はっちゃんZのブログ小説

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12.捜査3(ハングレ組織、狂次の情報)(第7章:私の中の誰か)

遼真は、上田の捜査を殆ど終えハングレ組織『レッドシャーク団』の捜査に入った。
この組織の事務所は、瑠海の記憶にあった大きな倉庫の中にある。
やはりこの倉庫の登記は『GDコーポレーション』という関東でも有数のヤクザ組織『外道組』の物件だった。
奴らの倉庫の近辺を調べていると偶然空いている倉庫があってすぐに借りることができた。
遼真はその倉庫へバトルカーとバトルバイクを運び込み準備を整えた。
夜になりその倉庫からドローンを飛ばし『レッドシャーク団』の倉庫へ近づいた。
そしていつもの様に天丸1号、クモ大助1号と今回は攻撃力を持つクモパパを使った。
遼真はこれらから常時送られてくるデータを拾った。

ハングレ組織『レッドシャーク団』の概要データは、
首領:赤城 偉武流(通称レッドデビル)
   アフリカ戦線で戦っていた元傭兵。銃とナイフが得意。
   アフリカ戦線で手に入れた小瓶を胸元に吊っている。
副首領:ディック高橋(通称ミスターB)
    赤城同様に元傭兵。爆弾が得意。
首領の女:中野 桃(通称クイーン桃)
     元レディース総長。売春組織のボス。鞭が得意。
副首領の女:クリス松本(通称レディーC)
      元レディース。売春組織の2番手。
その他、10人ほど正式な団員と多くの未成年の予備軍がいる。
このメンバーの中に上田の友人の大河はいた。
この組織のバックは、『GDコーポレーション』という関東でも有数のヤクザ組織という噂もあり、資金源は都内を中心に売春、覚醒剤、臓器売買、依頼殺人、武器密売、その他恫喝による会社買収などと言われている。
この倉庫は団員が常駐しており、首領たちの部屋も常に鍵がかかっている。
鍵は4人しか持っておらずなかなか室内へと入れなかったが、
クモ大助には、体色を背景に合わせて変える機能がある。
クモ助とクモパパは、倉庫の天井部分、天丸は窓部分で盗聴盗視している。
クモ大助は、首領たち4人が常にいる倉庫の奥の部屋へ入り
情報を収集したかったがなかなかそのタイミングが掴めなかった。
ちょうど首領の赤城が所要で居ないある夜、
副首領の高橋が室内で酒のつまみにとクサヤの干物を焼いていた。
その強烈な臭さに怒りさえ漂わせた女性群から猛烈な文句を言われて、
『???こんなに美味いのになあ』と苦笑いしながら
仕方なしに窓を開けて換気している時に室内へ入り込んだ。
今までは窓の外からカーテン越しに盗聴盗視していたが、
これでやっと室内の様子やパソコンデータなどを盗むことができる様になった。
しかし、パスワードなどの問題もあるので赤城が戻ってくるまでは我慢して待った。
やがて赤城が戻ってきた。
「ふう、疲れた」
「あんた、お疲れ」
「!?フンフン、高橋、またクサヤを焼きやがったな」
「まだ匂い残ってる?ボス、鼻が良いね」
「バカ野郎、クサヤは風邪ひいて鼻が詰まってても匂うぜ」
「すみません。ボスが居ない時にと思って焼いたんだけどねえ」
「本当、お前のクサヤ好きも困ったもんだ。
 戦争してたら敵に真っ先に匂いで勘づかれてお陀仏だぜ」
「だからその時代は、これを食うのを我慢してたのさ。
 この平和な日本だからこそ大手を振って焼けるってなもんだ。
 それはそうと赤城さん、うまいこと行きましたか?」
席を立ったクリスが、赤城へコーヒーを出している。
「おお、良い香りだ。男むさい汚い所で飲んでもまずいだけだったな。
 しかし、いつも思うが外道組の奴ら、やたらと偉そうだよな」
「それが奴らの生き方だからねえ」
「別に事務所へ爆弾を放り込めば一発で全員殺せるけどなあ。
 まあ警察沙汰になるのも邪魔くさいから聞き流してるけど」
「あいつらは、私たちにお金を運んでると思えばいいんじゃないの」
「桃はいつもそういうが、特に若い奴の教育が出来てないんだよ」
「この前クラブで飲んだ時、
 あの世界も根性のある奴は少なくなったって、組長が嘆いてたよ」
「お前、あのジジイに狙われているから気を付けろよ」
「へん、あんなジジイ、変な口訊いたら、私の鞭で叩いて調教してやるさ」
「怖い女だな、俺の前では可愛いのになあ」
「やだー、そりゃあ、あんただからねえ」
「桃姉さん、ボスの前だけは可愛くなっちゃうよ。あの恐怖のクイーン桃がねえ」
「それは昔の話だろう。もう私は卒業したのさ」
「まあ桃姉さんを怒らせないこととあの子達にも口うるさく言ってるけど」
「あいつらはすぐにいい気になるからね、クリス頼んだよ」
「わかってます。まだ青臭いガキの癖にすぐいい気になる。
 客に抱かれてちょっと褒められれば態度がでかくなる。
 まあ軽く一発張り上げればすぐにビビって言う事聞くけどね」
「まあクリスは私より怖いから、任せられるさ」
「まあ・・・桃姉さん、いまはそう言う事にしときましょうか」
「そうそう、クリス、思い出した。
 この前拉致したあの中学生、ええと木村・・・ルミ?だったかな?」
「ああ、あのまだ小学生みたいだった子よね」
「仕事とは言え、可哀そうだったよね。
 まだ胸も殆ど膨らんでないし下も・・・まだ子供だったのに・・・」
「あの変態野郎に目を付けられたのが運の尽きだよね」
「今頃、あの野郎、あの子の制服や髪の毛とかで楽しんでるのかねえ」
「妹によく似てたから見ていたら、警察へ通報されて恨みに思ったって?」
「見ていたらとかのレベルでなく、ああなればストーカーだからね。
 あの男のあの子の写真の多さ、気持ち悪いよね。今、思い出しても鳥肌が立つ」
「ふー、あいつの眼つきを思い出したら私も痒くなってきた」
「そう言うな。父親が警察上層部だから事故と処理されて、
 あの事件が俺達の犯行には繋がらないし、
 あの変態ボンボンからたくさんお金を貰ったからいいじゃねえか。
 それにあのバカの狂次にしては良いアイデアを出して『良い事』したしなあ」
「そうだったね。まあ狂次の母親はそれ関係の仕事だから思いついたんだろうね。
 しかし『臓器移植』って、聞いた事はあったけどあまり考えたこと無かったわ」
「この日本では、簡単に健康な臓器が手に入らないって言うものね」
「アフリカだったら、痩せっぽちだけど子供なんざいくらでも居たし、
 子供の癖にこっちに銃を向けてくるからよく撃ったもんだ。
 今考えればあの時だったら子供の臓器はいくらでも用意できたのになあ」
「確かにボス、そうですね」
その話を聞いていた桃とクリスは、少し驚いた顔をして
そっと顔を見合わせて、肌寒そうに両手で胸を抱いて腕を擦っている。

ある日、首領も副首領もいない時に女二人の会話が入ってくる。
二人はそっと誰も居ない部屋の中を見回して
「クリス、ここだけの話、ボスのあの力って怖いよね」
「ええ、人間を意のままに操る力のこと?」
「そう、あの女の子の時だって、ボスが指示したら
 最初は躊躇してた狂次の目から急に感情が消えて出て行ったよね?」
「あの時、一瞬、
 ボスの胸に吊ってる小瓶が光った様に見えたの。気のせいかしら」
「私たちが実際に今までしたきた恐喝、殺し、強姦、売春、薬といい、
 最初は全てボスが命令したらどんな奴でもいう事を聞いたものね。
 もしかして私たちもその力で操られているのかな」
「どうかは知らないけど、もう桃姉も私もみんなもたくさん人を殺してきてるしね」
「不思議なことになぜか、殺すことに恐れは無かったよね」
「そう普通は人を殺すとなったら躊躇するはずだけど全然だった。
 むしろ相手が憎くて終わったらすごく気持ち良かった」
「ボスの居ない時、みんなと酒を飲んだ時、聞いたら同じこと言ってたわ」
「もしかしてあの小瓶に何かあるのかな?怖くて聞けないけど」
「ボスに抱かれた時、一度あの小瓶のことを聞いたことがあるの」
「えっ?桃姉、怖いもの知らずだねえ」
「そんなこと無いわ。
 あの小瓶が私の胸やお尻や背中にコツコツとあたって集中できないから。
 でもそれからはあの時は外してくれてるわ。おかげでもう最高」
「へえ、激しいのね。良いなあ」
「何言ってるの。クリスだって高橋から可愛がって貰ってるじゃん」
「うーん、そんなにしてくれないよ。それにすぐに終わるし。
 やたら筋肉を鍛えるのだけは好きだけど」
「あんなにいい身体してそうなの?以外に淡白なのね?」
「タンパク質は好きなんだけどねえ」
「うまい。淡白とタンパク質ね」
「うまいじゃないよ。私も桃姉みたいにもっとして欲しいのに」
「もしかしてクリスの最初って・・・」
「桃姉に言ってなかったけどボスだよ。無理矢理で痛かっただけだけど」
「私もそうだったよ。そうかクリスと私はボスの棒姉妹ね」
「やだー、桃姉、そんな親父みたいな下ネタは止めて」
「わかったよ。ここから話は戻るけど、
 あの小瓶はアフリカ戦線で呪術師の持っていた物で、
 見せて貰ったけど、中には小さな骨で出来た動物の人形みたいな物が入っていたわ。
 その人形は『豹の精霊』を宿していて人を支配できたらしい。
 実際にその呪術師は部族の戦士を死をも恐れぬ様に洗脳できる力があったそうなの。
 その呪術師からその話を聞いた後、すぐに殺して手に入れたって」
「えっ?殺したの?」
「みたいよ。何か偉そうにしていたからムカついて殺したって。
 それからボスは、自分が危険になっても仲間を操り囮にして生き延びたらしい」
「何それ?仲間を?酷いじゃん。怖いよー。逃げたいよー」
「まあ無理だね。私もお前ももう死ぬまで逃げられないから諦めるんだね。
 それに私もみんなも今までどれだけ自殺や事故に偽装した殺人をしてきてるよ」
「うん、でも桃姉と一緒なら例え火の中水の中・・・」
「そうだよ。えらい男に目をつけられちゃったもんだよ。
 例え自分の女でも逆らったら殺すかもしれないし、この頃怖いのさ」
「私もそうなの・・・」
女二人は泣きそうな顔で抱き合いながらその会話は延々と続いている。
赤城と中野 桃の住む部屋の窓からキインにその小瓶を確認させたが、
確かに赤城の小瓶には凶暴な豹の霊体が宿っており、強い力に漲っていたようだ。
彼女たちが帰った後、赤城のパスワードも入手出来ているので
事務所にあるパソコンから依頼文書や顧客名簿の資料など
今までの犯罪の証拠データを全て集めてここでの捜査は終了した。
何と数十件に及ぶ犯罪記録で、
高齢者相手の強盗殺人、依頼殺人、覚せい剤や麻薬販売、少女売春と恐喝、
今まで警察の調べでは自殺や事故死と思われていたものも、
実はその内の多くをこの殺人集団が行っていたことが明らかになった。

意識の無い木村瑠海を歩道橋から突き落とした狂次(本名:教次)は、
事件化しなかったおかげでたくさんお金を貰い遊び歩いていた。
遼真は狂次が倉庫から出る時、
庇の上からクモ助を背中へ落として『聞き耳タマゴ』を付けて盗聴している。
狂次が家に帰ると母親から声がかかる。
「教次、ご飯はどうするの?」
「あ?食ってきたから今日はいいよ」
「外食ばかりで良くお金が続くね。お前悪い事してるわけでないよね?」
「いや、俺は世の中に良い事をしてるぜ」
「そういえば、以前、お前がもうじき若い臓器が回ってくるかも』と言い出して、
 しばらくしたら本当にその通りになった時は驚いたよ。
 まあ何とか型が合って恭三に肝臓移植できたから良かったけど」
「ならいいじゃねえか。俺には何となく予感があったのさ。
 この前『恭三の命もあと数か月って』おふくろは泣いてたから
 気になってたのさ。移植できて良かったじゃん」
「そうなんだけど、あまりにタイミングが良すぎて怖いんだよ」
「『神様からの贈り物』と思えばいいじゃん」
凶次は酒癖が悪く母親や家族に平気で暴力を揮う父親の家庭の次男として生まれた。
現在母親は父親の暴力の酷さに耐えかねて離婚しシングルマザーとなり子供達を育てている。
離婚後すぐに家を出て行った長男は、ヤクザになって敵対組織のヤクザに殺され、
弟恭三は幼い頃に『胆道閉塞症』と診断され、
今も入院中で肝臓移植だけが命を繋ぐ方法と言われていた。
母親はその恭三の病気を知り、その関係の伝手を辿り臓器移植関係の仕事に就いた。
恭三はこのまま臓器移植しなければ、あと数か月の命だと主治医から言われている。
順番は次の移植候補と言われていたが祈る様な気持ちで母親は毎日を過ごしていた。
そんな時、中学生の女の子が脳死となり彼女の臓器が回ってきた。
資料を見ると本人の希望で彼女の臓器の殆どが移植へと回されていた。
母親にとって、まさしくその女の子は『神様の贈り物』と感じ、
その大きな決断をした彼女のご家族に感謝し、
そのご家族の辛い気持ちを考えると心に強い痛みを覚えた。
それ故に、その時の確信じみた教次の言葉が引っ掛かった。
それで母親は臓器移植の提供者『木村瑠海』の資料を調べると、
彼女が歩道橋の最上部から転落して脳死となった経緯が簡単に記されている。
その日は教次はなぜかいつもより早く帰って来て、
今までしたことも無かった行為、
長男の仏壇へじっと手を合わせて、その日は部屋に籠って出て来なかった。
翌日も部屋から出て来ず、その翌日に出て行ってしばらく帰って来なかった。
貧しい家計なため、お金をせびる訳ではないから別に良いのだが、
どんな仕事をしているのか聞いても答えないし、存外にお金を持っている気がしている。
母親は教次の態度に不安はあったが、
先ずは恭三の命が助かったのでそれ以上は考えない様にしようと思った。
ただ小さい頃から身体の弱い弟へ優しい笑顔を向ける教次の姿を信じようと思った。
じっと考えていると教次の将来に暗い影が落ちるような不安に駆られた。