はっちゃんZのブログ小説

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9.捜査4(シシトー神の館へ潜入)(第8章:占い死)

警部たちが帰って真美の念写した写真を調べているが、
遼真には何か釈然としないことが多かった。
やはり危険だが『シシトー神の館』へ潜入して捜査する必要があった。
夜のうちに『シシトー神の館』のビルの近くへ移動し、
朝6時頃の人のいない時間帯に
先ずはビル外壁に待機している天丸を、
占いの部屋のまだ回転していない換気扇の間から侵入させた。
そして天井近くに吊ってある部屋の天井四隅に設置した花の中へ
巧妙に隠されている監視カメラの裏側へ天丸の身を潜めさせた。

次に令和獅子党本部のロッカーの後ろに待機しているクモ助を
廊下側の扉の下の隙間を這い出て階段を移動させ、
一つ上の階の『シシトー神の館』へ移動させる。
『シシトー神の館』の大袈裟に飾り立てた扉の下から薄暗い館の中へ侵入した。
まだビルには誰も居ないが、
監視カメラの可能性を考えクモ助に保護色を帯びさせ特別客用の部屋へ移動させる。
実はこの特別室と一般用の占い部屋は隣同士で
この二つの部屋の間に『隠し部屋』が作られていた。
その部屋の扉は取っ手も無く中から鍵を掛けると外からは
そこにある隠し部屋の存在は無くなり、外からは単なる壁に見える。
その部屋からは両方の部屋の壁の大きな絵画から客の顔が見えるのだった。
今はまだその隠し部屋の扉は開けられている。
その部屋には机と椅子と机の上には撮影機材が設置されている。
クモ助をその隠し部屋の中へ潜入させ壁に付けられた機械の裏側へ待機させた。
その部屋から部屋で占いを受ける客の顔を撮影できる様になっている。
天丸とクモ助を待機させて開店の時間を待った。

一般人の占いに関しては、予約した客自身が占いを受ける前に、
氏名と誕生日と占って欲しい内容を簡単に記載して受付へ提出する。
次に客自身が「タロットカード」「水晶」「降霊術による神託」の占い方法を選び、
それに合わせて姫巫女が客一人に約30分程度時間を掛けて行っている。
占い金額の高い順に「降霊術による神託」「水晶」「タロットカード」となっている。
その中で一番人気は「降霊術による神託」であった。
姫巫女の座する天座の後ろの北側壁面には、「北極星と北斗七星」が描かれている。
この星への信仰は、太古より“星神信仰”と呼ばれている。
その天座に座る姫巫女の鈴女が降霊術により神託を降ろしていく。
それは占う客の記載された要望以外の個人的な秘密や悩みもその場で明かされるもので、
占い客は驚きの中で、自らの望む方向、より良き方向へ神託が下されていく。
そして彼らは姫巫女の神託に納得し感謝しながら高い鑑定料を払って館から出ていく。

ここで占いの時の隠し部屋での鷹の態度が気になった。
『タロットカード』の時には、鷹に特に変化もなく、
姫巫女が告げる内容も専門のタロットカード占いの本と同じことを話している。
鷲が相談者の氏名と住所からネットや個人情報を調べていく。
『水晶』と『降霊術による神託』の時には、
鷲が相談者の氏名と住所からネットや個人情報を調べていき、
鷹はじっと客を見つめては、すぐに目を閉じて
しばらくすると手元の紙へ多くの文字を書きなぐっていく。
その後その内容を考える様にじっと見ていて、姫巫女の方を見る。
それに合わせるかの様に姫巫女の鈴女は、踊りを終えて神託を降ろしていく。

ある日、高名な政治家の秘書から予約が入った。
政治家が部屋へ現れる前に鷹は『隠し部屋』へと入って行く。
その部屋の北方向に小型の神社の本殿の様な建物が作られている。
本殿の正面上部に掛けられた掛け軸には、「北極星と北斗七星」が描かれている。
本殿の正面には広く真四角の真っ白の布の敷かれた場所、
そこは姫巫女が座する場所、神の声を聴く空間で『天座』と呼ばれている。
特別客用の立派なソファへ政治家が座っている。
普段はマスコミの前では踏ん反り返って偉そうにして、
国会では週刊誌ネタや与党案に反対しか言わない
スマートに刈りこまれたヒゲがトレードマークの
最大野党 博愛民主党 副幹事長の永源史郎が、
汗を垂らしながら背筋を伸ばして両ひざに両手を置いて頭を下げている。
「姫巫女様、何卒宜しくお願いします。
 この崇高なる思想の憲法9条を持つ日本をあろうことか
 軍国化を進めていた馬場や藤波を静かにして頂きありがとうござました。
 国民が馬鹿なため、なかなか我々が政権を取れませんが、
 今度海外の会議で内密にさる国のある方と会談を行う時のお土産として
 今度こそ日本が世界へアジアの平和を発信出来ない様な国になり
 さる国の自治領として生きる国となるようにしたいと思っています。
 国民は馬鹿で平和ボケしていて目の前の事しか見えませんから、
 守って貰う国をアメリカから違う国に変えたところで何も言いません。
 そのためには今度の代表選で私が代表になるしかないのです。
 うちの党の政調会長の武藤が、
 『現代の水戸黄門』などとふざけたことを言い出して、
 マスコミも大いに盛り上げて困っています。
 そろそろ年齢だし彼に何か起こらないでしょうか?
 そうじゃないと今度、あの方に会った時に怒られるのです」
その願いを聞いた姫巫女は、
しばらく両手を合わせて祈っていたが
やがて天座で
ふらりと立ち上がり、
ゆるく、
時には早く
北斗七星の形に沿って歩み始め、
極点の北極星で踊る。
何度も何度も北斗七星と北極星を行き来して回り始める。

その間、鷹は隠し部屋から永源議員を見ながら手元の紙へ書きなぐっていく。
その後、鷹はじっと目を閉じて、
また目を開けてはその紙を見ながらじっと考えている。
「うーん、仕方ないか」と鷹の口から小さな声が洩れた。
それから姫巫女をじっと見つめている。
姫巫女はゆるゆると踊りながら目を閉じてじっと何かの声に耳を傾けている。
やがて姫巫女が天座に戻って来る。

遼真は鷲や鈴女に何らかの力は感じなかったが、
この前の家でメールもせず鷲と鈴女を呼んだ様子と言い、
彼ら3人には遼真同様に『テレパシー』の能力があるのではないか、
その上、鷹には
客から知らされていない客の個人情報を読む力『読心術』があるのではないかと感じた。
鷹が占い客が驚く様な本人だけが知る秘密や様々な情報を読み取り、
その情報を天座で踊る姫巫女へ伝え、
神託として客本人が望む又は危惧する方向へ言葉にするだけで、
本来自らの望む方向へ行動する後押しして欲しい客は喜んでそれを受け入れた。

「永源様、只今神様よりご神託が降りました。
 残念ながらこのままの流れでは現在政調会長の武藤様が代表になります。
 ただこの神託には別の可能性もあってその場合には永源様が代表となります」
「別の可能性?それはどんな可能性ですか?」
「運命の流れが今回は二つに分かれています。
 仮に武藤様の運命が変われば代表にはなれません」
「武藤の運命はどんなことで変わるか教えてください」
「シシトー神様からは、強い女難の相と病気の相があると言っています。
 ただし、そのことにより政党も大変な思いをするとも」
「女難?病気?
 確か武藤には銀座のママの妾が居たし、重度糖尿病だと言っていたな。
 その関係であいつの運命が変わればわしが代表となり、
 そうなればあの方との約束通り、将来はこの日本の国の支配者になれる」
「永源様、武藤様にこのご神託をお届けしないと武藤様が大変なことになります。
 気を付ける様に秘書の方へお伝えしてよろしいですか?」
「えっ?そんなことされたら・・・ええと・・・
 そのことはわしが責任を持って武藤に伝えておくから安心してください」
「わかりました。お願いいたします。
 そういえば本日は永源様のご依頼でしたのに申し訳ありません」
「姫巫女様は、本当にお優しい。
 確か馬場や藤波にも突然降りたご神託をお知らせしたのでしたね」
「はい、神様は日本のために毎日お祈りされていますから」
「馬場と藤波は日本のためにならないから死んだのではないですか?」
「さあ、私にはわかりません。彼らはその運命にあると伝えただけです」
「本日はどうもありがとうございました」
と満足したように野党副幹事長の永源史郎は部屋を出て行った。
その夜から二日間、鷹は家には帰って来なかった。

翌々日の大手新聞の第一面トップで、
「“現在の水戸黄門”武藤政調会長、都内のホテルで急死」
大衆週刊誌は、
「“黄門様”銀座のママへ印籠見せて腹上死!?」と大騒ぎだった。

ニュースになったその日のうちに永源史郎議員の秘書から電話連絡があり、
秘書は殆ど同時に大きなアッシュケースを二つ持って館を訪れた。
その秘書は案内されるままに特別室へ入って行った。
「永源先生からです。残りの料金は近々お持ちしますとの話です」
秘書は蒼い顔をして、恐ろしそうに姫巫女を見つめ深く挨拶をすると
アタッシュケース二つを恭しく捧げ、
天座に座る姫巫女の下に立つ巫女へ渡すと逃げる様に出て行った。
その巫女はすぐさま館の門のところで頭を下げて秘書を送り出している。
その間に事務長の鷲が現れてアタッシュケースを隠し部屋へ持って入った。
隠し部屋の中には鷹が居てコーヒーを美味しそうに飲んでいる。
彼の目の前には、現金がぎっしりと詰まったアタッシュケースが置かれた。

最大野党 博愛民主党 副幹事長の永源史郎議員と秘書との会話でわかったことは
特別会員となった多くの政治家は、政治家の常として
ライバルを蹴落とし少しでも上に出世するために姫巫女の神託や預言を信じた。
実際にその神託通りの結果となり、多くの人間が失脚したり死んだり入院している。
もし自分に悲運が訪れる時は、
姫巫女様から真っ先にそれを教えて貰える様に、
常に大金を払い可能ならその回避方法を教えて貰う様に願った。
その資金の原資は、「政治資金」だった。
世間から政治資金の透明化の話題が出るたびに
政治から国民のめくらましのために
高齢者の運転事故や煽り運転の記事、
おしどり夫婦だった筈の夫や妻の芸能人の不倫や離婚騒動、
暴力団組織同士の抗争激化、
親子や兄弟同士や学校での虐めによる殺人、
SNSによる誹謗中傷の炎上記事、
海外からの指示による日本人受け子による詐欺やオレオレ詐欺事件、
国内外で作られ国内の若者や年寄りに蔓延する覚醒剤問題、
野球やサッカーやスケート、オリンピックなどの記事、
議員の失言による国会の空転問題などがマスコミに大袈裟に取り上げられ、
それに目を奪われた国民は、マスコミより更に投下された批判の油に踊らされ、
国内政治や世界の中で日本国の置かれた立場や国の未来に目を向けない様にされた。