はっちゃんZのブログ小説

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10.姉弟との戦い1(第1章:記憶喪失の男)

佐々木と佐智ちゃんの魂を
無事霊界へ送ることができてホッとした3人だった。
その時、
『ピンポーン』
と誰かの訪問があった。
遼真がドアアイから覗くと宮尾警部と小橋刑事だった。
急いで二人を招き入れて、今除霊中であることを伝える。
驚いた宮尾警部は
「邪魔しないから入れさせて貰っていいかね?
 君たちに少し相談したいことがあるんだ」
小橋刑事は
「除霊中って・・・。ここに居るの?」
「ええ、佐々木さんはやっと成仏させることが出来ましたが、
 まだ|性質《たち》の悪いのが残っています。
 そうそう宮尾警部はこの二人はご存じですよね?」
遼真はこの部屋に居る生霊の二人の似顔絵と写真を見せた。
「こいつらは・・・確か後藤姉弟だな?
 あの時は容疑者にはなったが二人にアリバイがあったし
 証拠品も一切見つからなかったから容疑者から外れたんだ」
「実は、304号室にはこの二人が事件後に引っ越してきています」
「304号と言うとあの時に君達を見張っていた奴の部屋だな?」
「そうです。その前に佐々木さんの記憶情報をお伝えします」
「記憶情報?何のことだ?」
「ええ、佐々木さんは記憶喪失になったまま亡くなり
 それからこの部屋でずっと彷徨っていたのです。
 それをこの子、夢花が、佐々木さんの記憶を元に戻したんです。
 おかげでお金の場所もわかりました。
 なぜこの二人が生霊を飛ばすのかも、場所もお二人にお教えします。」
「中学生?・・・だよね?・・・
 こんな小さな可愛い子が幽霊の記憶を???」
「小橋、お前は考えることは苦手なんだから
 そんな事をわざわざ考えなくていい。
 我々はお金が戻り、事件の真相が明らかにさえなればいいんだ」
遼真は304号室の住人の盗聴情報を交えながら事件の真相を話した。
宮尾警部は、後藤姉弟の殺人への立件を考えた。
しかし事件の証拠になりえないため、他の証拠が必要だった。
盗聴情報では、
警察が自分達を見張っている事は勘付いている。
被害者の佐々木の指紋や皮膚片のついている可能性のあるスタンガンと
事件当時使用された催涙ガスの缶は、
まだ部屋の中に置いてあり廃棄するタイミングを考えている。

生霊は本人が無意識に出現させているため、
生霊へ知識を与えれば夢となって本人にも伝わる筈だった。
生霊はそのままにして警部と一芝居を打つことにした。
夜になり生霊が来ているのを確認してから
遼真は宮尾警部と小橋刑事に強盗事件のお金の隠し場所を教えた。
それは100万円の束毎に
リビングルームのフローリング加工された床下に敷き詰めてあり、
ガスレンジの下の道具入れの奥に小さな取っ手が取り付けてあって
それを引かないと床が開かないように細工されていた。
それを見て生霊は最初驚いていたが喜んでお金の上で踊り狂った。
宮尾警部や小橋刑事には見えないのだが、彼らの目の前で喜んでいる。
「こんなところに隠してたのか・・・これはわからないや。
 上の奴らも知らなくて悔しい思いをしてるんだろうな」
「いや、今知らせたので喜んでいますよ」
「喜んでる?」
「ええ、そのお金の上で踊り狂っていますよ」
「お金の上って・・・・ここの?」
「はい、小橋刑事の目の前です」
「目の前・・・何もわからない・・・でもなにか嫌な気配はわかる」
「さすがに鈍感な小橋でも少しはわかるんだな。
 わしはここに来てからずっと寒気がしてるぞ」
「それで上着を脱がなかったのですね。
 暑がりの宮さんが珍しいなと思っていました」
「これで彼らには夢で伝わる筈です。ただもう一押しが必要ですが」

新しい住人に変装して、
彼らにわかるように隠されたお金の話をして誘き寄せる事にした。
新しい住人は変装した遼真と真美と宮尾警部で親子の設定だった。
小橋刑事は、すぐに顔に出るので詳細は話さないで、
危険物廃棄業者として軽トラでこの付近を回らせることとした。
仮に客が来た時は、小橋刑事にはわからないようにビデオが回っている。
実際には一般家庭でも、古い灯油とかガソリンや化学物質など保管されている可能性もあるため、これらを回収する事は警察としても市民安全保護活動の一環として十分な理由だった。
京一郎の変装用具は、実際にハリウッドでも使用されている物なので、変装しているとは感じないほど精巧だった。

翌日朝から小橋刑事が「危険物引き取り業者」として
ゆっくりと軽トラで放送しながらこのマンション近辺を回り始めた。
それから2、3日してから残りのメンバーは
簡単な引越をして左右上下に挨拶周りをした。
304号室からは、夕方のせいかベルを鳴らしたらすぐに姉の方が出てきた。
お父さん役の宮尾警部が引越祝いを渡しながら
「こんにちわ、今度、下の204号室に入る者ですが、
 リビングの床が何か入ってるみたいでモコモコして変なため、
 明日午後から業者を入れて直させる予定です。
 作業の音が煩いかもわかりませんがごめんなさいね。
 とりあえず先にお話をと思いまして」
「はい、床が? 
 そ、そんなことがあるのですね。
 今夜から生活するならご不便ですね」
「いやあ、家族で近くのホテルに泊まりますので明後日まで部屋には入りません」
「そうですか・・・こんなにご丁寧にありがとうございます」
「ではよろしくお願いします」

3人は急いで車へ戻ると、
『|天丸《てんまる》1号』からの画像と音声を確認した。
「ねえ、萌斗男、204号室に新しい家族が入るみたいよ」
「ふーん、そうなのか。
 内装業者を入れるとか何とか聞こえたけど」
「それが、今朝見た夢と同じなのよ」
「ああ、リビングの床にお金が隠してあったという夢を見たって言ってたよな」
「やはりあの床にお金が隠されてるのよ。モコモコして変だって言ってたもん」
「そう言えばそうかもしれん。あの時は気づかなかったけど・・・
 それはそうと、最近変わった業者がこの付近を回ってるの知ってる?」
「何?」
「危険物引き取り業者って言ってたけど、
 ちょっと聞いてみたんだけどさあ、
 とりあえず住所と氏名は書いてもらうとは言ってたけど
 免許証とか無いならないで結構とか言ってた。
 きっと嘘でもわからないし、
 あの業者、始めたばかりであまり知らないみたいだし楽勝だな。
 家庭にある古いガソリンとか化学薬品とか機械とか
 色々と危険なものを受け取って廃棄してくれるらしい」
「それって、ちょうどいいんじゃない?」
「そうだな。業者なら何も知らないし処理もしてくれるからね」
「良かったじゃん。昨日の夢といい、
 もしかして私達、ついてきたんじゃない?」
「そうだね。あの証拠物をどうしようかと思ってたところだったからなあ」
「明後日の工事でお金が見つかったら大変だから今晩に入ろうよ」
「そうだな。後には新聞紙でも詰めておけばいいだろ」
「そうね。今日は仕事休むわ。お前も休んだら?」
「もちろんさ、もう仕事に行ってる場合じゃない。
 姉貴、あの大金が手に入ったら外国で贅沢三昧で暮らそうぜ」
「そうね。もうこんな生活は嫌。日本なんて大嫌い」

遼真と真美と宮尾警部は車で待機しながら
『|天丸《てんまる》1号』からの情報を確認していく。
今晩の計画としては
どうやら深夜になって
弟がベランダから伝って下りて
窓ガラスを割って部屋内へ入り玄関の鍵を開ける。
玄関前で待つ工具箱やボストンバッグを持った姉を部屋へ入れて
すぐにリビングルームのお金を強奪するつもりらしい。
宮尾警部は
「現場に君達一般人が居るのは警察として歓迎しないんだ。
 どんな事になるかわからないから二人とも車に居ないか?
 もし君達が怪我などしたら警察としての責任が取れない」
「警部、大丈夫です。僕も真美も護身術がありますから」
「護身術って言っても・・・まだ子供だしなあ。
 特に女の子の真美ちゃんが心配だ」
「実は真美は合気道の有段者なんです。僕もかなわないんですがね」
「そうなのか?ふーん。こんな可愛い顔して・・・ふーん、怖いな」
「警部、私は怖くないですよ。悪い人には怖いかもしれませんが」
「警部、それよりも
 もし生霊が人間へ憑依した時には
 思いもかけない力が出るものなのです。
 火事場の馬鹿力ではないですが、普通じゃない力を出します。
 普通、人間の身体は脳が無意識にリミッターを掛けていますから
 それほど力は出ませんが、
 彼らにはそれがありませんから、
 骨が折れる限界、筋肉が引き千切れる限界を超えてまで動き続けます。
 それで動けなくなれば新しい身体に憑依すればいいだけなんです。
 だからこそ憑依されない様に、
 もし仮に憑依しても剥がせる様にしないといけないから
 僕と真美が居ないといけないのです。
 それにあの生霊を成仏させないと我々の仕事は終わらないのです」
「そんなものなのか・・・生霊って怖いな・・・わかった。
 でも危ないと思ったらすぐに逃げてくれよ。頼むよ。
 わしにも君らと変わらない子供がいるから心配なんだ」
「へえ、警部のお子さんは、おいくつなんですか?」
「一人は息子で大学生1年生、一人は娘で高校生1年生だ」
「僕達とよく似てますね。ご心配して頂いてありがとうございます。
 でも僕達はこういう事は慣れていますから心配しないで下さい」
「わかった。とりあえずは納得するよ」
小橋刑事はその話を不思議そうに聞いている。
夜中になるまで姉弟は部屋で慌ただしく準備している。
二人は高飛びのためにスーツケースに色々と詰めている。
無事、明日夜に海外へ着いたら廃品業者へ部屋掃除を依頼するつもりらしく
弟はそういう関係の業者のリストアップをしている。

いよいよ弟がベランダから入る時間が近づいてくる。
駐車場で遼真と真美は、
宮尾警部と小橋刑事の背中へ呪文を唱えながら呪符を貼った。
するとその符はノリも貼っていないのに身体に吸い付いて離れなくなった。
「これって何の御札?」
「ああ、これは生霊に憑依されないようにする符です」
「ひょうい?」
「ええ、生霊に乗り移られない様にするためのものです」
「俺に乗りうつるの?・・・」
「ええ、小橋刑事みたいな方に憑依されると戦うのが大変ですから」
「まさか、俺は敵にはならないよ」
「いえ、憑依されると本人の意識は無くなりますから」
「そ、そうなの?・・・怖いなあ」
「だからこの符を貼っています。
 絶対大丈夫ですから心配しないで下さい」
「小橋刑事は、この場所から見張っていて下さい。
 もし弟がベランダから飛び降りて逃げた時は捕まえて下さい。
 仮に部屋の中へ生霊を閉じ込めることが出来たら
 彼らは単なる人間ですから簡単に捕まえられるます。
 警部、我々はそっと部屋の奥に待機していましょう」
遼真は呪文を唱えながら玄関の鍵を開けて靴を持って、
リビングルームの隣の部屋へ入った。
そして、部屋の一角に注連縄を張り呪文を唱えた。
普通の人が見ればその一角は何も無いかの様に注連縄が消えている。
「警部、これで音以外は誰からも見えなくなっています。
 一種の結界ですからここで彼らが来るのを待ちましょう。
 真美、いつもの準備をしようか」
「はい、わかりました」
真美はすぐに浴室へと入り水垢離を始め、白足袋、白衣、赤袴で、
入れ替わりに、遼真が水垢離し、白足袋、白衣、黒袴の出で立ちで現れた。
遼真は、日本刀を帯に挟み、弓を手に持ち、矢の入った矢立てを背中へ回した。
真美は、小太刀を帯に挟み、手袋をし胸の前の皮のホルダーへ鋲を差し込んでいる。
宮尾警部その二人の姿を驚いた様に見つめている。
ベランダ側のサッシの一つの鍵は事前に開けている。