はっちゃんZのブログ小説

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11.事件の顛末(第3章:みいつけた)

夜に権禰宜の智朗が明日から学校の始まる夢花を迎えに来た。
夢花は両肩に乗って来たキインとクインのキスをして部屋を出て行った。
あと残された仕事は、
誘拐された赤ちゃんを無事に両親へ返すこと
石碑の人々を無事霊界へ送ることの二つである。
両親に返すことで一番大切な点は”事件化させないこと”だった。
遼真と真美はバトルカーに乗って誘拐された川崎家へ向かう。
赤ちゃんはオムツも綺麗だしお腹も一杯なのでスヤスヤと眠っている。
真美はすでに中島美緒の顔や姿に変装し始めている。
近くの有料駐車場へ止めてドローンを発信させ、監視カメラの場所を確認した。
川崎家は都内でも非常に地価の高い場所にあり、
高い塀に囲まれた大きな一建家で高い樹木が植えられている。
その木々の間から漏れてくる灯りには、
生まれたての可愛い我が子が居なくなっため、
物音もせず静かで寂しげな雰囲気が漂っている。
今日で事件から五日目となりすぐにでも解決させる必要があった。
しかし美緒に憑依されてしまいそのままに行動した、
心が壊れていた中島茉緒を犯罪者とする訳にはいかなかった。
遼真が高い樹木へバトルハンドから発射された糸で昇り、
上から赤ちゃんの入った籠をそっと吊り上げる。
赤ちゃんの額には深い睡眠に入るよう安眠の御札を貼ってある。
そして、玄関の扉の前にそっと赤ちゃんの入った籠を置いた。
家の中からは急に犬の警戒している泣き声が聞こえる。
急いで真美へ『作戦決行』の連絡を入れる。
真美は和服を着て門の前のインターフォンを押した。
「はい」
「このたびはすみませんでした。お子様をお返しします。
 あなた方のお子様は玄関前に居ますから」
「えっ?・・・」
真美はそれを伝え終わると迷彩シートで身を纏い、
すばやく|後退《あとずさ》ると
監視カメラの死角に停めてあるバトルカーへと戻った。
真美が乗り込むとすぐさまバトルカーは、
車の色も形も変わる迷彩で番号もカメラに映らない仕様に変わり、
自動運転で遼真と落ち合う場所へ移動し二人は合流した。
もう真美は変装も着物も元に戻して、
いつもの私服の可愛い女子高生へ戻っている。
玄関に置かれた赤ちゃんの入った籠には、
お詫びの手紙といない間の赤ちゃんの画像の入ったSDカードが同封されている。
ただし、身につけている全ての物の指紋や化学物質は全て排除されており、
SDの画像データからも撮影場所等の情報は一切削除されて追跡できないようになっている。

次に遼真と真美は”石碑の公園”へ向かった。
石碑周辺は変わらずバランスが崩れた様な霊界を形成している。
真美が『自縛印』を、
遼真が『昇霊印』を唱えた。
石碑の根元から六芒星の白い光が回り始め白い円柱となる。
”オンマカラギャ・バゾロシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク”
愛染明王様、もう一度お力をお貸しくださいませ。
 ここに留まる多くの霊魂は
 自らは望まず苦界に落ち、
 多くの人間の愛欲の犠牲となり弔いもされず
 ”花魁絵志摩”中島美緒と共にこの場所で長き時を待ち続けた者達です。
 何卒この憐れな霊魂達を霊界へ|誘《いざな》い下さいませ」
六芒星の白い円柱の中が赤い光で満ち、
和馬と美緒の時の様にその円柱の中に愛染明王様が現れた。
石碑に留まっていた多くの魂は、
現れた愛染明王様のお姿に喜び、その足元へと集まっていく。
そしてその金剛拳から放たれた赤い光に包まれて一つになり光背に吸い込まれていった。
その後、二人が見ている間に石碑は粉々になり土に変わっていった。

遼真と真美が家に戻るとテレビで緊急速報が報道されている。
「誘拐された新生児が無事に戻る」
「本日、20時、
 今週水曜日夜中に誘拐されていた川崎瑞希さんの赤ちゃんが自宅玄関へ届けられました。
 病院での検査の結果、赤ちゃんは全くの健康体で誘拐されていた間も
 充分な栄養ですくすくと発育していたことが判明しました。
 この誘拐事件は最初から犯人の目的が不明で突然に起こりましたが、
 本日の20時頃、
 犯人と思われる女性がインターフォン越しに謝罪をし、
 その時には川崎家の玄関前へ赤ちゃんが置かれていたそうです。
 被害者の赤ちゃんは、大きな籠に入れられており、
 綺麗な服を着ており、傍らには犯人からの謝罪の手紙が入っていたそうです。
 無事赤ちゃんが帰って来た川崎さん一家は、喜びに溢れています」
テレビ中継では警察からも
『とにかく無事に、お子さんが帰って来て良かったです』と発表があった。
遼真と真美は、夢花が運んできた夕食を食べながら安堵した。
夕食後ゆっくりとコーヒーを飲んでいると、宮尾警部から電話があった。
『明日の夕方に少し話したいことがある』とのことだった。

宮尾警部と小橋刑事が遼真の家を訪れた。
二人は応接室に通され、真美がコーヒーと自家製チーズケーキを持ってきた。
「遼真君、もう知ってるとは思うが、君に頼んでいた事件だけど解決したよ」
「そうみたいですね。赤ちゃんも無事で良かったですね」
「そうなんだ。母親に聞くと生まれた時よりふっくらしてると驚いていたよ」
「ふーん、犯人はよほど子育てに慣れた女性だったのですね?」
「川崎家でインターフォンの映像を見せて貰ったが、
 顔つきは赤ちゃんの母親瑞希さんによく似てて、
 和服を着ててまだ30歳くらいの女性だが、
 一切警察の情報にはヒットしないんだ」
「そうですか・・・それは不思議ですね」
「そうなんだ、君は、そのー・・・君の力で何か感じないかね?」
「この画像の女性は知りませんね。
 私がサイコメトリーで見た中にもいませんね」
「そうなんだが・・・
 もしかして、あの時、君が何かを感じた様に思ったのだが・・・」
「ああ、あの時は・・・
 クリニックの近くの公園にある石碑が気になっていただけです」
「公園?、石碑?・・・そんな物、あったかね?」
「ええ、あの石碑は江戸時代から建っており、多くの霊魂が宿っていたのです」
「えっ? それは何か、そのう、そこに悪いモノでも居たのかね?」
「いいえ、悪いモノは何もいませんでした。ただ多くの可哀想な霊達でした。
 石碑には吉原という場所で働いていた多くの女性の霊魂が宿っていたのです」
「吉原・・・というとあの時代劇で有名な・・・」
「そうです。吉原は苦界と呼ばれており、彼女達は家の貧しさや親の借金のために
 その世界へ売られ遊女として生き抜いても最後には無縁墓へ入れられるのです」
「そんな・・・生まれた家には戻れないのかね?」
「年季明けといって終わる時が来ますが、家に戻っても遊女としての過去は消せず
 周りからそんな偏見の目で見られ、普通の女性として見られることはないのです」
「そんな女性が昔はいたのか・・・悲しい話だな・・・今もそうだが、男は罪だな」
「そんなところ、昨夜、やっと準備が出来たので
 誰も居ない時間帯を見計らって真美と行って彼女達を無事成仏させたのです」
「そんなことをしてたのか・・・
 もしかしてこの事件の解決には君が動いたのかも?と考えたんだが・・・」
「いや、我々は石碑の場所でいただけです」
「そうか、まあうちの上層部も
 もう被害者が無事に戻って来たから幕引きと言い出して
 我々も担当から外されたんだが、私としては悩ましいところなんだ。
 また同じ事件が起これば我々には解決できる手段がない。
 今度も同じように無事に赤ちゃんが帰って来る保証はないからねえ」
「そうですね。僕があの時に警部に話したことを覚えていますか?
 確か『殺されるとかの凶悪な酷い気配はしていません』と言いましたよね?」
「そうだったな、それは単なる君の勘だったのか?」
「人間が死ぬ現場は相当に霊の場が荒れているものなのです。
 あの時の事件現場はそんな物が一切感じなかったのです。
 どちらかというと・・・」
「うんうん、どちらかというと?」
「どちらかというと
 悲しい母親の感情みたいな物、執念みたいな感情が強く残っていたと感じました。
 誰かを殺そうとか考えて入った場合はもっとギスギスしたものが残っています。
 普通出産があった場所は、みんなから喜びの波動がでていますから・・・。
 まあ出産が安全な行為ではないですから全ての場所がそういう訳ではないですが、
 ほとんどが喜びの波動に満ちている場合が多いのです」
「それで君はあまり心配した感じではなかったのだね?」
「警部には申し訳ありませんが、最初からそう感じていました」
「我々もそれがわかればいいのだが、
 残念ながらそんなものはわからないと来てるしなあ。
 今後はもうこんな事件は起こらないかね?」
「警部、私は予知能力者ではないですからそれはわかりません。
 人間の感情は、すぐに喜びにも憎しみにも変わりますから
 いつ同じ様な事件が起こるかは予測はできません」
「すまなかったね。無理な事を聞いたみたいだね。悪かった。
 じゃあ、この事件はもう終わったと考えるしかないのかな・・・」
「宮さん、赤ちゃんが無事だったから良かったとしましょうよ。
 また同じような事件が起これば、
 我々がまた必死で調べればいいじゃないですか。
 それがために我々警察があるのですから」
「お前も良い事を言う様になったな。わかった。
 何かまだモヤモヤするが、仕方ない、もう納得しよう」

遼真と真美は納得いかない警部を気の毒に思いながらも、
やはり彼ら二人にこの事件の本当のことは話せないと感じた。
彼らの正義と我々の正義の考え方に大きな隔たりがあるため仕方なかった。
仮に中島茉緒を犯人として伝えたところで
心が壊れて憑依されていた本人に犯罪の記憶は無く、
いくら部屋に証拠があっても本人も意識に無いため立件は不可能である。
彼らの世界では、中島茉緒という犯人は存在するが、
この事件の真の犯人は既にこの世には居ない人間が起こしたものなのだ。
現在生きている人間は、過去に生きて今は死んでいる人間を裁くことは出来ない。
この事件はすっきりとしないのは当然だが、これ以上の解決策も無かった。