はっちゃんZのブログ小説

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5.白猿(びゃくえん)との戦い(第5章:真美を救え)

『きゃあ、あっちに行って。こっちに来ないで。いやー』
突然、真美から悲鳴が送られてきた。
『真美、どうした?』
『赤い涙を流した怖いおばちゃんが私に入ろうとしてるの』
『えっ?真美に?』
『いやー・・・』
『真美、真美、どうした。返事しろ』
それ以降、真美からの声は途絶えた。
遼真は師匠から『弱い霊なら真美の魔眼で自縛されて動けない筈だ』
と聞いて安心していたのだが、魔眼が通じない相手なのかと焦った。

居てもたっても居られず、
真美を救出に向かおうと立ち上がった瞬間、
頭上の木が『ザーザー』と鳴り始めた。
見上げると付近から多くの猿達が集まってきている。
遼真の目の前に白い鬣《たてがみ》の巨大な猿が飛び降りてきた。
真っ赤な顔をして金色の目で睨んでくる。
口元から鋭い牙が見えている。
その肩には人間の大人の女性が担がれている。
顔は見えないが、ぐったりとした身体からは意識が無い様に見える。
巨大な猿は、肩に担いだ女性を地面にドサッと降ろした。
「白猿《びゃくえん》、
 我らに邪魔立てするその子供を殺しておしまい」と声が響いた。
洞《ほら》から、真美が立ち上がって睨んでいる。
『やめて、遼真様にひどいことしな・・・』と声が小さくなる。

遼真は、リュックサックから木刀の|龍尾《りゅうび》を抜いた。
白猿《びゃくえん》と呼ばれた大猿はじっと遼真を見ている。
一瞬にその距離を詰めて巨体が跳んでくる。
大きく開かれ鋭い牙が剥き出ている口を、
正面に構えた龍尾《りゅうび》で受ける。
『ガッ』
『ビュ』
と同時に管狐『カイン』の尾から"真空波《かまいたち》"が放たれる。
しかし大猿は、それを両腕で避けて次の一瞬で後方へ跳んでいる。
カインの攻撃で白い鬣《たてがみ》の大猿の腕に切り傷が入り、
その長い鬣《たてがみ》の毛の何本かが地面に落ちた。
目を狙ったのだが、腕で防がれたのだ。
龍尾《りゅうび》の刃部分に大猿の牙の跡が残っている。
遼真は『この大猿を仕留めるのは無事では済まない』と感じた。
遼真の心は"早く真美を助けたい心”で一杯だった。
とっさに胸ポケットにある"護心符"を丸めて飲み込んだ。

遼真はじっと大猿を見つめた。
遼真の瞳孔の縁取られる金色の帯が太くなり始める。
それが瞳孔一杯に広がり、瞳全体が金色に輝き始める。
遼真の頭から角らしき物が生え始めている。
大猿が怪訝な顔をして見ている。
途端に首を掻き毟り苦しみ始めた。
遼真は、この大猿を早く倒そうと
無意識に”観念動力《かんねんどうりき》”を使っていた。
俗に言う”念力サイキネティクスPK”だった。
次第に大猿の首に紐が掛けられ締められていく様にその跡が窪んでいく。
『グッ』と声が漏れ、
その大猿は目を剥き口角から泡を噴いて倒れた。
しかし倒れた筈の猿は、
大猿ではなく普通の小さな猿に変わっている。
別の方向から遼真へ白い大猿が襲ってきた。
その攻撃も龍尾《りゅうび》で防ぐ。
どうやら大猿の本体は、霊体で仲間の猿へ憑依しているようだ。
この猿を倒しても白い大猿の霊体を他の猿へ憑依されると
戦いが無限に続くことになるため不利と考えた。
今度はその大猿へ軽い”観念動力《かんねんどうりょく》”を使い、
しばらく動けなくさせて、
今度は『霊滅』と唱えた。
この技は、敵の霊体そのものを霊分子レベルまで分解する技で
一度分解された霊体はこの世にもあの世にも何処の世にも
二度と戻ることは無く存在そのものが無くなると聞いている。
師匠の祖父からは、
『お前にとっても敵にとっても最後の技だから使う時を考えなさい。
 大変な力を使う技なので、
 仮に使えば今度はお前の身体の霊的防御が無くなり、
 お前が別の霊に憑依されて
 お前自身が悪霊になるかもしれないから注意しなさい』
と言われているが、それを考えている暇は無かった。
とっさに一か八かで飲み込んだ"護心符"の力を信じた。

初めて使う大技だが、
可愛い真美を取り戻すためには仕方なかった。
遼真はじっと大猿を見つめる。
動けない白い鬣の大猿の周りに
『ボッ』と白い五角形が浮かび上がる。
五角形からの光が上の空間へ伸びて光の柱となる。
その五角形の光の柱が回り始めると、
大猿の身体の表面から黒い粒の様な物質が吹き出し始める。
吹き出した黒い粒が、
吸い寄せられる様に光の壁に当たると雲散霧消していく。
大猿の身体が徐々に小さくなり、白い|鬣《たてがみ》も消えている。
大猿の悲鳴が漏れてくる。
鋭かった眼光は弱くなり始め、
鋭い牙の見えていた口を大きく開けながらその場へ倒れていく。
最後に焦点の合わない目で真美の方を見つめながら動かなくなった。
その後には、小さな猿が倒れているだけだった。
洞の周りにいた多くの猿は、
その力に恐怖を感じたのか悲鳴をあげてその場から全て逃げ去った。

『ウギャー・・・アウッ・・・キャウ・・・』
「白猿《びゃくえん》、
 どうしたの?・・・
 今の悲鳴は何?・・・
 声を聞かせて、どこに行ったの?
 シロ・・・
 私の可愛いシロ・・・どこに行ったの?」
『遼真様、やっと話せたわ。
 私は無事だけど、私の身体に怖いおばちゃんと二人で入ってるの』
『真美が無事なら良かった。お前をさらった白い大猿は倒した・・・』
『遼真様、急に声が聞こえなくなったわ。遼真さまー・・・』
真美の声が聞こえた時、
安心した遼真は力を使い果たしその場に倒れていた。

「遼真、大丈夫か?」
遼真が倒れた場所へ師匠の祖父令一が現れた。
遼真の身体を見て、
怪我と悪霊に憑依されていないか確認をして一族の者に遼真を預けた。
令一は横たわる猿の周りにある“霊滅陣”の痕跡を見ていた。
「嫌な予感はしていたが、とうとうあの力を使ったのか・・・
 まあ、憑依される前にここに来れて良かった。
 しかし、あとで事情が明らかになった時、
 心優しいこの子が傷つかなければいいのだが」と呟いた。

頭領の令一は、大きな木の洞から真美を救い出した。
少し埃で汚れているが身体に異常は無かった。
真美の身体に憑依した悪霊は不利と悟りすぐに出て行き、。
白猿が連れて来た女へ憑依し、
まるで猿の様な動きで高い木の枝へと移動して
何かを探すかの様に不安そうに見回してじっとしている。

いつもは二人で京丹波家|館《やかた》内の諸事を差配している真美の両親のうち、
母親だけがこの場に来ていて我が子を抱きしめている。
「遼真様がそばにいたから真美は怖くなかったわ。
 だから泣かなかったわ。
 ねえ、遼真様は大丈夫なの?
 怪我はしていないの?」
「ああ、遼真様は無事だよ。
 遼真様もお前もよく頑張ったね。偉かったよ」
と母親が涙ながらに答えている。
真美は急いで地面に寝ている遼真のそばに座ると心配そうにずっと手を握っている。
「遼真様、遼真様のおかげで真美は大丈夫でしたよ」とずっと声を掛けている。