いていて内臓とかも少し切り取られていたんだ」
「確か・・・そんな事件ありましたね。
 そうかまだ犯人は捕まっていないんすね」
「そう、行方不明で警察へ捜索願の出された人が全て死んでたんだ」 
「何とか解決できればいいんだけど、もう難しいでしょうねえ」
「そうだな。その時の捜査員として悔しいよ」
「宮さん、この前の事件の時に協力してもらったあの二人はどうですか?」
「うーん、まあそれを俺も考えたが・・・
 彼らのあの力とは別の事件だからなあ」
「まあね、もう死体は上がって埋葬されてるし、
 あの湖に霊とかは今はもういないだろうなあ」
「霊か・・・あの場所に居るか居ないかは、
 我々にはわからないから確かめてもらってもいいな。
 わかった。
 もう既に行き詰まっているからとりあえず彼らに頼んでみよう」
「それで何かわかればもうけものでしょ?」
「たまにはお前も役に立つな。そうしよう」

この事件の概要は、
ある暖かい春の日に、初めてデートをした若い二人の話から始まる。
彼は『今日こそ告白するぞ』と勢い込み、
彼女は彼女で『そろそろ告白してくれるかなあ』と待っていた。
二人が桜並木と桜色に染まった湖面の美しさを見ようとボートで漕ぎ出た。
湖面を吹き渡る風は長い髪を|靡《たなび》かせる。
女性が『気持ち良い風、綺麗な水ね』と湖面へ手を伸ばした。
その時、水面下の深い所に白い人形の様な形の何かが視界に入って来た。
「あれっ?何かしら・・・きゃあ、何か見える」
「どうしたの?・・・何だろう」
「何か人形みたいに見えない?」
「ええっ?こんな場所に人形?」
「私、何か寒くなって来たからもう帰りましょうよ」
「そうだね。そう言えばなにかゾワッとしてきた。すぐに帰ろう」
急に気持ち悪くなった二人はボートの係員へその旨を伝えた。
「あれっ?お二人さん、まだ時間は来ていませんよ」
「ええ、あの場所に
 大きな人形みたいな物が沈んでいるから気持ち悪くて」
「ええっ?・・・あんな場所に人形?」
その時からこの湖は上へ下へのてんやわんやの大騒ぎとなった。
警察がその白い人形を引き上げてみると
次から次へと6名の死体が芋蔓式に上がって来た。
一体の括りが甘かった様で腐敗してガスの影響で浮き上がったらしい。
検視の結果、全ての死体は全員が血液が抜かれていた。
そして身元が判明したが一人を除いて警察へ行方不明の届け出がされていた。
今もその一人については身元が不明で最終的に無縁仏として葬られた。
その時からこの事件は『多摩湖吸血鬼事件』と呼ばれる様になる。

その晩、同期の都倉警部と相談した結果、
『今までに無かった新しい事実がわかればいいと考えて、遼真君と真美ちゃんにお願いするのが良いだろう』という事になった。
翌日、さっそく宮尾警部と小橋刑事は、遼真の実家の神社へ向かった。
当然、まだ大学生の遼真は講義に出ており、真美も登校中で不在だった。
宮尾警部は、家政婦のウメさんへ連絡を貰えるよう伝言を頼んだ。
夕方に遼真から連絡があり、神社近くの喫茶店で待ち合わせる。
真美はまだ学校から帰っていない時間だったので同席していなかった。
「宮尾警部、小橋刑事、お久しぶりです。何かありましたか?」
「うーん、何と言って良いのかわからないが、
 ちょっと頼みたいことがあるんだがこの土日は忙しいかね?」
「今度の土日は特に用事らしい用事はないですね。どこですか?」
「ちょっと遠いけど、多摩の方なんだ」
「多摩の方ですか、わかりました。ご一緒しますよ。
 当日は真美も一緒ですがいいですよね?」 
「いいよ。
 これはある事件の概要の資料なんだけど当日までに読んで欲しい。
 でも真美ちゃんには刺激の強い写真だからあまりお勧めはできない」
「わかりました。まあ真美は慣れているとは思いますが気をつけます」
「じゃあ、当日少し早いけど7時くらいに迎えに行くから」
「はい、では二人でお待ちしています」

早朝、神社の駐車場へ覆面パトカーが停められた。
宮尾警部と小橋刑事が来たらしい。
遼真と真美は多くの荷物と共に、車の後部座席へ乗り込んだ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「それはこちらの話だよ。ありがとうね」
「そうだ、宮尾警部に小橋刑事は食事されました?」
「いや、まだだよ。途中でコンビニにでも寄ろうと思ってたんだ」
「じゃあ、真美がサンドウィッチを作って来てるので一緒に食べませんか?」
「もしかして朝早いし、
 朝ご飯もまだの可能性があるなと思いまして用意しました。
 運転しながらでも食べられる物をと考えてサンドウィッチにしました」
「サンドウィッチ?えっ?いいのかなあ」
「いいですよ。私は多摩湖は初めて行くので楽しみだったんです」
「うーん、ピクニックではないのだが・・・まあいいか・・・」
「厚切りシリーズです。さあ、召し上がれ」
真美が用意したサンドウィッチの種類は、
「厚切りトンカツサンド
 1センチにカットされたカツにたっぷりの千切りキャベツ。
 カツに染みたたっぷりのトンカツケチャップソースが食欲をそそる。
「厚切りハムチーズ野菜サンド」
 5ミリにスライスされたハム、チーズ、キュウリ、レタス。
 辛子マヨネーズがいいアクセントだった。
「厚切りべーコンポテトサラダサンド」
 カリカリに焼かれ塩辛いベーコンと甘いポテトサラダの絶妙の組み合わせ。
 黒コショウの刺激が食欲を刺激するのだった。
「厚切り出し巻きタマゴサンド」
 フワフワで2センチの厚さの出し巻きタマゴ。
 優しい和風の味付けでほっとする美味しさだった。
5センチの厚いサンドウィッチ全体がしっかりとラップに巻かれ、
半分にカットされた『厚切りサンドウィッチシリーズ4種』
そしてコーヒーと野菜ジュースだった。

「フオッ、ウグウグ、モグモグ、ゴクン、旨いっす、
 宮さん、俺、刑事(デカ)生活でこんな捜査メシは初めてっす。
 いや、人生でこんなうまいサンドウィッチ食ったの初めてっす」
「そ、そうだな。真美ちゃん、ありがとうね。本当に美味しいよ」
「真美は料理がすごく上手なんですよ。
 僕も真美の作った料理はすごく好きなんです。
 なんたって料理がすごく上手い家政婦のウメさん仕込みですからね」
「ありがとうございます。今朝早く起きた甲斐がありました」