はっちゃんZのブログ小説

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52.偶然の再会-望羊中山-

望羊中山で目的の揚げ芋を買って2階の休憩スペースに座る。

揚げ芋は1串にこぶし大の揚げ芋が3個刺さっており300円。

手に持つとずっしりした重さ、

噛むと外はカリッとして、中の生地はフワッとしている。

見た目のボリュームはあるが、

ホクホクのジャガイモの食感と

ホットケーキのような甘めの生地のため、

それほどしつこいこともなくペロッと食べてしまう。

子供達も人肌程度に冷めた一個を半分ずつにしてかぶりついている。

先に食べ終わった慎一が、濃厚ミルクソフトクリームを買って上がってきた。

北海道特有の牛乳の味の濃いソフトクリームで外れのないものだった。

子供達にも美波にも静香にも大好評で、買った2本を奪い合っている。

 

夏姫に揚げ芋とソフトクリームを食べさせていた美波は、

何気なく二階の窓から駐車場を歩く人を見た。

向こうからどこかで見た顔の男の人が歩いてくる。

運転に疲れたのか腕を高く上げて軽く回している。

よく見ると今年の春に卒業したサークルの先輩の前田さんだった。

学生時代とは違って、サラリーマン風の短い髪型だったが良く似合っていた。

確か友達の芳賀さんから北海道でも有名な地元銀行に就職したと聞いている。

その時、彼も偶然こちらを見上げて視線が合った。

じっとこちらを見ていて、

彼は美波とわかったのか驚いた顔をしていたが笑って手を振ってきた。

その後に赤ちゃんを抱っこした女性が付いて来ている。

そして、彼へ赤ちゃんを渡してトイレの建物へと歩いて行った。

 

彼は赤ちゃんを抱っこしながらその場で女性を待っていたが、

トイレから女性が出てくると、美波達の方を指さして何かを話している。

その女性もにこやかに笑いながらこちらを見上げている。

美波の視線に気付いたのか駐車場の方を見ながら母親の静香が

「美波、あのお二人はお知り合いなの?」と聞いてくる。

「うん、男の人はサークルの先輩だった人だよ」

「へえ、珍しいこともあるもんだねえ。若いご夫婦のなのかしら」と呟いた。

なぜか一瞬胸がドキンとして、その自分に驚いている美波がいた。

 

やがて彼が赤ちゃんを抱っこして二階の休憩スペースへ上がってきた。

「あっ、こんにちは。僕は前田と申します。

 やあ、日下さん、久しぶりだね。元気そうだね」

「はい、元気です。この子は妹です」

「へえ、日下さんに良く似て可愛いね」

「ありがとうございます」

「私は美波の母です。サークルではお世話になり、ありがとうございました」

「いえいえ、僕の方こそ日下さんにはお世話になってばかりで」

「そうですか?まだまだ子供ですからご迷惑をお掛けしましたでしょうに」

「お母さん、もういいから。

 前田さん、その子は、前田さんのお子さん?」

「ええっ違うよ。姉の子でね。今、姉が里帰りしてるんだ」

「目元が前田さんにそっくりだからきっとそうだと思ったの」

「いやあ、この春に就職してすぐだから結婚はまだまだできないよ。

 今は覚える事の方が多いから毎日毎日叱られてばかりさ」

「前田さんだったらきっと大丈夫と思います」

「ありがとう。その言葉を励みにがんばるよ」

「ははは、そんな大げさな」

 

少しして前田さんのお姉さんが上がってきた。

「いつも輝がお世話になっています」

「さっきも話したように偶然会ったんだよ。

 姉さん、こちらサークルの後輩の日下美波さんとご家族」

「ええ、本当に偶然で、こちらも驚いています」

「双子ちゃんですか。いいなあ、二人とも可愛いですね」

「ありがとうございます。毎日アタフタしています」

「でしょうねえ。こちら一人でもアタフタですからねえ」

「でもその甲斐あって大きくされていますね」

「ええ、おかげ様で、

 それはそうとみなみ・さん・・・。うーん?あれっ?」

「姉さん、もういいよ。じゃあ、日下さん、またね」

 

「前田さん、美波もそろそろ就職とかの時期が近づいてきていますので

 色々と相談とか乗って頂けたらと思います。よろしくお願いします」

「お母さん、もう・・・」

「日下さんはしっかり者だから大丈夫と思いますよ」

「まだまだ子供だと思って心配しています。

 でも母親としてそのお言葉は嬉しいです。ありがとうございます」

「もし僕で何か力になれる事があったら電話でもしてきて。

 電話番号はサークル時代と同じだから」

「はい、また何かあればよろしくお願いします」

「じゃあ、またね」

 

その後、車に戻り中山峠の景色を見ながら定山渓温泉街へと向かう。

定山渓温泉は札幌から日帰りできる温泉でいつも多くの観光客で賑わっている。

道路脇には足湯の施設もあってバスで来た人達は足湯を楽しんでいる。

そこから1時間ほど走り自宅マンションが近づいてきている。

今回は長期間の観光旅行だったが、何事も無く無事帰れた事に皆で感謝した。

(つづく)