はっちゃんZのブログ小説

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15.魔女の悲しみ、神父の罪(第2章:いつまでも美しい女)

翔が藤原と戦い始めた時から、遼真と真美は涼子と士郎の二人と向き合った。
遼真と真美には見えていた。
涼子と士郎の肉体には、
腹部から血を流す女性と血に塗(まみ)れた神父の霊が憑依している姿が。
それよりも二人に憑依した霊の背後に巣食う黒い霧が気がかりだった。
遼真は真美へ
「真美、カイン、キイン、クインと一緒に頼む」
「はい、わかりました。カイン、キイン、クイン、私に力を貸して」
カイン、キイン、クインが真美の後ろから現れて、涼子と士郎を取り囲んだ。
「自縛印」と叫び、
真美の両手の平を自分へ向けて
親指と人差し指で象られた逆三角形から二人に向かって放たれた。
二人の足元に白い逆三角形の自縛印が現れた。
カイン、キイン、クインがその逆三角形の頂点で二人に向かって待機した。
「うっ、身体が動かない。なぜだ」
『やめろ・・・邪魔するな・・・』
「ああ、身体が重い」
『助けて・・・私を助けて・・・』
涼子と士郎の声が二重になって聞こえてくる。
長い間生きた悪霊の自縛を破ろうとする力も強く、
さすがに真美の顔色も真っ白になり額からも汗が滴り落ちている。
それを感じたカイン、キイン、クインは二人に向かって
カインは真空を
キインは火炎を
クインは電撃を発して二人に憑依した悪霊を抑えた。

遼真は、すぐさま師匠が送ってくれた武器の中から金色に輝く槌を持った。
これは『聖戦士の槌』と言われており、
悪魔の結界を打ち破る力を秘めているとされている。
そして壁へ近づいていく。
「ああ、何をしようとしてるの。やめて」
『お願い・・・私を助けて・・・』
「やめろ、壊すのはやめろ」
『そこの瓶を取り出すのはやめろ』
遼真は胸のペンダントに手を添え「主よ、私に力を」と唱えた。
とたんにバトルスーツが白く輝き聖戦士の鎧と変わった。
手に持つ『聖戦士の槌』の輝きが増していく。
そして壁へ一撃を加えた。
『バーン』
一瞬、壁の表面が紫色に変わり浮き上がり、その壁に細かい白いひび割れが走った。
その紫色の壁が消えると単に古びたレンガの壁が現れた。
それに同時に洋館全体が大きく震え、
一階の奥から『ウオー』と野太い声が響き渡った。
遼真はレンガの真ん中にあるガラス部分から中にある白い瓶を手に入れた。
その瓶の蓋と側面に『ソロモン王の証のヘキサグラム』が刻まれている。
やはりこれは『魔法王ソロモン王が魔物を閉じ込めた瓶』だった。
中には胎児の頭部の骨らしきものが入っている。
一階の社長室のドアが『バーン』と大きく開け放たれ、
『ゴー』と黒い風の塊が絵画と共に地下室へと向かってきた。
そして、地下室の床の魔法陣へ入り込んだ。

「真美、ありがとう。じゃあ、行くよ。昇霊印」
遼真の両てのひらを二人へ向けて、
人差し指と親指で象られた正三角形から二人に向かって放たれた。
二人の上空に大きな白い正三角形が現れる。
そして、二つの三角形が上下で重なり合い六芒星が出来上がる。
その六芒星が回り始めて二人を包む大きな白い円柱となる。
二人の身体から重なったもう一つの霊が離れていく。
遼真の口から言葉が紡ぎ出される。
「癒しの天使ラファエル様、
 この二つの哀れな魂のためにお力をお貸しください」
白い円柱の中から優しい白い光が漏れてくる。
癒しの天使ラファエルは、四大天使の一人として
旧約聖書のトビト記に記載されている天使であり、
『神が癒やしたもの』の意味の名を持っており、
『魂の旅の友』『守護天使の長』の役割も担っていると言われている。

円柱の光の中から杖と皮で出来た水袋を持つ手が現れて
自縛された涼子から離れた女性の魂へ『癒しの水』を掛けていく。
その女性は切り裂かれた子宮から血を流し、
憎しみの表情で血の涙を流していたが、
すぐに腹部からの血は止まりその傷は塞がれた。
ただ今度は悲しみの表情となっている。
「私の子供は、どこにいるの?」と叫んでいる。

大天使ラファエルに癒された魂の心の風景が遼真と真美に流れてくる。
時代は1492年、
女の名前は「ホクート」、
明るく心の優しい女性で街のみんなから好かれていた。
そんな彼女には働き者も婚約者がおり、
彼との子供を身籠っていて、幸せでいっぱいだった。
そんなホクートの笑顔を独り占めにしたくなった男がいた。
その男は神父の「イービル」。
その男は毎夜結婚が出来ない神父の己の身を呪い、
いつしか彼女への強い愛は、深い憎しみへと変わっていった。
そんな時、1486年に出版された魔女発見の本「魔女への鉄槌」により
その憎しみは、当時流行っていた魔女狩りや吸血鬼憑きの告発へと向けられた。
神父の彼は12人もの女性を魔女又は吸血鬼憑きとして告発した。
その告発は神の僕(しもべ)である神父からのため、
誰もそれに異論を唱えられずにとうとう13人目にホクートが告発された。
ホクートは監獄で無実を叫び続けたが全て黙殺された。
彼女への拷問で流された血液は、
神父が愛した女の自画像として絵具に混ぜて描かれた。
絵画のホクートは無表情で諦めた様な表情となった。
そして、ついには十字架に架けられ火を放たれ、
幸せの種だった腹の胎児は切り裂かれ炎の中へ捨てられた。
「私の愛しい子供をよくも殺したな。
 お前が私を吸血鬼と言うなら、私が本当に吸血鬼になってお前達を殺す」
と燃え盛る炎の中で血の涙を流しながら叫び死んでいった。

遼真はホクートのその悲しい一生を慈しむかの様に
瓶の蓋を開ける時、軽く揺れるだけで『コソコソ』と音を立てる胎児の頭部と思われる小さな骨をそっと手の平へ取り出した。
その手の平を白い柱の中で我が子を探し涙を流す母親の元へ届ける。
手の平に乗せられた小さい骨へラファエル様の癒しの水が掛けられると
小さな骨が瞬く間にお腹にいる胎児の姿となった。
胎児の皮膚は暖かく小さいながら力強い鼓動が伝わってくる。
やっと会えた我が子の姿に母親の顔が笑顔で溢れる。
小さな子供を愛おしそうに両手で持ち、自らのお腹へ持って行く。
そして笑顔の子供が母親のお腹へ戻っていく。
子供がお腹に戻った時、
大きなお腹の幸せそうな笑顔のホクートがそっと立ち上がり
遼真と真美へ『ありがとう』と伝え、光の柱に昇っていった。

自縛された士郎から離れた神父の魂は、
大天使ラファエルの光から少しでも遠ざかろうとしている。
光の中から杖が付き出されて、その魂は撃たれた。
大天使ラファエルの杖に撃たれた魂の風景が遼真と真美に流れてくる。
時代は1492年、
男の名前は「イービル」
年齢は20歳
幼い時から非常に抑制的な敬虔な家庭に育ち信仰心の強い神父だった
勉強熱心な彼は、神父になったその日から
昔から伝わる古文書を始めとして様々な本を読み込んだ。
ある時、教会の地下室の掃除を言いつけられた神父イービルは、
埃だらけの地下室で中の物を全て出して虫干ししていた。
全ての物が出された地下室は広かった。
隅から隅までキチンとホウキで掃き、濡れた雑巾で綺麗に拭いた。
壁の埃も拭いている時に、一つのレンガが外れて落ちた。
「あっ、しまった」
神父長に報告すると叱られると思い、そっと戻そうとすると奥に何かが入っている。
手を突っ込むと小さな白い瓶が挟まっていた。
とりあえず元に戻すにもなぜかレンガがキチンと嵌らないので
後で捨てようと仕方なしにポケットへ入れた。
しばらくポケットに入っている瓶の事は忘れていたが、
ある日、遥か昔の不思議な物語を読んでしまう。
それは伝説となった古代の魔法王ソロモン王の物語で
『悪魔とその軍団』を瓶に封印したというものだった。
そして王国の崩壊と共にその瓶の所在は不明になったと書かれていた。
イービルは何気なくポケットの底に眠っている瓶の事を思い出した。
夜中に主に祈り、そっと瓶を取り出した。
彼の心で葛藤が始まった。
「あの話は単なる物語だったのでは?」
「単なるソロモン王賛美の物語だったのでは?」
『そうそう、お前の考えが正しい、あの物語は嘘だ』
「この瓶の中にもしかしたら『悪魔とその軍団』が入っているのかな?」
「大事な瓶ならあんな場所に置かれている筈はないよね?」
『こんな小さな瓶がそんな偉大な瓶である筈がないだろう』
「あの物語はいつの時代の話だろうか
 今はもうじき1700年だ、まさかそんなことはないだろうな」
『それは昔の話だ、単なる子供の夢物語だ』
「何が入ってるのかな?少しなら開けても大丈夫かな?」
『どうせ単なるゴミしか入っていないだろ。
 少しなら大丈夫、すぐ締め直せば問題はない』
とうとうイービルはそっと紙の封印を切り瓶の蓋を回した。
瓶の蓋を全て取り去ったが、別に何も起こらなかった。
最初振った時、何かが入ってる音がしていたのに
不思議な事に瓶の中を覗いても何も入っていなかった。
「何だ、何も起こらないや。良かった」
『何が良かったんだ?イービルよ』
「だ、誰だ」
『お前が解き放った悪魔だよ』
「嘘だ、私は何も知らない」
『お前は神を信じているならあの話は信じるべきだった。
 この瓶の行方がわからなくなった時、神は我の存在を危惧をした。
 だからその物語をいつまでも残す様にしていた。
 それをお前はわかっていたがわからないふりをした。
 お前の心に声に我の声が混じっていたことをお前は気がつかなかった」
「この悪魔め、騙したのか。主よ、悪魔を退けて下さい」
『もう遅い、お前は神の庇護を自らの好奇心で捨てた。
 お前は我々悪魔の仲間となったのだ、諦めろ。
 その代わり、お前の望むものは全て叶えよう。
 お前が恋焦がれるホクートと言う娘をお前の物にしよう」
「えっ?ホクートを?本当にそんなことが出来るの?」
『ああ、お前が我の言う通りにすればそうなる。結婚もできるぞ』
「神父は結婚はできない筈だ」
『お前だけは特別だと教皇様も許してくれるさ」
「本当なのか?それならお前の言う事を聞く」
この時にイービルはとうとう堕天神父となった。
イービルはその言葉に流されるままに罪を重ねて行った。
悪魔の言葉のままにイービルの告発によって多くの女が無実の罪で殺されていった。
その後、ホクートを告発し拷問を始めたイービルに悪魔は囁き続ける。
「その女と永遠に居たいならその胎児の骨をその瓶に詰めて持っておけ。
 その女は愛する子供の事が気になってお前から離れる事はできない」
「その女を永遠に居たいなら、その女の身体を流れる血で絵を描くのだ。
 そうすれば女は永遠に美しいままお前の近くにいるぞ」
知らない間に、イービルの家の地下室の床へ
暗黒魔術『暗黒十二宮』の魔法陣が描かれており、
13人目のホクートの胎児が犠牲になって最初の魔法陣が完成した。
その夜に地獄の第九階層に幽閉されていた悪魔『モロク』がこの世へ呼び出された。
悪魔『モロク』は、その時からホクートと同じ『胎児の頭骨』を依り代とした。

大天使ラファエルの杖に撃たれた神父の魂は、
己の為した所業のあまりの罪深さに恐れ戦(おのの)いている。
彼が生きていた時、彼のために罪のない人間が数多くその人生を終わらせられた。
亡くなった人間に訪れる筈であった明るい未来は彼により閉ざされた。
悪魔に心を操られ、いや、甘美な悪の所業に心を奪われて生きた。
年を取り死んでもなお、この世に未練を残し絵に憑依し、
悪魔の力を借りてこの世に現れ多くの人間の命を奪ってきた。
その罪は『懺悔』程度ではとても清算できるものではなかった。
堕天神父イービルの魂は、
天界第三天、エデンの園の北側にある地獄の最深部第9階層へ落とされた。
その階層は氷漬けにされた魔王が幽閉されており、その足元へ送られた。