はっちゃんZのブログ小説

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5.遼真覚醒、そして母は(第6章:母と共に)

母の肩から流れる血が遼真の額に滴り落ちた時、
遼真の瞳が明るく大きく金色に輝き始めた。
明王様、何卒母様を守るため私に力をお授けください」と叫んだ。
途端に魔物の首に紐が絡んだ様な跡が入り始めた。
遼真の念力だった。
『グッ、グワッ』
魔物は首に手を当てると振り払う。
「母様、これでいいのですね。私も母様と同じ力が使えます」
「遼真、はあはあ、すごいわよ。でも無理をしては駄目ですよ」
「母様、遼真は大丈夫です。あの魔物を退治します」
『ズシャー』
今度は魔物から遼真へ向かって黒い槍が襲ってくる。
『バキッ』
それを八重が霊糸を編んで黒槍を防ぐ。
「はあはあ、遼真、大丈夫よ。お前への攻撃は母が守ります」
「くそー、早く何とかしないと母様が・・・」
再び遼真の瞳が明るく大きく金色に輝き始めた。
今度は魔物の首と四肢の根元に太い跡が入り始める。
『グワッ』
『ブチン』
『ブチャ』
遼真は念力により魔物の首と手足を千切れ飛ばした。
しかし、首と手足はジリジリと元の身体へ戻ろうと動いている。
遼真は死なない魔物に驚いた。
「母様、魔物が死にません」
「この魔物は力が強いから簡単にはいかないのよ。今のうちに逃げましょう」
二人は魔物を見ながらゆっくりと慎重に後づさったが、
生き残っていた河童が、隙を見て魔物に近づくと首を身体へくっ付けた。
すると手足がそれまでと違い素早く動きくっ付いた。
八重は急いでその河童を編んだ霊糸で緑の液体へ変えたが遅かった。

復活した魔物は、牙を剥いてニヤリと笑うとジリジリと近づいて来る。
八重が霊糸を飛ばしても、遼真が念力を込めても手で掃われてしまう。
今度は千切れた手が別々に二人を襲ってくる。
八重が霊糸を丸く網の様にして二人の周りを守っている。
二人を前面と背後から攻撃してくる。
それらの時間が経てば経つほど、
八重の張っている霊糸の網は徐々に綻んできているのがわかった。
『はあはあ・・・くっ・・・』
母の呼吸が早くなり苦しそうな声が漏れてくる。
魔物から再び黒い槍が放たれた。
その時、突然二人の前に白い光が走った。
『クーン』
『パシュッ』
空間を跳んで来たカインが現れて『真空波』で黒い槍を切り裂いた。
「カイン、よく来てくれたわね。ありがとう。助かったわ」
「クーン」
しかし、魔物から続々と黒い槍が放たれる。
その度に八重とカインは撃墜していくが一向にその勢いは収まる事が無かった。

その最中、遼真は以前母から聞いた『霊滅』の話を思い出した。
遼真はじっと魔物を睨み、
「霊滅」
と声が発せられ、
そして広げられた手が魔物へ向けられる。
突然、魔物を中心とした地面に「光の五角形」が描き出される。
魔物が驚いた様に立ち止まる。
遼真も一瞬驚いた様に自分の手を見たが、
急いで魔物へその手と目を向け直した。
遼真は再び「霊滅」と叫んだ。
魔物はその五角形の中から出ようとしているが動けなかった。
そしてしばらく経つと
「光の五角形」は柱上の光の筒となり回り始める。
中の魔物は光の筒の中でじっとしている。
八重の脳裏にその光景が映されている。
「遼真、お前、霊滅の力を得たんだね。すごいわ。
 まだ6歳にもなっていないのにそんな力が・・・」
魔物は光の筒の中で、その黒い鱗が徐々に剝がれて広がっていく。
その黒い鱗は光の筒の壁面へ着くと白い光となって消えていく。
魔物の身体が徐々に小さくなり最後に黒い丸い塊だけになる。
その黒い丸い塊も膨らんだ様に飛び散った。
『ウギャー』
と魔物の悲鳴が聞こえてきた。
「母様、やった・・・よ・・・」
遼真にそこからの記憶は無い。
気がついたら家に帰って母の胸の中で眠っていたのだ。
遼真は母の心臓の音が、いつもより早く弱くなっていることに気がついた。
その日から八重はずっと寝たきりで過ごすようになった。
八重は霊能力を限界以上に使い過ぎてとうとう身体が壊れたのだった。

八重の実の両親も時々顔を出して必死で八重の体内へ命の気を吹き込んでいるが、
重い心臓病を患っている八重の命の炎は、たとえ両親から命の気を吹き込まれても
小さい穴の開いた風船のように少しずつ縮み、命の炎は小さくなっていった。
遼真は横になっている母が見える庭先で木刀や立木の修行を続けた。

この怪事件は、東北・北海道地方でも同様の妖怪(水虎と河童)で騒ぎとなったが、
桐生一族が闇のうちにそれらを退治して、都市伝説にさせた。
特に一族の本拠地の京都で、二人だけで解決した「遼真と八重親子」は、
一族で大変評判になり、この二人を一族の中で知らぬ者はいなくなった。
遼真の力の強さを認識した祖父令一を始め、一族の重鎮は遼真の教育に腐心した。
まかり間違えば『魔人』を育ててしまう可能性があったからだった。

その後、遼真は水虎を『霊滅』で倒した後のことを母から聞いた。
その時の遼真は、意識を無くして倒れており、
その額には鬼の様な小さな角が生えていたらしい。
魔に魅入られていつ憑依されてもおかしくないくらい霊的バリアーが無いことに気がついた母は、急いで遼真の身体を霊糸で繭の様に包んで悪霊から守った。
八重の命の一部でもある霊糸の一部を切り離し、
その霊糸を家まで飛ばして現在の二人の危機的状況を伝えた。
その時、家に届いた霊糸の存在を知った祖母の朋絵が、
二人の危機的状況を知り、
一族の者を従えて二人の居る神社へと来て助かったらしい。
その時の八重は青白い顔色で立ち上がることもできずに
ただひたすら霊糸の繭に包まれた遼真を抱きしめているだけだったようだ。

遼真の6歳の誕生日、急に母の体調が良くなり、
みんなと一緒に晩御飯を食べてケーキを食べて祝った。
その後、母から
『遼真、久しぶりに一緒にお風呂に入って寝ましょう』と誘われたのだった。
その夜はお風呂で幼稚園の色々な話をして、
久しぶりに母と一緒に寝ることが出来た遼真はとても嬉しかった。
ここ最近、ずっと安全な家にいるため、
母の出す霊糸をあまり見ることが無くなり
母の存在が薄くなった気がして少し寂しかったのだった。
「母様、私の木刀に名前を付けました」
「へえ、どんな名前なの?」
「龍の尾と書いて、りゅうびと読みます」
「それは強そうな名前ね」
「龍の硬い鱗で覆われた尾の様な、
 どんな硬い物でも砕く様な一撃を出すようになりたいのです」
「そんな一撃をお前ならきっと出すことができるわ。
 だってお前の父様は『桐生一族には二匹の龍がいる』と言われた
 二匹の内の一匹の龍だった人なのだから」
「父様は龍と言われたの?
 私もがんばって父様の様に龍になります」
「はい、お前ならきっとなれるわよ」
「これからずっと母様は僕が守ります。
 母様、一日も早く身体を治して下さいね。
 また前の様に一緒に外に出て歩きたいです」
「はい、今のままずっと修行をしていけばお前は龍にも何でもなれるわよ。
 私はどんなことがあっても父様とずっとお前を見守っています」
「はい、母様、おやすみなさい」
と遼真は久しぶりに母の胸に抱きついた。
大好きな母の胸からは弱い鼓動が遼真の耳に響いてきた。

遼真は急に体調の良くなった母に、
それを辛そうに見つめている祖父母の視線から嫌な予感を感じたが、
その予感を振り払う様に精一杯大好きな母に甘えようと抱きついた。
母はいつまでも遼真の頭や背中を愛おしく撫でている。
遼真は久しぶりに母の胸でぐっすりと眠った。
その夜の夢は、
親子三人で遼真の誕生日を祝ってケーキを食べている夢だった。
明るく笑う父様、
優しく見つめる母様、
ケーキに立てられた6本の蝋燭を吹き消す遼真、
父様より渡された誕生日祝いは、白い五芒星が描かれた『龍尾』だった。

その翌日、
目覚めた遼真は母の身体が冷たくなっていることに気がついた。
見上げると目を閉じたまま綺麗な優しい笑顔の母がいた。
遼真は、枕元の龍尾の鞘に白い五芒星が描かれていることに気がついた。
「母様、さようなら。
 今までありがとうございました。
 私は母様の力も受け継ぎました。
 これからもがんばって修行します。
 父様と一緒にいつまでも私を見守って下さい」
もう再び目覚めぬ母を抱きしめてその耳元へ呟いた。
母を見つめる遼真の目から一筋の涙が流れた。