はっちゃんZのブログ小説

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13.霧派桐生紅凛と黒狼の登場(第7章:私の中の誰か)

京都の祖父、狐派頭領令一から連絡があった。
一族で話し合った結果として最終的に、
この事件の顛末は表には出さずに闇に葬ることとし、
霧派と狐派共同でこの事件を解決することになったとのことだった。
霧派は、桐生一族の中で表には出ず暗殺や誘拐などを主に行う一族である。
その隠形は闇に沈み人間の意識から隠れ、
霧の様に音も無く静かに忍び寄り、
いつの間にか狙われた人間はその命が消えている。
そしてその殺された肉体もいつの間にかこの世から消えている。
今回の業務は今までになく凄惨な結果になる予感が遼真にはあった。

祖父から連絡のあった翌日夕方に遼真の家である神社へある女性が現れた。
その女性は、身長は165センチ、長い黒髪、白い肌、鍛え抜かれた細い身体で
やや大きめの黒いサングラスを外すと
瓜実顔、切れ長の目、細く高い鼻、薄めの赤い唇が目に入り
特に惹きつけられたのは、赤色が強く混じった黒目がちの目だった。
真美も虹彩に赤い輪郭が入っているがそれとは異なる印象だった。
「桐生遼真君ですね。私は桐生紅凛と申します」
「ええと、きりゅう・・あかり・・・さん?」
「ええ、京都の頭領から聞いてると思うけど霧派の者です」
遼真は初めて会った女性に『こんな綺麗な女性が霧派の仕事を』と驚いた。

紅凛は、手を胸元へ持って行くと片手の指をバラバラにユラユラと上下させた。
これは桐生一族各派のサインで、
鬼派は、親指と小指を立てた握り拳、
狐派は、人差し指と小指を立て中指と薬指と親指を伸ばしくっつける。
霧派は、形の無い霧の流れを表している。
初めての相手にはサインを出すことで自ら所属する派を相手に伝えている。

「はい、祖父いや頭領から聞いています。
 今日はわざわざご足労頂きありがとうございます。
 では|紅凛《あかり》さん、奥の部屋へどうぞ」
遼真は|紅凛《あかり》を奥の部屋へ案内した。
「遼真君は覚えていないかもしれないけど、
 あなたが京都にいた時に私も京都に行った事があるのよ。
 確か私が10歳くらいの時かなあ?あの河童事件の時にね」
「ああ、あの事件ですか・・・」
「まだ子供だったあなたとお母さまが二人で
 あの河童や水虎を退治したって聞いて驚いたものだったわ」
「ええ今も覚えています。本当に怖かったです」
「でもおかげで日本は助かったのよ。あなたはすごいのね」
「いや、ただ必死で戦っただけです。母には悪い事をしました。
 もっと僕が強い力を持っていればあんなことには・・・」
「お母さんは、あなたのその力を知って
 あなたと一緒に戦う事が出来て嬉しかったと私の母には話していたわよ」
「そうなんですか・・・」
「私の母とあなたのお母様は遠いけど従姉妹同士よ。これからもよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」

その時、ガラッと玄関の扉が開けられた。
遼真が奥の部屋から玄関へ向かった。
「ただいま帰り・・・あっ、お客さまですね。遼真様、遅くなり申し訳ありません」
「学校からだったらいくら急いでも、今くらいになるから気にしなくていいよ。
 着替えたら奥の部屋へ来て」
「はい、わかりました」
真美は自分の部屋へ入ると急いで着替えて奥の客間へ入った。
「真美ちゃんね。私は霧派の桐生|紅凛《あかり》よ。よろしくね」
「は、はい、霧派?!・・・この度はこちらこそよろしくお願いします」
「ええ。もう少ししたらもう一人くるから、来たら案内してやってね」
「はい、わかりました。お茶でもお持ちします」
「真美、すまない。よろしくね」
「噂通りの可愛い娘ね。こんな娘があんな力をねえ・・・
 まあ、夜も更けて月が出ないと来ないから急がなくていいわよ」
「は、はい、では後で」

しばらくして真美がお茶を持ってくる。
そこから遼真は|紅凛《あかり》へ今まで集めた情報を伝えた。
真美も遼真の近くに座っているが、
『レッドシャーク団』や上田の話を聞くと驚いて蒼い顔をしている。
その話の途中に、遼真は何か大きな気配の接近を感じた。
「・・・黒狼《くろう》、遅かったわね」
と|紅凛《あかり》が視線を廊下へ向ける。
「おう、姉貴。遅れて悪かった。話は終わったのかい?」
「まだだよ。今、遼真君から聞いているのさ」
廊下の扉が開き、身長が2メートル位の男が現れた。
全身黒尽くめでバトルスーツの戦闘服を着ている。
全身が鍛えこまれた筋肉の鎧に包まれているが、その動きに重さを感じなかった。

角刈りの顔からサングラスを取ると、どこか|紅凛《あかり》さんに似た顔つきで、
虹彩の色は金色、その笑った口元には大きな犬歯が出ている。
「黒狼《くろう》、遼真君にはお前の気配がわかったみたいね。
 真美ちゃん、驚かせて、ごめんなさいね」
「ええ、すごい隠形ですね。全然気づかなかった」
「キチンと玄関から声を掛けて入ってくればいいのに・・・。
 紹介するこちらが恥ずかしいわ」
「悪い悪い、ちょっとお月さん見てたら遅くなってさ。
 急がなきゃと思ってね。二人ともごめんね。
 姉貴、だけど俺はキチンと玄関から入って来たぜ」
「ええ、驚きましたが大丈夫です。ではお茶を持ってきますね」
「真美、頼むよ」
「真美ちゃんはこんなにキチンとしてる娘なのに、
 お前が礼儀知らずだから、私が恥を掻くことになるのよ」
「紅凛《あかり》さん、ありがとうございます。
 私ももっと修行します。ではお待ちください」
真美は部屋から台所へ出て行った。
「姉貴、真美ちゃんは良い子だな。噂通りだな」
「噂?真美にどんな噂があるのですか?」
「あの『迷い里事件』の時の君と一緒に活躍した映像を見たのさ。
 君もさることながら相棒の真美ちゃんの強さにもすごく驚いたのさ」
「そうですか、でも真美はあの時の事がまだ不満みたいで傷ついているので
 そのことは話さないであげてくださいね。何とか彼女を力づけてるんです」
「わかった。君の力が強ければ強いほど、
 その隣にはそれに対応した強い力が必要よね。
 あの娘はあの娘で君から必死で離されまいとしてるのね」
「僕もまだまだ修行中なのでもっともっと強くならないといけないと思っています」
「まあそうね。将来の桐生一族を、狐派を、背負う者に休息は無いと思いなさい」
「はい、わかっています。真美と一緒にがんばります」
「いいなあ。俺も真美ちゃんみたいな相棒が欲しいぜ」
「何言ってるの、お前には私がいるでしょ?」
「そりゃあそうだけどなあ、姉貴じゃなあ・・・」
「私じゃ何がいけないのよ。私こそそう言いたいわ」
「遼真君、こんな風に見えて姉貴って、すごくキツイだぜ」
「お前ね、何を遼真君に出鱈目を吹き込んでるの?許さないわよ」
「まあまあ、もうじき真美もお茶を持ってきますから・・・」
「遅くなりました」と真美が部屋へ入ってきた。
遼真は、霧派の二人と情報交換と今回のミッションの流れを確認した。