はっちゃんZのブログ小説

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7.霊査2 柄島真弥・茉優の物語(第3章:みいつけた)

翌日の土曜日夜中に
遼真は真美と夢花を連れて柄島家の近くへバトルカーを停め、
その中から江島真弥と一馬の記憶を探ることとなった。
真美と夢花は、クインと一緒に後部座席でいつもの様に霊体を浮遊させた。
夢花の能力は、以前の事件”記憶喪失の男”に参加した時に使った『夢見術』である。
『夢見術』とは、術者が霊体のみとなり、
気配を消して生身の本人にわからないように夢の世界へ侵入し、
それを経路にして記憶の世界へ侵入し、記憶の世界を本人の夢として見せる事で、
本人の記憶を術者が見ることの出来る術である。
先ずは江島真弥の記憶へと入って行った。

一馬の母江島真弥(えじままや)の記憶
柄島家は江戸時代は武士として、明治以降は不動産開発会社として続いている。
柄島家は江戸時代のある時期から子供が女性しか生まれなくなり現在に至る。
真弥は、1960年柄島家の長女として生まれた。
現在は61歳。2歳下の妹がいる。
幼少の頃より母親から江島家を継続するため、絶対男を産む事を命令されていた。
そのため大学卒業後すぐの22歳の時、
現在の夫を養子に迎え、母親から指示された方法でそのまま妊娠し、
24歳で姉の弓香を、26歳の時にやっと一族待望の男子|一馬《かずま》を産む。
真弥の父親(養子)は、現在老年性認知症に罹り別荘にて専門家を雇い世話をさせている。
真弥の母親は、せっかく生まれた男子の一馬に子供が出来ない事をずっと心配して、
真弥に一馬を産ませた方法に間違いが無いことを理由もなく確信し、
娘の真弥のやり方が悪いと毎日の様に責めた。
そして昨年85歳の時、
乳癌末期で死ぬ前まで一馬茉緒夫婦の離婚を命令され逆らえなかったらしい。
一馬の母親真弥は、なぜか茉緒を初対面の時から気に入らなかった。
自分にはない優秀なキャリアウーマンであること、
スタイルも良く笑顔が明るく素敵で容姿も優れていたこと、
私が大切に育てたあの一馬が、母親よりも彼女を好きなことが原因かと思っていたが
もっと身体の深い場所から茉緒を嫌っている自分の気持ちに気付いていた。
それを単なる二人の相性の問題だと思い、
ただあの目に入れても痛くないほど可愛い一馬が愛した女性だし、
我が一族に男の子供が出来ればいいのでその気持ちは抑えていた。
だが、結局なかなか子供は出来なかったしその兆候も無かった。
挙句に精神が壊れて薬を飲み始めれば子供は諦めるしかなかった。

ここで夢花が
母親真弥の過去世の中に江島茉優(えじままゆ)の存在を突き止めた。
この過去世の記憶は、真弥の無意識領域にあるため本人には意識されないが、
真弥本人の精神へ絶え間なく影響する領域である。

江島茉優の物語
彼女の生きていた時代は、江戸時代。
生きた場所は、武家の家と遊郭のみ。
生まれた家は、父は旗本であり江戸城勤め。兄弟は兄と弟の3人。
幼少の頃より茉優姫《まゆひめ》として何不自由なく育てられた。
16歳の時、父の部下で一番の実力者の柄島和馬との結婚を伝えられる。
あだ名が『金平糖の和馬』で、どんな時にも『金平糖』を持っているらしい。
そんな微笑ましい噂を聞きながら茉優は、和馬の姿を遠くからそっと見た。
柄島和馬と顔を初めて合わせた時は、
恥ずかさのあまり、少ししか和馬を見ることはできなかったが
その逞しい肉体から醸し出す清々しさと武士としての凛々しさに胸が熱くなった。
『私の夫となる和馬様、茉優はあなたの良い妻になります』と|呟《つぶや》いた。
縁談は順調に進み夫婦となり、初夜の破瓜の痛みにも耐え妻になった。
新婚当初はわからなかったが、
夫の和馬がときおり遠い目をしていることに気がついた。
たまに何を考えているのか聞いても『うん?別に何も』と返してくる。
実家からは『早く子供を見たい』と言ってくるため一日も早く子供が欲しかった。
しかし、いつの間にか、毎日の帰りが遅くなり、
帰ってきても疲れてたり酔っていることも多く全く抱いてくれなくなった。
茉優は武士の妻として、
『抱いて』などと恥ずかしいことは言えないためじっと耐えて3年が過ぎた。
夫が早く帰った時などは、
甲斐甲斐しく服の着替えやご飯の用意など必死で尽くした。
そんな時、夫があろうことか、
幼馴染で吉原で花魁になった絵志摩と言う女を側室にしたいと言い出した。
茉優の実家も側室の話に良い顔はしなかったが、
3年経っても茉優に子供が出来なかったため強くは反対出来なかった。
そしてとうとう元花魁絵志摩こと美緒は、
自信に満ちた表情で茉優の居る柄島家へ入って来た。
口惜しいことに笑顔も美しく歩く姿も武士の奥方然としており、
どちらが正妻なのかわからないくらいの貫禄だった。
夫和馬の表情を見ると今まで見たことも無い様な嬉しそうな顔で彼女を迎えている。
正妻の茉優に夫和馬は『仲良くして欲しい』と信じられないことを言ってくる。
美緒が屋敷に入って以降は、
夫は早く帰宅する様になり美緒の部屋でずっと過ごす様になった。
二人の楽しそうな笑い声も漏れてくる。
茉優は一人だけの寒い部屋で眠る日々が続いた。
その間、茉優の心には美緒への憎しみだけが大きく育って行った。
しばらくして美緒のお付きの女中から『懐妊』について聞かされた。
ある時、美緒と屋敷の廊下ですれ違った時、ふと心に闇が現れて
無意識に足を掛けて倒すと憎きその腹を踏み潰してしまっていた。
「あっ?うっ」
『ドスッ』
「ぎゃあ、な、何を、うっ・・・、あっ、痛い・・・」
その時、美緒が顔を歪めお腹を押さえ苦しそうに倒れた。
そしてしばらくすると美緒の足元から真っ赤な血の川が廊下へ流れた。
夫は仕事から帰って来て美緒の子供が流れたことを知り残念がった。
それからしばらくは美緒は眠ったまま部屋で過ごした。
胸元に真っ赤な布に包まれた小さな肉塊を抱きしめながら、
ときおりふっと目覚めては、子守唄を唄い始めては泣き叫ぶ毎日となった。
あまりにずっと泣くため、とうとう別棟の納屋で生活させることとなり、
最後には恨みの言葉を呟きながら目を剥いて涎を垂らしながら死んでいった。

美緒が納屋で住むようになったある日、
茉優は涙ながらに|堰《せき》を切った様に夫の和馬に言い寄った。
「和馬様、お聞きしたいことがございます。
 私に柄島家の妻として何か気に入らないことがございますか?
 まだまだ足りないことも多いとは思いますが、
 柄島家の嫁として嫁いできてあなたへ精一杯尽くしてきました。
 私はあなたのことが一目で好きになり嫁いでまいったのです。
 その気持ちは嫁いで来た日から今まで変わりはございません」
「そんなことはない。いつも感謝しているよ。ありがとう」
「和馬様は私を気に入ったから妻にしたのではないのですか?」
「もちろんお前のことは気に入ったから妻に迎えた」
「あなたは私を人形か何かとお思いではないですか?」
「いやそんなことはない、お前は人形ではない私の妻だ」
「そうでございますか?
 今まで武士の妻の嗜みとして、
 言いたくても我慢してまいりましたが、
 これよりは、お話させて頂きます。
 それならばどうして私に赤ちゃんをお授け頂けないのですか?
 あなたはここ2年以上、私のこの肌に触れていませんよね?
 結婚当初はそれはそれは毎日の様に私は可愛がって頂けました。
 あなたを初めて受け入れた時の喜びを今もおぼえています。
 徐々にあなたと触れ合うことの楽しさも覚えてまいりました。
 そしてこのままならば、
 きっとあなたとの可愛い子供も出来ると安心していました。
 なのに突然・・・あなたに何があったのですか?
 私に子供を授からせない様な何かが私にありましたか?」
「いや、それは違う。すまない、仕事が忙しくて・・・」
「私は嫁入り前にお母様から男の方の身体のことはお聞きしています。
 男の方は常に身体の中で子種を作り続けていて、
 いつかそれを出さねばならなくなる気持ちになると、
 妻として夫にその様な不自由な気持ちにさせてはならぬと言われ嫁いでまいりました。
 あなたにはこの2年間その兆しも見えませんでした。
 仕事と称してあの美緒と言う女の中に子種を注いでおいでだったのですね?」
「う・・・ん、すまぬ。
 じつは美緒は可哀想な女なのだ。それに昔から色々と世話になったのだ」
「美緒と言う女が可哀想で世話になった事と私とどのような関係があるのですか?」
「う、うん、確かにそうだな。すまぬ」
「父上が私とのことをお話される時に、あなたへ
 『他に好きな女性がおられるなら断っていい』とおっしゃった筈です。
 『それによってあなたのお仕事に影響は無い』ともおっしゃった筈です。
 元々剣も学問も秀でているあなた様のお力は
 周りもお認めになっているのですから父の一存で変な事はできません。
 実は、私には他にも婚約のお話がたくさんあったのです。
 けれど私は父から聞くあなたのご活躍の話や何か折にあなたの姿を見て、
 あなたの妻になりたいと思ったのです。
 そしてあなたは私を選んでくれたのではないのですか?
 あなたは私のことを好きではないのですか?」
「そんなことはない、もちろん好きだ」
「あの美緒という可哀想な幼馴染の女は|如何《いかが》なのですか?」
「美緒も・・・好きだ」
「どちらが好きなのですか?」
「どちらもだが・・・美緒の方が慣れてると言うか・・・すまぬ」
「私がそれをどのように思っているかはお考えにならなかったのですか?」
「う、それは・・・」
「だから私を心の無い人形か何かと思っているのですかとお聞きしたのです」
「確かにそれは失念していた。すまぬ。これからは気を付ける」
「お情けで私のことを考えると言うのですか?
 私が柄島家存続のみの人形と言うなら私はそんなことは望みません。
 私はあなたのことが好きで、
 あなたが来いとおっしゃったから喜んで嫁いでまいったのです。
 あなたが私のことを好きでないなら父に言って離縁させて頂きます」
「そんなことはできない。お前は柄島家の嫁であり私の妻なのだ」
「それなら私を妻らしく、嫁らしくもっと可愛がって下さい」
「う、うん、わかった。これからはもっとな・・・」
「これからと言わず、今からでもお願いします」
「う、うん、わかった」
「早く、隣に来て下さいませ。そして茉優を可愛がって下さい」
「う、う、わかった・・・」
「あっ、お待ちしておりました。茉優は和馬様が大好きでございます」
もう茉優の身体は以前とは違い、ふっくらと肉も付き
とても感じやすくなっており和馬に触れられただけで全身へ痺れるような快感が走った。
茉優はもう武士の妻としての嗜みは考えないことにした。
己の心の趣くままに和馬を愛し愛されることを選んだ。
和馬は茉優の敏感な反応に驚いたようだが、贖罪もあったのか茉優を可愛がった。
そんな日が続いて、茉優はとうとう待望の子供を身籠った。
その子供は女の子でその子が生まれる時は、既に美緒はこの世にいなかった。
あまりに悲惨な過去世の記憶に夢花は大きなショックを受けた。