はっちゃんZのブログ小説

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1.入学(第9章:魔族の蠢動)

目黒にある遼真の生家である神社の敷地内へ
新たに北星皇子神社を創建してから1週間経ち、
遼真がシシトー神よりその力の一部を授かった翌日の金曜日。
境内を彩る桜の木から花びらが春の風にのって社務所の窓から舞い込んでくる。
この春、真美は無事高校を卒業し、晴れて遼真の通う大学へ入学した。
入学した学部は遼真と一緒の「歴史学部」だった。
入学式には京都から真美の父真也や母美桜そして妹里桜が上京して来て
大学生となった姿を見て大いに喜んでいる。
父親の真也に至っては久々に見た娘の大きくなった姿に涙ぐんでいる。
真美の高校時代の友人も一緒の様で集まってみんなで写真を撮っている。
真美の両親も妹も遼真にとっては幼い頃から知っている人達で懐かしかった。
遼真は運転手に徹して真美一家を送り迎えしている。
入学式に出席しているスーツ姿の真美は驚くくらい大人っぽくなっていた。
その夜は、家政婦のウメさんの作ったお祝い料理に舌鼓を打った。
真美一家は客間に泊まり、翌日土曜日は朝早くから東京見物に出発した。
予約していた東京タワーとスカイツリーに昇り、浅草の浅草寺にお参りし、
お昼は里桜が初めてだと言う『月島名物のもんじゃ焼き』を堪能し、
その後みんなで皇居内を歩いて、真美の両親は娘が元気であることに安心し、
遼真へ真美のことを強くお願いして東京駅から新幹線乗って帰って行った。
真美は久しぶりに家族に会い、別れるとなると寂しくなったのか
新幹線のプラットホーム上で
席に座った家族の姿が見えなくなるまでいつまでも手を振って涙ぐんでいる。

翌週の月曜日から真美はオリエンテーションの期間で忙しく通っている。
同じ新入生には学部は異なるが、高校時代の友人の一人で工藤真奈美がいる。
真奈美は「文学部」へ入学していて、将来は学校の先生を目指している。
彼女の一番下の妹瑠海は心臓移植をした後、
一時期悪夢に悩まされていた様だが今では日毎に良くなっていて真美は安心した。
(第7章:私の中の誰かを参照)
二人は一年生の基礎講座は同じ物が多かったので一緒に受ける事にしている。
同級生は男女共にやや大人しいファッションの人が多く、
キャンパスですれ違う上級生もあまり奇抜なファッションの人はいなかった。
さすが都内でも有数のお坊ちゃまお嬢様学校と呼ばれているだけはあった。

そんな時、真奈美から真美へ『新入生歓迎コンパ』へのお誘いがあった。
新入生で特に女子は会費も不要でお得との話だった。
昨年まではこのようなイベントは無かったそうだが今年から始まったと言われ、
クラスの男子から『上級生からみんなに声を掛けておいでと言われた』と
女子へも声が掛けられて多くの人が出席するらしい。
女子高出身の真奈美は少し怖いけど興味があるようで、
かといって一人で出るほどの勇気もないからと真美を誘ってきた。
今週は遼真が長期出張でいなくて暇だったし、
真美は同級生の男子には全く興味も無かったが、
女子校育ちでお嬢様の真奈美を一人で行かせるのも心配だし、
多くの同級生の女子とも仲良くなれるならいいなと思い一緒に出ることにした。

「遼真様、今頃どうされているかしら・・・。私も行きたかったなあ・・・」
ある夜、テレビを見ながら独り言を呟いていると家政婦のウメさんが、
「真美ちゃん、遼真様は遊びに行ってる訳じゃないからね。
 それに新入生はオリエンテーションがあるから一緒に行けないでしょ?」
「わかってます。わかってますけど・・・」
「それに先週の日曜日に二人きりで出掛けたんじゃなかったかい?
 あんなに朝早くから夜遅くまで外出してきたじゃないか」
「うん、そう・・・すごく楽しかったし嬉しかったわ」
「なら、今週くらいは我慢しなきゃね」
「はーい、でもやっと一緒に大学へ行けると思ってたのに・・・」
「まあその気持ちもわかるけどねえ。
 でもあなたはいまそれどころじゃないんじゃないの?」
「なんで?・・・あっ、そうでした・・・」
「最近、朝の鍛錬に力が入っていない気がするのは気のせいかね?」
「・・・ごめんなさい。確かにその通りでした」
「まあ、真美ちゃんが自分の気持ちに素直なところは

 遼真様も気に入ってるからいいけど、
 喉元過ぎれば何とやらですぐに安心しちゃうところがあるのは少しねえ?」
「あ、はい、その通りでした。ごめんなさい」
「まあ、真美ちゃんのそういうところも気に入ってるみたいだけどね」
「そう?やったね」
「そう、真美ちゃんを、いつまでも目の離せない『妹』としてね」
「!・・・えっ?『妹』?・・・そうなんですか?」
「そう、真美ちゃんが常々嫌だと思ってる様な『妹』ね・・・」
「あーん、ヤダー、もう私は大学生になったのに・・・」
「そういう単純なことですぐに安心するから、いつまでも妹なのよ」
「・・・」
「遼真様は察しの悪い所はあるけどとても優しくて大きな人。
 両親も兄弟も居ない遼真様にとって
 真美ちゃんは唯一の妹みたいな存在なのだろうねえ」
「私にとっても遼真様はいつも優しくて強い兄みたいなものだったわよ」
「このまま行くとそれ以上にはなれないねえ」
「・・・そうだよね?ウメさん、どうしたらいい?」
「さあね。遼真様の心はよくわからない。
 ただ真美ちゃんを本当に大切に思ってることだけは確かだね」
「私が頼りないからいつもそう思われてるのかしら・・・」
「そうじゃないと思うけど、どうしても真美ちゃんを守りたいみたいね」
「それはすごく嬉しいんだけど・・・信用されてないのかなぁとも感じるの」
「うーん、信用していないとは思わないけど、
 一族で遼真様ほど幼い頃から強い力を発揮してきた男はそういないよ。
 遼真様にとっては誰であっても自分が守る対象なのかもしれないね。」
「そうなのかな・・・遼真様にとっては誰でも同じなのかな・・・」
「真美ちゃんは生まれた時から傍に遼真様が居て兄妹の様に育ってきてるから
 色々な感覚も心も通じ合う所もあったと思うの。
 そのために二人が戦う時に駆使する術も
 単に二人の通じ合い易い術が発現しただけかもしれないとも考えることがあるわ」
「そんな・・・」
「最近、一族でも色々な力が出て来ている者が増えてきていると聞いてるの。
 真美ちゃんと同じ力を持つ者も生まれたと聞いたわ。まだ力は弱いけどね。
 我が一族は晴明様の血筋だから様々な術を持つ者が生まれやすいの。
 その時代、その時代で一番相性の良い術者同士が組んで敵と戦ってきたのよ。
 最近は手伝ってないけど夢見術の夢花ちゃんと同じ力は真美ちゃんには無いよね?
 色々なもしがあるけど、
 仮に夢花ちゃんが昔からの真美ちゃんと同じ場所に居たとしても
 彼女は今までの遼真様と真美ちゃんの様に一緒に戦えないと思うわ。
 そして今後は敵の力によって戦い方も色々と変えないといけないかもしれない。
 それを考えると遼真様の『霊滅』以上の強い術が無いうちは
 あなたの様な『自縛印』の出来る術者が必要でしょうね」
「この前、遼真様はシシトー神さまから新たな力を授かったわ。
 今はまだまだらしいけど最高レベルまで練度を上げれば、
 霊体であれ肉体であれ同時に縛り上げ切り刻むことができる力と聞いたわ」
「真美ちゃんには酷な話かもしれないけれど、
 そうなれば将来的には自縛印は不要になるという事よ。
 ただ霊にも痛みを味あわせたくない遼真様が、
 その肉体も霊体も切り刻む様な術を使うかどうかは疑問だけどね。
 このまま行けば遼真様は、次期頭領に決まると私は見ているわ。
 現在の所は真美ちゃんとの術の相性が良いから一緒にいるけど、
 今後、真美ちゃんの術よりもっと相性の良い術の人間が出て来るかもしれない、
 もし将来に遼真様に新しい力が発現してきたとしたら今のままではいないし、
 一族としてはより最適な術を持つ相方を探し出してつけることになるわ。
 真美ちゃんも大変な人を好きになっちゃったね」
「せっかく竜神様から新しい力が目覚めつつあると聞かされたのに・・・。
 私では遼真様の役に立てない場合もあるの・・・そうよね・・・」
「あれほどの力を持っても毎日の様に辛い修行をしながら
 関東の霊的礎を点検して、定期的に補修している姿を見ていると
 あれ以上頭領に相応しい人間はいないと思うし、
 今後も遼真様を絶対に守らなければ東京や関東地方いや、

 この国の霊的平穏は無いわね」
「そう、遼真様はこの国に絶対に居なくてはいけない人、
 なのに自分を大切にしないで自分が傷ついても周りの人を助けるのです」
「強い力を持つことは強い責任を持つと考えているのでしょうね」
「だからこそ、一緒に居る私が遼真様を守らないといけないのに出来てないの。
 はあ・・・いつまで経っても後ろ姿しか見えない・・・」
「一族としても力はずっと継いでいかないといけないけど難しいわねえ。
 いくら強くてもこの前の様に神様相手では普通は勝てないしねえ。
 昔から強かった人もたくさんいたけれど生き残っている人は少ないね。
 だからこそ跡継ぎを早く多く作るのがいいのだけれどそううまく行かないしねえ」
「ねえウメさん、それはそうと頭領の凄いお力の話は聞いていますが、
 奥様の朋絵様はどのようなお力をお持ちなのでしょうか?」
「さあ・・・それははっきりとは知らないけれど、
 そのお力は真美ちゃんと遼真様の様な組み合わせではないかしらねえ」
「えっ?私と遼真様と同じ様な組合わせ?」
「うん、はっきりとは知らないけれど、
 確か頭領も遼真様と同じ様に霊を滅する力があると昔からお聞きしてるわよ。
 よくはわからないけど確か朋絵様は、
 霊体をある一定の空間に閉じ込める力があるとお聞きしたことがあるよ」
その時、偶然禰宜の智朗さんが顔を出して
「そうだよ。確か頭領は『炎滅』と言って
『霊体を浄化した炎で燃やしてしまう力』とお聞きしているよ。
 ああ、それと思い出した。
 遼真様の父親の龍司さんは、『握滅』と言って、
 『霊体を狭い空間に閉じ込めて一点に収縮させて潰す』とお聞きしたことがあるよ」
「『炎滅』に『握滅』・・・すごいお力ですね・・・
 遼真様の『霊滅』はそれとは違って霊体を少しずつ分解していきますね。
 そんなんだ・・・朋絵様は霊体を空間に固定する力、
 八重様は霊糸で霊体から攻撃を防いだり霊体を固定し動けなくさせる力か・・・」
「そうみたいだね。
 確か遼真様のお母さんから私が小さい時に話してくれたことがあったな。
 『遼真は心の優しい子だから霊にも痛みを与えたくないらしいわ』
 と笑っていたことを思い出したよ。
 それを聞いた時、私はどんな者にも優しい遼真様らしいなと感じたよ」
「そうそう、その光景は私も遼真様と一緒に戦った者から聞いたよ。
 何とその力は6歳の時にお母さんと一緒に戦った時に初めて出た力のようだね。
 それと、でも確か5歳の時、そうそう・・・
 真美ちゃんが誘拐された事件ではそれとは異なる力を使えたって聞いたよ」
その事件の時、意識を失っていた真美にその力を見た記憶は無かった。
幼かった真美が覚えているのは、その事件の後に両親から、
真美の為に遼真が魔人となり一族の者に殺される可能性があったと聞いた事だけだった。