はっちゃんZのブログ小説

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8.捜査3(東アジア平和会)(第8章:占い死)

遼真が丹波篠山で事件を探っていた頃と同じ頃、
警視庁迷宮事件係(通称|038《おみや》課)宮尾徳蔵警部と小橋光晴刑事は、
刑事部屋の中でいつもの様に出涸らしのお茶を飲みながら話している。
「宮さん、最近あの二人に会う機会がないですね」
「二人?ああ、桐生遼真君に真美君か?」
「そう、この頃、彼らと関係する事件がないですね」
「まあそうだな。でも彼らに頼む様な事件が無くていいんじゃないか?」
「まあね。でも真美ちゃんの料理を思い出すと涎が出るんですよ」
「お前ね。あの子を家政婦か何かと勘違いしてないか?」
「そんなことないです。ただ本当に料理屋より美味しいなと思って」
「まあそれはな俺もそう思う。
 でも真美ちゃんには危ない事をさせたくないな」
「それはそうですが、最近、やたら人が死んでいくじゃないですか。
 それも有名な人や政治家や経済人とかが目立つじゃないですか?」
「何もそれに限らないだろ?
 他に理由はわからないがヤクザや|薬《やく》の売人もたくさん死んでるしなあ」
「まあヤクザや売人はどうでもいいんですよ。堅気さえ被害に遭わなければね」
「お前ね、ヤクザや売人だからと言ってそれは云ったらだめなんじゃないか?」
「まあここだけの話。オフレコっていうやつですよ」
「わかった。そうしとく。
 それはそうと・・・この前話があってな」
と宮尾警部は親指を立てる。
「いよいよですね。何の事件ですか?」
「ああ、以前馬場元総理のテロがあっただろ」
「確か3年くらい前ですかね?
 宗教2世の若い男が母親が入信して生活で苦労したから
 選挙協力とかで関係のあった政治家を憎くて殺した事件ですよね?
 でも確かテロリストは留置場で死にましたよね?」
「そうだ。ただあいつ、出口が入っていた組織のことだ」
「あいつの入ってた組織?」
「おう、そいつは母親の入信した教団を退会して、
 その後ある組織に入って色々と吹き込まれたらしいぞ」
「へえ、あの事件の裏にそんな事情があったんですね。
 それでそれはどんな組織なんです?」
「隣国の人間が主要メンバーの“東アジア平和会”と言って、
 今はすでに解散して無いようだ」
「“東アジア平和会”?なんか胡散臭い、如何にもと言った名前の組織ですね」
「そうだろ?
 自分たちで東アジアの平和を乱してて平和会も何もあったもんじゃねえな」
「そうですよ。でも解散してたらもうわからないんじゃないですか?
 もしかしたらもう本国へ帰ってるかもしれないし」
「そうだろうと思っていたが、
 隣国のさる筋から彼らが本国へ戻っていないとの話があったそうだ」
「そうなんですか。そいつらどこに行ったんだろうなあ」
「とりあえず明日その組織のあった場所へ行ってみようじゃないか」
「はい、わかりました」

“東アジア平和会”のあったビルは、隣国出身者が借りているビルで
すでにその後には別の人間が開いている“日本生活互助会”が入っている。
二人はさっそくその会社で事情聴取を始めたが、もちろん何も情報は無かった。
テロリスト出口の顔写真を見せたが反応する人間は誰も居なかった。
『馬場元総理を殺したテロリスト』だと話しても、
その事件を思い出したかのような反応はするが、それ以上のリアクションは無かった。
まあ日本人に限らず彼らにとっても死は日常との意識があるのかもしれない。
家主に聞くと“東アジア互助会”の部屋の中の机や椅子は、
以前のままとのことだったので、乳児誘拐事件の時のことを思い出して、
二人は何かヒントでも掴めればと思い遼真に頼んでみることとなった。

丹波篠山から東京へ帰る途中の遼真へ宮尾警部から連絡が入った。
ちょうど東京へ入ったところだったので宮尾警部のいる現場へ向かった。
遼真としても渡りに船だった。
テロリスト出口の情報もいずれ必要になると考えていたからだった。
遼真は真美へ連絡を入れる。
「真美、今、東京へ戻ったところだけど、
 ちょうど宮尾警部から捜査への協力依頼があったからそちらへ向かうよ」
「えっ?えらく急ですね。
 わかりました。待機しておくので又声を掛けてください」
「ありがとう。
 もしかしたら今の事件はテロリストも関係してるかもしれないから
 本当にタイミングが良かったと思ってる」
「遼真様、今夜は警部や刑事さんと一緒に帰ってきますか?」
「そうなるかもしれないな。忙しいのに悪いな」
「いえいえ、今晩は真美特製の晩御飯を用意していますから
 警察のお二人にも必ず話しておいてくださいね」
「わかった。そりゃあ楽しみだな。じゃあまた連絡する」
「はい、あまり無理なさらないでくださいね。では」

遼真が警部たちのいるビルへと到着する。
小橋刑事がビルの玄関で遼真を待っていた。
急いで二人で“日本生活互助会”の部屋へと向かう。
宮尾警部が、来客用の机に座ってコーヒーを飲んでいる。
「おお、遼真君、久しぶりだな。元気だったかね?」
「はい元気でした。宮尾警部や小橋刑事は如何でした?」
「わしたちも元気だけが取り柄だ。今日はすまんね」
「いえいえ、ちょっと色々と動いていてちょうど良かったです」
「色々と?そうなのか?うーん、忙しいのに悪いなあ。
 この前の事件の乳児室の様にちょっと見てくれるだけでいいんだ。頼むよ」

遼真は現在の“東アジア平和会”のメンバーの写真を見せて貰い、
ビルに入る前からそこら辺りに立っている霊体へ写真を見せて聞いても、
“東アジア平和会”のメンバーとは何も関係が無かったため彼らに記憶は無かった。
社員には全員部屋から出て行って貰って、遼真と警部たち3人だけで部屋に入った。
部屋の中にも“東アジア平和会”のメンバーの霊体は居なかった。
「はい、先ずは扉から行きますね」
『真美、今からドンドン送るから頼むよ』
『はい、わかりました。いつでもどうぞ』
そこから遼真は扉や机や椅子などを触りながらサイコメトリーをしていった。
3年前の事なので何とか時間軸を遡って読もうとするが、
相当に強い驚きや思いが無いと残っている情報は少なかった。
しかし、その中から遼真達に関係する会話が聞こえて来た。
隣国系の言葉や顔つきの男たちの顔が浮かび様々な会話が聞こえてくる。

「『イン』さんとあいつは部屋の中で何をしてるんだろうな」
「さあね。今度あの憎き馬場への襲撃を計画してるみたいだけどどうだろう。
 いつもあいつはオドオドして何も出来ない奴なのにねえ」
「小さな頃から宗教で親に心を塗り潰された奴は自分の意思を持てないからなあ」
しばらくすると二人は部屋から出て来た。
深く帽子を被りサングラスをしている『イン』氏が見える。
「じゃあ任せたよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
とテロリスト出口が、ニッコリと笑って握手をしている。
「イン」氏は、事務所を出て行った。
目を凝らして彼の顔を拡大してみた。
どこかで見た輪郭だったが、
顔が何重にも重なっている様に見えて明確にはわからなかった。

違うシーンでは、事務所の男達の話し声が聞こえる。
「あの雑魚の出口があんなすこい事件を起こせるなんて何をやったんたろね」
「ああ、『イン』さんたよね。我々の中ではあの出口が一躍英雄ね」
「そうそう、これて日本の軍国化を遅らせることがてきたね」
「うん、しぱらくしたら本国から『我々に戻れ』と連絡があるたろうな」
「前の様にあの芸能事務所の役者の振りして出国するのかな?」
「ニポンジンに薬を売ったり、女を薬漬けにして外国へ売ったり、
 使えない男は内臓を売ったりと我々もたいぷ儲けたからちょうといいね」
「そうかもね。それはそうと今日『イン』さんがここに来るってさ」
「出国の打ち合わせかな?楽しみね」
やがて『イン』氏が事務所を訪れ、事務所全員を連れて出て行った。
翌日に『イン』氏が入って来て、
机や金庫などの中の書類などをまとめてたくさんの箱に詰めて出て行った。
結局『イン』氏は誰かわからなかった。

しばらくすると別のシーンとなり
「急に契約を辞めるって、あの国の人は訳がわからないね。
 まあ机や椅子とかロッカーはそのまま使って良いらしいからまあいいけど」
「君子、豹変すとかの国だからねえ」
「でも机の中の物を全て捨てろって勿体ないよね」
「まあ使えそうなのは、事務所で保管して使えばいいんじゃない?
 この燃えない物とか捨てるにも曜日が決まってるし使えばいいじゃん」
「そうだね。しかし何をしている会社だったんだろうね」
「さあね。日本人じゃないからもしかしてスパイ組織だったりして」
「へえそうかなあ?何か小説みたいだね。まあ仮にそうだっても驚かないな」
「それにここの跡片付けのお金として、
 あのサングラスの人、ポンと分厚い封筒を鞄から出してたよな?」
「そうそう、これくらいだからどれくらいだろ。
 きっと何百万ものお金なんだろうな。中を見た社長も驚いてたぜ」
「それに領収書も要らないと言って帰って行ったよな」
「本当にスパイ小説みたいに思えて来た」
「このこと本当に他で誰にも話すなよ」
「わかってるよ。あんなにくれたんだから口止め料も入ってるだろね」
「そう、要らないおしゃべりをしたら命が無くなったりしてな」
「ひえぇ怖いよう」
「まあ早く片付けようや。あまり遅いと社長に怒られるぜ」
「はーい」

最後にテロリスト出口と『イン』氏の入っていた部屋の机を触る。
『イン』氏の話を聞いているテロリスト出口の顔が映り始める。
最初はオドオドして下を向いて相槌を打っている。
『イン』氏が、そっと片手を出口の頭の上にかざす。
その瞬間、
『イン』氏の手から赤黒い液体状の物が出口の頭へと落ちる。
それは出口の髪の毛に落ちると頭皮に滲み込むように消えて行った。
徐々に出口の表情が変わり自信の溢れる笑いが出始めた。
それを見た『イン』氏はニコリと笑うと
「じゃあ、もう大丈夫だね。さあもう行こうか」
「はい、任せて下さい。もう大丈夫です」
普段はオドオドしているテロリスト出口が、自信あり気な顔つきで笑った。

『!』

その時、胸ポケットに居るキインが空中を睨むと炎を吐いた。
やはり遼真の身体に貼っていた『身代わり護符』は、またもや二つに切れていた。
『深淵を覗くものは深淵から覗かれる』との意味を再び知った遼真だった。
遼真は記憶にある『イン』氏の顔をもう一度真美へ送った。
『イン』氏が、テロ事件に深く関係してる事がわかった。
後は『イン』氏の正体が、誰なのかを調べる必要があった。
遼真はやっと事件の真相部分に一歩近づいたことを知った。

遼真は、宮尾警部と小橋刑事に捜査結果として以下を伝えた。
ビルや事務所の中に東アジア平和会に関係する霊は居ないこと。
東アジア平和会の目的は、日本の軍国化を阻止すること。
東アジア平和会の資金源は、覚醒剤販売、奴隷販売、臓器販売などで犯罪組織だったこと。
東アジア平和会のメンバーにテロリスト出口がいたこと。
あのテロ事件に正体不明の『イン』氏という人物が深く関わっていること。
東アジア平和会とどこかの芸能事務所が関係していること。
東アジア平和会のメンバーは、芸能事務所の伝手で出国したこと。
しかし、隣国からは彼らが帰国していないと言って来ている点が異なった。
宮尾警部と小橋刑事は、それらについて警察庁内資料にも当たることを約束した。

その夜、遼真は真美からの誘いを宮尾警部と小橋刑事に伝え3人で家へと戻った。
晩御飯は真美が腕に縒りをかけて作った
「パリパリジャンボかき揚げの天丼と大玉ざるうどん」
「具材10種の太巻きとジャンボイナリ寿司」
「鯛身のシンジョの潮汁」
もちろんいつもの様に警部たちも遼真も大喜びで腹一杯食べた。
そして警部たちとコーヒーを飲みながら打ち合わせて夜は更けていく。