はっちゃんZのブログ小説

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3.霊査1 物に宿る記憶(第2章:いつまでも美しい女)

4人で乗って来たセダンタイプの車では湖底からの物を搭載できないため、
小橋刑事が1人で別に車を借りて東京まで運ぶ事となり、
小橋刑事がレンタカーで戻ってくるまでここで待つことになった。
遼真は湖底から引き揚げられた物を駐車場から離れた林の中に置いた。
若干の錆は出ているが、白く塗装された鉄製のガーデニング製品だった。
土曜日の為、観光客がたくさんいるので駐車場内では出来なかったが、
遼真は久しぶりに物観(ものみ)術をつかうことにした。
物観術とは、俗に言う『サイコメトリー能力』のことで、
『物や場所の残留思念を読み取る力』のことである。
さっき一瞬触れた時に多くの情報が一気に流れ込んできた。
その画像を真美に読み取らせて自動書記させるつもりだった。
遼真が紙に書いてもいいのだがそちらの方が早かった。
警部と小橋刑事にその旨を伝え、しばらくこの場から動かないことを伝えた。

この二人を何も知らない人間が遠くから見れば、
若い恋人同士が林の中でもたれ合って座っており、
女の子が多摩湖の景色を描いている様に見える。
実際には、
二人の周りには局地用の御札により簡単な結界を張ってある。
よく見ると二人とも目を瞑っており、
遼真が物を触り、
画家の霊を降ろした真美が
送られてくる画像を描画していく。
瞬く間に何枚もの絵が出来ていく。
小橋刑事がレンタカーに乗って戻って来た頃にはその作業は終わった。
遼真と真美はやや疲れた顔をして林から出てきた。
「警部、遅くなりすみません。
 この物の記憶を探りました。
 すみませんが、二人とも少し休ませてください」
「遼真君に真美ちゃん、ちょっとあの喫茶店で休憩でもしよう」
「はい、ありがとうございます。助かります」

4人は、混み合う時間の過ぎた喫茶店へ入った。
宮尾警部は真美へ『何か甘い物でも頼みなさい』と伝えた。
警部と遼真はホットコーヒー、
真美はフレッシュオレンジジュースとイチゴショートを注文した。
「どうぞ、大変だったね。お疲れ様」
「いただきまーす。
 イチゴショートなんて久しぶりです。嬉しいです」
いつもは大人っぽい真美も
今日は疲れたのか女子高校生の素顔が出ている。
それを見て、
『こういうところはうちの娘と同じだなあ、可愛いものだ』
とほっとした宮尾警部だった。

宮尾警部が遼真とコーヒーを飲みながら
簡単に書かれたスケッチブックを開く。
別荘風の建物
大きな薔薇園のある洋館
白いクルーザー
サングラスをかけて顎鬚を蓄えた中年男性
首にタオルをかけて麦わら帽を被る老人男性
深い帽子を被りサングラスをかけた長髪の綺麗な白い顔の女性
が書かれている。
 
「遼真君、これらがあのガーデニングのヤツから見えたのかね?」
「ええ、実は他にたくさんの人も出てきたのですが、
 以前見せて頂いた被害者の方々で、彼ら以外の人間はこの三人でした。
 真美が綺麗に書いてくれたからわかりやすいですね」
「仮に死体があの場所で沈められたとして、
 このクルーザーを使って、この三人が6人を沈めたのかね?」
「いいえ、女性は花壇のような場所に立っていますから、
 彼らを沈めたのはこの男達でしょうね」
「こういう建物やクルーザーをこの辺りで探せばいいのかね?」
「もう何年も経ってるのでどうなってるかはわからないですが、
 仮に探す事が出来れば真実に近づくと思います」
「絵ではわかりづらいかもしれないので、
 今度は、家で写真を撮ろうと思っています」
「写真?」
「ええ、念写です。
 真美は直接霊を念写できるのですが、
 僕が見えた場面を念写してもらうにはここでは無理なんです」
「そういえば前の事件の時、佐々木などの写真もあったね」
「はい、真美があの部屋に彼らが居たので撮影したものです。
 ただすごく疲れるので数枚が限度なんです」
「だったらこの男と女を念写して貰えないか?」
「わかりました。帰ってから真美と二人でしてみます。
 それと別荘や洋館やクルーザーやその他事件に何か関わるものも探してみます。
 もし細かい表札や船名などもわかればいいですから」
「大変と思うがよろしく頼むよ。
 でも今日はこんな新しい事実が出て来て助かったよ」
「いや、まだ帰るまで時間があるので
 先ずはこのクルーザーと別荘を探しませんか?」
「わかった。地元の警察に助っ人を頼んでみるよ。
 今、すぐに連絡するから待ってくれたまえ」
帰り道に地元の警察署に寄って、スケッチの絵を見せるも
この辺りには良く似た別荘は多いため、絞る事が難しく、
クルーザに関しても時間が無いため今日中には無理だった。
後日、再度こちらへ来ることにして帰り支度に入った。