はっちゃんZのブログ小説

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3.子育て(第3章:みいつけた)

「オギャアオギャア」
部屋に戻るとか細い泣き声が聞こえる。
柄島茉緒《えじままお》は、
寝室のベッドに眠らせていた子供、希望《のぞみ》の元へ駆け寄った。
「希望《のぞみ》ちゃん、
 ごめんなさいね、目が覚めた?
 少しお外に出てただけよ。
 もう二度と外には出ないからね。
 もうそろそろお腹は空いたかな?」
オムツに手を入れて濡れているのを確認して、急いでオムツを交換する。
オムツ交換が終わるとすぐさま抱っこして
さきほどから痛いほど張っている乳房を出した。
まだ小さい乳首の乳房が出される。
そして小さい唇にそっと乳首を含ませる。
『ングングングングング・・・』
希望《のぞみ》は、一心不乱に母乳を飲んでいる。
くりっとした大きな二重の目、
少しずつふっくらしてきている頬、
丸く高い鼻、
指先さえ入らないような小さな唇、
細いがみっしりと生えている髪の毛、
白く小さい手と足
どの部分もじっといつまでも見ていられた。
茉緒の胸は、それほど大きくはないが母乳の出はとても良かった。
痛いほど張った乳房から
母乳が吸われるたびに茉緒の心に幸せが広がった。
『やっと授かった私の赤ちゃん。
 お前は私の一番の宝物よ。
 どんどん飲んで大きくなあれ』
希望《のぞみ》は満足したのか乳首から口を離した。
希望《のぞみ》を縦に抱っこして、
背中をそっとポンポンしながらゲップを待った。
「グエップ」
「よしよし、良く出来ました。
 お腹一杯になったかな?
 じゃあ、しばらく良い子でいてね。
 急いで着替えるから待っててね」
茉緒は、洋服を脱ぐと普段着用の着物に着替えた。
『やはりこれが一番落ち着くでありんすねえ』
「なぜか着物だとすごく落ち着くわ。
 今までどうして着なかったのかしら、不思議ね」

「ピンポーン」
「はい」
「柄島様、ご依頼された物をお届けにあがりました。
 物が大きくて多いので私共でお部屋へお持ちします」
「はーい、では部屋へ持って来て下さい。待ってます」
「ピンポーン」
「はい、ありがとうございます。
 荷物は新しく買った隣の部屋の中へ入れて下さい」
「隣の部屋に?へえ、すごいなあ・・・
 わかりました。この荷物をその部屋のどこに置きますか?」
「ではとりあえずリビングの隅にでも全て置いて下さい」
「わかりました。お誕生おめでとうございます」
「ありがとうございます。やっとできたのですよ」
「それは良かった。ではまたの御注文をお待ちしています」
「そうですね。私達は外には出ないのでまたよろしくお願いします」

コンシェルジュがまたもや世間話をし始めた。
「あの荷物って、すごい量ね。どこのお部屋なのかしら」
「さあ、チラリと見たけどベビーベッドもあったから
 きっとどなたかに赤ちゃんでも生まれるんじゃないの?」
「しかし、すごい量を買うものねえ」
「エレベータを見ましたが、10階で止まったみたい」
「そういえば柄島様の隣の部屋がすぐに売れたみたいね。
 その部屋の引越がいつなのかはわからないけど景気がいいのね」
「もし10階なら少ししたら江島様に聞いてみないとね」
「そうですね。
 この前赤ちゃんの泣き声でクレームっぽい話がありましたものね」

茉緒は、着物を器用に襷《たすき》掛けすると
さっそく1002号室のリビングでベビーベッドを組み立て始めた。
「パパが今は居ないから私がするね。
 希望《のぞみ》ちゃん、ちょっと待っててね」
最近の物は工具は使わなくても簡単に組み立てることが出来た。
それなりに慣れない苦労してやっと出来上がって、
リビングの隅に置いて布団を敷いてその周りにおもちゃを置いた。
その真ん中に|希望《のぞみ》を横にさせた。
「じゃあ、ここが今度からあなたの場所よ。
 お母さんは今から美味しいご飯を作るから良い子でいてね。
 そうだ、綺麗な音楽を掛けておくからね」
茉緒は、リビングにクラシックを流してお昼ご飯の準備に入った。
昼も栄養バランスの良い物をと考えて、
有名店からの国産小麦・バター100%のお取り寄せクロワッサンと
最高級ヒレステーキ、たっぷりサラダ、コーンスープを作りゆっくりと食べた。
我が子に栄養満点の美味しい母乳をあげるためだけの食事だった。
希望《のぞみ》が生まれる前は、たまに有名店の出前も頼んでいたが、
今はなるべく国産の良い物をと考えて食材は自分で選んだものを使った。

テレビのニュースでは、
赤ちゃんを誘拐された夫婦が泣きながら『返してください』と叫んでいる。
「かわいそうに、生まれたばかりの赤ちゃんをさらうなんて酷い犯人だわ。
 早く帰ってくればいいのに。赤ちゃんってとても可愛いもの」
茉緒《まお》は、希望《のぞみ》を抱っこしながら呟いた。