はっちゃんZのブログ小説

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14.潜入、そして藤原との戦い(第2章:いつまでも美しい女)

儀式の始まるのは夜中の3時からである事はわかっているので、
0時となり美真野邸の周りが寝静まってから潜入を開始した。
先ずは悪霊に感知されないように強力な目隠しの結界御札を身体へ張り付けた。
その時、なぜか須田さんは翔の胸ポケットに入る事を希望した。
理由を聞いても須田さんにもわからないようだった。
「ただ彼の傍にいるように心の声がありました」と答えている。
翔、遼真、真美の3人は、
バトルスーツ、バトルヘルメットなどで身を包み、
様々な備品の入ったリュックサックを背負った。
これで身体全体を包む結界が出来て悪霊の目から見ても何も映らない筈だった。
先ずは翔が慎重に黒く迷彩されたドローン型バトルソーサーに乗り、
空高く空中へ浮き上がり、
美真野邸の屋根の上まで移動した。
続いて遼真と真美も同様に移動した。
このドローン型バトルソーサーとは、館林一族の発明家、館林京一郎が作った丸いクッション型で下方へプロペラが付いた小型エアークラフト装置の事である。
警備員もまさか杉の木よりも高く潜入してくるとは思っていないようで、
警備室を見張ってる大型クモ型盗聴器クモパパ(麻酔針噴射装置付き)からの映像では彼らの態度に何も異常は感じられなかった。
事前にRyokoに計算させていた監視カメラの死角を突いた潜入経路に従って、警備室から見えない洋館の裏側へロープを伝って下りていく。
その足元には地下室への灯り取り窓が開いている。
翔が窓を起用にそっと外して中へ侵入していく。
そして、当初の予定通り
魔法陣や壁から離れた地下室の片隅へ『迷彩用スクリーン』で3人の待機場所を作った。
この『迷彩用スクリーン』は、表側に後ろにある風景が映しだされているため、
3人がスクリーンの後ろに隠れていれば人間の目には見えなかった。
そして結界の御札が貼ってあるため霊の目からも見えなかった。
儀式が始まる前に様々な準備を終えた。
これらは思ったより順調に進み、あとは儀式が始まるのを待つだけであった。

時間が来て地下室のドアの鍵を開ける音がした。
どうやら涼子社長と士郎副社長が入って来たようだ。
「姉さん、久しぶりの儀式だね」
「そうだね、少しずつ進んでいるみたいで嬉しいわ」
「この魔法陣が完成した時、どんな幸運が我々に訪れるのか・・・」
「きっと輝かしい未来だと思うわ」
「そう願いたいね」
士郎が左手に持ったアタッシュケース
魔法陣の6時方向に床から突き出ている広い石の台の上に置いた。
途端にアタッシュケースの中の物を感知したのか魔法陣から黒い瘴気が出始める。
「うん?・・・士郎、何か変だねえ。
 今日は魔法陣から出てくる霧の状態がいつもと違う気がする」
「そうかな?うーん、そういえばそうかもしれない」
涼子が空中を見つめて『フンフン』と匂いを嗅ぎ始めた。
「何か変な、いや、嫌な匂いがする。何だろうね」
「うーん、うっ、確かに臭い、嫌な匂いがする」
「この部屋に誰かいるんじゃないの?」
「この部屋に?おかしいな、誰もいないけど」
二人ともキョロキョロと部屋を見回している。
「何か部屋の隅から嫌な匂いが漂ってくる。
 この匂いは・・・教会で嗅ぐ神の匂いだわ・・・」
「神?」
「我々にとって禍《わざわい》の神さ」
「わかった。警備員へ連絡する」
すぐに警備員3名が地下室に入ってきたが、
部屋の雰囲気に変なモノが混じってるのを感じているのか少し腰が引けている。

翔が迷彩スクリーンから姿を現した。
遼真と真美もそれに続いた。
「お前達、そこまでだ。
 今までの会話も画像も撮れたからもう十分だ。
 お前を殺人罪で逮捕する」
「誰だ。警察がなぜこの地下室にいるのか」
「お前達の現場を抑えるためだよ」
「フンフン、こっちにいるのか?
 なぜか姿が見えない・・・
 ええい警備員、何をしている。
 こいつらを殺してしまえ」
「はい」
と3人の警備員が手に警棒を持ち向かってきた。
どうやら警備員は悪霊に憑依されていない普通の人だとわかった。
「翔兄さん、警備員は普通の人ですからそのつもりで」
「わかった。普通の人間だったら俺だな」
翔は一番前で迎え撃った。
翔は一番前の警備員が肩へ袈裟に降ろして来た警棒をギリギリに避けて、
泳いだ態勢となった警備員の顎へ強烈なアッパーカットを放った。
『バキッ』
「うっ」
と後ろへ吹き飛ばされ意識を失った。
翔の態勢が整わないうちに、
左側から翔の頭部へ警備員が鋭い回し蹴りを放ってきた。
翔はその回し蹴りを左手で受け、掴み、動けなくして
水月へ龍拳をめり込むくらい深く突き入れた。
それらが一瞬で行われたため、3人目はもう地下室から逃げだした。
新しい仲間を呼ばれても邪魔くさいので翔が追いかけて行き、後頭部へ掌底を入れて昏睡させた。

ふと見上げると地下室のドアの前で庭師藤原が待っている。
藤原は日焼けした角刈りの顔を醜悪に歪めている。
「翔兄さん、藤原は悪魔そのものだからそのつもりで。
 でも憑依はされないから安心してくださいね」
「わかった。悪魔は初めてだけど頑張るよ」
「お前、誰だ」
「藤原、そいつを殺して」
「わかりました。お任せ下さい」
「臭い、お前の身体からアイツの匂いがする」
「アイツ?
 誰のことだ?
 これでも毎日お風呂に入ってるけどねえ」
「アイツと言えば、神に決まってるだろ。
 昔の天使共との戦いで多くの天使を葬ったこのワシを地獄へ落とした奴だ」
「神?お前の言ってる事は何を言ってるのかわからない。
 世迷言は警察で言って貰おうか」
「警察?
 わしを人間風情が?
 面白い、やれるものならやってみろ」
「わかった」
翔は体内で気を練るとテレポーテーションで
一瞬に藤原の背中へ跳ぶとその無防備な後頭部へ手刀を打ち込んだ。
普通は人間ならばこれで意識を無くすはずだった。
藤原は首を回してコキコキ言わせながら
「おう?
 今の攻撃は普通ではないな、わしの様な悪魔にも少しは効くなあ。
 へえ、人間なのに神の使いみたいな面白い事をするんだな。
 この世でこの身体に触れた人間はお前が初めてだよ。褒めてやろう」
翔は正面を無防備に向けた藤原の眉間、人中、喉、水月、心臓、股間の急所へ
気を込めて瞬時に拳を打ち込んだ。
『僕・・・聞いて・・・』
「ふふふ、まあまあ効くが、それだけか?
 まあ、人間にしては良く頑張ったな。じゃあ始めよう」
藤原は大股でゆっくりと近づいて来ると軽く翔へ拳を振った。
翔は一番固い十字受けで構えたが、
その効果も無く身体毎強烈に玄関へ叩きつけられた。
玄関の扉は壊れ開け放たれた。
『僕の・・・聞いて・・・』
驚いた警備員達が向かって来ていたが藤原が
「お前達は邪魔になるからあの小箱にじっとしておけ」
と言われると、警備員達は最敬礼し戻って行った。
藤原はゆっくりと近づいて来る。
信じられない力だった。
以前、熊人間と戦った事はあるがこれほどの力は無かった。
バトルスーツは衝撃を緩衝する構造になっているから
身体への衝撃はこの程度に弱められているが
これ以上の衝撃の場合には、生身へ伝わる衝撃は相当に危険だった。

ここでバトルスーツに関しての解説だが、
色は黒色で、構造としては、戦闘時、身体の前面にある急所及び脊髄保護のためのプレートが入っており、首筋・肩・肘・膝部分も同様。そしてプレート内側には衝撃吸収素材が貼られていて身体にショックは感じなくなっている。
素材は布部には超高分子量ポリエチレン繊維、プレート部には超高分子量ポリエチレン繊維へ炭窒化チタンを吹きつけ編みこまれている。機能としては、軽くて防弾・防刃・防衝撃機能を持つが、繊維は高熱には弱いので注意が必要だった。
次にバトルヘルメットに関しての解説だが、
色は黒色で、素材は、セラミック表面に炭窒化チタンを吹きつけ、より硬度の増したもので、ゴーグル部分は超高質ガラス製、戦闘時には鼻・口・顎部分は張り出してきたプレートで防御される。
機能としては、ゴーグル内面へデータが送信され、目で確認が可能であり、また視覚データの調査も可能。
ヘルメット内部には酸素カプセル・通信装置があり、毒ガス・水中でも呼吸は可能となる。
その他、首部分への衝撃を吸収するためボタン一つでヘルメット下部とスーツは柔軟素材で繋げている。
バトルグローブとバトルブーツにも様々な機能は付加されているがそれは違う物語で解説します。

遼真から翔へバトルヘルメット内のマイクへ連絡があった。
「翔兄さん、大丈夫ですか?
 藤原には悪魔が憑依していますから普通の攻撃では効きません。
 この前のクモ魔神の様に気を込めて戦って下さい。
 それにもしかしたら藤原の肉体は死体なのかもしれません。
 今、須田さんが必死で翔兄さんへ話しかけています。
 左胸にある彼の人型が光っていますからそれに触れて下さい。
 須田さんはキリスト教徒ですから神の御加護を頂けます。
 兄さんに渡した胸のペンダントへ手を当て『主よ、私に力を』と唱えて下さい。
 それによって、ペンダントに封じられた聖戦士の鎧が出現します。
 兄さんの鎧は『ファイタータイプ』ですからいつもの戦いでどうぞ」
「わかった。いよいよの場合には使わせて貰うよ」
翔は、桐生一族の格闘技『鬼手』の内の一つで
一番危険な技の鬼喰(おにぐらい)を使う事にした。
この技は、両手を合わせて両貫手で腹部の皮膚を突き破り、そこから指先に内臓などを引っかけて、内部構造を引き|千切《ちぎ》る技で、その部分は鬼にかじられたように大きな破れた穴が開いて出血多量で死ぬことになる。
翔は、気を練るとすばやく藤原の真正面に四股立ちになると鬼喰を放った。
「おりゃあ」
『ズブッ』
翔の合わせられた両貫手が藤原の腹部に手首まで潜り込んだ。
そして内臓を握り込み、両手を外へ広げる様に抜き、すばやく身を引いた。
藤原の腹部は、内部が見える程、大穴が開いて内臓が垂れ下がっている。
「ウオッ、グッ、すごい一撃だったな。
 さすがにこの肉体はもう駄目だな。
 しかし人間の肉体は弱いな。
 今度は別のもっと強い肉体を用意しないといけないなあ。
 こいつの肉体はあの方に用意して頂いた物だから大事にしてたのだがなあ。
 この身体は殺人犯の元死刑囚で死刑になった翌日に入手した肉体で
 まだ人間をたくさん殺した記憶もあって具合の良い肉体だった。
 特に子供も殺していたからなあ。わしには最高の肉体だった。
 仕方ないからお前を殺してその強い肉体を貰うとするか。
 お前なら天使でさえも殺せそうだ。お前を殺す」
翔は内臓を垂らしながらでも死なない藤原を見て、
左胸の須田さんの人型へ右手を当て、
左手を胸のペンダントへ当て、『主よ、私に力を』と唱えた。
とたんに翔の身体が光に包まれて、光の聖騎士の鎧が現れた。
『ファイタータイプ』のため、身体の要所のみを防ぐだけだが
聖戦士の装備がバトルハンドやバトルブーツに装着され、
戦闘力や身体能力も含めて数段良くなった様に感じた。