はっちゃんZのブログ小説

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12.捜査4(第2章:いつまでも美しい女)

海外からの情報が入手できた翌日に
従兄の桐生 翔新宿探偵事務所内で潜入の検討を行った。
美真野邸の警備は厳重でさすがに簡単には潜入できなかった。
正面門に警備室があり、
高い塀の上は、電気が流れる金網フェンス、
フェンスの無い部分の上空は全て赤外線が通っており、
監視カメラも何台もあるのがわかった。
敵に知られない潜入は非常に困難で相当な作戦が必要だった。
仮に潜入するにしても遼真達が装備を整えてすることになる。

社長の寝室の壁に掛けられている絵画には、
確実に悪霊が憑依しているため今回の対象からは外した。
現在この洋館全体を覆う黒い霧のような物の正体を知るためには詳細な霊査が必要だった。
天丸1号からの画像から判断して食堂の大きな絵画は特に問題は無かった。
それ以外の怪しい部分を調べる必要があった。
キインとクインを使って洋館の中を全て調べるつもりだったが
あまりに広いため監視カメラに見つかっても困るので
悪霊の力の分布を知るために洋館の絵図面の上でダウジングを実施した。
それが一番反応した場所は『地下室』だった。
分解する事の出来なかった『壁』が一番反応している。
そして次が地下室の『床』だった。

警部達と遼真と真美、翔と百合はバトルボックスカーに乗って、
いつもの美真野邸の隣の有料駐車場に停めて調査に入った。
バトルボックスカー内の壁面には
多くのモニターが設置され様々な画面が映し出されている。
早速、現在洋館内へ潜入させている天丸1号をそちらへ向かわせた。
地下室への入り口は、常時分厚い木製のドアで締められている。
何度かアタックしたが、
天丸の体高ではドアの隙間から入る事はできなかった。
ただ明らかにその隙間から、
黒い霧の様なモノが漏れ出ているのは遼真と真美にはわかった。
そこで翔が身体が小さく体高も低いクモ助を潜入させる事とした。
迷彩を施した黒い小型ドローンにクモ助を運ばせて玄関付近へ降ろした。

このクモ助に関しては、館林一族の京一郎が発明した盗聴・位置発信装置で
種類としては、大きい順にクモパパ、クモママ、クモ大助、クモ助がある。
機能としては、クモ助は腹部にオナモミ型の装置を備えており、服などに下りると襟や裾裏へ移動し、縫い目をほどき5ミリくらいの発信機を埋め込み、縫い目を接着し戻ってくる。その他の機能としては、潰されると酵素を出し分解される。必要時電波でも分解可。装置の有効距離は500m。通常こちらが発した電波に反応してデータ送信する。
それまでは一切発信することなく内臓のチップへ全て記録されている。
クモ大助は、体色を背景に変えて、音声はガラス振動で聴取、画像は8個の眼で死角なし。
クモママは、体色同化機能有、腹部にクモ助を格納して移動できる。
クモパパは、麻酔薬の入った痛みの感じない細い針などを飛ばすことができる攻撃用。

一番小さいクモ助が玄関のドアの下から洋館内へ侵入していく。
もうみんな寝ているのか静かだった。
地下室のドアへと近づいていく。
ドアの隙間から中の灯りが薄く漏れている。
地下室からボソボソと声が聞こえてくる。
クモ助はドアの下から慎重に侵入した。

「姉さん、まだ5つ、あと7つだね」
「違うわよ、正確には最後に胎児が必要だからあと8つよ。
 まあ新鮮な胎児は今度は組織から貰うからいいけどね。
 それはそうと今日組織から連絡があったわ。
 明日夜にはシンガポールから1人分が届くみたいよ」
「ああ、わかった。
 儀式を始めるのはいつもの様に夜中の三時だよね?
 それはこの前のビデオレターの子の分かな?」
「きっとそうね。あの子、あまり健康状態が良くなかったみたいね」
「まあ、小さい時から虐待を受けてたらどこかは傷ついてるよね。
 ここでしばらく良い生活をさせても簡単には健康には戻らないよね。
 そうそう・・・不思議なんだけど、
 確か以前6人居た筈なのになぜ魔法陣は5つのままなのかなあ」
「藤原さんに聞いたけど、1人だけ都合の悪い人間が居たみたいよ」
「都合の悪い?うーん、何だろう・・・
 まあいいや、今は会社も順調だし、
 30年前ほど急ぐ必要もないから別にいいや。
 あの時、姉さんがこの事を言い始めた時は、
 本当に気が狂ったのかもと思っちゃったよ。
 でも姉さんの言った通り、この魔法陣って本当に力があったね」
「そう、私が社長になって会社が吸収されるかどうかの瀬戸際だった時、
 その時、お前はまだ医者の卵だったけど、
 夢で『地下室にある魔法陣を活用しなさい』とお告げがあったの。
 それでその通りにしたら、
 相手会社の社長が、若い愛人とホテルでその最中に突然死の上に、
 会社の政治家への裏金問題や粉飾決算が発覚して問題となり潰れたの。
 結果的にこちらは助かり、そこから順風満帆の毎日よ」
「そうだね。この魔法陣の力はすごいね」
「その代わりに人間の内臓の一部と大量の血液と胎児が必要になるの。
 本来なら願いの代償として
 私の内臓と血液と私達の子供の命が無くなるのだけれど、
 代わりに他の人の物を与えているから大丈夫なの」
「一つの大きな願いをかなえるのに
 12人の内臓と大量の血液そして胎児が必要ってすごいよね」
「そうね。でもそのおかげで我がグループ、
 社員の家族含め数万人の生活が助かってるわ」
「まあね、大きなグループをずっと成功させるって大変な事だよね」
「前にお前に話したけど、私の部屋にあるあの絵画があるでしょ?」
「うん、僕はあまり好きじゃないけど、姉さんは好きなんだよね」
「そう、そのときの夢に出てきてくれた女性はあの絵の女性よ。
 彼女が私達を救ってくれたのよ。
 私が小さい頃、7歳くらいだったかな?
 あの絵をこの地下室の奥で見つけてからずっとお気に入りなの。
 あの絵は最初無かったと言われていたのに
 私が入った時、なぜか急に出てきたのよ。
 きっと昔大工さんが掛けるのを忘れたのだと思うわ。
 あの血の様な赤が特に私を惹きつけるの。
 あの赤をじっと見ていると胸がドキドキして熱くなるわ。
 私はきっと血が好きなのだと思うわ」
「確かにそうかもね」
「お前が大学生の頃、偶然指を怪我した時、血をとめようと
 すぐさま含んだ事があったけど、その時の味を思い出したわ」
「あの時の姉さんは、急に目を輝かせてずっと舐め始めたから驚いたよ」
「その時にお前が急に私を抱きしめて・・・」
「そ、そうだったね。なぜか急に姉さんを欲しくなったんだ」
「欲しくなったって言っても初めてだったから結局私がリードしたわね」
「仕方ないじゃないか、姉さんは僕の憧れだったんだから緊張したのさ」
「すごく可愛かったわよ。それにすごく大きくて強かったわよ」
「僕も最高だったさ。でもその時から姉さんがより綺麗になり始めたよね?」
「そうそう、血を飲むだけで身体が若くなっている気がしたわ」
「不思議だった。色々と試したけど輸血した方が効果は強く出たよね」
「そう、でもその後の処理が大変だったわね」
「そんな時、庭師の藤原さんが急に現れて助かったじゃない」
「あの人、『ホクート様に呼ばれました』と言って急に現れたのよね。
 『ホクート様って誰?』って聞くと、
 『あなたの部屋の壁の絵の女性です。あの真っ赤なドレスを着た女性です』
 って言ったからすごく驚いたわ。お前以外誰にも見せていない絵だからね。
 その時、『この人はきっと魔法陣に呼ばれた人なんだな』と思ったの。
 何も聞いていないのに、『死体処理で困ってたら私がしますよ』
 と言ってくるし、案の定死体を見ても驚かないで簡単に処理するし、
 もしかしたら組織から呼ばれた人かな?とも思ってるけど、
 もしそうなら詮索してはいけないからもう考えないことにしたの」
「まあ僕は自分達のためにこうしてるから特に疑問は無いね」
「それは私も同じ、本当は他人の子供なんてどうでもいいのよ」
「そうだね、ただ世間への姿は必要だからそうしてるだけだからね」
「そう」
「姉さん、この魔法陣は何て呼ばれてるか知ってる?」
「へえ、知らないわ。何て言うの?」
「確か『暗黒十二宮召喚魔法』と何とか呼ばれてたと思う」
「へえ、『暗黒十二宮召喚魔法』か・・・
 ふーん、黄道十二宮は有名だけどねえ」
「悪魔を呼び出すとなってたね」
「悪魔?・・・そうなの?
 もしそれが本当なら私には悪魔ではなく神様だわ。
 そして藤原さんは私にとっては神様のお使いだわ。
 それにあの子達にもとても幸せな時間を過ごさせてるしねえ。
 あのまま施設で生きていても一生経験も出来ないような生活よ」
「姉さん、今、初めて気づいたんだけど、
 この北側のレンガ壁の真ん中に白く曇ったガラスの場所があるけど・・・
 これって何かな?}
「最初からあるわよ。
 小学生の時、触ってたら一度だけガラスが外れた事があって、
 中には小さな白っぽい瓶があったわよ。
 あまり覚えていないけど、
 確か瓶の上に六角形の星みたいなマークがあったわ」
「六角形?・・・
 それで瓶の中に何か入ってたの?」
「中には小さな何かの骨みたいな白い物が入ってたわ」
「その後、瓶を戻すともう二度とガラスは外れなくなったわ」
「まあね。もし外れてバランスが崩れてこの壁が壊れたら困るからね。
 しかしなぜ今まで知らなかったのだろうね。不思議だ」
「私は小さい時から知ってるから気にならなかったけど・・・
 そうだ、お前は小さい時からここに入るのを嫌がってたからじゃない?
 私はここの年中ヒンヤリした空気が好きだったから毎日入っていたけどね」
「そうだったかな。うーん、まあいいや」

クモ助からの画像で遼真と真美が気になった部分があった。
魔法陣のある床も瘴気を漂わせているが、
それ以上に解体時に壊すことの出来なかった壁が気になった。
それは瘴気を噴き出していると言うより、その物が瘴気の塊、
特にガラス部分を中心に瘴気が渦巻いている様に感じるのだ。
やはり地下室の壁には何かがある様に感じた。
そして魔法陣に呼ばれた様に出現した『庭師藤原』も気になった。
『庭師藤原』は洋館隣の植物園奥の部屋で毎日を過ごしている。
そこはキッチンや風呂トイレもついている立派な部屋だった。
藤原自身の調査も必要だった。
顔写真で検索を掛けると警察資料に該当者が出てきた。
ただそれは既に死刑になった殺人犯でもう生きてはいなかった。
よく似ている人間なのだろうと思うが、それにしてはあまりに似過ぎていた。
コンピューターの一致率100.0%であり本人としか思えなかった。
整形をしているかもしれないから何とも言えないが不思議な事だった。
キインを藤原の部屋の近くへ疾駆させた。
藤原の部屋の隣には、
多摩湖畔にある研修センターの様な小さなプレハブがあり、
そのプレハブ内には同じように二つのタンクが設置されている。
しかし研修センターの古井戸の周りと異なり、その辺りに彷徨う霊は居なかった。

今まであの魔法陣が何度完成されたかも不明だが、
仮に30年前の1回だけだとすると
多摩湖畔の研修センターで彷徨っていた霊は12人だが、
賽の河原で1人の子供が待っていたので実際は13人。
11人と1人の妊婦さんは胎児と共に殺されたと考えると数はキチンと合う。
その後、多摩湖の水死体は6人、
なぜ多摩湖の6人の死体が化学処理されなかったかは不明だが、
魔法陣の残りの数から考えてこれ以上の犠牲者はいないと考えられた。
そっと窓からキインの霊眼で藤原の姿を確認させた。
その瞬間、藤原は何かを感じたのか窓をすぐに見たが、
キインの姿を見て、ニヤリと笑った。
「ふん、俺様に何の用だ?チビ助が・・・
 この小さな島国の小さなケモノ風情が・・・」
「・・・」
キインがすぐに窓から離れた。
キインの霊眼では、藤原の姿にダブって
『頭に王冠を被った牛で、全身が炎に包まれた悪魔』の姿が見えた。