はっちゃんZのブログ小説

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11.姉弟との戦い2(第1章:記憶喪失の男)

『天丸(てんまる)1号』より犯行開始の連絡があった。
果たして・・・
ベランダの上の空間に黒い影がぶら下がり、
その影はブラブラと前後に振ってベランダへ降りた。
スマホらしき電灯がサッシに照らされ、
鍵が開いているのを確認しそっと入って来た。
萌斗男はリビングルームだけでなく遼真達のいる部屋も見回って誰も居ない事を確認した。
もちろん結界が張られているので遼真達の姿は萌斗男には見えない。
萌斗男は玄関に回ると電源を入れて、鍵を開けて姉の梨奈を入れた。
「萌斗男、ドキドキするわ。あの時をのこと、思い出したわ。
 延彦さんにはかわいそうな事をしたね」
「もうそんなことは考えても仕方ない。俺が殺したんだから。
 姉貴、もう早く来いよ。盗る物盗ってここを出るよ。
 姉貴、何を今頃、手を合わせて拝んでるんだよ。
 もう遅いよ、最後に水に顔をつけたのは姉貴だろ」
「お前がやれって言ったからじゃない。
 私はそんな怖いことしたくなかったのに」
「はいはい、わかった、わかった、早く来いよ」
「うん、わかったわよ。失礼します・・・」
二人はリビングルームへ入ると電灯を点けて道具箱を下ろした。
遼真と真美から見れば、二人の生霊も二人の周りを狂喜乱舞している。
「えーとね、ここの、この突起を倒すのよ」
『ガタン』
「萌斗男、床を触ってみて」
「おっ、この板が外れるぞ。どれどれ・・・
 あったー、やったー姉貴、正夢だ」
萌斗男の手には百万円の札束が握られている。
それを見た梨奈が、大喜びで近寄ると札束を握って胸に当てた。
「これが夢にまで見たあのお金・・・嬉しい」
「そうだな、姉貴、明日にあの証拠品を廃棄したら高飛びだ」
「そうね、アジアがいいかしら・・・どこか悩むね」
「まあとりあえずタイにでも行って暮らそう」
プーケットか・・・いいなあ・・・」
「それより姉貴、このお金を急いで全部詰めて」
「そうだったわ」

「はい、二人ともそこまでだ」と宮尾警部が部屋から顔を出す。
「だ、誰だ、お前達は」
「警察の者だ。後藤梨奈、萌斗男、二人を強盗殺人容疑で逮捕する。
 もう証拠は挙がってるから観念するんだ」
「何?このジジイが殺してやる」
その時、空中に居た生霊が二人の身体へ憑依したのを遼真と真美には見えた。
「警部、生霊が憑依しました。普通の人間じゃなくなったから注意して下さい」
「おっ?そうなのか?気を付けるよ」
警部は慎重に二人へ近づいていく。
萌斗男が、梨奈の身体を掴むと頭の上まで持ち上げて投げつけてきた。
梨奈も身体を丸めて両手を鈎爪にして警部へ跳んでくる。
「えっ?なに?」
警部は驚いてその飛んでくる身体を避けるが、
床に下りた瞬間、
梨奈の身体はバネで弾かれた様に警部へ向かってくる。
「うわっ?こいつなんだ」
「だから普通の人間と思わないで下さい。
 警部、しばらく真美と一緒に時間稼ぎをして下さい。
 真美、いつもの準備を始めるから頼む」
「はい、わかりました」
真美が参戦すると萌斗男も襲ってきた。
警部は萌斗男を相手し、真美は梨奈の相手をした。

遼真は、呪文を唱えながらリビングルームの四方の壁に結界の符を貼っていく。
最後に床と天井へ貼れば生霊はこのリビングルームからは出ていく事はできない。
それに気がついた萌斗男は、
隣の部屋に入ると窓ガラスへ体当たりをしてベランダから逃げた。
『パリーン、ガチャーン』
みんなの注意がそちらへ向いた瞬間、
梨奈はボストンバッグを持ってすごいスピードで玄関へ走った。
ベランダへ出た萌斗男は飛び降りて逃げようとしている。

梨奈は、玄関へ逃げようと走った瞬間、真美の手から鋲が投げ放たれた。
梨奈の足元の影へ鋲が突き立つと、
「くっ、痛い、なぜ足が動かない。くそー」
「あなたの霊体をその場から動けなくしています。諦めなさい」
「うるさい、お前達に私達の苦しみや憎しみの何がわかるの?」
「あなた達の苦しみや憎しみを他人にぶつけてはいけないわ。
 お願いだからその憎しみを捨てて。
 そうしないとあなた達から出てきた生霊は永遠にこの世を彷徨うわ。
 それはあなた達が永遠に救われないってことなのよ」
「うるさい、そんな甘い言葉は聞かない。今まで何度騙されてきたか。
 私達はお金以外は何も信じない」
「後藤梨奈、残念だがお前の手元のお金は精巧にできた偽札だ。
 お前がどこに逃げても場所は特定できるものだから諦めろ」
「こ、このお金が偽札?
 そんな・・・馬鹿な・・・
 今まで必死であんな酷い生活に耐えてきたのに・・・」
梨奈が放心したようにその場にペタリと座り込んだ。
真美は梨奈の身体から憑依した生霊が離れてリビングルームへ戻るのが見えた。
この生霊はお金への執着が強いため、お金のある筈の場所へ戻る習性がある。
真美は、急いで胸元から符を出して呪文を唱えながら梨奈の背中へ貼った。
「警部、彼女を拘束してリビングルームへ連れて行って下さい」
「おお、わかった。もう大丈夫なのか?」
「はい、もう生霊は彼女の身体へ入ることはできません」
「それは良かった。
 いくら容疑者と言っても酷く傷つけられては困るから」

一方、ベランダから跳び下りて逃走を謀った萌斗男は、
その場所で待っていた小橋刑事と向かい合った。
「後藤萌斗男、殺人強盗容疑で逮捕する。もう逃げられない諦めろ」
「うるさい、この馬鹿刑事が死にたいのか」
萌斗男は小橋警部へ3メートル以上も一瞬で跳んできた。
その動きはまるで獣のような動きだったため小橋刑事の反応が一瞬遅れた。
萌斗男は上半身へ絡みついたまま首をすごい形相で締めている。
リビングルームのベランダ側の結界以外は全て張り終えた遼真が
ベランダから弓を番(つが)えて、
小橋刑事に馬乗りになっている萌斗男の背へ矢が突き立った。
『ギャー』
と化け物じみた悲鳴が響き渡り、小橋刑事の身体から離れた。
その瞬間に小橋刑事は、腹筋を使って立ち上がると
胸を搔き毟って苦しんでいる萌斗男の側頭部へ回し蹴りを決めた。
糸が切れた様に萌斗男の身体が崩れ落ちる。
小橋刑事がゴホゴホと咳をして首筋を揉みながら、
恐る恐る萌斗男に近寄ると突き立った様に見えた矢が地面に落ちている。
遼真には矢で剥がされた生霊がリビングルームへ戻るのが見えた。
「小橋刑事、萌斗男の身体を拘束してリビングルームへ連行して下さい」
小橋刑事は、気を失っている萌斗男の後ろ手両足に手錠を掛け肩に担いで部屋へ戻って来た。
玄関で小橋刑事を待っていた真美が、
急いでその背中に担がれている萌斗男の背中へ符を貼りつける。

「宮尾警部、小橋刑事、ありがとうございます。
 おかげさまで生霊をこのリビングルームへ閉じ込める事ができました。
 ここからは我々の仕事ですから、お二人は、隣の部屋で見ていて下さい」
「仕事?・・・そうか確か生霊を成仏させるんだよな」
「生霊って、見えないけど、すごい力だった。
 昔、ビーストって言われてた元プロレスラーを倒した時より大変だったすよ。
 本当に化け物みたいな動きなんすよ。宮さん」
「ああ、梨奈もそうだったぞ。
 最初なんかは萌斗男が梨奈の身体ごとあそこからここへ投げつけて来たし、
 梨奈も跳びながら猫か猿みたいに一瞬で首を狙ってきたぞ」
「俺の時もそうだったっす。
 3メートルくらいを一瞬で跳んできました。
 おかげで首が折れるかと思うくらい絞められて大変だったっす」
「それでよく無事だったな」
「遼真君が弓で追い払ってくれたから離れたけど死ぬかと思ったっす」
「弓で?よく突き立って死ななかったもんだな」
「大丈夫ですよ。この日本刀も小刀も弓も鋲も霊のみに反応します」
「そうだったのか・・・後で聞こうとは、思っていたんだが安心した」