はっちゃんZのブログ小説

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

6.304号室の二人(第1章:記憶喪失の男)

『夢見術』の日程は決まったが、生霊への対応が難しかった。
生霊は本体が生きてる人間のため、通常の霊と比較にならないくらい力が強かった。
もし『夢見術』の間に佐々木さんの霊領域へ侵入され暴れられれば、
佐々木さんは元より真美・夢花の霊体が傷つくことになる可能性が高い。

翌日に遼真は京一郎へ304号室を探る探偵道具の相談をした。
翔兄さんはクモ型を使うが、
真美や夢ちゃんはクモが苦手なので使えなかった。
京一郎から泥棒一族のテレビドラマを参考に作った「てんとう虫型」を渡された。
愛称は『|天丸《てんまる》1号』と呼ばれた。

遼真は必要な時以外他人の生活を覗く事は当然好まなかったが、
これが一族からの依頼された仕事であり、
真美や夢美の身体に関わることなので仕方なかった。
早速、リビングの隣の8畳部屋の壁と天井と扉へ強力な結界符を貼り、
リビングにいる生霊からは入って来れず見えない領域を作った。
その部屋で夢見術をする予定だが、
そこにはパソコンを置き色々と調査ができるようにしている。

遼真は204号室のベランダから『|天丸《てんまる》1号』をそっと放した。
『ブーン』と羽ばたきながら上の階へ跳んでいく。
パソコン画面へ天丸の眼からの画像が入って来る。
無事304号室の窓ガラスへ張り付く事ができた。
窓がちょうど換気用に開けられており、そこから部屋へ入ってみることとした。
遼真のいる部屋と同じ間取りなのでわかりやすかった。

304号室は、姉妹が住んでいるような部屋だった。
確か入居者表では姉と弟の筈だが、部屋の中に男物は全く見えなかった。
玄関に乱暴に脱ぎ散らかされた女物の靴や
ソファの上へ乱雑に置かれた派手なワンピースや長髪のウィッグが見える。
昼間にも関わらずドアの閉まった二つの部屋からは寝息が聞こえてくる。
突然、一つの部屋から甲高い女性の声が聞こえてきた。
「止めて、いくらお金を貰ってもそんな事をしません。
 お客さん、お願いですから止めて下さい。
 そりゃあ。お金は欲しいけどそこは初めてなので止めて。
 本当に痛いですから止めて下さい。
 痛い・・・あっ・・・ウグッ・・・
 お願いします。今日はもう勘弁してください。いやあ」

隣の部屋から背の高い化粧の禿げた髪の短い男が
「姉貴、うるさいわね、眠れないわ。
 朝まで仕事して帰ってきてんだから。眠らせてよ」
「うん?うーん、夢か・・・昨日の客で最低な奴に当たってさ」
「ケツくらい、金になるなら入れさせな」
「嫌よ、痛いし、汚いし。
 その後で前に入れてくるのよ。病気になるから嫌」
「もう性病に罹ってて病気も糞もないだろ。
 姉貴のは前も後もどっちでも同じなんだよ」
「失礼ね。性病はお薬を飲んでるわ」
「最近、たまに変な幻覚を見てるみたいだし、
 もう脳みそまで回ってきてるんじゃないか。
 身体に梅の花が咲いてたりしてね。
 私が男ならお金を貰ってもするのは嫌だね」
「そんなの、暗いし言わなきゃわからないわ。
 蚊に刺された跡だと言っとけばいいわ。
 大体女を金で買うようなクズはどうなってもいい。
 でも誰のせいでこんなことしなけりゃならないと思ってるの?」
「またその話?、そーそーみんな私が悪いんでしょ。
 私が博打の借金をしなけりゃあ良かったんでしょ。
 だけど私の調子いい時は、
 姉貴だって私からたくさんの金を貰ってブランド物を買い漁ってたよね」
「あの時は、お前がくれるって言うから貰ってあげただけさ」
「そんなことより、佐々木だったか?
 どうしたらあの男が隠したお金が手に入るんだよ」
「そんなことわかりゃあしないよ。
 あの時、お前があいつを殺さなければわかったかもしれないのに」
「あの後、あの部屋を隅々まで探したけど無かったよな。
 いったい、あいつどこにあの大金を隠したんだろう」
「それはそうとお前も夢でうなされてるよ。大丈夫?
 昨日もそうだったけど、
 あれ、
 潰された時の夢みたいだね」
「あー、あの痛みと苦しさは一生忘れられねえ。
 あいつらも俺が止めてくれ。
 お金はもう少ししたら入るから待ってくれ。
 あいつが死んじまって場所がわからないんだ。
 それまで待ってくれって言ってるのにお構いなしだった。
 おかげで腎臓1個と交換した上にオカマになっちまったぜ」
「本当にあの男だけは許さない。死んでも許さない」
「俺もそうだ。何としてでも金は取り返す」
「そうそう、
 そろそろあの時に使った催涙スプレーやスタンガンは捨ててもいいかな」
「そうだな。ただ物が物だけになかなかゴミの日にとは行かないんだ。
 化学物質には指紋があるから科捜研で同定されれば逃げられない」
「警察も私達を疑っていないから大丈夫じゃない?
 あいつが死んだ時間には別のところに居たとアリバイもあったし」
「ああ、まあ、湯を使ってタイマーで死亡推定時刻をずらしてるし
 俺達にはアリバイがあってあの時は逃げられたけど、
 俺たちが容疑者になった時点で注意しないといけない。
 あの事件の容疑者は非常に少ない点が問題なんだ。
 あまり増やし過ぎると分け前も減るから仕方なかった。
 それに警察はここに俺たちが住んでいる事を知っている。
 いくらあいつが死んだ後にこのマンションに入ったとしてもね。
 いつもこのマンションを見ている男が二人いるから安心できない。
 この前近くを通ったら雰囲気から見てどうも刑事みたいだった。
 下の204号室からまだ警察の捜査対象からは外れていない事はわかった。
 それにこの前来てた、若い男と女も怪しい。
 あの部屋で何をしようとしているのかが気になる」
「頭の良いお前の言う事だからお前の言う通りにするわ」
「ああ、でもいつかはこの証拠品を捨てなければね」
男の方も怒りが大きくて女言葉に男言葉が混じってきている。
二人は昼間は眠っていて悪夢の世界にいるため、生霊を飛ばす力は無かった。
道理で昼間のこの時間帯には、204号室に生霊は居ない筈だった。
夢見の術を行うには、中学生だし昼間が最適だからちょうど良かった。