はっちゃんZのブログ小説

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

7.捜査2 現場と竜神様(第2章:いつまでも美しい女)

須田が献血で何度も通った古いビルへ向かう。
既にその古いビルは建て替えられており、
後に『クレオパトラ美容クリニック』が建っている。
調べると土地の持ち主はもう亡くなっており、
その土地はクレオパトラグループの物となっている。
登記上からは、古いビルに関しての情報は全く無かった。
ただ近くの商店街で通路で椅子に座っている親父さんは少し覚えていて
「古いビルの奥にいつの間にか献血する場所が出来ていて、
 献血した時のお土産が良かったせいか若い奴とか浮浪者とかは
 結構毎日の様に人が入っていってたなあ」
「そのビルを出入りしていた医者や看護師のことは覚えてますか?」
「看護師なのかどうかは知らないけど綺麗な姉さんは入ってたね。
「名前は何て言ったかなあ・・・名は体を現わすみたいだったね。
 その・・・綺麗でスラリとして・・・
 若い奴が『レイちゃん』か『レミちゃん』とか言ってたかな?
 うーん・・・そうだ、風間麗美(かざまれみ)さんだ。
 昔人気の女子プロレスラーみたいな名前だなと思ったんだ。
 俺も実は何度か献血してそのお姉ちゃんに手を握って貰ったんだ。
 それだけでドキドキして血圧が上がったもんだよ」
「風間麗美(かざまれみ)さんですね?
 ありがとうございます。
 他にお医者さんとかで何か覚えている事はないですか?」
「お医者さん?
 うーん、看護師さんなら可愛かったから覚えてるけど、
 男はねえ・・・
 そうだ白衣を来た男だったら一回だけ見た事があるよ。
 確か顎鬚があった様に思います。
 『何か衛生的じゃねえな』と思ったので覚えています」
「顎鬚ね?
 もしかしてこんな人でした?」
「そう髭はこんな感じかな?
 だけど、顔つきとかは全く覚えねえな」
「ありがとうございました。
 もし他に何か思い出すことがあったら私に連絡下さいね」
と宮尾警部は名刺を渡した。

しばらくすると真美から遼真へ連絡があった。
「警部に小橋刑事、真美からですが、
 この近くの荒川が見える公園があるそうで
 そこでお昼ご飯を食べませんか?と言っていますがどうですか?」
「いやあ、そんなにお世話になっては・・・」
「ちょうど僕もお腹が空いているし一緒に食べて下さいよ。
 真美も荒川を見ながらお昼ご飯を食べたいみたいです」
「宮さん、まあご相伴を預かりましょうよ」
「うん、まあな。じゃあ、お言葉に甘えて」
公園へ行くと、
真美はもう既に運転手の権禰宜の|智朗《ともろう》さんと来ており
大きなビニールシートを広げて待っていた。
河川敷を心地良い風が吹き渡っている。
「いらっしゃいませ。今回は『メハリシリーズ』にしました。
 たくさんあるので安心して召し上がって下さい」
真美が重箱を開けると、
普通よりも大きい、赤ちゃんの顔ほどの大きさのおにぎりが並んでいる。
野沢菜に巻かれた物と海苔に巻かれた物だった。
「具は、梅干し、カツオ節、昆布、焼き鮭、焼き鱈子、明太子が
 1個に3種類ずつ入っていますので何が出てくるか楽しみにして下さい。
 お茶はほうじ茶を用意しています」
「何から何まですまないなあ。うちの娘とそう変わらないのに・・・」
「いえ、家政婦のウメさんに手伝って貰ってますからできるんですよ」
「そんなものかなあ」
「うひゃあ、うまい。良いなあこの野沢菜の味、良いなあ海苔の香り。
 おっ、これは明太子か、ふんふん、次は昆布か、最後は、おお梅干しだ」
と小橋刑事は大喜びで両手におにぎりを掴んで食べている。
おかずは、出汁巻き卵、蒲鉾、ウインナーソーセージ、コロッケだった。

ご飯を食べ終わって、権禰宜の智朗が車に荷物を入れて帰って行った。
真美はその後残って霊査に協力することとなった。
古いビルの跡地に立った美真野美容クリニック付近での聞き込みを
今度は『霊を相手』に聞き取ることになり、
宮尾警部と小橋刑事は、
警視庁のクレオパトラ化粧品に関する資料を探すこととした。
遼真と真美は、クリニックの周りに居る霊一人一人に聞き取りに入った。
しかし、古いビルには無関係な霊ばかりで捜査は進まなかった。
そのため遼真はやはりもう一度多摩湖へ行く必要があると考えた。
二人はずっとそこに佇む彼らを諭し、全員を無事霊界へ送り届けた。
翌日の月曜日、遼真は大学の講義が無かったため
大学入学祝いに京一郎から贈られたバトルバイクで多摩湖へ向かった。
遼真のライダースーツの胸ポケットには
お使い|管狐《くだぎつね》のキインと須田さんの入っている人型がある。
そして今回は多摩湖龍神様にちょっとした贈り物を用意している。

昼前には多摩湖へ着いた。
前回と同様に多摩湖狭山湖を守る神社である清水神社、厳島神社、|玉湖《たまのうみ》神社へ参った。
月曜日のため観光客も居らずボートの貸し出し係もうたた寝をしている。
ボートの貸し出し小屋から離れた湖畔に座ってウメさんが作ったコーヒーを飲んだ。
突然、水面がザワザワし始めて風が吹き始める。
周りを見ると深い霧が立ち込めている。
龍神様が水面から顔を出した。
「おう、今日は何だ?
 もう変な物は沈んでいないぞ」
「はい、この前はありがとうございました。
 今日は、この船をご記憶にあるかお聞きしようかと思い参りました」
「この船は、確かあの須田が乗せられていた船だな。
 夜中にあの向かいの岸の桟橋からあの場所へ来たぞ」
「あの桟橋ですか・・・今は船は無いですね」
「おお、あれからすぐに陸へ上げて運んで行ったぞ」
「その場所ってご存じですか?」
「知ってるぞ。今は新しい家が建ってるがあの場所だ」
「ありがとうございました。早速そこへ行き色々と調べます。
 今日は龍神様に贈り物があります。
 気に入って頂ければいいのですが」
「うーん、
 その竹筒に入っている水からは我が一族の匂いがするぞ。
 われよりずっと早く生まれた龍神じゃな」
「ええ、実は私の実家の神社にある井戸の守り神様から頂いた物です」
多摩湖に居られる龍神様のことをお話ししたら、
 既にご存じだったようで是非ともお会いしたいとのことでした」
「そうなのか?
 だけどわれはこの場所に使命で留まらなければならないから無理だぞ」
「いや、我が家の龍神様の元には|水鏡《みかがみ》と言う宝鏡があって
 あなた様をいつでもお呼びできるそうです」
「なにあの|水鏡《みかがみ》をお持ちなのか?
 それはすごい、強い力のある上位の龍神じゃ」
龍神様、この竹筒の水をお飲みください。
 これからいつでも我が家の井戸へご移動できるそうです。
 我が家の龍神様もゆっくりと二人で
 お酒でも酌み交わしたいとおっしゃってました。
 一度我が家でゆっくりされまして、
 またこちらに戻ればいいのではないでしょうか。
 一度移動すればそれ以降は、
 いつでも移動出来るようになるそうです」
「それは楽しみ。ここに来て以来の喜びじゃ。早く飲ませてくれ」
「では龍神様、どうぞお飲みください」
遼真は水面の渦の真ん中へ竹筒の水を注ぎ込んだ。
渦巻いていた水面が、ピタリと鏡のように丸くなり波が無くなった。
「おお、力が湧いてくる。われを呼ぶ声が聞こえ。
 遼真、また向こうでも会おうぞ」
遼真の目の前からフッと多摩湖龍神様の姿が消えた。
龍神の居た水面は元のさざ波の立つ水面へ戻っている。