はっちゃんZのブログ小説

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2.新入生歓迎コンパ1(第9章:魔族の蠢動)

今週遼真は丹波篠山へ『獅子刀神社』創建のために出張している。

遼真がシシトー神様へ色々と好みなどお聞きして相談しながら創建するのである。

一族から多くの人間が集まっているが神様にお聞きする役目は遼真だった。

歴史のある宍戸家の広い敷地の入り口に立派な鳥居を備え付け、

奥にある石室をご神体の御座所として前面に本殿を建てる。

境内は石板を敷き詰めて参拝路を作り、

手水舎を建て、敷地の周辺を石柱で囲い神域とした。

これらは何と一族の関連会社が突貫工事で行ったため、

白木の香りも鮮烈な真新しい神社がほんの2週間で出来上がった。

その後は、元々あった宍戸家を社務所として改装し、

桐生一族から宮司を入れてシシトー神を丁寧にお祀りする予定だった。

「真美、今夜は楽しみね」

「・・・うん、そうだね」

「何か元気無いけどどうしたの?」

「いや、別にそんなことないよ」

「そういえば、真美の好きな遼真さんを最近見ていないね」

「真奈美、好きとかそんなんじゃないから」

「そう?真美が遼真さんの話をする時はすごく嬉しそうだよ。

 それにあんなに優しそうな人ってそういないよ」

「そう・・・かな・・・今ちょっと出張していないの」

「ああ、それで元気が、ふーん、寂しいし遼真さんのこと心配だね」

「そんなことないわ。遼真様は強い人だから心配はしていないわ」

「それならいいけど。無理言って真美を誘ってごめんね」

「ううん、それはいいの。私も他の女の子と知り合いになれるから」

「そう?じゃあ、良かった。

 私、小さい時から男の子と話す機会が無かったから不安だったんだ。

 最初はうちの父にコンパに出る事を反対されたんだけど、

 コンパは真美と一緒だから心配しないでと言えば安心したみたい。

 とにかく真美は我が家では圧倒的に信頼されてるのよ」

「へえ、そうなんだ。じゃあ今日は私が真奈美を守るね」

「ははは、そんな会じゃないから心配しないでいいんじゃない?

 それにつまらないなら帰ればいいしね。

 そしたら二人で美味しいスウィーツを食べに行きましょうよ」

「そうね。その時はそうしましょう」

やがてオリエンテーションの時間は過ぎていく。

真美と真奈美が入ったコンパの会場は

大学の近くにある古いビルの地下の広いセメント打ちっ放しの一室で、

分厚い木製のドアを開けて入って行くと、

壁が派手な電飾で飾られており、正面には緞帳が降りた大きな舞台があった。

その脇に司会者用の細い演台が備え付けられている。

「みんなー、こんばんはー。

 僕は今日のコンペの司会をさせて頂く、3年生のリッキー鶴見です。

 リッキー先輩と呼んでね。

 今日はこのコンパに出席して頂きありがとうございます。

 この春から新しく大学生になって将来の夢と希望に燃えていると思います。

 実はこの『新入生歓迎コンパフェスティバル』は今年初めての試みでやっています。

 私と有志が今年の初めに考えました。

 このフェスティバルの運営資金はこの大学卒業者のいる多くの企業から集めました。

 この会は上級生の我々が主催していますので安心して飲んで食べてくださいね。

 もし気分が悪くなったらいつでも事務局へ声を掛けてくださいね。

 休憩できる部屋も用意していますので安心してください。ではみなさん乾杯」

会場の真ん中には大きなテーブルがありオードブルや料理などが並んでいて、

上級生と思われる人が会場のあちこちに飲み物を作るブースの後に立って、

未成年が相手にも関わらず平気でアルコール類も作り渡している。

真美と真奈美は未成年のためアルコール類は断り、

ジュースのコップを持って新入生の女子達と色々と話しながら時間を過ごした。

突然、緞帳が上がりスポットライトが舞台へ当たる。

「さあ、では今より上級生による音楽フェスティバルです。

 最初は、我が校のフォークソンググループ『ゆーつー』です」

数人のフォークギターとベースとドラムのグループによる演奏、

その後、数人の女性グループによるダンスショー、

学生マジシャンによる玄人はだしのマジックショー、

最後は、大音響のロックミュージックで締めくくられた。

多くの新入生は中学高校時代とずっと勉強ばかりしていたため、

こんな華やかな場所は初めての様でその経験に驚き興奮していた。

何人かの男の子は、初めてのアルコールのためかどうか知らないが

数人の先輩と仲間に抱えられて会場を出て行く。

やがて数人の女の子も先輩に支えられ部屋を出て行っている。

「真美、今、すごかったね。

 ふう、喉が渇いたから追加のジュース貰ってくるね」

「真奈美、お願いね」

真奈美が飲み物ブースへと歩いていく姿が見える。

『?!』

ふと真美が薄くジワリと囲まれる何かの気配を感じたが、

その気配は微弱過ぎて何もわからなかった。

偶然、スマホをみる機会があって確認した所、なぜかアンテナが立っていなかった。

真美はふと部屋の片隅で立っている同じ年くらいの女の子に気がついた。

その子は手にコップも何も持っていない。

その子に真美が近づいていく。

「こんにちは。どうかされましたか?」

「はい、あなたは私が見えるのですね?」

「はい、見えますよ。私は桐生真美、お名前は?」

「私は、中野飛鳥です」

「飛鳥さんですね?こんばんは、何かありましたか?」

ふと彼女の足元の部屋の隅にはイヤリングの片方が落ちている。

真美がイヤリングを拾う。

「飛鳥さん、あなたの物ですね?」

「はい、好きだった先輩に頂いた大切な物なんです。ありがとう」

真美は、そっとイヤリングを両手で挟み込み、

静かに「憑依分離術」の呪文を唱える。

この術は物へ憑依している思念体を霊体化させて取り出す術である。

そのイヤリングは白く輝き実体と霊体の二つに分かれ

霊体(思い)で出来た方のイヤリングを霊体の飛鳥の耳へと付けた。

飛鳥さんはやっと両耳に大好きだった人から贈られたイヤリングを付ける事ができたと喜んでいる。

そして必死な面持ちで

「真美さん・・・実は・・・」

「真美、はい、ピーチジュースで良かった?」

「うん、いいよ。ありがとう。ねえ真奈美、少し座らない?」

「うーん、せっかくだからあの女子達と話してくる。真美はどこに座ってる?」

「じゃあ、私はこの近くのあの席に座って休んでおくね。真奈美お酒には注意して」

「わかってるわよ。

 もしお酒なんて飲んだらお父様に今後の外出が許されなくなっちゃうわ」

「わかってるならいいわ。じゃあ、いってらっしゃい」

真美は真奈美と離れて、真奈美の姿からは目を離さずに近くに席に座った。

「飛鳥さん、こちらへどうぞ」

その隣に中野飛鳥が座る。

「はい、ありがとうございます。久しぶりにお話が出来て嬉しいです」

「飛鳥さん、どうしてここにいたのですか?」

「はい、私はここで死んだのでここから出られないのです」

「ここで亡くなった?

 飛鳥さん、あなたに何があったのですか?」

「真美さん、私は昨年ここの近くにある女子大に入学したのですが、

 その時、このようなコンパが開催される大学内でも声を掛けられて

 珍しい経験だと思い出席したのです。

 その時も初めての開催と言っていました。

 その時、お薬で眠らされ犯されてそれをビデオに撮られて、

 返して欲しければお金を出せ、お金が無いと言ったら身体で稼げと言われて

 最後には両親にも言えず悲しくなって自ら死んだのです」

しばらくするととても大学生とは思えない雰囲気の男性が近寄ってくる。

派手な長い金髪に瞼や耳や唇にたくさんのピアスが付けられ、

首元で揺れる金のネックレスがジャラジャラ音を立てている。

「真美さん、そのジュースを飲んではいけませんよ。

 あの男が来ても目を瞑って眠っているふりをしてください」

「?・・・はい、わかりました」

「もしもしお嬢さん、

 大丈夫ですか?・・・

 ご気分は如何ですか?・・・

 と言ってももう寝ちゃってるよなあ。

 本当に良く効く薬だよなあ。

 さすがGDコーポレーションの薬だな。

 毎年大学を変えて開催するからすぐにばれないしちょうどいいな。

 おーこれは綺麗な女だな。

 これはあの友達と言い二人とも上玉中の上玉だな。

 肌の色も真っ白だしスベスベして触るたくなっちゃうね。

 でも目を覚まさせたらボスから叱られるから我慢だな。

 しかし本当に綺麗だな。この子のビデオは相当に売れるね」