はっちゃんZのブログ小説

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5.霊を見る力。記憶を見る力。(第1章:記憶喪失の男)

太古の昔、人が群れを作り始めた頃から、神又は霊の姿の見える者、その声を聞くことの出来る者が、神の代理人として集団を率いた。その時代、神又は霊の住む世界と交信できる者だけが、群れを正しい方向へと導くことができるとされた。ここヤマトの国ではヒミコ及びトヨがこの力の最初の代表的な人物となる。

『霊を見る力』についてだが、
桐生一族では『狐派』、館林一族では『陰陽派』に属する人間には必ずこの能力がある。
これは昔よりこの能力のある者同士が結婚し子供を作り、
遺伝子的にも現在まで切れる事無く脈々と繋がって来た結果であると考えている。
その理由を館林京一郎が両一族の調査により明確にしている。

人間の色覚についての一般的知見であるが、
生物の網膜にある錐体細胞には、赤、緑、青のセンサー細胞があり、その細胞にて各色彩を認識する。
例えば「魚類」は、水中のように明暗が激しく変化する環境で餌及び敵を発見するためには「赤緑青紫」の4色の色覚を持っている方が有利であり、「哺乳類」の多くは、活動時間が夜が多い点と昼間でも保護色で隠れている敵を見分けやすい「青緑」又は「赤青」の2色の色覚が有利となっている。
人間を含むオランウータンなど「霊長類」は、進化により多くの哺乳類と比較して昼の活動が増え、赤く色付く果実などを認識する必要性が増え「赤緑青」の3色の色覚を持つに至った。現生人類は狩猟に有利な2色又は採取生活に有利な3色の色覚がある人間でその殆どが占められている。

遺伝子配列から見て、赤と緑のセンサー遺伝子は性染色体であるX染色体上に各々が近い場所に配置され、青のセンサー遺伝子は常染色体上に配置されている。赤と緑のセンサー遺伝子の各々の構造から類推し進化シュミレーションの結果、緑のセンサー遺伝子が部分変異して赤のセンサー遺伝子が出来たものと考えられた。
実際にはこの赤のセンサー遺伝子内へ緑のセンサー遺伝子の一部が混ざる場合もあり、仮に混ざった遺伝子が遺伝する場合、3色以上の色覚を持つ人間が出来る事となる。その人間が虹を見た場合、虹の色は7色ではなく10色以上に見えると言うのだ。
これらから考えると、仮に我々が同じ物を見ていたとしても、人間の数だけそのセンサー細胞が存在する可能性があるため、その物の色そのものを見ている人間全てが同じ色で見ているかどうかわからないという現実に気がつく。例えば真っ赤な林檎を見ている場合、お互いが赤というカテゴリーの色を見ているだけで、各々の実際に認識している赤が同じ色彩かどうかは、各々が全くわからないし確認もできないということである。

『霊体の存在する世界』に関してのことだが、
霊は肉体を持つ我々とは明らかに時間軸や物理法則の異なる世界に生きていると考えられる。それは『意識の世界』とも言い換えることができるかもしれないが明らかにはなっていない。量子脳科学において人間の意識が、ニューロン付近の極性分子である水分子の影響下にあることが判明してから、肉体と霊体の繋がりもその部分にあるとされている。昔から『第3の目』と言われている器官の存在があることから考えると、人間の脳の松果体付近のエリアに霊の棲む世界との回廊の一つがあるのかもしれない。

人間の可視領域は狭くそれを超える領域、霊の棲む世界により近い領域を考えると赤外線領域と紫外線領域と考えられた。その仮説を元に遺伝子解析を行った結果、霊を見える人間のセンサー遺伝子には、健常人と比較して赤のセンサー遺伝子にも常染色体上の青のセンサー遺伝子にも特異な変異は無かった。
これは霊を見える人間からの情報からでも推測は出来ていたことで、彼らには霊の姿は通常に生活している普通の人間と変わらない姿であり(まあ死亡時の姿のままではあるが)その色彩は赤外線や紫外線を含んだものではないとの事(これも見てる本人しかわからない事であるが)で、蝶の様に羽根の色彩に含まれる成分が紫外線により白く光り雄雌を区別できるように派手に光る色彩ではないらしい。
ある霊の研究者からの情報で、霊体の視認については人間の眼では一切その姿を捕らえることのできない、宇宙から常に降り注いでいる身体や地面を透過するニュートリノなど素粒子が関与している可能性も高いとも言われており、別の霊の研究者は宇宙の構造のほとんどを形作っているダークマター及びダークエネルギーと霊の世界は関係が深く、このダークマター及びダークエネルギーが解明されれば自ずと霊の世界も明らかになるのではないかと答えた。

一般的なDNAについての知見では、以前の学説では全体の中で生体として機能する部分は5%以下、残りの95%部分はジャンクション部分と言われ生体機能とは無関係な場所と言われていたが、最近では難治性疾患との関係、過去のウィルスとの戦いとの関係なども判明してきており、これもまだまだ解明できていない。
京一郎の分析結果では、霊を見る人間のジャンクション部分の数カ所に共通した変異は見つかったが、それがどのような物質を複製してどのように作用していくのかは全く判明していない。
また霊の声を聞くことのできる人間の可聴領域を調べると、明らかに一般人の可聴領域の上限以上又は下限以下にも若干拡がりがあったが、それ以外の特異な点としては一般的な可聴領域からポツンと大きく離れたある領域でも音を聞き取ることができた。この領域が霊の声の領域かどうかは現在研究中である。
これらの霊を見る能力、霊の声を聞く能力は、その能力のある同士が一緒になり子供を産み育て、その子供達が結婚しまた子供を産み育てるという長い時間の間に遺伝子の変異部分の優性遺伝が明確になり固定化して現在に至っていると考えられた。
京一郎はこの複数の変異部分の関係が判明すれば、その部分を変えれば誰でも霊が見えるようになり声を聞くことができるかもしれない、そうなれば死んだ親友とも楽しい話ができるし、過去に死んでしまった偉大な発明家とも討論できるし、過去の歴史のわからない部分が判明して世の中が楽しくなると笑っている。
それを聞いた遼真は、口には出さなかったが。
『でももしそんなことになれば悪霊が湧き出て大変な事になるし、困る人がたくさん出そうだな』と思った。

最後に桐生|夢花《ゆめか》の行う『|夢見《ゆめみ》術』に関してである。
『夢見術』とは、術者が霊体のみとなり、気配を消して本人にわからないように夢の世界へ侵入し、それを経路にして記憶の世界へ侵入し、記憶の世界を本人の夢として見せる事で、本人の記憶を術者が見ることの出来る術である。
術式としては、
気配の消した夢花が
本人の記憶に方向性を与えるために、簡単な単語を発する。
記憶の持ち主は言葉を自分が発してるものと認識しているため、
素直にその記憶の世界が夢として描かれることとなる。
ただ注意点として、
夢又は記憶の世界では、本人に術者の存在を気づかれない様にする必要がある。
仮に認識されれば本人の精神体は、術者を異物と認識し排除しようとする動きとなる。
術者の潜む世界では、本人の夢又は記憶の世界のため、無意識に本人の感情の高ぶりや心の動きが強い力として働く傾向にある。その排除しようとする力は、異物として存在する術者の霊体に障害を与えかねない危険性があるためだった。