はっちゃんZのブログ小説

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7.霊査1(木村瑠海の悲しみ1)(第7章:私の中の誰か)

 幼い舞華を苦しめていた荒御魂を宿し黒く変色した人形《ひとがた》”は、
現在、祈禱所内でも慎重に何重もの結界を張った場所へ安置している。
遼真と真美は帰宅すると慌ただしく祈祷所へ入った。
今回の荒御魂は恨みなどの負の感情のみで出来ているため、
その荒御魂から情報を取り、その後荒御魂を滅さなければならなかった。
もしこの世に解き放たれれば、別の人間に憑依し大変なことになるからだ。
 遼真と真美は再度心身を清めて精神統一し、荒御魂からの情報の調査に入った。
智朗さんが祈禱所内で異変が起こらない様に片隅からじっと見つめている。
真美は遼真の後ろへ座り目を閉じ、遼真の背中へ右手を当て、
左手にデジタルカメラを持ち胸の前に構えている。
別に手を置かなくてもお互いテレパシーで送ることはできるのだが、
二人とも力を極限まで使うので触れ合った方が受送像効果の効率が良かった。
遼真が白紙に包まれた黒く変色した人形《ひとがた》の上に手を置く。
『ウッ』
途端に遼真の掌へ切り刻まれるような痛みが走る。
遼真の額に汗がジワリと滲み始める。
実際に遼真の掌には強力な霊障のため、
刃物で切られた様な線が何本も走り血が滲んでいる。
やがて遼真の脳裏へ荒御魂の発する”恨み”の光景が流れ込んでくる。
遼真は黒い人型の発する連続的な光景の必要な部分を切り取っては真美へ送っていく。
真美の脳裏へ遼真から送られてくる画像が浮かぶ。
真美はその画像を丁寧に念写していく。
デジカメへ何十枚もの写真が撮影されていく。
遼真の額から滝の様な汗が顎を伝い白衣の胸元へ滴り落ちていく。
真美も同様に額から汗が白衣へ落ちていく。

 やがて遼真の目が開けられた。
「ふう、終わった。真美、大丈夫か?」
「ふう、はい、大丈夫です。今回は酷い場面が多いですね」
「そうだな、女の子の真美には見せたくないシーンもたくさんあったから、
 何とかそこは送らない様にしてた。しかし本当に酷い事件だな」
「遼真様、いつもありがとうございます。
 でももう真美も来年には大学生ですから気にしないで結構ですよ。
 そのために遼真様に要らない力を使わせることを私は望んでいません」
「まあそうだけど、まだ真美には酷い内容にあまり慣れて欲しくないな」
「ありがとうございます。でも決して無理はしないで下さいね」
「わかったよ。

 そうか・・・もう来年には大学生だったな。早いものだなあ」
「そうですよ。もう真美は大丈夫です。
 舞華ちゃんの中に居る瑠海(るみ)ちゃんがかわいそう。
 それも何個もの荒御魂に分かれてしまってどうしようも無くなってますよね」
「そうだよね。こんな恨みを持てば成仏したくてもできないよね。
 何とか瑠海ちゃんの分かれた荒御魂も一緒にして鎮めさせて助けたいな」
「遼真様、私も精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」

 二人は祈禱所から居間へ戻りウメさんからコーヒーを貰って一息ついた。
残念なことに現在祈禱所にある黒い人型はまだ送霊できない。
智朗さんにはしばらくこの人形《ひとがた》を祈禱所内で安置しておいてもらうしかない。
不幸な事にあまりに恨みが深いため他の場所にも縛り付けられている、
木村瑠海の荒御魂を一緒にして一つとして送霊しなければ意味が無かった。
真美はデジタルカメラの画像をワードやパワーポイントへ貼り付けていく。

遼真が観た光景は以下だった。
舞華ちゃんへ心臓を与えた少女の名は『木村瑠海』。
年齢は、中学1年生。都内の公立中学へ通う。
どこにでもいるような元気でおしゃれの好きな女の子。
ある冬の夕方、塾からの帰り道。
友人の恵理那との明日のお出かけを脳裏に描いて楽しみにして歩いている。
誰も歩いていない道端で女性がお腹を押さえて苦しんでいる。
瑠海は、心配になって急いでその苦しむ女性へ近寄る。
「どうかされましたか?大丈夫ですか?」
「うう、持病の癪が・・・なんてね」
と突然瑠海の口元に濡れたハンカチを当てられた。
そのハンカチからは化学薬品の様な匂いがしたがすぐに意識が無くなった。
瑠海はふと知らない歩道橋の上に立っていることに気がつく。
『ここはどこ?なぜ私はここに?』
その時、ふらつく身体を後ろからドーンと押されて
フワリと身体が歩道橋の階段の上へ放り出される。
「勘弁してくれよ。まだこれからなのになあ。
 もう少し大きかったら相手したのに惜しいな。じゃあな」
目に入る風景がスローモーションとなり、やがて視界が階段と道路で一杯になる。
スローモーションの様に流れる光景を見たその一瞬後、
『ゴーン、ゴトゴトゴト・・・』
と自分の頭や身体が階段と歩道へ当たる音が聞こえてくる。
酷い痛みは一瞬で、
瑠海はその時、歩道橋の階段から落ちていく自分を見ていた。
瑠海を突き落とした男は、ニヤリと笑って階段を下りていく。
そして頭から血を流して倒れている瑠海をじっと見て、
そっと辺りを見回して誰もいないことを確認して走って行った。
瑠海は頭や口元からも血を流し、
手足が不自然な形に曲がっている自分の身体を見ていた。
路上に落ちている生徒手帳からは、
今まで手帳へ入れたこともない「臓器移植カード」が見えている。
しばらくするとそこを偶然通ったサラリーマンが、
倒れている瑠海を見つけて、慌てて携帯電話で救急車を呼んでいる。
救急車がすぐにきて瑠海はストレッチャーに乗せられ運ばれていく。
手術をしたようだが瑠海の身体は意識を回復しないようだった。
やがて瑠海の両親と妹が病室へ入ってきた。
病室の壁には瑠璃のなぜか汚れた新しい制服が掛けられている。
ベッドで横たわる瑠海は、全身を包帯で巻かれ、
開頭手術のため、長く自慢だった髪も丸坊主にされ包帯で巻かれて、
酸素吸入器や数本の点滴チューブに繋がれて眠っている。
医師から両親へ
「娘さんは歩道橋の高い所から落ちたようで、
 その時に頭を強く打ち脳内出血を起こし大きく脳組織を損傷しています。
 我々としても全力を尽くして出血部分を除去しましたが、
 その範囲が非常に広く、最悪の場合、
 娘さんはこのまま意識を戻らず、植物状態になることも覚悟してください」
と言われている。
大好きだった母は瑠海の横たわるベッドに泣き崩れ、
優しい父も泣きながら泣いている母の背中をそっと擦っている。
妹の|愛海《えみ》も『姉さん、姉さん』と泣きながら声をかけている。

瑠海は自分がなぜこんな事になったのかわからなかった。
瑠海を拉致した女も、突き落とした男も、
今まで見たことも無い知らない男女だったからだ。
瑠海はその男を探そうと思った。
不思議なことにその男の顔を思い浮かべると
身体が引き寄せられるようにその男がいる場所へ飛んでいく。