はっちゃんZのブログ小説

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8.霊査2(木村瑠海の悲しみ2)(第7章:私の中の誰か)

 その男は、古い大きな倉庫の中に居た。
倉庫の大きな扉には「GDコーポレーション」と会社名が書かれている。
その中は広く奥には部屋や机や椅子があって、
机や椅子の周りには釘の打ち込まれた角材やバットなど危ない物が転がっている。
一目見て柄の悪そうな恰好をした多くの男達の中で笑っている。
「惜しかったよなあ。もう少し大きくなればみんなで回せたのにな」
「そうだよな。でもあれくらいがいいと思う奴もいるぜ」
「駄目だよ。そんなことしたら事件になるから商売にならないぜ」
「まあな。あの綺麗な身体が金になるからなあ。
 それに世の中の困っている子供のためにもなるし
 その子供達の親も喜ぶしで俺達は良い事をやってるんだぜ」
「しかし、あの男も変な奴だな。
 中身より服がいいんだと、俺にはわからねえ」
「そうだな。あんな小便臭い中学生の制服やパンツの何がいいのかねえ」
「おい、その辺にしとけ。あいつがボスの部屋から出てくるぜ」
「おお、わかった。どんな変態でもお客さまは神様ですからねえ。まいど」
「ははは、おもしれえ」

奥の部屋から男二人と女二人が、一人の男と出てくる。
最初に出てきた男二人の顔や身体には、
1人には鮫、もう一人には虎の入れ墨が入っている。
「上田さん、確かにご依頼の後金は頂きました。またのご依頼をお願いします」
「いやあ、しばらくはいいかな。でも絶対に内緒にしてね」
「わかっていますよ。良い素材をありがとうございました」
「じゃあ今回はここまででね」
上田は倉庫から出て行くと立派な車を運転して帰って行った。

『あの顔は覚えてる。
 私にストーカーしてた男だわ。確か変態上田・・・
 なぜ、あの変態上田がここにいるの?
 確かお巡りさんから言われて私の近くには寄れない筈なのに』

鮫の入れ墨をしている男から男達へ
「お前達、今晩は久々にパーッと行こうか。
 あの坊やから軍資金がたんまり入ったし好きなもの食べて良いぜ」
「「「うおー、ボスありがとうございます。
 いつでも言いつけてくださいね。どんなことでもしますぜ」」」と男達が騒ぐ。
「そうそう、狂次、今回の殊勲者はお前だから好きな女抱いても良いぞ。
 桃、狂次にいい女をあてがってやってくれ」
ボスと呼ばれた鮫の入れ墨の男の隣に、
派手なピンク色の髪に妖艶な化粧をした女がニヤリと笑う。
「はいよ。狂次、確かお前は、ナナが気にいってたね。
 今晩はお前の部屋へ行かせるから思う存分楽しみな」
「ナナか、あの色気にあの巨乳は反則だなあ。今夜は朝まで眠らせないぜ」
「わかったわ。ナナにそう言っておくから。
 でも荒っぽくして壊すんじゃないよ。
 あの子はリクエスト客も多く稼ぎ頭なんだからね」
「わかってるよ。大切な商品だから、大事にするぜ」
「わかればいい。本当にお前はいつもがっついているから心配になるよ」
「はい、桃姉さん、いつもすみません」

『この人達、私が何をしたの?』
『なぜこんな人たちがこんなことをして生きてるの?』
『なぜ私はこんなことにならないといけなかったの?』
瑠海の魂が更に黒くなっていく。
そして、その黒い一部が離れてこの場に自縛された。

「おお、何かここ寒くないか?ストーブをもっとガンガン燃やしな」
「へい、わかりました。確かに急に寒くなりましたね」
「どこか窓でも開いてるのかな?」
「ちょっと調べてみます・・・どこもきっちりと閉まってるけどなあ」
「まあいいや、俺は部屋で酒でも飲んでるから時間が来たら声を掛けろよ」
「へい、ボス。わかりました」

 瑠海は上田の顔を脳裏に浮かべると上田の部屋へ引き寄せられた。
部屋の壁と天井には、
大きく引き伸ばされた瑠海の隠し撮り写真が一杯貼られていて、
それらの写真が見える場所に大きなベッドがある。
そのベッドの上で、
切り取られた瑠海の髪の毛や制服や下着に頬ずりする上田の変態の姿があった。
「あの子の全てを俺の物にできた」
「あの子は、もう永遠に誰の物にもならない」
「あの子は、永遠に中学生で僕の物になった」
「・・・おお、何か急に寒くなったな。暖房を強くしないと」

『気持ち悪い事はやめて。お気に入りの制服だったのに』
『ああ、下着まで・・・そんなところ・・・お願いやめて・・・』
『この変態め、絶対許さない・・・殺してやりたい・・・』
『変態上田め、早く死ねばいいのに・・・』
あまりに強い憎しみの余り

瑠海の魂の黒い部分の一部が分離してしまい上田の部屋に自縛された。

『わたし、かなしい・・・こんな気持ち・・・』
『お母さん、お父さん、愛海《えみ》に会いたい』
『寂しいよー、みんなと一緒に居たいよー』
瑠海は自分の家へと引き寄せられた。
家では両親と妹の愛海がダイニングのソファに座っている。
家族は悲しみに染まった表情でお茶を飲んでいる。
「瑠海が心配だな。何とか目を覚ましてくれないかなあ」
「そうね。でも命があっただけでも良かったと思っています。
 あんな高い所から落ちたのだから・・・。
 あなた、私、明日から瑠海が目を覚ますように病室でいますね」
「うん、頼むよ。家の方は何とかしておくから」
「お母さん、私も学校終わったら姉さんに会いに行きたい」
「わかったわ。お前も気になるだろうから気を付けてくるんだよ」
愛海、今日は遅いからお風呂に入って、もう寝なさい」
「はい、じゃあ今から入るね」
「寒いから風邪ひかない様によーく身体を温めてね」

しばらくして父から母へ
「あの子はどうしてあんな場所を歩いていたんだろうな。
 あの子、どこにいくつもりだったんだろうか・・・」
「そうね。確かに塾や家とは反対方向だし、私もそれは不思議だったわ」
「お前もか、わざわざあんな人通りの少ない場所に行かないと思うんだが」
「そうね、しばらく前にあんな気持ち悪い思いしたからねえ」
「本当に変態だったな、あの上田という奴は。しかしもう心配無い筈だし」
「そうね。あの男もお巡りさんからもきつく言われていたからもう大丈夫でしょ」
「ふーん、事故なのかなあ」
「うーん、少し不思議な事があるの・・・」
「なんだ?」
「あの子の制服だけど、なぜか新品を着てたのよ。
 それに下着も新品だったような・・・あんな下着を洗濯したことないし・・・」
「制服?下着?・・・一体何だろうな。とにかく瑠海は目を覚まして欲しいな」
「そうね。ただただ祈るしかないわね」

『お父さん、お母さん、悪いのは上田よ』
『お父さん、お母さん、悪いのは怖い危ない人達よ』
瑠海は自分の部屋へ跳んで行った。

ある日、病室で主治医の先生から両親へ
「お父さん、お母さん、残念ですが、
 もう入院してだいぶ経ちますが娘さんの脳波は平坦なままです。
 瞳孔反射はありませんし、自発呼吸もできていません」
「どういうことですか?」
「以前、お話させていただきましたように
 残念ながら娘さんは現在『脳死状態』にあります」
「先生よくわからないのですが、それは・・・」
「非常に言いにくいのですが、
 娘さんは今後ずっとこのような状態となります。
 呼吸も自立でできる状態になることはないです」
「先生、お金なら何とでもしますから目を覚ますまで娘をお願いします」
「娘さんの目を覚ます可能性は非常に低く、
 こういう植物状態のままこれから何年も続きますが・・・」
「先生、娘が目を覚ますことは無いのでしょうか?」
「はい、今までのケースから見て、娘さんはこのままの可能性が高いです」
「可能性はあるのですか?」
「いえ、酷な様ですが期待を持たせることは言えませんからいいますね。
 目を覚ます可能性はほとんどゼロと考えてください」
「そんな・・・瑠海、瑠海・・・」
まだ眠る様に横たわる娘を抱きしめて母の慟哭が部屋に響き渡った。