はっちゃんZのブログ小説

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17.真の敵との戦い2(第2章:いつまでも美しい女)

真美達に地縛されていた涼子と士郎は、
ふらりと立ち上がり、
その自縛陣の力を振り切り外へ出てきた。
「キャア」

「キャーン・・・」
真美とカイン、キイン、クインは、
陣を破ったその衝撃で後ろへ吹き飛ばされた。
床で倒れていた警備員は醜悪な顔つきとなり、
手足を縛ったロープを軽く振り切りながら立ち上がった。
どうやら彼らにベリアル軍団の悪魔が憑依したようだ。
「真美、渡したペンダントに『神よ、私に力を』と祈りなさい」
「はい、遼真様、『神よ、私に力を』」
真美の頭の上に大天使ラファエルの持つ皮の水袋が傾けられた。
真美のバトルスーツが白く輝き『聖女の鎧』が出現し、
その手には金色の薙刀なぎなた)が握られていた。
真美のそばに控えるカイン、キイン、クインにも鎧が出現した。
遼真達三人と三匹へ憑依された五人が殺到する。
三人の警備員は翔へ
社長の涼子は、真美へ、
副社長の士郎は、遼真へ向かってきた。

翔へ向かってきた憑依された警備員と右手に新しく出現した剣で戦った。
モロクよりも力も弱い雑魚だったため、
たちまち警備員はその霊体を切られ、古い魔法陣へと戻っていった。
何度倒しても警備員へ新しい悪魔が憑依しては向かってくる。
しかし、大天使ラファエルの癒しの御加護を受けたため
無尽蔵の体力が湧いてきている翔はそのたびに敵を倒した。
とうとう待っているのが面倒になって、
倒れている警備員の身体を古い魔法陣に投げ込んで、
悪魔が憑依してその場で立ち上がってはすぐに倒すを続けた。
多くの悪魔達を軍団で持っていると言っても無限ではないし、
それに翔があまりに強いため、悪魔達も徐々に腰が引けて出て来なくなった。
魔法陣の真ん中からまだ頭が出てきたが、上から突き刺すと沈んでいった。
それ以降、警備員の身体はずっと倒れたままで、
悪魔軍団ももう憑依して戦うのを嫌がり始めたようだった。

真美に向かって来た涼子の姿は、
人間の身体に人間と牡牛と牡羊の顔を持つ悪魔に変わった。
よく見ると足には水かきがあり、
蛇の尻尾を持っていて、
その手には槍が握られている。
「我が名はアスモデウス
 少し前にベリアルに呼ばれて来たが、この女の魂は心地良かったぞ。
 並外れた色好みの上に己の美しさのためならば人をも殺す、
 その貪欲さは悪魔の我でさえも驚いたものよ。
 こんな淫乱で欲望に汚れた魂は地獄の亡者にもそう居なかったぞ。
 この女を知って、この世も捨てたものではないとわかったぞ。
 若い女よ、お前のその身を我の前で横たえよ。
 さすれば、今まで味わった事も無い快感を永遠に与えよう」
真美は、返答をせずに
常にアスモデウスを正面に置きながら薙刀を中段に構えた。
相手の動きを待って、攻撃する『後の先』であった。
アスモデウスは、ヒョイと槍を突いた。
まるで避けられる事は考えていないような素直な真っ直ぐな突きだった。
真美はその突きの線状より身体を躱しながら、
突き出された槍を薙刀の柄で弾き、くるりと回すと
向かって右側にある牡牛の顔へ石突を突き入れた。
「うおっ?やるねえ。そんな見た事も無い刀が強いのか?
 我の攻撃を躱した人間はお前が初めてだよ」
その時、カイン、キイン、クインがアスモデウスを囲み、
真空の刃、炎、電撃を放った。
「うわっ、なんだこの小さいケモノは、邪魔しやがる」
その瞬間、
テレポーテーションでアスモデウスの後ろへ跳んだ翔は、
破邪の剣で槍を持った右腕を根元から切り落とした。
「ぐっ、なぜ人間風情が我の後ろを取れるのか?」
と驚いて後ろを向いた時、
真美がすばやく近寄り左脛を切り落とし足首を切り飛ばした。
「ぎゃあ、なぜ人間ごときが悪魔の身体を切れるのだ」
翔はすぐさま流れる様に刃を揮い、
片膝を付いたアスモデウスの三つの頭を切り飛ばした。
首のない身体は紫緑色の血液を撒き散らしながら倒れて行った。
「女の子に首とか刎ねさせられないから、僕がしたよ」
「翔様、ありがとうございます。助かりました。
 その三つの首をここに置いて下さい」
翔は、その三つの首を剣で串刺しにすると、封印用の魔法陣の6時へ置いた。

ここで悪魔アスモデウスについてであるが、
元が激怒と情欲の魔神として生まれ、色欲、復讐、嫉妬、激怒、破壊などを司る悪魔である。特に並外れた『色欲』は有名で、乙女の純潔を汚したり、淫乱にしたり、美を奪う。その上、夫へ浮気を|唆《そそのか》したりと夫婦の仲を裂くと言われている。姿形は牛・人・羊の頭とガチョウの足、毒蛇の尻尾を持ち、手には軍旗と槍を持って地獄の竜に跨り、口から火を噴くという。 

遼真にゆっくりと歩いてきた士郎は、
背中に漆黒の翼を2枚広げた燕尾服を着た紳士の姿となりその手には分厚い本を持っていた。
ベリアルは相手と問答し、問答に負けた相手の魂をその本へ閉じ込める事ができた。
「ベリアルさん、もう十分に長い間、人間を痛めつけてご満足でしょう。
 素直に昔の様にあなたが入っていたこの瓶に戻って頂くか、
 地獄の最深部へ堕とされるかどちらかをお選び下さい」
「ふん、どちらも嫌だと言ったらどうする」
「ならばラファエル様のお力で地獄へお送り頂くだけです」
「それができるのかな?
 大体、神が地獄を支配しているとか決めつけているが誰が言ったのか?
 地獄は我々悪魔が統括している場所であって神は関係ないはずだ」
「地獄の底であっても光は届いていなくて真っ暗なのですか?」
「いや少しは明るいが・・・」
「それならば神の光が届いていますよね?
  量が少ないだけですよね?」
「そうだが、それが神の支配とどう関係するのか?」
「まず、天界の第3天界の北側に地獄の入り口があって、
 そこから地球の真ん中と思えるくらい深い場所に第9階層があるのですよね?」
「うむ、そうだ」
「あなたがおっしゃるように地獄があなた達悪魔の管轄と言うなら、
 なぜ天界の中に地獄があるのですか?
 あなた達悪魔が別の所に地獄を作ればいいと思いますが」
「それは神が作ったから仕方ないのじゃ」
「だったら地獄を作った神様が支配して当たり前ではないですか?」
「うむむ」
「神様はあなた達でさえも酷く罰を与えはしないですよね?」
「いや、そんなことはない。地獄は酷い所なのだ」
「それにあなた達悪魔は地獄へ入れられるだけで消滅しないですよね?
 それって神様の心がすごく優しいのだと思いませんか?
 あなた達は元はと言えば
 神様に天地創造の第一日目に作られた天使と言う存在でしたね?」
「そうだ、我々は神様に最も近い存在だったのじゃ」
「それをあなた達は、神様が自らの姿に似せて人間を作り
 その人間を尊敬するように言われたものだから、
 人間と言う存在に焼き餅を焼いて、
 アダムとイブに罪悪だった知恵の実を食べさせたり、
 神様からしてはいけないと言われていたのに
 とうとう人間の娘と結婚して子供を作ったりしましたよね?」
「うむむ、お前、詳しいな。この極東のちっぽけな島国の人間の癖に」
「我々一族はあらゆる神様とのコンタクトを持っています。
 従ってあなた方の伝承も詳しく知っています。
 あなた方のトップのルシフェルが地獄の最深部まで堕とされたのも
 天使としての神様から言いつけられたお仕事をしない上に
 神様に取って代わろうとして戦って負けたのですよね?
 それでも神様はあなた達悪魔を消滅させませんでしたよね?」
ルシフェル様は、6枚の翼を持つ美しい天使で力も本当に強く
 神様に一番近い天使と言われたものじゃ。それはそれは美しかった」
「だから自分で神様に取って代わろうとしたのですか?
 だけど神様は人間のために尽くせと言われたから許せなかったんでしょ?」
「人間なんぞ裏切りと殺し合いばかりで醜い生き物なのに
 なぜ天使の我々が人間のために尽くさなければならないのかと思ったのじゃ」
「あなたはそう言って、多くの無垢な天使を騙して堕天させたのですよね?」
「いや、彼らを騙したのではなく、本当の事を囁いただけだ」
「それは嘘ですよね?」
「何が嘘なのだ?」
「『人間なんぞ裏切りと殺し合いばかり』という所です」
「いや全ての人間がそうだった」
「いやそうじゃない。あなたがホクートに憑依できたのはなぜですか?」
「うっ?な、何を言いたいのだ?」
「裏切りと殺し合いばかりと言うならあの女性にあなたは憑依出来なかった筈です。
 あの女性はお腹の子供と一緒に居たかった、あなたはそれを利用したのですよね?」
「いや、あの女はこの神父を憎みそして呪いながら悪霊として残ったのだ」
「違います。この世に残った理由は、母親の子供を思う心で無償の愛ですよね?
 その美しい無償の愛があったからこそあの女性は自分だけで天国へ行けなかった。
 行けたのに行けなかったのは子供を愛する心があったから、
 だからずっとこの世に残った。
 あなたはその女性の愛の深さをわかってそれを利用した。
 ソロモン王の瓶なら霊では蓋を開ける事も出来ない事を知って
 あの女性の胎児の頭骨を入れましたよね?
 あなたは人間は裏切りと殺し合いばかりだけではなく、
 自らの苦しみも厭わない無償の愛がある事も知っていましたよね?」
「う、う、・・・」
「地獄の底でもあなた達を生かし続けることは、
 自らの心に宿る無償の愛に気がついて欲しい。
 いつか天へ戻って来てくれると信じている神様の愛ではないのでしょうか」
その瞬間、ベリアルの姿はベリアルの左手に持つ分厚い法律の本へ吸い込まれ、
『バタン』と本が床に落ちた。

大天使ラファエルが
その杖を揮い悪魔達が湧き出て来ていた魔法陣を撃つと粉々に飛び散った。
そしてその後には黒い石が残った。
遼真はその石を持つと封印用の魔法陣の9時に置き、
ベリアルが閉じ込められた分厚い本を0時に置いた。
そして、魔法陣の真ん中へソロモン王の瓶が置かれた。
大天使ラファエルの手から白く柔らかい光が魔法陣へ注がれる。
魔法陣に置かれていた
ベリアルの本、モロク、アスモデウス、黒い石は
白い光に包まれて、
『魔法王ソロモン王の瓶』の中へ吸い込まれて封印された。
更に瓶全体が金色に輝き、
その光が収束し蓋と瓶に掛かる封印紙となり
その表面には金色のヘキサグラムが描かれた。
遼真はこの瓶を魔除けの砂の入った大きな壺の中へ入れて
厳重に封印の御札を貼りリュックサックへ入れた。
今度は簡単に封印が解けない様に、
桐生一族がある場所で永遠に人の目には触れさせない様に封印することとした。

悪魔を封印した後の地下室には生身の涼子と士郎が倒れている。
涼子は悪魔の加護から離れたせいかどうかはわからないが、
顔がシワシワになりとても65歳と思えないシミの浮いた老人となっている。
遼真は宮尾警部と都倉警部と小橋刑事を携帯で呼んで正門から入って来て貰った。
警備員も警察だと言われると何も言わずに正門を通過させた。
もちろん彼らも後に来た警察官に事情聴取のため連行されている。
宮尾警部は、アタッシュケースに入っている物を鑑識へ回し、
遺伝子も含めて精密な科学捜査を依頼した。
芝生の上で倒れている藤原の肉体は、
憑依していたモロクが出たためなのか
肉体を維持しておらず既に骨が出るくらいドロドロに腐敗していた。
涼子と士郎は殺人犯として逮捕され、看護師だった風間麗美麗奈親子も逮捕された。
この事件で、
世界的な闇の人身売買及び臓器売買ネットワークの一つが、
日本にもあった事が明らかになり、
以前翔が潰した倉持組のルート以外でもう一つのルートは潰された。

警察の聴取で涼子は,
三十年前の十三人への殺人(これは藤原が行ったと判明、時効25年経過)から
数年前の六人の殺人と子供達の組織への送り込みなど全ての犯罪を告白した。
藤原に関しては、
身元も明確でない上に瞬く間に腐敗した肉体と言い、鑑識結果から見ても、
その肉体からは過去に死刑囚で死んだ筈の人間の遺伝子が出ており、
まさか藤原はゾンビでしたとか裁判で発言できないし、
そうなった理由もわからないままなので被疑者自殺による死亡とした。
実際に裁判でそれを言及しても誰も信じないしその証明が出来なかった。
翌朝、再聴取のため留置場を訪れた刑事は置場では死んでいる涼子を発見した。
鑑識の結果は、
理由は不明だが全身的に急激な老化が始まった老衰死と結論付けられた。
士郎と風間親子は、被害者から多量の血液を抜いているが殺していないため殺人未遂罪で立件された。
この事件は世界中を騒がせ、世界中でも不買運動が起こり、
クレオパトラ美容グループ美真野財閥は倒産解体の危機に陥るが、
事件には『涼子と士郎と風間親子のみ』が関係していた事が明確だったため、
現在副社長である涼子社長の実の娘の美真野聖子が若き社長となり、
養護施設の子供達も今迄のまま大きくなるまで育て、
今後も全国の擁護施設への寄付をより多くする事、
育った子供達は将来グループで社員として働かせる事として再出発を図った。
それでもクレオパトラ美容グループは、それ以降長い間世間の非難に晒されたが、
社名を『アプロディーテ美容グループ』と変更し新しい会社として
桐生グループが資金注入や重役の送り込みなどをして、今後同じような事件が起こらない様に桐生グループの傘下となり再出発する事となる。