はっちゃんZのブログ小説

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4.舞華の悪夢(第7章:私の中の誰か)

夜が徐々に更けて行き、
真奈美のお友達の真美が泊まることで大喜びで色々と遊んだ舞華の瞼が重くなってきた。
でも楽しい時間を少しでも過ごしたい舞華は頭を振ってでも起きている。
しかしその努力も空しく、とうとううつらうつらとし始めた。
真奈美がそっと抱き上げると、
一瞬嫌々をしたが安心したようにすぐに真奈美の胸で眠り始める。
真奈美は優しく舞華をベッドへ運びそっと可愛いウサギ柄の布団へ横たえた。
その後、真美と真奈美も部屋で枕を並べて眠り始めた。
もちろん真美は眠っていない。
呼吸が深くなり眠りかけている真奈美の額へそっと眠りのお札を貼った。

しばらくすると眠っている舞華から寝言が始まった。
「ふふふ、明日、すごく楽しみだわ。
 恵理那と原宿のMOMOに行こうっと」
「どんなお洋服にしようかな?」
「今夜は雪降りそうだし、
 きっと寒いからあのお気に入りのコートにしようっと」
「その帰り道には、あのパフェの店に入ろっと。
 すごく大きいから恵理那とシェアすればいいかな」
舞華ちゃんはにこやかな顔つきで眠っている。
その時、突然、
「キャアー」
「痛いよー。身体が動かないよ。誰か助けて」
「あなたは誰?」
舞華ちゃんの目がカッと開かれ、その顔が苦しみに歪む。
そして、次第に憎しみの顔つきとなっていく。
その目は開かれて虚空の一点を睨んでいる。
「なぜ私を突き落としたの?」
「私があなたに何をしたの?」
「勝手に私の名前で臓器移植のカードに記載しないで」
「なぜ私の名前を知っているの?」
「何?こんなにたくさん怖い人が集まってるの。気持ち悪い人達だわ」
「顔や身体に龍の入れ墨を入れてるなんて趣味が悪いわ」
「あの倉庫の壁の赤い二重丸って、何のマークかしら」
「あの顔覚えてる。私にストーカーしてた男だわ」
「あんな気持ち悪い男に好かれるなんて不幸だわ」
「あの男は警察に届けて私には近寄れなくなってる筈なのに」
「なぜ私がここで死ななければならないの?」
「お前のことは絶対許さない」
「お前の顔は絶対に忘れない」
今度は舞華の顔が悲しみに歪み、その開かれた目から涙が頬を伝う。
「私は殺されたの」
「怖いわ、声も出せないし身体も動かせない。助けて」
「私は生きているわ。死んでいないわ。やめて」
「私の身体から心臓や肝臓を取るのはやめて」

舞華は、苦しそうに胸に手を当て額に脂汗を浮かべ、
恐怖に戦くように大きく目を開けたまま、
焦点の合わない瞳で暗い天井をじっと見つめている。
真美には舞華の霊体の全体的な構成の中で心臓の部分に”不整合な繋がり”が見える。
その不整合な部分から漏れ出てくる映像を真美が読み取っていく。
これは舞華が夢を見ている訳でなく、
舞華の肉体の心臓部分に存在する何者かの意識が、
舞華の神経を使い何度も反芻している現象だった。
しかもその何者かの意識は、”荒魂”の分類されるほどの強力な恨みである。
何とか舞華の霊体の不整合部分への治療が必要だった。
『真美、この荒魂が舞華ちゃんを苦しめているね』
『はい、こんなに幼いのに可哀そうです』
『せっかく移植できたのにこれでは意味が無い。何とか助けたい』
『ええそうですね。どうされますか?』
『明日、うちへ真奈美さんと舞華ちゃんを招待できないか?
 ”荒魂”だけを分離させて和魂はそのまま舞華ちゃんへ融合させたい』
『はい、わかりました。何とか二人には来てもらいます』
『急いで今から帰って準備してるから戻る時は連絡してね。
 僕が車で迎えに行くから。
 それと真美、舞華ちゃんには準備した”鎮魂札"を握らせてみて』
『わかりました。ありがとうございます」
真美は、舞華の可愛い手に”鎮魂札”を握らせた。
しばらくすると悲しみに歪む舞華の表情が穏やかなものとなり、
悲鳴のようなうわ言が減り、静かな寝息へ変わっていった。
翌日に真美は、
「真奈美と舞華ちゃんへ私の家に遊びに来ないか?」と誘った。
それを聞いて心配していた次女の真琴も一緒に姉妹三人で来ることになった。

「いつも真美がお世話になっています。
 僕は真美の兄の様な者で遼真と言います」
「こちらこそお世話になります。
 りょう・・・ま・・・さんですね?
 いつも真美から聞いています。憧れの人だと・・・」
「真奈美、もう、その話はいいから・・・。
 さあ、後ろに乗って乗って。
 遼真様、ありがとうございます」
「ああ、真奈美さん、真琴さん、舞華ちゃんでしたね。
 少し狭いかもしれないけどしばらくですから我慢して下さいね」
「はい、大丈夫です。今日はお邪魔します。よろしくお願いします」
「いえいえ、いつでもどうぞ来て下さいね。歓迎します。では出発しますね」
しばらくして家に着いて、遼真は四人を車から降ろして車庫へ回った。
境内に咲き誇る満開の桜にも負けない『華の三姉妹』が訪れた。
真美もその隣にいて遼真にはまぶしいくらいの華があった。
その華やかなとは裏腹に
女の子達のその表情には三人一様に陰が刺していることが残念だった。
真奈美達三人は神社へ参拝する手順で手水舎で清めて本殿へ参拝した。
妹二人も姉に倣い、同じ仕草で参拝している。
真奈美は真美へ
「真美、すごい立派な神社ね。知らなかった。真美の家ってすごいのね」
「いや、そういうわけではなく・・・(違うわよ)」
と言おうとする前に智朗さんが顔を出して、
「おお、いらっしゃい。いつも真美ちゃんがお世話になっています。
 私は禰宜をしています桐生智朗と申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。
 真美にはいつも色々とお世話になってるんです。
 みんなで押しかけちゃいましたけど、今日はよろしくお願いします」
「はい、部屋はたくさんありますから安心してゆっくりとして下さいね」
「じゃあ、みんな、とりあえず私の部屋に来て」
「はぁーい。お邪魔します」
若い女性特有の華やかなで賑やかな空気が社務所の廊下の中に流れる。

家政婦のウメさんがニコニコしながら
台所から真美の部屋へお茶やジュースとお菓子を持っていく。
真美の部屋からは、廊下側の障子を開けると
目の前に枯山水を模した庭があり大きな池とその畔に咲き誇る桜の樹が見える。
水面を吹き渡る春風が桜の花びらを真美たちの元へ運んできている。
真奈美が桜の花びらをそっと手のひらの上にのせてふっと吹く。
「真美。お部屋からお花見ができるなんて素敵ね。
 うちの家も桜の樹はあるけどこれほど立派ではないわ」
「ありがとう。毎年春はこの風景を楽しんでいるわ。
 今日はお花見弁当も作って貰ったから一緒に食べましょう」
「真美姉ちゃん。ありがとう。舞華、お花見って初めてよ。
 こんな綺麗な樹だったのね。
 病室の窓から見える桜はここまで綺麗では無かったわ」
「舞華、こんな綺麗な桜でお花見出来て良かったね。
 真琴姉ちゃんもこんな楽しいお花見は初めてよ。
 これから、毎年みんなでお花見に行こうね」
「うん、舞華、退院出来て良かった」
「舞華、それはあなたが大きな手術を頑張ったからだよ。
 こんな小さな身体でよく頑張ったね。
 これからは、みんなで一緒に色々な場所に遊びに行こうね」
「うん、舞華はお家に帰ってから毎日が楽しいの。
 それにこの前の検査で、順調だってお医者さんが言ってたの」
「舞華ちゃん、良かったね。
 来年からもずっとお花見や色々なことが出来るよ」
「真美姉ちゃん、舞華、来年もお邪魔して良いですか?」
「ええ、良いわよ。喜んで。舞華ちゃんを待ってるわ」
「真美、ありがとうね」
「真美さん、ありがとうございます」
「真美姉ちゃん、ありがとう」
しばらくの間、真美の部屋から賑やかに笑い声が漏れてくる。
遼真と智朗は” 荒魂分離修復術”の準備に入った。