はっちゃんZのブログ小説

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3.新入生歓迎コンパ2(第9章:魔族の蠢動)

金髪でピアスと金のネックレスをジャラジャラさせた男が真美と飛鳥から離れていく。

「なにか物騒なこと言ってたわね。あの男。

 飛鳥さん、何かご存知の事はありませんか?」

「この部屋のもう一つ下の地下室には、

 強い魔物がいて人間に子分を憑依させては悪い事をしているみたいです」

「魔物?」

「ええ、その魔物に仕えている人間の話では、

 この街、特に夜の新宿の街には特別の強い磁場があるようなのです。

 私もここにまだ一年しか居ませんが、

 色々な人間の金や色などの際限ない欲望が街に満ち溢れ、

 耐えられないくらいの汚臭を放っているのがわかりました。

 この街の人間の発した際限の無い汚い欲望の塊、

 そう、それがまるで瘴気の様な物となり何層にも積み重なり

 いつの間にかそれらが魔界の瘴気と繋がりこの人界への道が出来たそうです。

 その魔物はその瘴気の汚臭に惹かれて魔界から降りて来たそうです。

 そしてこの場所に強い結界を張って獲物を誘い込み、

 騙されて眠らされた肉体や魂を食べているようです。

 私はこの先輩がくれたイヤリングへ強い思いがあったせいか

 この部屋から魔物に引き寄せられなくて済んで良かったです」

「確かにそうみたいですね。相当に強い結界が張られています。

 普通の力では内側からこの結界は破れませんね。

 しかし私は普通は結界に触れる前に

 その存在がわかる筈なのに今回はわからなかったのが不思議です」

「たぶん結界はフェスティバル中に張られたのだと思います」

「そういえば・・・

 途中に何か変な気配は感じたけど気にしなかったのがいけなかったのね」

真美はいつもの様に遼真へテレパシーで声を掛けるもなぜか通じない。

それならばと部屋の外に出て遼真様と一族へ連絡でもと思い

真美はそっと身を隠してドアに近づいて扉を開けようとした。

ドアのノブを回してそっと押しても開かない。

外から鍵が掛けられている様だ。

そこへ真美に気付いた緑色の髪の毛の男がニタニタしながらやって来た。

「おっとー、お嬢さん、元の席に戻りな、もう次のイベントが始まるよ」

「いえ、少し外の空気を吸いたいと思いまして・・・」

「一緒に来たお友達はまだあっちにいるみたいだぜ。冷たいね」

真美が真奈美の方を見ると、

真奈美は既に椅子に座りウツラウツラとしている。

周りにいる女子達も同じような状態だった。

「薬入りのジュースをたくさん飲んだのですね。

 1杯やそこらならそれほど効かないのですが・・・」

と隣に立つ飛鳥が心配そうな顔をしている。

部屋の隅では新入生の男子が、煙草を吸わされてボーとしている。

「どうやらあの男の子達は、覚せい剤入り煙草を吸わされた様です」

真美は急いで真奈美達の方へ近づことした。

どこにいたのかガラの悪い男が近寄って来て前に立ちはだかる。

「お嬢さん、じっと静かにして貰いたいんだけどねえ」

「すみませんが、そこを通して頂けますか?

 友人と帰りたいと思いますので・・・」

「帰る?それは聞けねえなあ・・・」

その隣にいる緑髪の男は、

ニヤニヤしながら真美の顔にヤニ臭い息を掛けてくる。

「どうしても通して頂けませんか?」

「はい、どうしても通して頂けませんよー、じゃあどうします?」

「では、力づくで行かせて貰います」

「力づくって、どんな力かなーっと」

緑髪の男が隙だらけに真美の肩を捕まえに来る。

真美はすっとその手から身体を避けると宙に浮いた手を掴み投げた。

合気道の「小手返し」である。

この技は「小手」と呼ばれている薬指の第3関節をひねって倒す技である。

男は真美に瞬時にバランスを崩されると『ウァー』と言いながら

空中でクルリと回されると背中から落ちて目を回して倒れている。

真美は一族でも有数の長刀や合気道名人のウメさんから

毎朝合気道の修行をさせられているのでスムーズに投げることができた。

真美は急いで真奈美達の倒れている場所へ走った。

その途中に料理の並んだテーブルの置かれていた

ナイフとフォークが山の様に積まれたトレイを掴んでいた。

そしてそのトレイを真奈美達の前にあるテーブルに置き真美は男達へ向いた。

真美の戦闘方法は、近距離では合気道と小太刀だが、中・遠距離では鋲を得意とした。

残念ながら今日は霊刀である銀狐丸は準備していない。

今手元にあるのは真美が常に持っている『退魔札』だけだった。

「なにー、この女、お嬢様だと思って油断してたぜ。

 おい、このオイタしてるお嬢様を静かにさせろ。

 何ならこの後裸にひん剥いてみんなの前で踊らせていいぜ。

 もう怖くて足がガタガタして漏らしてるんじゃねぇか?ぎゃははは」

その集団のボスらしき男から命令された数人の男達が、

各々手にナイフや金属バットを持って真美の方へ向かって来る。

「皆さん、これは脅しでも何でもないですよ。

 すぐに武器を降ろしてこの部屋から出て行きなさい」

「言う通りにしなければどうなるというんだ?なあ、譲ちゃんよ。

 そこに寝ている馬鹿の様には俺は簡単には投げられないぜ」

ナイフを舐めてニタニタしながらパンチパーマの男が近寄って来る。

「こうなります」

真美は、トレイに乗っていたナイフをその男の額へ投げた。

『シュ』

『コーン』

一瞬のことだったので男は避けることも出来ず額にナイフの柄の部分を受けて倒れた。

その男は大きなタンコブを作って目を回している。

「わかりましたね。私の言う事を聞いてこの部屋を出て行ってください。

 今回はタンコブですけど、今度はそれでは済みませんよ」

その言葉が終わらぬうちに数人が一緒に真美の方へ襲い掛かった時、

『『『『カッ』』』』

真美の両手が目にも止まらぬ速さで動き、

数本のナイフとフォークが飛び、近づこうとした男達の足元に突き立った。

男達は足元に突き立った物を見て驚いて立ち竦んでいる。

「?!・・・すげえ、この女、ただもんじゃねぇや」

「お前たち、何トロトロしてんだ?

 そんな物が当たっても簡単に死にゃしねぇよ」

「だって兄貴、素早くて避けられねぇよ」

「別に避けなくてもいいんじゃねぇか?

 そのお嬢ちゃんはお前たちを殺すつもりはないだろ。

 そのつもりなら最初にお前らの足元になんか投げないさ。

 仮に手や足に刺さってもそれまでだ。

 死にゃあしねぇんだから安心しな。

 数人で近づいて抱き付いたらそのお嬢さんはもう終わりだろ」

「・・・」

表情には出さなかったが、真美は図星を突かれて驚いていた。

真美の綺麗な額からジワリと汗が滴った。

この兄貴と呼ばれる男は、

真美が人を殺すことができないという事を知っていた。

普通の人間は、躊躇なく人間を殺すことを普通は考えることはできない。

真美は今まで霊との戦いは多いが、人間との戦いの経験はあまり無かった。

彼らがこのまま諦めて部屋から出て行ってくれればいいが、

もしそうなら無かった場合、真奈美達を救うためには、

今後、最初の二人の様に失神させることは難しく、

彼ら一人一人の肩と腿などにナイフなどを突き刺して動けなくするしかないと考えた。

しかしそうなった場合、この場へ警察などが入って来ることとなり、

この事件の関係者として真美は公の場へ出ざるを得なくなり

真美のことやもし仮に一族のことが世間に晒されれば困ることとなる。

そして今後は今までの様な一族としての行動は出来なくなる。

『遼真様へ連絡さえ出来れば』と何度テレパシーを送っても無駄だった。

自らの身だけを守ってこの部屋から逃げることは可能だが、それはできないことだった。

遼真様に連絡さえつけば、何とか時間を稼いで一族の到着を待つことができた。

そうなればこのままの状態を維持していれば一族の者が急行してこの場は終わる。

そして友人の真奈美を始めとした多くの同級生を救うことができるのだった。

「お前達、遅いぞ。ワシは腹が減った。早く餌を持ってこい」

と突然部屋の奥から腹に響く大きな声が響き、

床から黒い霧の様な物が湧き出て来てそれが人の形に象っていく。

その姿は大きな2メートルほどの人間だった。

兄貴と呼ばれていた男がその男へ頭を下げて謝っている。

「ボス、すみません。こいつらびびってしまって駄目なんですよ」

「なにー、うーむ、あの娘か?・・・あの娘、普通の人間では無いな」

「ボスそうなんですよ。ナイフやフォークをビュンビュン投げて危なくって」

「そんな話じゃない。娘、お前、ワシのことがわかるのか?」

「ええ、魔界の住人ね。見えているわ。あなたの本体を。

 こんなところに居ないで元の世界へ戻りなさい」

「ほう、人間の分際、ましてや小娘の分際でえらく大口を叩くじゃないか。

 ワシに何かする力がお前にはあるのか?ちょっと試してやろう」

ボスと言われた人間が両手を広げるとそこから黒い小さな影が出て男達へ入って行く。

その影が身体へ入ると男達は突然表情が無くなり、

身体の動きが今までとは異なりすばやく動けるようになっている。

『ここで私がやられてしまえば真奈美達が助からない・・・。

 遼真様、竜神様、私はどうしたらいいの?教えてください』

真美の脳裏に多摩湖竜神様に会いに行った時の記憶がよぎった。