はっちゃんZのブログ小説

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16.レッドシャーク団との戦い2(第7章:私の中の誰か)

拳銃の発砲音と同時に紅凛は、
副首領のディック高橋とクリス松本の部屋へと近づいていく。
部屋の中からは二人が起きて準備している音が聞こえてくる。
『黒狼にしては、えらく派手だねえ。催眠ガスが効かないかねえ』
『もしかしたら人を操ると言っていた術が原因かもしれないねえ』と考えた。
部屋へ入ろうとしたら、高橋の電話の声が聞こえた。
「ボス、今の音は何です?
 あいつら喧嘩でもしたんですかね?」
「違うぞ、きっと敵だ」
「敵がここに?」
「たぶんお前や俺を狙ってくるから脱出するぞ」
「わかりました。クリスを連れて船倉へ向かいます」
「手筈通り頼むぞ」
「はい、わかりました」
高橋とクリスは急いで部屋から出て行くと船倉へ走って行く。
紅凛も二人を追いかけて船倉へと向かう。

紅凛の足音がしないため高橋とクリスも気がつかなかった。
船倉手前の広めのスペースに来た時、紅凛は天井へワイヤーを飛ばした。
紅凛のスタイルの良い細身の身体が天井にぶら下がると
その形の良い太ももに巻かれた革製のベルトに挟まれた鈍く輝くクナイの一本を構えた。
このクナイは全体的に黒色に染まっており光を反射しない。
高橋は、一瞬紅凛に気付き、クリスを横に押すとその場ですばやく転がる。
「クリス、敵だ。避けろ」
「!?・・・敵?」
突然の襲撃に驚きながらもクリスがマシンガンを連射して、
高橋が胸ポケットから手りゅう弾を取り出して紅凛へ投げて来た。。
紅凛はまだ空中にある手りゅう弾へクナイを投げつける。
クナイは手りゅう弾へ突き刺さりその場で爆発をした。
その手りゅう弾は、中に大量の小さな鉄粒が入っていたため、
紅凛のいた辺りは、小さな穴だらけになったが、
この戦闘服を着ているため若干の痛み以外は何の被害も無かった。

その爆発の一瞬、
紅凛は、天井から飛び降りながら、
黒色に染められたクナイと銀色に光るクナイを高橋へ
銀色に光るクナイをクリスへ投げた。
そのコースは、人間の盲点を利用したものだった。
「「「ガツッ」」」
「あっ、うっ、グッ」
高橋の足元には、驚いた様に開かれた目で、
額に角の様にクナイを生やしたクリスが倒れている。
クリスが絶命していることは明らかだった。
高橋は、投げられたクナイのコースを読み、
最初の銀色に光るクナイは、一瞬身体を捻って避けたが
銀色のクナイの影に隠れた黒色のクナイは気付かず肩に深く突き刺さった。
高橋はクリスを振り返ることもなくすぐに逃げ出した。
紅凛はクリスと床に刺さったクナイを拾うと高橋を追った。

何とか高橋は指示された通り船倉に入った。
船倉の奥には潜水艇が一艇固定されている。
高橋がその固定具を外そうと操作し始めた時、
赤城が船倉へ通じる別の扉から現れた。
高橋は船倉へ現れた紅凛へマシンガンを撃ちながら潜水艇の固定具の操作をし始めた。
紅凛が近寄ろうとするとマシンガンと赤城の対戦車ライフルが撃ち込まれた。
「高橋、よく頑張った」
「クリス、どこだい・・・」
「クリスは、あいつに殺された」
「ああ、クリス、どうして・・・」
桃は憎しみの目で散弾銃を紅凛へ撃ち込んでいる。
赤城も対戦車ライフルを紅凛の隠れている柱へ撃ち込んでいる。
「ボス、もうじき固定具が外れますから」
「おう、高橋、助かったぜ」
潜水艇の固定具は外れた。
その時、向こうの柱の陰に隠れていた筈の紅凛が、
高橋の後ろへフッと現れるとその首を鋭く掻き切った。
『ピュー』
高橋の首から真っ赤な血液の噴水が船倉の床を濡らす。
高橋の目は、驚いた様に開かれその大きな身体は徐々に倒れていく。

「後はお前達だけだぜ」
黒狼が、扉を開けて船倉へ入って来た。
「死ね」
赤城が黒狼や紅凛へ対戦車ライフルを撃ち込んだ。
引き金が引かれた瞬間、その場にいた二人の身体は消えた。
赤城はすぐさま物陰に隠れてマシンガンも撃ち込んでいる。
「桃、先に潜水艇に乗っておけ」
「ああ、わかったよ」
「おいおい、無事に逃げられると思ってるのか?」
黒狼が、物陰から姿を現した。
「クソー、化け物が!こうなれば」
赤城が、胸に吊っている小瓶を握る。
途端に赤城の目が赤く光る。
「高橋にクリス、先に船に乗ってるからこいつらを片付けろ」
死んだ筈の高橋が起き上がり廊下に続く扉からクリスが姿を現した。
そして黒狼や紅凛へ銃を撃ちながら赤城と桃を守る様に立っている。
「お前のその術は、知っているぜ。
 だが、せっかくだからそのゾンビと戦ってみよう」
黒狼は、ゾンビとなった高橋とクリスの前に行くと
ボクシングのクラウチングスタイルをとった。
ゾンビとなった高橋とクリスは銃を捨てると手にナイフを持ち、
人間と思えない様なスピードで黒狼に迫っていく。
黒狼は、その攻撃を全て避け、彼らの顔面へ大きな拳が放たれた。
その一瞬、彼らの頭部は爆弾が入っていたかの様に飛び散った。
二人は糸の切れた操り人形の様に床へと倒れ込んでいった。
「よくがんばったな。死んでも操られて大変だったな。次は赤城、おまえだ」
赤城は、隣に居る桃を見つめた。
「!?・・・」
途端に桃の表情が失われて紅凛へと向かって行く。
赤城は急いで潜水艇へと向かって行く。
その時、柱の陰に身を隠していた紅凛がクナイを桃へ投げる。
クナイは桃の額へ深く突き立ったが、
何も無かったかの様に額のクナイをそのままにして、
両脇に巻いていた二本の鞭を構えて紅凛へ向かって行く。
その鞭の先端には金属製の刃が備え付けられている。
鞭という武器の特徴としては、
長いしなりから生じる先端部の最高速度は音速を越えると言われている。
通常の人間のスピードでは躱すことが非常に困難な武器である。
避けることが出来なければ身体中を切り刻まれて死ぬことになる。
「ふふふ、その綺麗な顔や身体をズタズタに切り刻んでやるさ」
残虐に目をギラギラと血走らせたクイーン桃が両手の鞭を縦横無尽に操る。
蛇の様な動きをする鞭は紅凛の顔や身体を狙ってその牙を突き立てていく。
しかし、紅凛は二本の鞭の先端を悉く躱している。
二本の鞭が伸びきった瞬間、
腰の後に収めている小刀を抜きながら
残像を残す程のスピードで近寄り桃の首を刎ね跳ばした。
「!・・・ギャアー」
スタイルの良い桃の首の無い身体から噴水の様に血液を吹き上げ、
周りの何もない空間を確かめるように鞭を持つ手を泳がせると倒れた。
憎しみに歪み食いしばった口の端から血を滴らせた桃の首は、
紅凛の小刀に撥ね飛ばされた勢いで潜水艇の開いた扉の中へ転がり込んでいった。
「首だけになっても逃げたかったのね・・・不憫ね・・・」
と紅凛の顔半分に飛び散り滴る真っ赤な血を舌でチロリと舐め、
血がベットリと付いた小刀と額に突き立ったクナイを
倒れた桃の服で入念に拭くとゆっくりと腰の鞘とモモのベルトへ納めた。

潜水艇のタラップに昇ろうとした赤城へ黒狼が声を掛ける。
「お前だけ逃げるのか?
 それって死んでいった仲間に冷たいんじゃないか?」
「ふん、俺だけ助かればいいんだよ。俺は今までそれで生き残って来た。
 この船はもうじき沈む。この潜水艇が出ればここには海水が入ってくる。
 お前達はこの船と共に死んでしまえ」
赤城は胸ポケットから手りゅう弾を何個も投げつけて来た。
それらは空中で爆発しながら紅凛と黒狼の二人を爆風に包む。

その時、
「送霊印」と船倉内へ声が響く。
操舵室内に催眠ガスを充満させ意識を無くした船員全員を
コンテナ船に付属のゴムボートへ運び込んだ遼真は、
戦闘中の船倉へ急行し、
船倉の隅でボスの赤城を送霊印で捉えるタイミングを待っていた。
赤城の足元に白く輝く正三角形の送霊印が浮かび上がっている。
突然、赤城の顔が苦しみに歪み、二重にも三重にもぶれ始める。
小瓶からも赤黒い霧の様なモノが出て来ている。
三重にぶれている像の一つが小瓶へと吸い込まれる。
遼真が、片手を広げて赤城の方へ掌を向けた。
遼真の手から母から授かった力である白い霊糸が伸びて、
苦しむ赤城の首元にある小瓶に絡みつく。
赤城の首に吊っている小瓶が首からスルリと抜けると遼真の手の中へ入った。

送霊印の呪を唱えた同時刻、
「護身陣」
と真美の声が護摩壇の焚かれた祈祷所の一角で響いた。
その声と共に、
遼真の身体を白い網で包むように白光の円陣が浮かび、
その白い光が遼真へ吸い込まれた。
遼真が真美へ戦闘開始の合図をテレパシーで送ったのだった。
真美は護摩壇の前でずっと座ったまま遼真からの声を待っていた。
『今度こそ遼真様の役に立って見せる』と心に誓っている。
今回は遼真とのテレパシーを介し、
遠距離で如何に遼真へ陣を作用させるかの挑戦だった。
『護身陣』は、迷い里事件の様に、遼真が霊滅の力を発揮する時、
遼真の身体の防御力が低下し悪霊が憑依し魔人にならないようにするための陣である。

「霊滅」
の声と共に遼真の虹彩が金色に染まる。
遼真は、元々虹彩部分に細い金色の輪郭に縁どられた暗褐色の瞳を持っているが、
この状態になり瞳孔全てが金色に輝く時には、『100%の金環力』を発揮する。
そして、その力はいつものように霊魂を『送霊する力』ではなく、
『|霊滅《れいめつ》させる力』となるのである。
普段の戦いでは、真美の『銀環力(自縛印)』で霊をその場へ固定し、
遼真が『金環力(昇霊印)』を使い、
二人で六芒星の光の柱を作り霊界へ敵を送っているのだが、
この『|霊滅《れいめつ》という力』は、
送霊では対処できないほど強い悪霊相手の時や
真美が戦闘不能となり遼真一人だけで戦う時に使用される。
その威力は『送霊』よりも格段に強い力であり、
霊体を組成している物質そのものを分解してしまう力だった。
分解された物質は、霊として意識活動のできない、
小さな霊粒子(又は弦のような波)へ分解され、
霊界はもとよりどの世界にも存在できなくなり、
個の霊魂としてその存在自身を消滅させる力だった。

遼真は、小瓶の中に棲むアフリカ大陸の悪霊の本体を消滅させるつもりだった。
この悪霊は多くの動物や人間の命を糧として、
太古より続いてきた多くの憎しみが集まった忌まわしい怨霊である。
その姿も既に黒い不定形のモノと変わり、命を持つ生物を憎む心で満たされている。
この怨霊は、憎しみに溢れた身体なら何でも憑依できるため危険であった。

白い五芒星の柱の中に霊糸で固定された小瓶が浮かんでいる。
その小瓶から黒い霊物質が次々とあふれ出て来ている。
その黒い物質の一粒一粒が吸い付けられる様に広がっていき、
白い柱の壁面の光に触れると『ギャー』と悲鳴を叫びながら消えていく。
そのたびに小瓶の中にある骨で出来た人形は端から崩れていく。
やがて小瓶の中の骨人形らしきモノは粉々となり黒い物質の噴出は止まった。