はっちゃんZのブログ小説

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

2.竜神様からのプレゼント(第2章:いつまでも美しい女)

やがて東大和市に入り、多摩湖が近づいて来た。
遼真から
「警部、多摩湖での捜査の前にお願いがあります。
 多摩湖付近にある酒屋さんとその後必要な神社へ参拝したいのです。
 多摩湖で霊とお話する事になりますから必要なんです。
 大した時間はかかりません」
「いいよ、急ぐこともないし早く出て来ているから大丈夫」
「ありがとうございます。
 やはり土地の神様への御挨拶は、必要なもので申し訳ありません」
「そう言えば、前の事件も観自在菩薩様のお力をお借りしていたね」
「そうです。私達は神仏の力をお借りしているだけですから」
「そう・・・なのか・・・君達の力と思うのだが・・・
 うーん、よくわからないが、君達の言う通りにするよ」
遼真は酒屋に入ると『土地の水で作られた地酒』を買った。
そして次に、
多摩湖狭山湖を守る神社である清水神社、厳島神社、玉湖(たまのうみ)神社へ参った。
特に人造湖である多摩湖狭山湖を造成の折、祀られた玉湖神社、
多摩湖が完成した折、湖底に沈んだため移転した氷川神社熊野神社の合祀された清水神社、
水の神様である竜神関係の厳島神社・弁天社、三社へのご参拝がどうしても必要だった。
時間はそれなりにかかったが昼前には準備が終わった。

いよいよ紅葉を湖面に映す多摩湖へ向かいボートを借りる。
係員が以前の事件現場にはブイで囲っているので近寄らない様に注意される。
理由を聞くと
その辺りは水の流れが変でボートが動かなくなるとの話もあってそう決めたらしい。
多摩湖狭山湖は、昔から心霊スポットとして有名である。
最近、ユーチューバーとかテレビ局とか変に挑戦する人間が増えて
もし不幸な事故でも起こったら大変なので近寄らせない様にしたと話す。
警部は警察手帳を見せて、再度現場検証をする旨を伝えている。
係員は学生と高校生に見える遼真と真美の二人を不思議そうに見ている。
ボート2艘で事件当時に死体が上がった湖面の場所へ向かう。

二人は遼真から
『儀式を行うのでしばらく待機して欲しい』と言われ待っている。
遼真が湖面へ地酒の日本酒をたっぷりと注いでいる。
両手を合わせて、印を結びながら呪文を唱えている。
真美も隣で同じように唱えている。
しばらくすると、遼真が顔を向けて
「警部、小橋さん、もうこちらへ来て頂いて結構ですよ。
 ご許可を頂いたので我々には何も起こりません」
「許可?・・・そうなのか・・・わかった。
 それでその場には、その・・・霊とかいるのかね?」
「ええ、たくさん集まって来ています。
 彼らは我々に何も悪い事はしません。
 ここでは自殺した人が多いのです。
 自殺のためあの世へ行けば地獄へ送られて苦しむことになります。
 憐れに思われた竜神様が、閻魔大王様に許可を取って
 ここでずっと修行する様にさせました。
 彼らはこの湖の竜神様に生かされてここにいます」
「そうかね、たくさんね」
「た、く、さ、ん???」
宮尾警部と小橋刑事は周りを何度も見回して首を傾げている。
 
「警部さん、以前身元不明の方の写真を見させて頂きましたが、
 やっと彼が近づいて来てくれました。
 では、彼にお名前をお聞きしましょうか」
「お名前を教えて下さい」
「・・・・・・・」
「ええと、須田(すだ)範宣(のりのぶ)さんですね。
 なぜずっとここに居られるのですか?」
「・・・・・・・」
「はあ、湖底にある物に引っ張られて動けない?」
「・・・・・・・」
「そうですか、それを何とか引き上げられないですかね?」
「・・・・・・・」
「あなたが龍神様にお願いしてみる?
 いや、その事は私からお願いしますからあなたはここに居てください」
遼真からの目配せに真美が鞄から小さな|人型《ひとがた》を取り出した。
龍神様、龍神様、どうぞこの哀れな霊をお救い下さい。
 彼の念の籠った物を私達の元へお送りください」
『桐生遼真、真美、その方らの願いは聞き届けた。
 その霊は可哀想な奴でな、ずっと気がかりであった。
 ワシはここから離れる事はできんからお前に託す。
 よろしく念入りに弔ってやってくれ。
 奴を縛ってる湖底にある物は、
 ワシにとっても気持ち悪いものでなあ、
 誰かは知らないが、
 この日本には居ない筈の異形のモノの力が込められていて
 しばらくは無理矢理ずっと沈められていたんじゃが、
 何とかワシの力で紐を切って水面へ彼らを送ったんじゃ。
 ついでにそれも処置してくれるとありがたい。
 いくら湖底から竜巻で飛ばしても、
 すぐにここに捨てられてしまうのじゃ。
 では、少し船は揺れるからしっかりと捕まっておれよ』
「宮尾警部、小橋刑事、
 船が揺れるのでしっかりと捕まって下さいとの事です」
「揺れる?・・・この天気で?・・・」
「???・・・意味がわからないっすねえ」 
その時、湖の上空に風が吹き始め、
さざ波が立ち始め
それが徐々に大きくなり始め
とうとう湖面が渦巻き始めた。
しかしボートは一切流されていない。
そのうち、渦巻きの真ん中から竜巻が起こり空高く舞い上がった。
『ガン、ドサッ』
宮尾警部と小橋刑事の間に重い音が響いた。
「ひえっ?なんだ?」
「おっ、これは? 
 鉄製のガーデニングの鉢入れじゃないか」
「ええ、それが須田さんをここに縛っていた物です。
 あとで僕が調べて見ます。
 真美、そろそろ須田さんに人型(ひとがた)へ入って頂こう」
うなずいた真美が、
人型を両手で大きめな胸に押し付けて須田へ
「須田さん、長い間さぞや辛かったでしょう。どうぞ私のもとにおいで下さい」
須田の霊は喜びの顔で、
真美の胸に置かれた人型へ入っていく。
龍神様、ありがとうございました。助かりました」
『お前が、厳島神社・弁天社や氷川神社熊野神社
 玉湖神社まできちんと参拝してくれたから嬉しかったぞ。
 この神社は、人間達がこの二つの湖のために神様を呼んで、
 ワシはその神様に依頼されて来たのに、
 今度は理由はわからんが、勝手に神様を返してそのままなんじゃ、
 じゃがワシも龍神の一人じゃ、
 神様に頼まれた事は最後までやり遂げるつもりじゃ。
 それとお前のお神酒は美味しかった。
 久しぶりの美味しい酒だった。
 そのおかげでワシも力も蘇ったぞ。こちらこそ礼を言う。
 またこちらに来ることがあれば必ず顔を出してくれ。
 お前達を歓迎する』
「いえいえ、龍神様が居なければここの湖は悪霊の湖になったと思います。
 龍神様の優しさが哀しみに溢れる彼らに安らぎを与えています。
 感謝いたします」
その場からボートで乗り場に戻ると係員は、
驚いた様に警部のボートに乗せられている『鉄製のガーデニングの鉢入れ』を見ている。
「そんな物、いつ引き上げられたのですか?」
「ほんの少し前だよ、見ていなかったのか?」
「実は、刑事さん達が行ってからすぐに
 ずっとあの一帯に霧が掛かってていましたから見えませんでした。
 だから事故があったら嫌だなと思って、ずっと見ていたのですが・・・・」
どうやらあの辺り一帯に龍神様が結界を張っていた事を遼真と真美は知った。
あの高い竜巻と言い、大きな渦と言い、
仮に人間が見ていれば、
今どきのことだから写真で撮られていてもおかしくなかった。
二人は人間界を色々とご存じの龍神様であることに感謝した。