はっちゃんZのブログ小説

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17.レッドシャーク団との戦い3、そして瑠海の鎮魂(第7章:私の中の誰か)

遼真が霊滅で小瓶に潜んでいる『アフリカ大陸の悪霊』を消滅させている時、
赤城の身体が、徐々に大きくなり豹魔人の身体へと変わっていく。
遼真としては赤城へ『豹の精霊』の力がどれくらい憑依しているのかが不明だった。
仮に長い間その精霊を使役して、精霊も彼を認めて力を付与していた場合、
普通の人間とは思えない能力が発揮される可能性があった。
彼が今まで傭兵として多くの戦線に出て、
大した怪我もせず生き残ってきた事実から考えてその可能性が高かった。
戦う前にそのことを紅凛と黒狼へ伝えているが、
彼らはあまり気にしていない様子で黒狼に至っては、
「豹との戦いか・・・どれくらいのものか楽しみだな」と笑っていた。

赤城の顔も身体も完全に豹のものに変わりつつある。
身体も大きくなり豹の様に流線型に逞しく変貌している。
遼真の危惧通り、精霊も彼を認めて力を付与していることがわかった。
遼真は、最初豹魔人を霊滅しようと考えていたが、
アフリカの悪霊も同時に憑依しているとは思わず間に合わなかった。
赤城は、金色の目となり四つ足になり豹男に変わっている。
その口は鋭い牙が見え、その逞しい太い指には鋭い爪が生えている。
一瞬で黒狼へ跳躍するとその鋭い爪で切り裂いた。
単に物理的な力ならバトルスーツで防げるはずだが、
なぜか黒狼の身体がバトルスーツごと引き裂かれた。
逞しい大胸筋が切り裂かれて深く赤い切り口が見えている。
黒狼の側にあった鉄製の柱でさえも切断されている。
「黒狼、大丈夫かい?」
「姉さん、心配すんなって、俺はこれを楽しみにしてたのさ。
 豹のお前に言葉が通じるかどうかは知らないが、
 お前がそいつの身体から出たくなるまで俺と勝負しようぜ」
黒狼はバトルヘルメットとバトルハンドを脱いで、紅凛の方へ放り投げた。
紅凛はそれらをキャッチするとニヤニヤしながら黒狼を見ている。
黒狼は、空に浮かぶ月に向かうかの様に
「ワオーン」
と狼の様に雄たけびを上げた。
大きな身体がより大きく筋肉が太くなり、
顔や手の甲には長い毛が生え始め、
口元が前に盛り上がり、ニヤリと笑った口には鋭い牙と
人間の顔なら一掴みできるほど大きな手の指には太く鋭い爪が生えてきた。
そして、切り裂かれた筈の胸の深い傷が高速度撮影の様にみるみる塞がっていく。
『お、狼人間だったの?』と遼真は驚いた。
「遼真君、もう安心して見ていたらいいよ」
「は、はい」
「まああまり世間には公表していないからここだけにしてね」
「はい、誰にも話しません」
「頼むよ。あの子がみんなから怖がられたら悲しがるのでね」
「わかりました。紅凛さんもですか?」
「私は違う。狼にはならないよ」
『狼にはならないけど、他にはなるのかな?』
と遼真は一瞬思ったが、知るのが怖かったので聞かなかった。

黒狼は、豹魔人に向かって『クイクイ』と指で呼んでいる。
豹魔人赤城は、狼の雄たけびで驚いていたが、
すぐに黒狼へ向かって跳んだ。
黒狼も同時に跳んで空中ですれ違った。
今度は豹魔人赤城の胸に深い4本の傷が刻まれている。
「グアー、シャー」
「痛いのか?お返しなんだけどね」
豹魔人赤城は、その場から大きく今度は牙を剥いて襲ってきた。
黒狼は、カウンターの要領で豹魔人赤城の顔へストレートで殴りつけた。
その強烈な一発に豹魔人赤城はその大きな身体ごと壁まで吹き飛ばされた。
豹魔人赤城は弱弱しく牙を剥いて威嚇したが、黒狼はその巨大な牙を両手で持つ。
豹魔人の鋭い爪が、黒狼のその腕を傷つけていくが、
傷が出来た瞬間から、その傷が治癒していくので黒狼は鼻歌だった。
「他の力は無いのか?炎を吐くとか・・」
「・・・黒狼、お前、少しアニメの見過ぎだよ。
 野生の獣が火なんて好む筈ないでしょ」
「そうだったな。じゃあ、お前、このまま死ぬか?どうする?」
「グワー」
「何言ってるかわかんねえ。邪魔くさいから死ね」
黒狼はその鋭く大きな牙を掴む両手に力を入れる。
「バキッ」
牙は二本とも折られた。
今度は、豹魔人の首にヘッドロックを掛けると腕に力を入れ始めた。
豹魔人は慌てた様に逃げようとするが無理だった。
必死で鋭い爪で黒狼の顔や身体を傷つけるも効果が無く
やがて「ゴキッ」と音がして
豹魔人の顔が不自然な方向へ曲げられ
その瞳から光が消え、徐々に動かなくなった。

遼真の目には死んだ豹魔人の身体から漂う赤黒い霧の立ち昇るのが見えた。
その霧は黒狼へと向かっている。
憑依しようとしているのだった。
「黒狼さん、その場から離れてください。
 豹の精霊が憑依しようとしています」
「わかった」
黒狼は一瞬でその場から消えて紅凛の隣へ立った。
遼真は、急いで赤城の死体へ走ると足元に置かれていた古い壺を掲げ、
その壺の中へ白紙に包んだ小瓶と共に豹の精霊を呼び込み蓋をした。
そして遼真は『呪』を唱えながら『神意封印呪』を貼り付けた。
異国の神でもある『豹の精霊』の力の発露を恐れて封印したのだった。

遼真達は、船倉の潜水艇へ爆破装置を取り付けて避難していった。
バトルシップへ戻るとすぐに爆破装置を起動させた。
真っ暗な海で大きな火柱が上がり周りの海面を赤々と照らしたが、
やがてコンテナ船は大きく傾き日本海溝へ沈んでいった。
その後は、綺麗な月が海面を照らしているだけだった。
罪の無い船員が眠っているゴムボートには、
水や食料をたくさん入れ発信機を付けて救助が行われる様にした。

遼真はバトルシップで館林葉山研究所へ到着すると霧派の二人とは別れた。
研究所からはバトルバイクに乗って都内の自宅へと急いだ。
真美が多くのかわいそうな霊魂を人形に入れ祈祷所で祀っている。
遼真は神社へ着き次第、休むことなく水垢離を始めた。
祈祷所には智朗さんと真美がスタンバイしている。
遼真は、護摩壇に座ると祈り始めた。
地蔵菩薩様、人々の欲望で殺され憎しみのために魂が分かれ、
 長い間、この世に自縛されていたこの哀れな荒魂達をお救い下さい」
護摩壇の炎が大きく燃え上がる。
やがて多くの人形が横たわる三方の上に暖かい光が差し込まれた。
その暖かい光の中へ
右手は右胸の前で日輪を持ち、
左手は左腰に当てて幢幡を乗せた蓮華を持つ仏様が姿を現した。

地蔵菩薩様は、釈迦の入滅後、5億7600万年後か56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまでの間、現世に仏が不在となってしまうため、その間、忉利天から六道すべての世界(地獄道・餓鬼道・畜生道修羅道・人道・天道)に現れて衆生を救う菩薩であるとされている 。
日本における民間信仰では、親しみを込めて「お地蔵さん」「お地蔵様」と呼ばれ、道祖神としての性格を持つとともに、「子供の守り神」として信じられている。
地蔵菩薩様の利益として善男善女のための二十八種利益、鬼神への七種利益があると言われている。

地蔵菩薩様から注がれる暖かい光の中で三方に横たわる人形は立ち上がった。
地蔵菩薩様、何卒この憎しみで分かれた魂の浄化をお願いします」
鬼神への七種利益の一つ「悪業消滅(悪いカルマが消滅する)」のお願いをした。
三方の上に立ち上がった人形の表面からは次々と黒い粒子が現れ出ては、
その黒い粒子は地蔵菩薩様から注がれる暖かい光により溶けていく。
やがて全ての人形より黒い粒子は現れなくなり、
一つ一つ真っ白い人形が護摩壇の炎の上に飛んでは、
その人形から白い光を発し地蔵菩薩様からの暖かい光の中へと溶け込み、
その霊魂を送る役目の終わった人形は護摩壇の炎に落ちて燃えている。

遼真がコンテナ船で封印した『豹魔人の霊魂』は、現在厳重に封印されている。
早々に京都の頭領へ連絡し、狐派本部にて処理をお願いする予定だった。
「真美、今回もありがとう」
「いえ、遼真様にお役に立てて嬉しいです」
「あの距離を真美とテレパシーが通じて良かったよ」
「都内では練習してましたけど、今回は相当に遠かったから不安でした」
「よく考えたら、キインやクインも距離とか関係なかったから
 テレパシーさえ通じたら心配する必要は無かったね」
「そうですけど、待ってるのは不安でした。
 もし遼真様に届かなかったらって思ったら・・・
 今度は私は絶対絶対、遼真様について行きますからね」
「うーん」
「遼真様、私がついていくのは嫌ですか?」
「嫌じゃないよ。でも真美に危険があったら・・・」
「遼真様に何かあったら私は・・・」
遼真を見つめる真美の目から大きな涙がポロリと零れた。
「真美、わかったよ。今度から一緒に行こう」
遼真は慌てて俯く真美をそっと胸に抱きしめた。