はっちゃんZのブログ小説

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2.乳児誘拐事件発生(第3章:みいつけた)

ある水曜日の夜中、乳児誘拐事件が発生した。
名前:川崎 瑞希ベビー
年齢:産後7日目
場所:トウキョウマタニティクリニック
発生時刻:午後8時に判明
被疑者:カメラで確認するも不明。
看護師の証言:ベビーの母親以外は出入りしていない。
警察見解:クリニックの内部犯行か母親の連れ出ししか考えられないが
   捜査の結果、どちらもその可能性は低かった。

「宮さん、この事件、早くもこっちに来そうですね」
「まあ、そうかもな。
 怪しい人間が出入りしていないのに誘拐が起こったんだからなあ」
「それも乳児ですからねえ。今頃その子は大丈夫なのかなあ」
「そうだな、生きていて欲しい。まだ生まれて1週間だからなあ」
「しかし憎い犯人ですね。許せない」
「おっ?部長が呼んでる。もしかしたら早くも俺達が?」
「そうならいいですね。やる気満々です」
「おう、がんばってくれよ。じゃあ行こうか」
宮尾警部の予想通り、
この誘拐事件の捜査をするように部長より指示された。
「な?やっぱり、俺の勘は当たるな」
「そうでしたね。宮さん、でもどこから手を付けます?」
「俺達刑事のやることは決まってるだろう?」
「現場100回ですね?」
「そうだ、よくわかってるじゃないか」

宮尾警部と小橋刑事は事件の資料を持って、
誘拐現場のトウキョウマタニティクリニックへ向かった。
トウキョウマタニティクリニックでは、警察も出入りしているし、
妊婦さんや患者さんもざわざわとした雰囲気で落ち着いた表情はしていない。
宮尾警部は現場検証している都倉警部達の場所へ顔を出した。
「おっす、今度我々も捜査することになったのでよろしくな」
「ああ、宮さん、お疲れ様です。こりゃあ我々としてもお手上げだわ」
「そうなのか?しかし被疑者がいないって不思議だな」
「そうなんだよ。母親が出入りしたとカメラでは映っているし、
 看護師達も彼女の顔を見たと証言してるけど、
 本人はその時間帯にここには来ていないと言い張るんだ」
「ふーん、勘違いじゃなければ、本人の顔した誰かが来て誘拐したわけだ」
「だけど、赤ちゃんを抱えるのだから、
 相当に大きな荷物になる筈なのに院内外のカメラに該当者がいないんだ」
「ふーん、不思議な事件だね。それはそうと母親に犯人から何か連絡は?」
「今のところは何もないようだ。もし何か合ったら知らせるよ」
「わかった。我々も色々と調べて見るよ」
「頼むよ、実は昨夜にATM強盗もあったみたいでそっちも大変なんだ」
「わかった。何かあったらまた連絡するよ。そっちに行ったら?」
「ありがとう。これが今までの捜査資料だから渡しておくよ」
「いいや、もう部長から貰ったからいいよ。じゃあな」

|柄島茉緒《えじままお》は、トウキョウマタニティクリニックの前に来ていた。
警察が出入りして仰々しい雰囲気でクリニック全体が揺れている。
朝一番からのニュース報道もあり、
現場がマンションの近くのため、
興味半分でついつ見に来てしまったのだった。
何があったのか野次馬の女性に聞くと何とここで誘拐事件があったらしい。
柄島茉緒の子供は、1週間前にここを退院している。
『子供の調子も良いから少し早いけど昨日に家へ帰させてもらって良かった。
 次の検診にはまだ早いからいいけど、早く事件が解決すればいいなあ』と思っていた。
夫の一馬は、この子が生まれた後、すぐに市役所へ行き、
出生届けでこの子の名前を『|希望《のぞみ》』と出して貰った。
夫婦待望の子供で「|希望《きぼう》」だったし、
|希《のぞみ》と|望《のぞみ》二つの『のぞみ』を一緒にして読み方も「のぞみ」とした。
夫は急な仕事で市役所に行ったその足でこの子の顔も見ずに、長期の海外出張しており、
あれほど子供を欲しがった人にこの可愛い子供を見せる事はできないのが残念だった。
あの憎い夫の母親には、せっかく生まれた子供は絶対会わせないと心に誓っている。

しばらくすると、宮尾警部と小橋刑事がクリニックの玄関から外へ出てきた。
二人はそこにたくさんいる野次馬女性ひとりひとりにも聞き取りを行った。
「昨夜に怪しい人は見ていないか?」
「昨夜近くに怪しい車とかは止まっていなかったか?」
「昨夜乳児を抱っこしてる人は見なかったか?」
「ここのクリニックの評判はどうなのか?」
「ここの患者さんはどこ辺りに住んでいる人が多いのか?」
「ここの医者や看護師で何か気になる事はないか?」
偶然、そこに居た柄島茉緒も同様に警察から聞かれて、
「何も知りません」と答えた。

その時、遼真が偶然通りかかっていた。
「宮尾警部に小橋刑事、お久しぶりです。どうかされましたか?」
「ああ、遼真君、ニュースでやってた事件だよ。どうしてここに?」
「真美が今朝ニュースを見て、赤ちゃんが可哀想と涙ぐんでたので、
 どこまで進展したかなと思って大学からの帰りに少し寄り道しました」
「そうか、もしかしたら君が来たからそっち系かと思ったよ」
「まだ調べてないのでよくわかりませんが、
 今はこのクリニックには特に悪いモノは見えないですね」
「今は?って、少し前はあったのかね?」
「何となくですが、少し前に悪いモノが入り、出て行った感じはしますね」
「感じ?」
「はい、この建物の磁場と言うか霊の場があるのですが、
 良くないものが通り過ぎて少し毛羽立っている様な感じです」
「普通はそうあるものなのかね?」
「ここは赤ちゃんが生まれる神聖な場所だし、
 赤ちゃん自身は祝福されてこの世に生まれる存在です。
 生物としての力は、
 母親が守らないといけないくらい弱いのですが、
 霊的にはご先祖様の強い力で生まれる前から守られているものなのです」
「やはりなあ。まあ赤ちゃんを誘拐するくらいだから悪いよな」
「ただ殺されるとかの凶悪な酷い気配はしていませんよ」
「そうか・・・赤ちゃんが無事ならいいんだが・・・」
遼真が先ほどこの現場を離れた女性をじっと見つめている。
「遼真君、他に何か気になる事でもあるのかね?」
「いえ、少し不思議な霊体だなと思って見ていただけです」
「事件に何か関係ありそうかね?
 彼女はさっき確か、昨日に赤ちゃんを退院させたと言っていたが」
「いや、今のところはわかりません。
 単に不思議な構造の霊体だったので見ただけです」