はっちゃんZのブログ小説

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6.舞華の笑顔(第7章:私の中の誰か)

 遼真はすぐさま浴室へ入り水垢離をして身を清め、
祈禱所では智朗さんと一緒に” 荒御魂分離修復術”の準備を進めていく。
やがて遼真から真美へテレパシーで『真美、こっちは準備できたよ』と伝えられた。
真美の部屋の香炉には、今朝から心を沈静させる成分が入れられている。
ウメさんが少量の睡眠薬の入った新しいジュースとショートケーキを部屋へ持っていく。
みんながそれを食べていると少しずつ眠くなってくる。
ウメさんから「皆さん、綺麗な桜ですね。如何ですか?」と
工藤三姉妹の一人一人へ順番に声を掛けた。
その時ウメさんの瞳が青く輝き、『催眠力』”眠りへの誘い”が出て、
一瞬にして工藤家三姉妹は深い眠りの世界へ入った。
真美はそっと舞華ちゃんを抱き上げると祈祷所へと向かう。
ウメさんは姉の真奈美と真琴の二人をそっと横にして眠らせた。

 祈禱所では、護摩壇に炎がチロチロと燃え上がり始めている。
スヤスヤと気持ち良さそうに眠る舞華ちゃんの小さな身体が、
遼真の前、護摩壇の手前に敷かれている小さな布団へそっと横たえられる。
真美は急いで浴室へ向かい、浴槽に入った井戸水で一心に祈り水垢離を始めた。
春とは言えまだ冷たい井戸水を何度も頭から被ると
真美の普段から白い肌や頬が次第に赤く染まり始める。

 真美が水垢離を終え、着替えて舞華の隣へ座る。
遼真は、護摩壇へ護摩木を投げ入れながら祈り始めた。
護摩壇の炎が強く弱く燃え上がり、舞華の身体がその赤い炎の色で染まる。
遼真の前に30センチ四方の三方が設置され、その台上には折られた白紙が見える。
その白紙の上には手のひらサイズの”人形《ひとがた》”が置かれている。

祈禱所に遼真の祈りの声が流れ始めて、
しばらくすると人形《ひとがた》”は、『フワリ』と起き上がった。
舞華の方へと空中を泳いでいく。
人形《ひとがた》”は、舞華の胸の上で立ちじっとしている。
よく見ると舞華の胸辺りに黒い霧の様な物質が集まり始めている。
どうやらその黒い霧は、
舞華の身体の中からジワジワと滲み出て来る黒い粒々が凝集したモノだった。
やがてその黒い霧は吸い込まれる様に”人形《ひとがた》”へと入って行く。
それにつれて白い”人形《ひとがた》”が、角のある黒い”人形《ひとがた》”へと変わっていく。
舞華の身体から黒い粒状物質が出なくなった頃合いで、
真美が黒くなった”人形《ひとがた》”へ近づいて、呪文を唱えながら白紙へそっと包む。
そしてその人形《ひとがた》”の入った白紙は、元の三方の上へ置かれた。
スヤスヤ眠る舞華の表情からは、沈んだ滓《おり》の様な暗さが抜けていた。

「薬師琉璃光如来様、なにとぞこの子の霊体の修復をお願い申し上げます」
護摩壇の赤い炎がひときわ大きく燃え上がり
その炎が徐々に瑠璃色へと変わり始め、やがて祈祷所内は瑠璃色へ染まった。
日光菩薩月光菩薩を脇侍として薬師琉璃光如来がその姿を見せた。
日光菩薩の掌より白い暖かい光が、
月光菩薩の掌より黄色い優しい光が発せられ舞華を包む。
舞華の霊体の大きく窪んだ不整合部分へとその光が集まっていく。
舞華の霊体の胸の不整合部分は、まだ赤い切り口が見えていたが、
徐々にその損傷部分が修復されていく。
最後に薬師琉璃光如来の薬壺が、舞華の身体の上へ傾けられる。
薬壺からは金色の細かく柔らかい光の粒子が無限にその身体へ降り注がれる。
柔らかい金色の光が舞華を繭の様に包み、その光が脈動するように揺れる。
その霊体はこの世に生まれたばかりの霊体の様に輝いていた。

 真美はそっと舞華を抱き上げると部屋へと向かう。
部屋の中では真奈美と真琴がスヤスヤと眠っている。
舞華の身体をそっとビーズソファーへ横たえた。
ウメさんに三人をしばらく見ていて貰い、浴室で急いで元の服へ着替えた。
「みんな、起きて起きて」
「?」
「??」
「うーん、良く寝た」
「真美、私たち眠ってた?」
「私もついつい一緒に寝てたわ」
「ごめんなさい。何か気持ち良くなって知らないうちに寝ていたわ」
「真美さん、私も一緒です。ごめんなさい。
 眠る前におばさんに声を掛けられたことまでは覚えてるんですけどねえ」
「私も一緒に寝てたから気にしないで。舞華ちゃんはどう?」
「すごく気持ち良いの。ぐっすりと眠ったわ。
 こんな気持ちで目が覚めたのは今までで初めて。
 何か今までモヤモヤしてた胸の辺りがすっきりしてるの」
「そう?それは良かった。
 頑張った舞華ちゃんへの神様のプレゼントかもね」
「そうかも?
 帰りにもう一度、神様にお礼を言いたいから
 真奈美姉ちゃん、私にお礼の仕方教えてね」
「ええ、わかったわ。何度でもお礼を言うわ。
 舞華の表情がすごく明るく可愛くなって、姉ちゃんすごく嬉しい」
「姉さん確かにそうね。朝とは違ってるわ。舞華、本当に良かったね」
「うん。今日は最高のお花見だったね」
「お花見はまだまだ続くわよ。今からお花見弁当があるのよ」
「舞華、すごくお腹が空いたの。一杯食べていいですか?」
「ええ、存分に召し上がれ」
ウメさんが台所から重箱に入った懐石弁当を持って入ってきた。
「わあ、すごく綺麗なお弁当。
 こんなお弁当、お家では外で頼まないと食べられないわよ」
「そうね。姉さん、こんな可愛くて綺麗なお弁当は初めてね」
「わー、美味しそう。こんなすごいお弁当は初めて見たわ」
「皆さんどうぞ、たっぷりと眠った後は存分に召し上がってね」
「「「はーい。いただきまーす」」」
舞華の輝く様な笑顔には、
まだ日光菩薩様、月光菩薩様、薬師琉璃光如来様の優しい光が宿っている。
その様子をそっと見ていた遼真は、安心して祈祷所へと戻っていった。

『遼真様、本当にありがとうございました』
『いや、日光菩薩様、月光菩薩様、薬師琉璃光如来様のご加護だよ』
『はい、それはわかっていますが、遼真様にもお礼を言いたいです』
『ああ、僕は工藤三姉妹や真美の笑顔が戻ればいいだけだから』
『はい、みんな、良い顔になりました。私も安心しました』
『じゃあ、みんなと美味しい物を食べて楽しんでね。僕も食べるから』
『はい、遼真様と私が大好きな出し巻き卵がありますよ。是非ともお召し上がりください』
『おお、楽しみだな。また後でね』
『はい、お先にいただきます』

「真美、どうしたの?急に黙って・・・」
「ううん、舞華ちゃんが明るくなって良かったなと思ってね」
「真美の所の神様ってすごいのね。今度は父母も一緒にお参りします」
「舞華ちゃんやみんなが明るくなれば私は嬉しいだけ」
「真美、ありがとうね。ずっと不安だったから・・・(グスン)
 どうしたら・・・(グスン)・・・ほんとにありがとう」
「真奈美、もう泣かないの。妹さんも困ってるわよ。さぁもっと召し上がれ」
「う、うん、ほんとうにありがとう。
 じゃあ、いただきます。ウグッ、ゴホンゴホン」
「もう姉さんたら、泣いたり食べたり忙しいんだから、はい、お茶」
「・・・真琴、ありがとう。ゴホンゴホン、はあ・・・苦しかった」
「真奈美姉ちゃん、子供みたいだよ」
「そうね、そうね、気を付けるわ。でも本当に美味しいわ」
そんな満開の桜にも負けない娘四人の楽しい時間が過ぎていく。

 遼真は、祈禱所の護摩壇の前に設置されている三方の上に
真美の自縛印で固定されている黒くなった”人形《ひとがた》”を確認し、
智朗さんに様子を見て貰ってる間に工藤三姉妹を真美と一緒に家へ送って行った。
三姉妹は来た時よりも明るく華やかになって帰って行った。
二人きりなって真美が遼真へ
「遼真様、本当に今日はほっとしました。ありがとうございます。
 これからもがんばりますからよろしくお願いいたします」
「ああ、いつもと同じだよ。真美の事は心配してないからね」
「はい、ありがとうございます。でも気は抜きません」
「うん、わかったよ。よろしく頼むね」