はっちゃんZのブログ小説

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5.霊査1(旧宍戸家の居間)(第8章:占い死)

翌朝、前日夜にコンビニで買ったサンドウィッチを食べて、
遼真は身体へ『身代わり護符』を貼っている。
これは悪霊からその姿を見られた時に、
悪霊の目に映る姿が、実の本人とは異なる姿にできる符であった。
仮に攻撃されても最初の1回は、その攻撃を防ぐことができた。
宍戸屋敷近くの空き地にバイクを停めて持参したドローンで撮影を開始した。
ヘルメットのシールド部分にドローンからの画像が映る。
屋敷は誰も住んで居らず白土の蔵と共に静かに建っている。
広い庭は定期的に庭師が入っているせいか綺麗に整形されている。
屋敷の奥の深い森の手前には丸い形状の盛り土の小山があり、
その小山の屋敷側には小山も含めて周りを板状の石柱で囲まれた場所があった。
その場所の入口左右に大きな古い石灯籠二基が設置され、
その後ろには多くの苔生した古い墓石群が建っている。
その墓石群の後方にある小山の屋敷を向いた正面には、
大きな自然石で組み合わされた石舞台状の物、
特にその大きな石の前面には一辺1メートル50センチほどの、
深く四角に切られた深い溝らしきものが見える。
その正面の石には「北極星と北斗七星」が描かれている。
それは大きな力を持つ何かが潜んでいる様に感じられる磐座で、
遼真は世間には知られていない『古墳』ではないかと感じた。
ただ不思議なことに大きな力の存在は感じるが、
何かを訴える様な意思らしきものは何も感じられなかった。
その古墳状の物は、教科書に載っている様な有名なものではなく、
もっと形式の古い物で、もしかしたら縄文時代初期の物かもしれなかった。
古代から現在まで変わらず瘴気の様なものが溜まり続けている様に感じた。
ドローンのカメラをX線撮影に切り替えるとその古墳の様な物の本体が映る。
ドローンからの映像には、
上部の土の下、地中に隠された小さな四角錘型の石組みが浮かび上がった。
ただその地中にあるピラミッド状の石組みは、
キインの目から見てもその石組みが何重にも重なり合って見えるのだった。
この石組みは、単なる石組みではなく霊的な何かと思われた。

キインは屋敷の屋根の通風口から侵入して屋敷内を見ていく。
キインの目と同調している遼真には、
機械では捉えることのできない者たちがぼんやりと映りこんでくるはずだったが、
墓の周りにも屋敷の中にも霊体らしき姿は見えなかった。
通常、ここまで古い建物の場合、
最低でも数体の霊がいるものだが見えなかった。
ドローンで慎重に調べても、
宍戸家には監視装置は付いていない様なので侵入することにした。
比較的簡単な造りの御勝手口の鍵へ
館林京一郎作の自動鍵開け機の『すぐあける君』を使って忍び込んだ。

屋敷に入ると少し黴臭くひんやりとした空気が漂っている。
たまに空気換えと共に掃除をしている様で全く埃も溜まっていない。
居間らしき場所には囲炉裏が置かれ壁には古い家具は置かれている。
遼真は真美へ今から霊査に入ることをテレパシーで伝える。
「おはよう。真美、そろそろ始めるけどどうかな?」
「遼真様、おはようございます。
 昨夜はお身体大丈夫でした?
 お腹空いていませんか?」
「ありがとう。大丈夫だよ。ご飯はコンビニでサンドを買ったよ」
「私も一緒なら美味しい物持ってくのに残念です。
 それともう準備は終わっています。いつでも私へ送って下さい。」
「ありがとう。じゃあ始めるよ」
先ず遼真は、囲炉裏の自在鉤をそっと触りサイコメトリーを行った。
キインが遼真を悪霊から守る様に遼真の肩口へ待機する。

穏やかな5人の表情が映り始める。
父親らしき隼《しゅん》、母親鶴、その周りに3人の子供達。
自在鉤に掛けられた鍋からお椀へよそっていく鶴。
火の周りに並べられている良い焼き色の串に刺された川魚。
子供達は白いご飯を食べながら鍋のお汁と魚を食べ始める。
父親の隼は、コップへたっぷりとお酒を注いでガブガブ飲み始める。。
子供達の怯えた顔が父親を見つめる。
しばらくすると子供達は急いで食べ終え、すぐに立って子供部屋へと向かう。
「おい、飯くらいゆっくりと食べたらろうだ。
 そんなんれはお父さんの身体の様に大きくならないろ」
すでに下の回りが怪しくなり言葉の端々が不明瞭になり始めている。
「お父さん、いつもありがとう。
 鷲も鈴女もたくさん食べたよ。ご馳走様でした」
「そうそう、鷹、お前はすごく勉強がれきるみたいやな。
 れもお前は長男やから今度高校を卒業したら
 家でお父さんの仕事の手伝いせんとあかんぞ」
それを聞いた母親の鶴が急いで夫へ話す。
「お父さん、高校の担任の先生から鷹は高校設立以来の成績で、
 すごく優秀やからぜひ大学へいかせてはどうかと言われてるんよ。
 国立大学やからそれほど授業料も高くないし奨学金制度もあるし、
 本人もバイトなんかをして頑張るって言ってるし、
 せっかく鷹がこんなにすごく頑張ってるから大学へ行かせたいんだけど」
怪訝な顔をした隼が鶴を睨む。
「大学?猟師に学歴は要らんだろ、高校も要らんくらいやぞ。
 それにうちにはもっと大事な役割があるの知ってるやろ?」
「はい、それは知ってるけど、私たちもまだ若いし、
 せめて子供達が望むんなら大学へ行かせてやりたいと思っています」
「大学?あかんあかん、そんな意味のないお金を使うのが勿体ないわ」
それを聞いていた鷹が我慢できずに
「父さん、大学卒業したらちゃんと家に戻って父さんの後を継ぐからお願いや」
コップの酒を飲みながら鷹を睨んで
「あかんあかん、ましてやこの国の政治のど真ん中の東京になんかあかん」
「なんであかんの?」
隼が苛立ちながら妻と鷹を睨むと
「とにかくあかん、話はここまでや」
「お父さん、それは鷹がかわいそうや。何とか行かせたげて」
「うるさいのお、わしの言う事を聞かん奴はこうじゃ」
隼はコップを鶴へ投げつけた。
コップは鶴の額へ当たり、その衝撃で割れて額が裂け血が流れる。
「父さん、もう止めて、お母さんが血を流しとる」
「うるさい。お前が大学に行きたいとか言わなんだら良かったんじゃ」
隼は大きな身体で立ち上がり鷹の胸倉を掴むとその大きな掌で鷹の頬を張った。
「パーン」
鷹は後ろに大きく吹き飛ばされて
『ドスーン』
鷹の身体が箪笥へぶつかり頭から血を流して座り込んだ。
鷹は尻餅をついて下からじっと暴れている父親の隼を見つめている。
鷲と鈴女も急いで廊下へ逃げて
襖の陰からそっと怖そうに父親の様子を見ている。
「お前もお前であかん言うたらあかんのじゃ、
 ほんまにいつもいつも同じことを言うんわ止めれや。なんでわからんのじゃ」
隼が囲炉裏端に座り込んでる鶴の胸倉を
片腕で掴んで持ち上げて更に鶴の頬を張ろうとした。
「父さん、止めて。母さんに酷いことせんといて」と鷹が叫んだ。
隼は鶴の胸倉を掴みながら鷹を睨んで口汚く罵る。
「このボケが、何回も何回も、いらんこと言うからじゃ。もう二度と・・・」
その時、
「うっ、あっ、痛い、苦しい、どないしたんじゃ」
突然隼が鶴の身体を放すと胸に手を当てて苦しみ出した。
そしてその場で倒れると苦悶の表情で身体を捩じり始めた。
「うっ、ううう・・・」
「!?お父さん、どうしたん?大丈夫?」
鶴が驚いて急いで倒れた隼の近くににじり寄るとその身体を抱いて揺すった。
「ううう、くるし、ぎゃあー」
倒れた隼は、鶴を振りほどくとすでに青黒い顔色となり
囲炉裏端でバタバタと海老反りになって暴れて苦しんでいる。
鷲と鈴女は驚いた様に父親の苦しむ姿を見ている。
鷹は箪笥の前で足を投げ出して
手を後ろに付いたまま座って放心した様に父の姿を見つめている。
やがて隼は静かになり身体の動きが止まる。
母親の鶴は思い出した様に急いで電話に近づくと
「そうや、救急車を呼ばなあかん。何番だった?忘れてしもた」
「母さん、救急車は119番や、
 僕が掛けるからお母さんはお父さんの近くで様子を見といて」
「鷹、頼むわ」
母親の鶴は、倒れた夫の隼の横に座り心配そうに身体を擦っている。
その後、しばらくして救急車が到着して、
救急隊員が倒れた隼へ声を掛けて心臓マッサージを行うも
その止まった心臓の動きが元に戻ることは無かった。
警察による検死の結果は、
急性心筋梗塞で心臓の太い主要血管全てに大きな血栓が詰まった病死と聞かされた。

その後、隼の葬儀が行われた。
「鷹、母さん、これからどうしたらいいんだろ」
「お母さん、この前保険会社の人が保険金たくさん出るって言うてたから、
 そのお金使ってみんなで東京へ引っ越して新しい気持ちで頑張らん?」
「そうやな、それもいいな。でもお墓をどうしよう?」
「この前、お父さんから墓守の方法は、ある程度聞いとるから安心して。
 うちのお墓の一番大事な物をみんなと一緒に東京へ移して
 毎日祀ったらたぶん大丈夫でないかなあと思ってるんや。
 それ以外の家とか墓とかの管理は、
 母さんの実家の亀吉叔父さんにお願いしようよ」
「そうやな。それなら安心やな、
 しばらく亀吉にこの家の管理とお墓の水や花とかを頼もうか」
「そうやそうや。四十九日開ける頃には春休みやし、
 いま中学生の鷲や鈴女の転校にもちょうどええから
 四十九日を明けたらみんなで東京に引っ越したらいいやんか」
「わかった。そうしよ。新しい気持ちな、そうやな。
 それに色々あったしいつまでもこの家に居るん嫌やわ」
遼真はそれらのシーンの多くを映像として真美へと送る。
真美はその映像をデジカメへと焼き込んで行った。