はっちゃんZのブログ小説

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5.臓器の記憶(第7章:私の中の誰か)

ここで移植された臓器が本当に記憶を保持しているかどうかであるが、
これは都市伝説ではなく実際に研究もされているし、
世界でも数そのものは非常に少ないものの実際に報告されている現象である。

 臓器移植と記憶に関しての興味深い論文と事象に関して、
インターネットで調べるとそれ関係の情報がヒットする。
先ず2019年にMedical hypothesesへ投稿された、
『心臓移植後の人格変化:細胞記憶の役割』という論文がある。
この論文では、心臓移植後の患者の性格の変化は、数十年にわたって報告されており、ドナーの性格特性を獲得したレシピエントの個人情報(記憶?特性?)が含まれているとされている。
その中でレシピエントの性格の変化について
(1)好みの変化 
(2)感情や気質の変化
(3)アイデンティティの変更
(4)ドナーの生活からの記憶 の4つの分類で説明されている。
心臓移植後のレシピエントのドナーの性格特性の獲得手段に関しては、
細胞記憶の伝達を介して起こると仮定され、
以下4種類の細胞記憶の種類が提示されている。
(1)エピジェネティック記憶
(2)DNA記憶
(3)RNA記憶
(4)タンパク質の記憶
その他の可能性として、心臓内神経学的記憶およびエネルギー記憶を介した記憶の移動なども議論されているようだ。
現在の死の定義を再検討し、ドナー記憶の移動が提供された心臓の統合にどのように影響するかを研究し、他の臓器の移植を介して記憶を移動できるかどうかを調べ、心臓移植の将来への影響を調査され、どのタイプの情報が心臓移植を介して転送できるかなどさらなる研究が進んでいる。いずれにしろ、移植医療ではレシピエントとドナー側との接触が基本的には禁止されているため、これらの研究において、細胞レベルの仕組みの追及はおろか、現象の真偽の検証すら充分に出来ないのが現状のようだった。

 次に臓器記憶の実話として知られる事例、”クレア・シルビアの事例”を紹介する。
1988年米国でユダヤ人の女性クレアが重篤な「原発性肺高血圧症」という病気を患い、、コネティカット州の大学病院で心肺同時移植手術を受けた。彼女には、ドナーはバイク事故で死亡したメイン州の18歳の青年ということだけが伝えられたが、その数日後から、彼女は自分自身の嗜好や性格が手術前と違っていることに気がついた。例えば,苦手だったピーマンが好物になり、またファストフードは嫌いだったのにケンタッキーフライドチキンのチキンナゲットを好むようになった。歩き方も男性のようになり、以前は静かな性格だったが非常に活動的な性格へ変わった。そして彼女は夢の中に出てきた青年をドナーと確信し、夢の中で青年の名前がティムであることを知った。ドナーの家族と接触することは禁止されていたが、クレアはメイン州の新聞の中から、移植手術日と同じ日の死亡事故記事を手がかりに、青年の家族と連絡を取り家族との対面が実現した。家族によると、青年の名はティムでクレアが夢で見たものと同じであり、ティムはピーマンとチキンナゲットを好み、活発な性格だったという実話である。

 その他、肯定派と否定派の意見も散見されている。
 ある肯定派の学者の意見は、”記憶転移”の仕組みについて、記憶に関係していると考えられる神経線維は脳細胞だけにあるのではなく、全身にも臓器にも存在することから『臓器の神経線維にも脳とは別に記憶のサーバーの一部があり、そこにドナーの記憶や情報の一部が残っている。特に心臓という臓器は、持ち主の意思とは関係なく一生涯動き続けるために、“自動能”や“刺激伝導系”という他の臓器にはない特殊な細胞や神経線維を持っており、その独自性から記憶サーバーとして強く働く傾向がある』と考えられるとの意見だった。
別の視点からは『臓器というより細胞そのものに記憶を蓄える能力があり、脳だけでなく全身の細胞一つ一つのDNAにその働きがあるのではないか』という説を唱える学者もいる。そのほか、精神世界の研究者の中には『人間の肉体の外側にエーテル体というエネルギー体があり、人間の魂の記憶や情報は臓器や細胞ではなくこのエーテル体に蓄積しており、臓器移植によりこのエーテル体も一部移動することで”記憶転移”が生じる』という学者もいる。 しかし、これらはあくまでも一部の科学者や研究者による仮説であるため、これらの説が科学的に広く認められていることではない。
 ある否定派の学者の意見は、『”記憶転移”と呼ばれる現象は、あくまで臓器移植という大手術に伴う麻酔や薬の副作用や精神的負担によるものであり、臓器移植により日常生活も苦労していた者が健常者に生まれ変わるという劇的変化は人生観そのものを変える為、その変化により物事の捉え方や考え方、嗜好などが変わっても何ら不思議ではなく、その上、ドナーへの感謝の気持ちや思いが“故人のようにありたい”“意思を引き継ぎたい”という気持ちに変化し、それが行動に現れているだけということで説明可能である』という考え方の学者もいる。

 遼真はこれらの情報を調べていくうちに舞華ちゃんの状態が、
この臓器記憶に関係しており、その背後には不可解な殺人事件が隠れていると直感した。
しかし、先ずは戦っている幼い舞華ちゃんの心を穏やかにさせること、
舞華ちゃんの心臓に記憶されている”恨み”=|荒御魂《あらみたま》部分を分離し、
悪夢や苦しみから解き放ち、|和魂《にぎみたま》のみとして残し、
現在不整合部分のある霊体の構成を滑らかなものへと修復させる必要があった。
心臓に宿った記憶は全てが恨みに染まっている訳ではなく、
過去からの楽しい記憶も同時に宿っている。
それらの記憶は決して移植した舞華ちゃんへ悪い影響は与えず、
まだ色々と経験していない幼い舞華ちゃんの魂には良い影響を与えると考えられた。
このために”荒御魂分離修復術”は行われる。
この術では舞華ちゃんの性格や嗜好に悪影響を与えることは無いとされている。