はっちゃんZのブログ小説

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

9.霊査3(木村瑠海の悲しみ3)(第7章:私の中の誰か)

粉雪の舞う冬のある日、主治医の先生から父母へ
「あの、実はあるご提案があるのですが・・・」
「!!!先生、何ですか?もしかして瑠海が助かるのですか?」
「いえ、残念ながら、もうそれはありません」
「・・・???」
「実は、お嬢さんがこのカードを持っていたのですが・・・」
医師の手の中には『臓器提供意思表示カード』が握られていた。
「そのカードは?・・・」
「はい、お嬢さんの手帳から現場に落ちていた物です」
「先生、そのカードを見せてください」
「はい、これです。どうぞ」
「確かに娘の名前が記入されていますね。
 それにこんなにたくさんの臓器に〇がついてる」
「お嬢さんは本当に心が優しいですね。
 なかなかこの年齢でここまで考えることはないですが、
 このようにキチンと考えられていたのですね。
 私はすばらしいお嬢さんだと思いました」
「はあ・・・瑠海がこれを?・・・」
「そういえばあの子は、
 ドラマでもそんなシーンがあったら泣くような心優しい子だったな」
「そうですね。でも・・・」
「さきほど話したご提案なのですが・・・」
「はあ」
「お嬢さんの臓器を他の患者さんへ移植することを考えて頂けませんか?」
「移植?」
「はい、このカードにもありますようにお嬢さんのご意思に従って、
 お嬢さんの健康な臓器を他の子供の患者さんへ移植することを検討して頂けませんか
 との提案です。残念ながらお嬢さんはこのまま目を覚ますこともありませんし・・・
 もちろん再度キチンと診断させて頂きます。
 はい、そして覚醒する可能性が少しでもあれば絶対に臓器移植はありません」
「先生、もうこの子も目を覚まさない日がだいぶ経ちましたね。
 その間、少しでも覚醒の兆候が有ればと考えて、
 過去に効果があったとされる読み聞かせや手足を擦ったり握ったりしてきましたが、
 やはり『奇跡』は起こりませんでしたね」
「お父さんもお母さんも長い間、大変努力されていたと思います。
 その間、『ご両親の思いはこれほどのものか』と
 医師である私や看護師達も痛いほどわかりました。
 その上でのご提案です。
 瑠海ちゃんの臓器を他の待っている子供へ移植して、
 そこで瑠海ちゃんに新しい人生を送らせてあげませんか?」
「瑠海はいなくなりますよね・・・」
「はい、でも瑠海ちゃんは移植した別の子供の中で新しい人生を送ります」
「先生、少し考える時間をください。家族で話し合ってみます」
「はい、大切な事ですから、皆様で十分に話し合って下さい。
 これは臓器移植に関する資料ですのでお渡ししておきます。
 それとわからない事があれば私へいつでもご連絡下さい」
と主治医は看護師が持っていた分厚い封筒を両親へ渡した。

 さて時間は現在へと戻る。
少し前に真美と一緒にお花見をした工藤三姉妹であるが、
長女の真奈美から真美へ放課後に二人きりの話があった。
最近の舞華ちゃんは、夜中に悪夢でうなされる事も無くなり、
今まで見なかった楽しい夢を見たと言い始めているらしい。
その笑顔が明るくて両親も非常に喜んでいるとのことでお礼を言われた。
「ううん、お礼を言われる様なことは何もしていないわ。
 私は、真奈美や二人の妹さんと一緒にお花見をしただけよ」
「そうかなあ、不思議に思ったのは帰ってからなの。
 あの時、ついつい眠くなって3人とも寝ちゃったけど、
 普通はそんなこと、ないよね?」
「いや、私もみんなと一緒に寝てたからよくわからないわ。
 あの時は暖かい桜の風が気持ち良くて・・・」
「ううん、お礼を言いたいの。
 あの眠りのおかげで私も妹たちも、特に舞華は苦しまなくなったから。
 きっと真美の家の神様のおかげなんだろうなと思ってる」
「きっとそうね。私は舞華ちゃんが苦しまなくなればいいだけ。
 私も今夜、もう一度、うちの神社の神様にお礼を言っておくわ」
「神様へのお礼は、今度の日曜日に家族全員でするつもり。
 お父さんもお母さんもとても喜んでいるの。家族で行きたいって」
「それは良かった。真奈美、本当に良かったね」

真奈美の口から不思議な話が出てきた。
舞華ちゃんが楽しい夢を見たと言う店やその場所は、
実際に本当にある場所ばかりで
夢に出てきた小学校や中学校も実際に都内にある学校ばかりだという。
家族は、舞華が入院中や家に帰って来てから、
きっとネットやユーチューブやテレビで見たのではないかと言っているが、
真奈美が感じるには、夢の割にはあまりに細かくはっきりし過ぎているらしい。
例えば、
舞華ちゃんが夢で『恵理那という友達と一緒に行った』と話した店は、
原宿にある「MOMO」という店で、昨年の9月に開店しており、
『桃』がテーマとなっている、ピンク色の店で、
最近、小学生・中学生に流行り始めている可愛い小物の店だった。
実際にその店のオリジナルグッズを持っている真奈美の友人も多かった。
しかし、舞華には
・恵理那という友達はいないこと。
・「MOMO」には一度も行って居らずローマ字のため店の名前が読めなかったこと。
・「MOMO」のオリジナルグッズは家には何もないこと。
・夢に出てくる学校は家や病院からは遠く一度も行ったことがないのに
 校庭や教室内の様子が細かくて正確であること。
真美は、聞いたその日の夜に遼真へ舞華ちゃんの情報を伝えた。

「わかった。舞華ちゃんも苦しみが無くなって良かったね。
 安心したよ。荒御魂を分離した成果が出て安心したよ。
 でも事件が気になるので京都の師匠に相談してみるつもりだ」
遼真は自分の部屋に籠り、リモートで相談している。
その時間は相当に長く夜中まで続いている。
途中に真美はコーヒーを部屋へ持って行ったが、
二人の師匠である遼真の祖父に当たる狐派頭領の桐生令一も
温厚に笑っているいつもとは違って深刻な顔つきになっている。
机の上には遼真が読み取り真美により念写された多くの写真が並べられている。
・舞華へ臓器を送った女の子「木村瑠海」の顔
・「木村瑠海」が殺された歩道橋
・「木村瑠海」が拉致された時の女性の顔
・「木村瑠海」の実家と家族の写真
・「木村瑠海」の友人の恵理那の写真
・「木村瑠海」の入院していた病院
・「木村瑠海」を歩道橋から突き落とした男「狂次」の顔
・「木村瑠海」を殺した男の所属するハングレ組織のいる倉庫
・「木村瑠海」を殺す様に依頼した男「上田」の顔
・上田がお金を渡していたハングレ組織の男達の顔
・「木村瑠海」を解剖した医師の名前と顔
・「木村瑠海」の臓器を移植した患者の顔

日が変わってから遼真が居間へ戻ってきた。
今回の事件は遼真と真美だけでは難しいので、
桐生一族の他の派である鬼派や霧派とも打ち合わせるとの話だった。
祖父令一は何かを知っているようだが遼真にはわからなかった。
二人はこの事件が大きなものになりそうな予感に顔を見合わせた。