はっちゃんZのブログ小説

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4.捜査2(宍戸家情報)(第8章:占い死)

宍戸家は渋谷駅前のタワーマンションの最上階のフロア全てを購入し住んでいる。
遼真は真夜中に慎重にバトルカーからドローンを飛ばして
昆虫型盗視盗聴器のテントウムシの天丸とクモ助2号を庭へ降ろした。
天丸でビル外部の窓から、クモ助は室内へ侵入させて監視することとしている。
ドローンでの全体的な調査の結果、
マンション最上階の天井部にはヘリポートも作られており、
それは教団専用のヘリコプターの発着も可能だった。
家族全員同じ場所に住んではいても一緒にご飯を食べる訳でもなく
一緒にリビングで過ごすわけでもなく、
たまに顔を合わせても軽く話をする程度で各々が自分の部屋で勝手に暮らしている。
各人が必要な時に各々の部屋を訪れるかスマホで連絡をするような生活だった。

母親の鶴は、まだ60歳と若いが、あまり好んで外出をしていない。
年に数回国内で観光旅行や銀座などでショッピングをして楽しんでいる。
毎日の楽しみの一つとしては
芝生が敷かれた見晴らしの良い広いベランダで有名な薔薇や季節の花々を育て、
信者の家政婦に家事などを任せて趣味三昧の毎日を暮らしている。
映像に映るその表情も明るく幸せそうな顔をしている。
趣味は、油絵で彼女の作品への評価は高いと言われている。
作品のテーマとしては、人間の情念を抽象化させていると評されていて、
玄人|跣《はだし》で数年に1回程度の割合で個展を開催しているようだった。
鶴は毎晩、夫の位牌へ手を合わせて幸せな毎日の事柄を話しかけている。
たまに寂しそうに若いうちに亡くなった夫へ悲しみを伝えていることもあるが、
隼が誰にでも優しい人柄で家族や知り合いのみんなから慕われていたことを偲んでいる。
遼真が不思議に感じたのは、毎日が幸せそうな表情に見えるのに
なぜか彼女が描く絵画から与えられる印象は人間の苦しみが描かれている点で、
確かに夫を若い時に亡くしているので寂しいとは思うが、
作品から伝わってくるドロドロとした情念とは非常に強いギャップを感じた。

姫巫女の鈴女は、教団に行かない時は、母親よりももっと外出をせず、
夜は家政婦の作った料理を食べてお風呂に入ると自分の部屋に籠り、
世界中の有名なデザートやお菓子を取り寄せて食べて軽くお酒を飲んでいる。
それ以外は音楽を聴いたり、ゲームをしたり、映画を見たりしており、
たまにネットショッピングでおしゃれなドレスを買っては着替えて楽しんでいる。
どこにでもいる普通の女性の雰囲気で姫巫女と呼ばれている様には見えなかった。
しかし夜眠っている時には、なぜか悪夢に魘されている場合が多かった。
そんな時には、眠るために部屋の棚に並んでいるワインなどを飲んでいる。
そして手に教団のお守りをしっかりと握りながら再び眠っているようだ。
鈴女が働いていたとされる怪奇系雑誌社の従業員へ当時の彼女の話を聞いた。
女子大を出て事務員として入ったが、特にこれといった印象は無い。
一緒に夜ご飯を食べた時に、彼女の家は古くから続く、
本当かどうかは知らないが、とんでもなく古い時代から続く家系だと聞かされた。
今、彼女はあの教団の姫巫女をしているが、当時の彼女にそんな雰囲気は無かった。
どちらかと言うと大人しくて人見知りが強かった印象が強いと話してくれた。

次男の鷲は、教団の仕事が終わるとすぐに自分の部屋に籠り、
その日の料理が気に入らなければ、
ウーバーイーツで有名店のディナーなどを頼んで食べている。
お酒は飲まないし、水か炭酸飲料を常時部屋の冷蔵庫に備えている。
鷲の部屋は多くのパソコンとディスプレーが設置されており、
壁にも大型のディスプレーが取り付けられている。
その中で教団信者への公開用のユーチューブ番組の作成や
多くの企業や他の宗教本部のコンピューターへのハッキングにて情報を集めている。
鷲が働いていたIT企業の従業員に当時の状況を聞いたが、
プログラマーには有りがちな引き籠り気味で
会社で殆ど誰とも話をせずずっとパソコンに向かっている印象と聞かされた。

長男の鷹は、政治団体や教団幹部との打ち合わせも多く、
仕事で年間契約している都内のホテルに泊まり、
マンションの部屋には戻ってこないことも多かった。
ただ家へ帰って来た時には、
必ず先ず真っ先に広いベランダ奥に備え付けられた
二基の石灯籠の奥に建立された真新しい石製の祠へお参りをして長い間祈っている。
祠の正面には「北極星と北斗七星」が描かれている。
そして一日中家に居る時には、必ず祠のエリアを綺麗に掃除し、
掃除が終わった後は、
中身は不明だが祠の前に蓋の付いた小さな石箱をお供えしている。
その石箱の蓋にも「北極星と北斗七星」が描かれている。
数時間後、鷹本人がその石箱を丁寧に持ち自分の部屋へ入って行く。
鷹の部屋も鷲の部屋ほどではないがパソコンとディスプレーが並んでいる。
お酒が好きみたいで部屋に保管用専用棚やカウンターを作り、
有名なワイン、日本酒、ブランデー、ウイスキーなどが並んでいる。
ある時、珍しく彼が部屋へ戻って来た時に、何も連絡をしていないにも関わらず、
弟の鷲や妹の鈴女が鷹の部屋へ入って来るという不思議な事があった。
「兄貴、何かあった?」
「兄さん、今良い時なのになんなん?」
二人は連絡を受けて急いで顔を出した様な雰囲気で返事している。
そんな時、鷹は
「悪い悪い、用事はすぐ済むから許してくれ」
と言って教団の方向性や翌日からの指示を二人へ話し始めた。

遼真は、上京する前の宍戸一家を調査するため、
土曜日早朝、暗いうちに出発し兵庫県丹波篠山までバトルバイクで移動した。
遼真は、週刊誌の駆け出し記者に変装して宍戸一家のあった辺りへ近づいた。
宍戸一家は、町から離れた山深い場所に家を建てており、
家も大きく非常に古い造りで現在は誰も住んでいないようだ。
当時の同級生や近所に住んでいるお年寄りなどから宍戸家の情報を集めた。

〔父親隼《しゅん》の幼馴染からの情報〕
宍戸の家は、平安時代の貴族に始まる。
先祖は激しい政争に破れ、帝から激しい叱責を喰らいこの地へ幽閉された。
その時に都に居た妻や一族からは離縁され着の身着のままでこの地へ流された。
当時この地に古くから住む土着の人々、
特にこの山の一帯に住む一族の人間に衣食住の世話になり、
この地で妻を貰い、現在まで彼らの神を祀る者として生きてきている。
家の蔵にはその証拠となる家系図や古文書が保存されているらしい。

〔隼《しゅん》の猟師仲間からの情報〕
隼は身体の大きな凄腕の猟師で、
どんな獲物も、熊でさえも、一発で仕留めることが出来た。
なぜか隼と一緒に行くと獲物を大量に仕留めることができた。
家計に関しては、
多くのジビエ料理の店へ肉を卸す契約していたようで、
一人でもたくさん仕留めるので全然お金には困ってなかった。
大酒飲みで毎日浴びる様に酒を飲んでは酒乱のせいかよく暴れた。
特に家族への暴力が酷く、幼い子供達への暴力を防ぐために、
奥さんが身体を張って守りいつも顔や腕などに蒼痣を作っていた。
特に昔から病気らしい病気もしなかったのにある日突然心臓病で死んだ。
まあ家族に多額の保険金を残すことができて最後は家族孝行だったのでは?
奥さんや子供達は都会で穏やかに暮らしていると聞いている。

〔母親鶴の幼馴染からの情報〕
元々鶴と隼は同級生だったがそれほど話をする関係では無かった。
隼の家は、昔から周りの家と違い普通の家という雰囲気で無かったため、
周りの者はある程度距離を取って暮らしていた。
しかしある時、鶴が出会い頭に山中でイノシシと遭遇し逃げていた時、
隼がそれを偶然見つけて、手に持っていた猟銃でイノシシを倒したのが
二人の馴れ初めでまるで童話の『鶴の恩返し』だと笑っていた。
それを機会に二人は急速に仲良くなりいつの間にか深い関係となった。
鶴の家族は二人の結婚を最初反対していたが、
鶴がとうとう|鷹《おう》を身籠るとやっと二人の結婚を許したらしい。

〔鷹《おう》の幼馴染からの情報〕
鷹は幼い頃から勉強が良く出来て学校一の秀才だった。
東京の国立大学に入り卒業後、大手銀行へ就職していたが、
東京から何度か戻ってきた時にあって彼と話したことがあって、
その時には銀行を辞めて株式投資とかで生活をしていると言っていた。
弟や妹はそのお金で進学させていてすごい男だなと感心していた。
現在は妹が教主になった宗教団体の責任者みたいなことをしていると聞いた。
色々と聞いていると昔の不思議な話を思い出したようで、
彼が中学生の時、山の中で大きなイノシシに出くわしたが、
彼の前で突然イノシシが死んだのでボタン鍋にして食べたらしい。
彼も父親同様に猟に才能があるのかな?とみんなで話したことを思い出していた。

〔鷲《しゅう》の幼馴染からの情報〕
大人しい性格で兄貴ほどでは無かったが、
勉強が出来て、特にコンピューターには強かった。
引き籠りやすいタイプであまり友人は居なかった。
中学生の時から簡単なゲームやユーチューブを作成して遊んでいて、
それなりに視聴者数も稼いでいたと聞いている。
家族全員で東京へ引っ越してからは一切会ったことはない。
東京で会った友人に聞いた話では、IT企業へ就職していたが、
妹の姫巫女への覚醒に伴い教団の事務長として転職したとの事だった。
昔のオタクっぽい辛気臭い雰囲気とは違って、
東京での彼は非常に明るい印象になっていて驚いたと聞いている。

〔鈴芽《すずめ》の幼馴染からの情報〕
幼馴染の友人は、名前が「高巣雛子」。
鈴女からは「雛ちゃん」と呼ばれていたらしい。
鈴女の性格は大人しくて、
可愛いというより綺麗な顔立ちで学校では目立っていた。
手元が器用でクラブは手芸部に入り、裁縫や小物を作るのが得意だったらしい。
雛子が嬉しそうに見せてくれたスマホには、
今でも鈴女が作った「雀柄の匂い袋」が結ばれていた。
「これを持ってからなぜか運がついて、今も大切にしているんです。
今度鈴女ちゃんの会った時、友達の印として見せるつもりなんです」
当時、雛子もお返しで「ヒヨコ柄の匂い袋」を送ってお互い交換したと笑って話した。
鈴女は上級生や同級生からたくさん告白されていたが付き合った人はいなかった。
ただ高校生2年の夏休みに一度東京から実家へ戻って来てる時、
ちょうど町にお祭りがあって、久しぶりに友人達と一緒に出て楽しい時間を過ごした。
それが終わって家への帰り道に地元の暴走族に絡まれ
そのまま山の中に連れ込まれて乱暴されたと聞いたが本当かどうかはわからない。
後日なぜか鈴芽に乱暴したとされる暴走族全員が、
河原でシンナー吸入中に一斉に心臓発作を起こし大量に不審死している。
シンナー中毒死だが、当時『宍戸家の呪いでは?』とこの町では噂された。
その後、一度だけ彼女とは会ったが、
あの暴走族に乱暴されたという噂が嘘の様に明るく昔と一緒だった。
『誰が言ったか知らないけどきっと酷い嘘の噂だった』と雛子は怒っている。
現在、ユーチューブで見る彼女は、
信じられないくらい綺麗で神々しくて驚いているとの話だった。

〔鶴の実家大熊家からの情報〕
鶴の母親は亡くなっており、鶴の弟、亀吉が顔を出したが、
宍戸家の話をあまりしたくない様子で
姉や姉の子供達にもう何年も会っていないし何も知らないと
木で鼻をくくった様に言われた。
姉の鶴の願いで宍戸の実家を管理しているらしい。
近所の話では、相当な金額が毎年振り込まれていて楽な暮らしらしい。
鶴の実家へドローンを飛ばしクモ助を降ろして盗聴へ入った。
「今日は、どっかの雑誌の記者とか言う若い奴が来て驚いた。
宍戸家のことについて聞きたいんだと」
「お父さん、何も話さなんだよな?」
「ああ、当たり前やろ、あないにお金を貰ろといて何も話せんだろ」
「そうそう、近所に聞かれても適当な事しか言えんしなあ」
「別に何も知らんからいいんやけど、あの家は昔から気持ち悪いんよなあ」
「そやな。何か気味の悪い物が潜んどるようなそんな・・・」
「お前、それを言うな。行くのはわしなんやぞ。お前が嫌やと言うから」
「だって頼まれたのはお父さんやからねえ。それにすごく怖いんやもん」
「わかっとるわ。ただ月に1回、空気を入れ替えに行くだけやから簡単じゃ」
「早くあんな気持ち悪い家は潰してしまえばいいのに・・・」
「あそこには宍戸家のご先祖様の墓があるから無理やな」
「墓・・・そう言えばそうだったわ。あったな墓が・・・」
「おお立派な石灯籠付きの墓があったぞ。
確か石灯籠は置いたまま、要石は東京へ動かしたと聞いたけどなあ・・・」
「今でも不思議に思うんは、なんで隼さんは亡くなったんかなあと思う。
 確かすごく元気で病気一つしないって言うのが隼さんの自慢だったんやけど」
「そうやな。お医者さんの話では心臓発作で死んだらしいぞ」
「まだ40歳くらいで元気やのに心臓発作になったん?信じれれへんよなあ」
「うーん。もしかしてあいつは大酒飲みだったからそのせいじゃないか?」
「そうか。まあええか。その結果、たくさんの保険金が出たから家族は助かったよな」
「そうやな。そのお金の一部を使って鷹が稼いだとは言え
 あの大都会の東京の渋谷で住めるんやからなあ。わしらには無理やな。
 きっと今もわしらが想像出来んくらい儲かっとるんやないか」
「まあうちもだいぶ貰ってるから助かってるやんか」
「そうやな。たまーに家を見とるだけであんだけ貰えるんやからなあ。
 うちの子の進学にもだいぶ助けてもろたよなあ」
「それは感謝してる。
 でもなんか怖いからあの家の人はお父さんが相手してね」
「わかった。わかった。ほんまにお前はずるいなあ」
「そんなことないよ。この家の主人はお父さんやから任せてるんや」

その夜は、寒くもなく雲も少なく晴れていたため
東京ではとても見る事の出来ない無数の星々の瞬きを堪能しながら、
宍戸家の屋敷の近くの藪の中に簡易テントを張って眠った。
辺りに灯り一つない真っ暗な自然の中で飲むコーヒーは格別だった。