はっちゃんZのブログ小説

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5.捜査2(第3章:みいつけた)

宮尾警部と小橋刑事は、犯人を捜査するために、
とりあえず最近退院した母親全てに会ったが大した収穫も無かった。
遼真は事件翌日に会った時、
気になった路上の女性の似顔絵を
真美に描いて貰いネットで検索するも一切ヒットしなかった。
監視カメラの映像を調べても後ろ姿で映っており顔は見えなかった。
科捜研との相談で、期間を1カ月間、
クリニックから1キロメートル以内を範囲として
その女性の歩き方で監視カメラ映像を検索してもらう事にした。
その結果、クリニック近くのタワーマンションに住む1人の女性が該当した。
顔写真は似顔絵ともよく似ており、
やはりあの不思議な構造の霊体を持つ女性だった。

さっそく宮尾警部と小橋刑事は、タワーマンションへ訪れ
すぐにその女性へ会いに行った。
「宮さん、すごいマンションですね」
「ああ、これがタワーマンションらしいな。我々安月給には無関係な場所だよ」
「そうっすねえ。ここが1001号室です」
「ピンポーン」
「はあーい、どうぞ」
「警察です。ちょっとお聞きしたい事があります。よろしいですか?」
「どうぞ、何かございましたか?」
「あのー昨日は、
 トウキョウマタニティクリニックの前ではお話をありがとうございました」
「トウキョウマタニティクリニック?・・・あまり覚えていないですが・・・」
「そ、そうですか。もう一度詳しくお聞きしようと思って参りました。
 なぜあのクリニックに参ったのですか?ご懐妊でもされたのですか?」
柄島茉緒(えじままお)は、大きく目を瞠ると急に泣き始めた。
「どうかされたのですか?」
「私は子供が出来ません。それなのにそんな疑いを掛けられるのですね」
「えっ?申し訳ありません。決してそういう訳ではありません。」
「あなた達まで子供のできない私を責めるのですね・・・」
「いいえ、それならお子様は居られないという事でよろしいですか?」
「そう言ってるじゃないですか、何なら部屋を全て見て下さい」
と叫んで大声で泣き始めた。
宮尾警部と小橋刑事は、申し訳なさそうに
「では、我々も仕事なので確認させて頂きます。申し訳ありません」
全ての部屋を確認したが、どこにも赤ちゃんの存在は無かった。
宮尾警部と小橋刑事は
「柄島茉緒さん、ご協力ありがとうございました。
 では、我々はこれで失礼いたします」
と部屋から出たが、柄島茉緒の泣き声が絶える事は無かった。
「悪い事したな。
 実際に部屋のどこにも赤ちゃんはいなかったし、
 ベッドルームや風呂やトイレにもルミナール反応も無かったから、
 柄島茉緒はシロだな」
「そうっすね、その点は良かったです。
 もしあの人がそうだったらあまりに悲し過ぎますからね」

柄島茉緒は、二人が部屋を出て行き
『バタン』とドアが締められ、
しばらくすると
『フッ』
と意識が切り替わる様に表情が変わり泣き顔が消えた。
「今、私は何をしていたのかしら・・・ 
 私はなぜ泣いていたのかしら・・・ 
 誰が来てたのかな?・・・
 あっ、そろそろ希望(のぞみ)がお腹を空かす時間だわ・・・」
茉緒は、急いで隣の1002号室へ入って行った。
やはり|希望《のぞみ》はオムツも濡れてお腹も空かせていた。
「ごめんね。希望、すぐにオムツを替えてお乳をあげるからね」
希望の濡れたオムツを交換して、すぐに乳首を含ませた。
希望はお腹が一杯で満足したのか、またもや眠り始めた。
希望をそっとベッドへ横にすると、
茉緒はコンシェルジュへ提出する書類を持って部屋を出た。
コンシェルジュへ住民登録の書類を提出するためだった。

「今度1002号室に入りました中島美緒です。
 隣の柄島茉緒の妹です。
 子供が小さいのでご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」
「柄島様の妹様ですか、確かに大変良く似ておられますね。
 近くにお住みになられてお姉様もお喜びでしょうね。
 我々コンシェルジュに何でもご相談下さいね」
美緒が、コンシェルジュの元を離れると
「柄島様の妹様って、年齢が若いだけで双子みたいにそっくりね。
 お姉様はロングヘヤ―だけど、妹様は髪の毛をアップにして、
 それにあの着物姿、着慣れている感じで素敵ね」
「そうですね。
 私は着物の着付けも出来ないですからあんな恰好は無理ですね」
「まあ普段、着物なんか着ないからそれは仕方ないんじゃないの?」
「しかしすごい金持ち姉妹ですね。何をされてるのかしらねえ」
「確か書類には職業欄に投資関係と記載してたからそちらで成功してるのでしょうね」
「投資か・・・株かな?・・・私には無理、いいなあ・・・」

宮尾警部と小橋刑事は、柄島茉緒の元夫の|柄島一馬《えじまかずま》に面会した。
柄島一馬は、歴史ある不動産会社の若社長でとても大きな屋敷に住んでいた。
そこには母親の柄島真弥も同席している。
一向に息子の隣から離れようとしないので、
「奥様、すみませんが、
 1人ずつお聞きしますから別室で待って頂けますか?」
「息子は忙しいから、私があの女の事なら答えますよ」
「そうですか、でしたら先ずお母様からお聞きします。
 一馬さんは別室でお待ち願いますか?」
「あの女が警察を煩わせるような事をしたのですか?」
「いえ、そういう訳ではありません。ある事件の捜査で来ています。
 事情を聞いているだけですから安心してください」
「それならいいんです。あの女はこの家でも疫病神で困ってたんです」
「疫病神?」
「ええ、子供も産まない上に、あんな病気に罹った上に、気が狂って・・・」
「何か病気になられたのですか?」
「元々子供が出来にくい体質の上に、
 妊活してる途中に子宮内膜症に罹ったのです。
 おかげで跡取りも出来なかったし、
 最後には精神病に罹って、
 この私が悪いからだとか言い出して・・・」
「だから離婚されたのですか?」
「ええ、子供も産めない嫁なんて必要ないから離婚させました。
 充分なお金を持たせてマンションも渡したから文句はないでしょう。
 今度息子にはもっと妊娠しやすい若い女と再婚させます」
「それであのタワーマンションにお住みなんですね?」
「ええ、そうです。
 あのマンションは当社が開発した物件ですから
 何かとクレーム付けられても困るのであの女には勿体ないけど渡しました。
 今は昔取った杵柄ですかね?
 投資でお金を儲けて裕福に自由に暮らしているみたいですよ」

母親の次に息子の一馬が居間へ入って来て、
顔を伏せ気味に気弱な神経質な顔つきで答え始めた。
「母から聞いたでしょ?
 彼女とは2カ月前に離婚しましたよ」
「何か理由でもあったのですか?」
「えっ?答えないと駄目ですか?」
「いや、お母様からは聞きましたが、
 夫だったあなたからも聞きたいと思いまして」
「母が刑事さんへ答えた内容が理由です」
「そうですか、質問を変えます。
 元奥さんとはどの様にして知り合ったのですか?」
「それが事件に何の関係があるのですか?」
「あるか無いかは我々が判断する事です」
「彼女とは、彼女が29歳の時に知り合いました。
 投資会社のOLでして、ちょうど当社が上場する時の担当者です」
「ほう、それは優秀な女性でしたね」
「そうです。とても優秀で綺麗で素敵だったです。
 それでこの家に呼んで会っている内に恋人同士になりました」
「それで会社の方は如何でしたか?」
「おかげさまで順調に上場して現在に至ります」
「彼女の力添えもあって会社もうまくいったにも関わらず、
 結婚して子供が出来なかったので離婚したという事ですね」
「そうですけど、仕方ないんです。
 子供の出来る事が条件だったから」
「条件?」
「父も養子だし、この家はずっと女系で継いできたのです。
 僕は本当に久しぶりに生まれた男のようです。
 そのためこの家にはある習わしがあるのです」
「ほう、習わし?」
「ええ、それは結婚は跡継ぎ最優先でその責任者は母親らしいのです。
 ですから、僕の妻は子供が出来るまで
 体温測定結果や夜の生活の報告を母親にする習わしなのです」
「報告と言うとどの程度まで」
「ええ、例えば愛液の量だとか僕の硬さだとか、精液の量などです」
「へえ、それを奥さんが?」
「はい、もし僕が元気にならなければ、そうなるようにする様言われるのです」
「ちなみに奥さんは、そのー、そういう経験があったのですか?」
「いや、僕もそうでしたが、彼女も初めてだったようです。
 方法がわからなくてすごく困っていたみたいですから」
「普通経験が無いならそうなりますよね。そうか、そんな報告までねえ・・・」
「母は結婚当初からそうだったらしく、あまり不思議に思わなかったようです」
「お母さんの場合には実の母親ですからねえ、恥ずかしくは無いでしょうね」
「そうか、だから彼女はいつも恥ずかしそうだったんだ。
 それに僕に良く『お母様に言いたくない』とよく言ってました。
 僕は『母へ全て言わないと駄目だよ』と言ってましたが・・・
 よく考えたら母と元妻は他人でしたね。初めてわかりました」
「今までお分かりにならなかったのですか?」
「はい、『なぜなのかな?』と思っていました。
 僕自身は小さい時から全て母へ報告していましたから
 何も不思議には思いませんでした」
「全てって、例えば、好きな子が出来た時とか」
「好きな子が出来たら言ってましたが、
 母がその子を調査して駄目と言われたら好きになりませんでした」
「そうですか、お母様の力は強いのですね」
「はい、すべて母の考え方ですから僕には何も出来ないのです。
 それにこの会社の大株主は母親で、会長の親父も養子ですから何も・・・」
「そうでしたか、ありがとうございました。
 最後に元奥さんがお世話になっていた病院を教えて下さい」
「はい、婦人科では東京産婦人科病院、精神科では東京メンタルクリニックです」
「ありがとうございます。
 また何か聞きたいことが出来たら参りますがよろしいですか?」
「良いですけど。最初は母を通してくださいね。後が大変ですから。
 それはそうと彼女は幸せそうでしたか?」
「うーん、良くわかりませんが、
 彼女は子供の事を話す時はずっと泣いていましたよ」
「そうですか・・・彼女には幸せになって欲しいです。
 本当は今も僕は・・・
 でも彼女はこの家では幸せになれないですから・・・」

柄島家を出た二人は
「とんでもない家だな、我々じゃ想像もつかない様な家だったな」
「そうですね。俺が息子だったら発狂してますね」
「息子だったら生まれた時からそのように躾けられてるからお前もああなるよ」
「うーん、そういえばそうかも・・・怖いなあ」
「そうだな、あんなに女性への優しさを持たない男も珍しいな」
「最後には彼女の幸せを、とか言ってましたがねえ」
「まだ好きなのだろうな。
 もし彼女と一緒にいたいなら、
 あの母親を自分の力で何とかしなければどうにもならないな。
 でも、追い出してからじゃあ、もう遅いだろ、
 と言うより男なら|手前《てめえ》がそうしろよと言いたいね。
 男ならとか女ならとかはもうわからない時代みたいだな、ふー」
「あの男と話してたら、イライラしてぶん殴りそうになりました」
「実は俺もそうだった。
 もし仮にあんなのと娘が結婚したら反対するし絶対殴るな」
「しかし考えてみるとあの家の男も元妻も可哀想な人達ですね。
 あんな鬼母にあんなにまでさせられて不幸だなあ」
「ああ、全ての元はそこなんだが、
 その母親も実の母親から同じようにされてきてるしなあ。
 DVと同様に負の連鎖が永遠に続いて来ているんだろうなあ。
 男がしっかりしない限り、柄島家の鬼母の連鎖今後も続くよ」

宮尾警部と小橋刑事は、
柄島茉緒の通院している東京産婦人科病院と東京メンタルクリニックへ向かった。
聴取結果としては、
やはり柄島親子からの聞き取り情報の通り、必死に妊活したが子宮内膜症が悪化してそちらの治療が優先された様だった。ただ本人も家族ももう妊娠を諦めているが、実は子宮内膜症は軽快しており、現在の医療技術があればまだまだ妊娠出産の可能性も高くなっているらしいが、特に精神面での事が問題で妊活出来ない状況なのだった。
精神面では、被害妄想を伴う統合失調症で、その症状は最近現れたが、本当の原因は全結婚期間における姑との人間関係であり現在も服薬治療中との事だった。ただ最近は調子が良いらしく薬のみで通院していないとの事だった。