はっちゃんZのブログ小説

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8.霊査3 柄島一馬・和馬の物語(第3章:みいつけた)

あまりの酷い夢に心を乱した夢花が泣き始めた。
しばらく夢花を落ち着かせて、次は一馬の記憶へと入って行った。
やはり過去世の中に|江島和馬(えじまかずま)の存在があった。

柄島一馬(今生)の記憶
1986年柄島一族の待望の長男として生まれた。2歳上に姉の弓香がいる。
幼少時代より母親の言い付けを守り一族の宝の様に大切に育てられた。
一馬が30歳の時、会社の証券関係の業務で
証券会社に勤める優秀なキャリアウーマンの中島茉緒と知り合う。
その後、美しく仕事もキチンと出来る彼女に惚れて、
一馬の方から声を掛けて交際が始まり結婚へと進んだ。
茉緒との新婚生活は楽しかったが、
相変わらず祖母や母親からの命令も多く茉優は大変そうだった。
一馬は茉優へ『言う事を聞いておけばいいだけだよ』と伝えたが
元々仕事が出来て家事能力も高かった茉優は納得しなかった。
「この家の次代の人間は私達なのよ。
 私達で考えて家庭を築きましょうよ。
 きっとそれがお婆様やお母様が望んでいることだから
 お二人を安心させましょうよ」
「そうだけど、急にそう言われてもどうしていいかわからないな」
「わかったわ。それじゃあ、私が色々とあなたへ相談するから
 それをあなたが良いと思えばお母様へ伝えてくれるかな」
「うん、いいよ」
そこから色々と茉優から相談されては母親に伝え却下される日が続いた。
「ねえ、あなたからお母様に言って欲しいことがあるの」
「またか、何だい」
「実は夜の生活のことなんだけど、

 毎日体温を付けて排卵日を確認するのはわかるけど、
 翌日に排卵の可能性が高い日に隣の部屋へ来て眠るのは勘弁して欲しいの。
 襖越しだし音も漏れるし、
 それが気になってあなたに集中出来ないの。
 そういうのは監視されてるみたいだし、
 私は、あの時のこととか他の人に聞かれるのってすごく恥ずかしくて嫌。
 それと翌日に私やあなたに色々と聞くのも止めて欲しいの。
 逆に私にストレスがかかるから受胎しにくいのじゃないかと思うの」
「わかった。とりあえずは言ってみるよ」
「どうだった?」
「お母様もお婆様もあれと同じ状態で僕を授かったから変える必要は無いと言われた」
「えっ?お母様もお婆様も同じことをしてたの?」
「我が家はずっと女の子しか生まれていないから

 代々、実の母娘で恥ずかしくないのかも」
「うーん、じゃあお父様はどうなの?」
「お父様は何の意見も言えないから聞いても仕方ないんだ」
「私は仮に実の母親でも恥ずかしくて仕方ないんだけど」
「そう言われても、僕にはわからないんだ」
「じゃあ、二人だけで旅行にでも行って二人で過ごさない?」
「それはお母様があまり良い顔をしないだろうなあ」
「あなただけのことを考えて深く愛し合って子供を作りたいの、いけない?」
「うーん、相談してみないとわからないな」
「相談しなくていいんじゃないの?夫婦だけで旅行に行くだけだから」
「お母様は昔から常に僕の場所を把握していないと納得しないからなあ」
「あなたは何のために私を妻にしたの?私のことは嫌いなの?」
「そんなことはない、違うんだ。
 茉緒のことは世界で一番愛してる。
 だけど、それ以上にお母様が怖いんだ。ごめん」
「そうなの、ごめんなさい、わかったわ。
 私もあなたのことを世界で一番愛しているわ。
 時間を掛けて何とかこの状況を打開していきましょう。協力してね」
「うん」
そこからは同じ会話が何度も繰り返され、何も変わらなかった。
そしていつまでも子供が出来ないため茉緒が精神的に病んでしまい、
とうとう母親から2か月前に無理矢理離婚させられた。
一馬としては幼い頃から何度も聞かされているため、
跡継ぎが最優先の母親の気持ちも理解できたし、
それに応えることができない自分に罪悪感も感じている。
しかし、別れさせられた今でもずっと心から茉緒を愛しており、
茉緒との復縁を夢見て、それを言い出せないまま現在に至っている。

柄島和馬(過去世)の物語
彼の生きていた時代は、江戸時代。
生まれた家は、旗本の江戸城勤め。父は100俵5人扶持の徒目付《かちめつけ》。
兄弟は兄と妹の3人。
次男のため家を継ぐ立場にはなく、将来はどこかの家の婿として入る様に育てられた。
通常武家の次男以下は、長男が死ぬ以外は家を継ぐことはできず、
もしどこかの家の婿として入れなければ一生部屋住み(居候)で終わることになる。
そのため和馬は幼少の頃より必死に学問に励み、道場で剣を修行し過ごした。
美緒とは幼馴染で学問所も一緒のため、帰り道に近くの神社の境内で休んだものだった。
美緒が母から貰ってくる金平糖を二人で分け合って食べるのが唯一の楽しみだった。
美緒の可愛い笑顔や美緒からの励ましを受けながら金平糖を舐めていると
和馬の心に|過《よぎ》る将来への|漠《ばく》とした不安が薄らぐのだった。
そんな毎日の中、やっとその不安な将来の変わる時がきた。
元々中島家と柄島家は家族同士の付き合いもあり仲も良かった。
美緒の中島家に後継ぎの男が居なかったため、将来婿として入ることとなったのだ。
和馬は次男としての不安な将来が無くなった事に安堵し中島家に感謝していた。
そんな時、中島家の仕える大名家が改易となり浪人となり美緒との許嫁の話は流れた。
再び不安な毎日が続く中で、
江戸の町には原因不明の流行病が襲った。
そのため柄島家は流行病で父と長男が急死した。
そして中島家は不幸なことに美緒と紗世姉妹を残して全員が亡くなり、
高い薬代が払えずに許嫁だった美緒が苦界(吉原)へ身を沈めたことを噂で聞いた。
和馬の学問の優秀さと剣の腕を見込まれて亡き父親同様に、
老中が使う諜報組織である目付の配下の徒目付として召し抱えられることとなった。
和馬は必死で職務に励み、先輩から実践で鍛えられ探索に慣れてきていた。
どんな苦しい時も昔からの癖で金平糖を舐めて、
『こんなことで負けてたまるか』と歯を食いしばって耐えた。
その頃、
ちょうど武家の行状探索(裏金接待疑惑)のため、客として吉原へ潜入し、
偶然とはいえ久しぶりに美緒”花魁絵志摩”に客として会ったのだった。
和馬もまさか吉原一の花魁”絵志摩”が美緒とは思っていなかったので驚いた。
柄島和馬の名前を聞いた時の驚いた顔と一瞬の悲しそうな表情、
綺麗に化粧されたその顔の裏に美緒の昔の面影を見つけて和馬は切なさを感じた。
その時から和馬は『情報を得るため』と自らを騙し”花魁絵志摩”へと通い始めた。
和馬は美緒をこの環境から救い出したいと思い店主に話すも、
花魁の引き抜きは1000両以上のお金が必要と言われれば諦めるしかなかった。
そして花魁に会うには多額のお金が必要だったが、本来はいけないことだが、
会った後、美緒自身が長年貯めていたお金から和馬のその日に払ったお金を
和馬自身へ返していたためお金は全くかからなかった。
実はこの時和馬自身はまだ女の肌を知らず、美緒が導くことで初めての経験をした。
和馬は初めて味わった肌そして胸、
己の物を包むそのすばらしい感触に感激したのだった。
美緒もその時だけは、
昔の美緒に戻り和馬を受け入れてくれた様に感じ、
和馬には籠の鳥でここから出ることも叶わない美緒からの愛情を感じた。
そのうち美緒自身も密偵の代わりとなり客の情報を聞き出しては和馬へ教えてくれた。
その甲斐もあって、ある夜大商人の寝物語で聞いた情報で
幕閣の大物の贈収賄が明らかになり老中により粛清が行われた。
和馬の大活躍で老中からお褒めを頂き、目付全体への誉れとなり、
その原動力となった和馬は徒目付の中でも組頭の右腕の地位まで上り詰めた。
和馬は探索能力だけでなく剣の腕前もあり優秀な文章管理能力もあったため、
将来を嘱望され
徒目付組頭の秋山隼一郎の娘茉優姫との婚約を打診される。
和馬はずっと幼馴染で許嫁だった美緒のことを忘れられずにいたが、
上役の組頭から直々に縁談を持ちかけられれば
将来に組頭の可能性のある柄島家として断ることはできず話を受けた。
新妻の茉優は16歳で可愛くてまるでままごとの様な新婚生活だった。
弾力のある小さな唇で真っ赤な顔で口づけを受ける茉優姫、
まだ十分に膨らんでいない可憐な乳房の小さな乳首を含むと身体を固くする茉優姫、
未経験の破瓜の痛みに耐え、瞼を固く閉じて震える茉姫に愛おしさは感じたが、
和馬には喜びを露にする美緒との睦み合いほどの感激は無かった。
それから何度も茉優姫とは睦み合ったが、
いつまでもたっても彼女から抱きしめられることもなく、
ずっと受け身でじっとしていてまるで人形のようだった。
いつまでも同じ状態が続くので和馬としては面白くなくなり、
だんだんと睦み合いの機会は減って行った。
身体の欲望自体は、美緒で満ち足りているので和馬は何も困らなかった。
2年の月日は流れた。
ある日、美緒の勤める廓の店主から呼ばれた。
話の内容は、”花魁絵志摩”を妾として引き取りたいと希望する人が多くいるが、
本人から全ての申し出を『断って欲しい』と全く取り合ってくれないで困っている。
それで”花魁絵志摩”にその理由を聞くと『心に決めた人以外は嫌だ』と答えたらしい。
『どなた様のことだ』と聞くと『柄島和馬様です』と答えたらしい。
和馬は嬉しかったが、引き取りに1000両ものお金は準備できないと伝えた。
しかし、廓の店主からは
「”花魁絵志摩”はすでに年季奉公も終わっており、彼女には感謝しています。
 店の商売としては、特にここ数年はこの店の儲けの大部分を稼いでくれました。
 以前は尊大で気難しい大店の旦那とかは断っていましたが、
 気持ちにどういう変化があったのか、率先してお相手し始めて驚きました。
 だから、今まで充分に稼がせて貰っているから引き抜き料は不要です。
 もしあなた様がよろしければ、なるべく本人の意向に沿いたい」と言われた。
和馬は想像もしていなかった話に喜んですぐに美緒を引き抜くことを了承した。
諦めていた昔からの夢が叶えられることとなったからだった。
『これで美緒を幸せにできる。側室ではあるが妻として迎えられる』と喜んだ。
ただ側室とは言え、武家の家に入るには武家の子供であることが必要だったため、
和馬は知り合いの武士にお願いして、美緒を養女として入れて貰い、
その後、その家の娘として輿入れをすることとなった。
元々武家で育った美緒に武家の教育は不要で早々に柄島家へ入って来た。
美緒が柄島家に来てからは、和馬は仕事を早く終えては美緒の部屋へ入り浸った。
その時には、二人の心は幼馴染と許嫁の時代に戻っていた。
睦み合うよりも今まで二人が過ごせなかった時間を取り戻す様に
縁側で二人で肩を寄せ合って庭の花や夜空を見上ながら
何気ない毎日の事柄をひたすら話し合う時間が幸せだった。
そしてその手にはいつも金平糖があった。
その間、ずっと一人のまま放っておかれた茉優姫のことには気が回らなかった。
ある日、家に帰ると医者が来ていた。
患者は美緒で流産したとのことだった。
驚いた和馬が急いで美緒に会ったが、薬が効いているのか眠ったままだった。
翌日から何度も枕元に行くも美緒は
「せっかくあなたのお子を授かったのに申し訳ありません」
「いや、また作ればいいだけだ。今は養生しなさい」
「私の初めての赤子なのです。
 このままでは余りにこの子が不憫です。
 なにとぞもう少しこのままでお願いします」
と泣き始め胸元に抱かれた胎児が包まれた布は何度言っても離さなかった。
視線が揺れて子守歌を唄い始めるともう話しかけても反応しなくなった。
とうとう夜中に突然泣き叫び始めると
家族や使用人も気味悪がって一緒には住めないと言い始めた。
和馬は何とか美緒に話しかけて
『元に戻って貰いたい』『子供はまた作れば良い』
と言っても、もう美緒の耳にはその言葉は届いていなかった。
やがて声の届かない敷地内の離れに納屋を作り、
美緒一人にそこで暮らさせるしかなくなり、
ある寒い朝に和馬が顔を出すと美緒は見る影もなく痩せ衰えて、
恨みの言葉を呟きながら、目を剥いて涎を垂らしながら死んでいった。
和馬はそのあっけない美緒の最後に涙した。
和馬のとって美緒の笑顔は、心の拠り所であり毎日の力の源だった。
その美緒の輝く様な笑顔は消え去り、苦しみながら死んでしまった。
その原因は全て自分であることを和馬はわかっていた。
美緒の流産の理由に関しては、誰も口にしないが、
正妻の茉優が大きく関係してることは薄々と感じている。
美緒のお付きの女中に聞いても、顔を背けて、転んだとしか言わないし、
その時に、そっと正妻の茉優の方を見て恐れていることからわかったのだった。
最初は美緒を引き抜くことなんてできないと諦めていたのにその夢が実現し、
幼馴染で許嫁で大好きだった美緒を妻にできただけで有頂天になって、
家族のことを何も見ていなかった自分を責めた。
本当に己の身勝手さと馬鹿さ加減に深く後悔した。
美緒の遺骨は正妻の茉優の怒りが大きく柄島家の墓に入れることが出来なかった。
住職に聞くと美緒の妹の紗世が遺品を持って帰ったと聞いて訪ねようかと思ったが、
自らの後ろめたさから紗世は和馬へ会ってくれないと思い、
最初は美緒の遺骨が入った無縁仏の墓へ月命日に誰にも知られずに参っていたが、
風の噂で”花魁絵志摩”の墓があることを聞き込み紗世の作った墓へ参った。
偶然紗世に会う事があったが、
「お姉ちゃんを側室にして頂いてありがとうございました」
と紗世からは責められることもなく逆にお礼を言われたが和馬は尚も己を責めた。
和馬は美緒と己との子供の墓に手を合わせながら、
もし来世に美緒と結婚する事があれば必ず添い遂げ、子供を育てることを誓った。

夢花から遼真へある提案があった。
「もう一度、一馬さんの夢に入って前世の誓を思い出させたいと思います。
 そうすることが二人と赤ちゃんの未来になると思うのです」
「わかった。その方がいいね。精神的にキツイと思うが是非とも頼む」
「はい、この力で今まで色々と見てきましたがこの度は本当に胸が痛いです。
 なぜこのような悲しいことが続くのでしょうか、彼らには何も罪は無いのに」
「そうだな。一馬さんの夢に前世の誓を思い出させて茉緒さんの元に行って貰おう」
「はい、今回は私の存在を彼に強く記憶させようと思います」
夢花は、ふたたび一馬の夢に入り、
現生の茉緒さんが前世の美緒さんであって、こんな悲しい過去があったこと、
前世のあなたは、今世では添い遂げたいと誓を立てたことを思い出させ、
明日には必ず茉緒さんのマンションへ行くように伝えた。
同時に夢花が胸に付けている白いスズランのブローチを一馬に覚えさせて、
当日にマンションの前で会う事を約束した。
一馬は翌朝目覚めた時、不思議な気持ちで目覚めた。
夢のことを全て覚えていてすぐさま茉緒のマンションへ向かった。
己の魂の中に過去の己がいたことを理解し強く茉緒を求めた。