はっちゃんZのブログ小説

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18.シシトー神との戦い(第8章:占い死)

彼女の身体が鷹の身体へ変わり、
身に纏う黒い霧が鞭の様になり二人へ向かってくる。
二人がその鞭を避けると
二人の身体のあった空間の後ろにあった太い枝が鋭く切り飛ばされた。
「ほう、なかなか素早い動きだな。ではこれは」
今度は黒い鞭が二本に分かれてスピードが増して二人へ向かって行く。
遼真は金弧丸を抜いて向かってきた一本を捌いた。
「くっ」
音速で飛んでくる鞭を避け切れなかった真美は、
何とか小刀の銀狐丸で受けるが、
間に合わず真美の頬が切れ、頬から顎へ細い血の筋が流れた。
「真美、大丈夫か」
「遼真様、すみません。あまりに攻撃が早いもので・・・」
「真美、こうなれば・・・頼む」
「わかりました。自縛印」
と真美が両手の印をシシトー神へ向かって放つ。
シシトー神の周りに逆三角形の白い光が浮かび上がった。
「ほう、これは我を呪縛するものかな?
 神の我を呪縛できるかどうか試してみるか?」
「ううう、遼真様、以前の囁き女とは比べ物にならないくらい強い圧です」
苦しそうな真美の額から汗が滴り落ちる。
「いくぞ娘・・・ふん」
シシトー神が軽く片手を振って身の回りの白い陣を振り払う。
『ドーン』
「うっ、あー・・・」
自縛印が破られたため、術者の真美が大きく後ろへ飛ばされてしまう。

遼真は倒れた真美の元へ急いで走ると、
まっすぐシシトー神の前に立ち塞がり真美を後ろへ庇った。
真美も必死で立ち上がろうとしているがまだふらついている。
「次、行くぞ」
シシトー神から再び音速で黒い鞭が伸びて襲ってくる。
遼真は母と共に水虎との戦いの時の事を思い出した。
遼真は金弧丸と自らの身体から出した母の技『霊糸』で迎え撃った。
3本に増えた黒い鞭に対して同じ本数の霊糸3本を出した。
だが、シシトー神の鞭には抗えず切られていく。
「ほう、お前にはそんな技もあるのだな。だがまだ力が弱いな」
「遼真様、私はどうすれば・・・」
「真美、僕の後ろに居て僕の身体に気を送って」
「はい、わかりました」
真美がフラフラしながらも
遼真の背中へ身を寄せると両手を当てて自らの気を遼真へ流していく。
真美の力が入り遼真の出す霊糸の数が大幅に増えていく。
各々の霊糸が撚り合わさり太くなり今度はシシトー神の鞭を切っていく。
「ほう、なかなか強くなったではないか。ではこれはどうだ」
見る間に黒い鞭の数が増えて黒い風の様になってくる。
それに合わせて遼真も霊糸を増やして対抗したが、さすがに対応出来なくなってきた。
「汝、強い力を持つ若者よ。
 なぜ我がシシトーと呼ばれるかを教えよう。
 我は、“戦いの神”、“怯え惑ふ心を勇気の光で満たす神”。
 『シシ』は『四肢』『獣』の意味。
 『トー』は、『十・無限』と『カタナ』の意味である。
 今は鞭であるがこれが全てカタナへと変わるのだ。
 そのすべてを受け止めることができるかな?
 その10本の1本がまた10本へと増えていくのだ」
「?!10本?・・・それが10本に?」
シシトー神の振るう黒い鞭が一瞬で銀色の風へ変わった。
遼真は守りに専念するため二人の身体の周りを繭の様に霊糸で固めた。
昔、母が水虎から遼真を守った時の様に・・・
凄まじい銀色の風が二人を襲った。
『このままでは真美が無数の鋼の刀で串刺しになってしまう』
遼真は咄嗟にシシトー神に背を向けて後ろに居る真美を抱きしめて庇った。
「真美、何とか君だけは守るから・・・」
「?!、遼真様!逃げて!私はいいですから!」
二人に銀色の風が突き刺さるその瞬間、二人の周りに紅と黒の風が渦巻いた。
『『『『キーン』』』』
鋼と変わった刀は4本の苦無に受け止められていた。
抱き合った遼真と真美の全面に霧派の|紅凛《あかり》と|黒狼《くろう》が立っていた。
「ギリギリ間に合った。遼真君、真美ちゃん、大丈夫だった?」
「・・・(心配そうに二人を見る黒狼)」
「紅凛さんに黒狼さん・・・なぜ・・・」
「京都の頭首からの至急の依頼だよ。二人が危ないって・・・」
「ありがとうございます。助かりました」
「ほう、応援が来たのかな?
 どれどれ、今度はどんな・・・
 うん?・・・
 そなたらはもしかして我と同じ古き血筋の者ではないのか?
 まだ我と同じ時代の古き血筋の者がこの世にいたとは驚いたぞ」
シシトー神の周りで渦巻いていた銀色の風が一瞬で消える。
シシトー神は不思議そうに4人を見つめている。
「シシトー神様、同じ血筋と言うならこの子達だってそうだよ。
 ウチらとは違ってすごく薄まっているかもしれないけどね」
「・・・そうだったのか。
 あまり最初から敵意がないので我も戸惑っていたのだが・・・」
遼真が真美を抱きしめたまま
「シシトー神様、私たちには最初から敵意はありません。
 この世の事は任せて下さいとお願いに上がっているのですから」
紅凛が傅いてシシトー神へ伝える。
「そうなのです。
 この世に不要な輩の命を絶つのは我々がしています」
「・・・(傅いて頷いている黒狼)」
「そういえばそういう噂を聞いた事があったな。
 そなた達だったのか・・・
 では、彼もそうなのか?
 そんな風には・・・」
「いえ、彼らは悪霊や妖怪などを相手にこの世のために戦っているのです」
「そうか・・・それは悪い事をしたな。
 我に敵対する者と思っていたものでなあ。
 娘、さきほどは大人げなかったな、大丈夫か?」
シシトー神が微笑み、その掌から白い光が真美の身体へと当てられる。
見る見る真美の頬の傷が癒され元の滑々の肌へと戻っていく。
「シシトー神様、ありがとうございます。もうどこも痛くありません」
「うむ、それなら良い。まあ許せよ」
「いえ、私が術を使ったせいで気分を害されたのなら申し訳ありませんでした」
「いえ、真美へ指示したのは私ですから、シシトー神様、お許しください」
「良い良い。なかなかの力であった。神以外なら効こうな。
 このたびはここまでとしよう。
 我は汝達の様な者を知り嬉しく思う。
 この我の好きな国、日本のためにその身を捧げて欲しい。
 では今度は教団で会おうぞ。またな」
と笑った鷹の姿はふっとその場から消えた。
それまでずっと抱き合ったままだった遼真と真美は、
紅凛に『いつまでもお熱いね』と言われ、真っ赤になって急いで離れた。

翌朝、秘書の高山はゴミの回収車が来た時に、
ゴミ山の底で生ゴミの悪臭に塗れた死体で発見され大騒ぎとなった。
当然警察は、辺りに聞き込みを行い、監視カメラを調べたが、
カメラには高山一人がフラフラと歩いてゴミの中に入って行く姿だけが映っていた。
検死の結果『中大脳動脈破裂による脳出血』が死因であった。
その日のニュースは、
モズの早贄の様な姿で発見され『自殺』した博愛民主党代表の永源議員と
その秘書の高山が生ゴミ塗れで『脳出血』で死んだ二人は大いに世間を賑わせた。
それと同時に
愛人の上で腹上死した武藤前政調会長の起こした過去のスキャンダルなども噴出し、
日本国内にある隣国の関係企業からの闇献金問題、
隣国政治家と裏で勝手に交わした約束文書のコピー、
隣国美女とのハニートラップ画像、事務所でのマネートラップ画像、
など多くの暴露情報がマスコミ以外からいつの間にかネット上へ流出し、
将来に我が国を隣国へ売り飛ばそうとする会話まで流れるに至り、
野党第一党の博愛民主党は世間への謝罪に追われて大いに混乱した。
それまで与党批判だけで左翼政党のスキャンダルを隠蔽して擁護してきたマスコミも
昔からなるべく国民を反日方向へ誘導する様な隣国からの指示を聞くことが難しくなった。
この噴出した数多くのスキャンダルで博愛民主党議員は選挙で勝てないと騒ぎ始めた。
元々週刊誌ネタを国会で与党批判に使って時間潰しにをしていただけの政党だったため、
国民へ完全に反日政党であることがわかり次回の選挙では大敗は確実とされた。
そうなると政治家とは腰が軽いもので『君子豹変す』として、
多くの博愛民主党の所属議員は、
沈みゆく船から逃げ出す鼠の様に我先に他政党へと鞍替えに走った。
政治家は落選すれば只の人になり
現在持っている利権からのお零れが無くなってしまうからだった。
マスコミへのパフォーマンスに明け暮れ、真剣に政治を考えていない議員は焦った。

そんな世間の喧騒とは離れた場所。
ホテルの部屋のカーテンの隙間からベッドへ朝の太陽の光が入る。
大きなベッドで浴衣を着て眠っている木村千種がふと目を覚ました。
隣には鷹が居て腕枕をしてくれていて千種の顔をじっと見ている。
「あれっ?鷹様?・・・ここは?・・・どこですか?
私は確か永源代表と野党の打ち合わせに
昨夜出席した筈なのに夢だったのかしら?」
「君は政党活動に熱心だから夢でも見たのかもね。いつもありがとう」
「いいえ、そんなまだまだです。それはそうと私、昨夜鷹様と・・・」
「ううん、君は疲れていたのか腕枕をしたらすぐに眠ったよ。
だから僕はずっと可愛い君の寝顔を見ていたんだ」
「ずっと?・・・あーん、恥ずかしい。私の顔を?・・・」
千種は恥ずかしさで頬を赤くしながらも
期待に満ちた瞳を揺らしながら鷹の大きな胸へと顔を埋めていく。
「鷹様、もし良かったらですが・・・昨夜の続き・・・いいですか?」
「いいよ。千種の可愛い寝顔を見ていたらこんなになったよ」
「・・・まあ・・・こんなに・・・嬉しい。鷹様愛しています・・・」
もはや令和獅子党党首の木村千種の記憶からは永源と会った記憶は消えていた。

遼真は狐派頭首の祖父と相談して宮尾警部と小橋光晴刑事へ
最終報告として、
このたびの「東アジア平和会」のメンバーの行方を、
会の活動そのものが反日のスパイ活動に従事していた事、
会が覚せい剤や臓器売買などの犯罪に関与していた事などから
犯人は証拠隠滅を狙った国際犯罪組織の可能性が高い事、
メンバー全員が相模湾の深海魚の餌になったことを正直に知らせた。
死体が相模湾の底ではダイバーを使っての捜索も不可能だし、
これ以上の証拠(と言っても遼真の霊視では証拠にはならないため)もないため、
宮尾警部達の捜査はここまでとなった。
すっきりとしない結果となったためお詫びに
宮尾警部と小橋光晴刑事二人を遼真の家で真美の手作りの夕食でもてなした。

『真美風大鶏排(ダージーパイ)』
 ご存知台湾の名物料理。顔ほどの大きさで厚さ1センチのグローブの様な肉厚、
中はジュウシー外はカリカリの食感。衣に片栗粉以外に白玉も使っている。
味は塩胡椒、ニンニク醤油、カレー味で3つの大皿に山の様に盛られている。
『五目チャーハン』
 チャーシュー、大海老、ニンジン、グリンピース、卵の山盛りチャーハン。
『ジャンボ蒸し餃子』
 フカヒレと豚肉とキャベツの一口では齧れないほどの大きさの餃子。
『卵とトマトのフワフワ中華スープ』
 細葱を浮かした春雨と卵とトマトの優しい味のフワフワ中華スープ。
胡麻団子とフルーツ杏仁豆腐』

いつもの様に真美の『どうぞ召し上がれ』の声で
小橋刑事はすぐさまタージ―パイを掴み、
皿にチャーハンを山盛りに取り分けガツガツと食べ始め、
宮尾警部はビールを飲みながら味わいゆっくりと食べている。