はっちゃんZのブログ小説

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3.真美の友人の悩み(第7章:私の中の誰か)

都内でも有名な私立女子高校へ通う真美には多くの親しい友人がいる。
その中の一人に医師の父を持つ工藤真奈美がいた。
彼女には難病で幼い頃から入院している末の妹がいる。
妹の名前は、|舞華《まいか》。年齢は7歳。
|舞華《まいか》は、難病の”特発性心筋症”を持ってこの世に生まれた。
この病気は心臓移植をしないと長い事生きられないとされている。
|舞華《まいか》は、生まれて間もない時期に
心臓の異常が見つかってからずっと入院生活を送っている。
元看護師だった母は、毎日病院へ通い末娘の世話にかかりきりだった。
たまに母の代わりに真奈美が病室へ顔を出すと
退院したらどんなことをしたいとか
毎日ユーチューブで見ていてファンとなったらしく
将来の夢はダンサーになりたいとかニコニコと話しかけてくるのだった。

長女である真奈美は、小学生の頃から母親に代わり
家事全般や5歳下の次女の真琴の世話をして現在に至っている。
そして一番の心配事である舞華の心臓移植は、
日本国内ではドナーが殆ど居らず仮に出ても順番がなかなか回って来ず、
可愛い舞華の命は、もうあと数か月ではないかと言われていた。
そんな時、幸運にも臓器移植の順番が回ってきた。
この移植手術成功のニュースに多くの人が喜び、
同じ病気を持つ子供を持つ親達の励みにもなった。
術後の経過も順調で胸には大きな傷跡は残ったが、無事退院してきて喜んでいた。

心臓移植の必要な病気の説明であるが、
心臓移植しないと助からないような重症の心機能障害に陥る病気で
重症の特発性心筋症(拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、拘束型心筋症)、
広範囲の心筋梗塞、高度な心筋障害を伴った心臓弁膜症、
一部の外科的に修復のできないような先天性高度心奇形などの先天性心疾患、
その他、心筋炎、サルコイドーシス、心臓腫瘍、薬剤性心筋障害などである。

退院当初は、嬉しそうに可愛い妹の話を毎日友人に話した。
最近はなぜか真奈美のその表情が優れなかった。
心配になった真美が、お昼休みなどに聞いたところによると
その内容があまり聞いたことのない不思議なものだった。
真奈美を慕う末妹の舞華は、
退院して家で暮らすようになって真奈美と一緒の部屋で寝る様になった。
その可愛い妹が夜中に夢でうなされていると言うのだ。
悲鳴や『殺される』などの寝言を叫んでいると不安な面持ちで真美を見つめる。
その場で起こすと額に汗を浮かべて大きく目を開いて
凍り付いた表情でじっと中空を見つめて身体を硬直させている。
でも朝になって舞華にそっと聞いてみても本人は何も覚えていないと言う。
そのことを多摩湖の帰り道に、遼真の背中に頬を付け、
そっと抱き着いている時に友人の真奈美からの話について相談した。
一族からの依頼以外の話なので自分一人の判断では動けないのだった。
遼真から
「それは不思議な話だね。
 一度真美が、舞華ちゃんに会って憑依かどうかを見てみたら?
 せっかく移植に成功してみんなが喜んでいるのに
 もし何者かがそんな幼い女の子に憑いてるのなら心配だ。」
「はい、真奈美も心配してるので今度家に行って舞華ちゃんに会ってみます。
 もしもの時は、遼真様も一緒にお願いできますか」
「ああ、真美の友達なら僕にも大切だから、何かあったら声を掛けて。
 明日からそのつもりでいるから安心してね」
「はい、ありがとうございます。
 真奈美の悩みを解決することが出来たら嬉しいです」
遼真からの許可を貰ったので、
翌週の月曜日に真美は真奈美へ『舞華ちゃんに会えないか?』と話しかけた。
真奈美は嬉しそうに
「舞華は今週は検査で入院するので金曜日でもいい?
 せっかくだから私の部屋へ一晩泊まってよ。
 私のお友達と言えば舞華も喜ぶわ」と言ってくる。
真奈美は、以前学校で幽霊騒ぎがあった時、
偶然、騒ぎのあった場所で
真美が何か悪い霊らしきモノを封印した様な行為を見ていて
その後、その騒ぎは全く無くなったことを知り、
真美本人も何も言わないし、聞いてもはっきりとは言わないが、
東京で住んでる家も神社だし、
元は京都の神社で住んでいたとも聞いていて、
きっと真美には霊的な強い力があるのではないかと思っていた。
そんな思いもあって、誰にも相談できない妹のことを相談したのだった。
真美は真美で、
一族に勝手に除霊行為などをする訳にもいかず困っていたのだった。
真奈美としても一人では心細く、両親に心配させてもいけないため
真美に泊まって貰うことは舞華も喜ぶしとても都合が良かった。
その夜、真美は家に帰ってすぐに遼真へ
『今度の金曜日の晩に舞華ちゃんに会う事』を伝えた。
遼真は、金曜日の夕方までに”防魔の御札”を用意し始めた。
真美の鞄にはクイン(苦印)を待機させている。
金曜日の夜は、遼真が真美をバトルカーで真奈美の家の前まで送った。
真奈美の家、工藤家は医師一族の家系で古く大きな屋敷で閑静な住宅街の中にあった。
真美は真奈美の家族から歓迎されて楽しく過ごしている。

やがて夜も更けて来て、舞華も眠くなってきている。
真美は直接霊視しているが、
舞華に何者かが憑依している様子は全く見えなかった。
舞華の霊体の全体像を見てみると、
普通霊体の表面は、本人を包む様にツルリとした連続体で見えるものだが、
舞華の場合は、霊体の心臓辺りの境界にユラユラと揺れる不整合部分が見える。
その揺れる境界部分をよく見ると、
縫合された様な跡はあるがまだ小さい裂け目があり、
その奥はまだ赤い血肉が脈動している姿が見えている。
真美は、その揺れの原因を、
幼い身体が心臓移植という大手術をして間もないためかもしれないと考えた。
やがて再び家から車で来た遼真から真美へ
『今、近くにある有料駐車場に着いたよ』とテレパシーで伝えられた。
『遼真様、ありがとうございます。安心しました。
 今まで舞華ちゃんの霊体を見ていたのですが、
 何者かが憑依した痕跡も見えませんし、危険なものも見えません。
 ただ霊体の一部分に不整合部分があり、
 そこは少し揺れてる様なぼやけてる様なものが見えます』
『少し揺れてる様なぼやけてる様なもの?』
『移植した心臓部分と思われる部分です』
『色はどんな感じだ?』
『若干、くすんだ感じで黒くなっている様に感じます。
 私は、その部分が大きな手術だったため、
 まだその臓器がキチンと霊体へ組み込まれていない様に感じました』
『確かそんな小さい身体で心臓移植をしたんだよな。
 よくがんばったね。えらい子だね』
『そうなんです。すごく可愛くて真奈美が可愛がるのもわかります』
『そうだろうな。
 ましてや難病で生まれてきて、
 その境遇にも負けずに今まで将来を夢見ながら生きて、
 そして大きな手術をしたんだもんな。
 舞華ちゃんには是非とも幸せになって欲しいね。
 心配は無いと思うが、キイン(忌印)も窓際に待機させて
 舞華ちゃんのおかしくなった時に見える様にしておくつもりだ』
『はい、よろしくお願いします。クインは今、私の胸ポケットで寝ています』
『わかった。まあ舞華ちゃんが眠るまで待とう。
 本当は”夢見術”の夢ちゃんのお世話になるかどうか迷ったんだけど
 とりあえず舞華ちゃんのことがはっきりわかってからでも遅くはないと思う。
 じゃあ。ここらで一旦連絡を切るよ』

遼真はキインに話しかける。
「キイン、クインと真美のいる部屋の窓辺で待機して
 舞華ちゃんの様子をお前の目で見てその様子を僕に見せておくれ」
キインは遼真の肩へ昇り、目にそっと頬ずりするとフッと空間移動して行った。
これでキインが観た”霊的視界”は遼真の視界に映る事となる。
ドローンでは霊的現象は映らないため、どうしても”お使い”の目が必要だった。
遼真は舞華ちゃんが夢を見る時間になるまで有料駐車場で待機することとなる。