はっちゃんZのブログ小説

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3.萩原マリコの物語(第5章:真美を救え)

マリコは、滋賀県福井県の境に近い小さな貧しい村で生まれた。
家の近くの小さな林の中で、一人で遊んでいる時、
誰か知らない優しそうなおじさんにお菓子を貰って
そのあとに『怖くないからね』と言われて下着を降ろされ、
局部をずっと優しく撫でられて快感を覚える経験をしてしまう。
その後、その快感を忘れられず、そのおじさんを探した。
そのおじさんは家の近くに住むおじさんだとわかり、
毎日の様におじさんの家へ遊びに行っては、
お菓子を貰っては同じことをせがんで快感を経験した。
おじさんからは『誰にも言わない様に』と口止めされている。
マリコも話せば秘密の楽しみが無くなると思い黙っていた。
そんな毎日を過ごしていて小学校に入るが、快感を経験する生活は続いた。

幼い時から文字とか数字の勉強をしたことのなかったため、
小学校の授業に出ても何を教えてもらっているかあまりわからなかった。
マリコの両親は、貧しくて朝早くから夜遅くまで野良仕事だったため、
マリコと遊んでやれず、可愛がってくれる隣の男に感謝していた。
マリコの両親は、隣の男はお金持ちで
大きな家の中でパソコンを使った仕事と聞いていたので怪しまなかった。
またマリコが、学校の勉強がわからないと言って来ても両親も教えられなかったため、
マリコの『隣の男に勉強を教えて貰って良くわかった』という言葉を信じた。
それなりに勉強は普通に出来る様にはなったが、全く勉強が好きでなかったし、
小学生高学年になる頃には隣の男の愛撫で自然と声が出るほど感じる様になっていた。

身体も徐々に第二次性徴が現れてくるようになり始めている。
そんな時、とうとう小学6年生の春休みに初体験をしてしまう。
幼い時からずっと隣の男の指や舌でマリコの敏感な場所を愛撫され、
その間に何度もそっと指先を出し入れされたりしていたので
男の物を初めて受け入れた時も痛みはそれほど感じなかった。
それからマリコは『勉強を教えて貰う』と言っては、
毎日の様に男の元へ通い、男に抱かれて、男が喜ぶことに喜びを覚え、
今度は男の物を咥えたり、色々なテクニックを教え込まれてしまう。
男は初体験の時からマリコへお金を渡すようになり、
マリコは気持ち良い上にこんなにたくさんのお金まで貰えるんだと喜んでいた。
そんな時間がゆるゆると過ぎていき、
中学2年生の夏休みの終わり頃にはマリコの身体はもう大人の女となっていた。
その頃からだんだんと隣の男のマリコの身体を見る目が、
幼い時から見ていた様な愛おしい感じで見なくなったことに気が付いた。
いつの間にか隣の男は、マリコが学校へ行っている間に引っ越して居なくなった。

夢乃さんの目から見れば、
幼い頃からマリコを調教したその男は、地獄からこの世に迷い出た“色摩”だった。
マリコは自身の魂に“色摩”が棲みついたことをマリコは知らなかった。

男も引っ越して居なくなり勉強もわからなくなってくると
毎日が面白くなくなり、貧乏な家にも居たくなくなって
中学卒業と同時に大津市の小さな自動車部品工場へ働きに出た。
しかし、給料も安いし、毎日変化のないキツイ仕事が面白くなかった。
年上の工員からたまに声を掛けられることはあったが、
マリコの年齢が16歳の未成年と知るとみんな逃げ腰になった。
やがてゲームセンターなどで夜遊びし始め、
そこで知り合った高校生と寝てはそのお部屋で泊まる毎日で
いつしか工場も無断で何日も休むようになり、
「無断欠勤はいけない。シフトが組めなくて会社が困る」
と毎日の様に文句を言ってくる工場長にうるさくなって工場を辞めた。
そこで今度はゲーセンで知り合った京都市内に一人で住んでいる男に近づき、
その男の部屋へ転がり込んで、若い身体を家賃代わりにして、
その日から年齢を誤魔化して夜の仕事を始めた。
隣の男から貰ったたくさんのお金はもう無かった。
京都の町には、マリコの好きな服や宝石が一杯売られていた。
それらを買うために夜の蝶として働き手っ取り早くお金を稼いだ。
店に来ていた客に声をかけては、もっとたくさんのお金を稼ごうと売春もした。
20歳にもならない若い身体とあまり経験がないことが売りで
『自分流に調教できる女』と思われて多くの客から可愛がられた。
幼い時から色々なテクニックを教え込まれているマリコにとっては造作もないことだった。
ある時、街角の占い師に見てもらう機会があって、
その時、占い師から言われたのは
「あなたは、色摩に憑依されています」との言葉だった。
マリコも一緒にいた酒に酔った男も
「あんたのせいで私は色摩になっちゃったよ」
「そりゃあいいや、俺のすごいテクでお前を色摩にしたんだぜ」
と大笑いして数千円を占い師に渡して離れていった。

マリコは元々流行に敏感な上に派手好きな性格だった。
しかし生まれた家が非常に貧しかったため、
自分が欲しかった服も一切買ってもらえなかった。
そんな過去を忘れるかのように、
お金が手に入ればすぐに気に入った服や宝石を買い、
お金が足りなくなれば男に抱かれてお金を稼いだ。
毎晩、何人ものどこの誰かもわからない男達に何度も抱かれては、
まだ20歳にもなってない若い娘には不相応な金額のお金を稼いだ。
しかしマリコにはいくら服や宝石を買っても満足出来なかった。
その姿はまるで地獄で苦しむ”|餓鬼《がき》”のようであった。

そんな生活が続き、
やがて父親のわからない子をその腹に宿してしまうが、
『この子、流れてくれないかなあ』と考えながら、
毎日強くお腹を押していたら、
昨夜、都合良く自宅のトイレでまだ妊娠3か月での早産となった。
その子の死骸をどこに埋めようか思いながら、
偶然、テレビで鞍馬山の特集を見ていて、その深い森に目が釘付けになった。
マリコは、この森の中にこの子を埋めれば、
きっとこの子も私も幸せになると声が聞こえた様な気がした。
急いでリュックへ水筒やお菓子と共に
バスタオルに包んだ小指ほどの小さな我が子を詰め込んだ。

その場所を探すうちに登山道を外れて彷徨うこととなった。
突然目の前にテレビで映っていたより鬱蒼とした深い緑の森が現れた。
マリコは何者かに導かれる様に、その森へ足を踏み入れた。
しばらく歩くと森の最も奥深い場所で小さな石像を見つけた。
その場所は、雑草が生え放題でわかりづらいが、
細い道が交差した丁字路らしき場所だった。
その石像の表面には子供を抱いた母猿の像が刻まれていた。
その後ろには太い大人の男が4人手を繋いでも抱えられない様な太い巨木があった。
マリコは、何気に木を見上げた時、
突然、何者かに後ろから声を掛けられた様な気がして驚いて振り向いた。
その拍子にマリコは軽いめまいを覚えて、
その場所は平坦だったにも関わらず、転びそうになり、
身体を支えるために、その石像の子供部分に偶然手を置いた。
『ポコッ』
と音がして、母猿が抱いていた子猿の像が折り取れたが、
後ろの方に気を取られていたマリコはそのことに気が付かなかった。

マリコは死んだ子供に己が祟られないようにお願いしながら、
その小さな遺体をその石像とその後ろの太い木との間へ埋めた。
埋めた後に手を合わせた時、
ふと足元転がっている”子猿の形をした石”からなぜか目が離せなくなった。
『これを持って帰れ』と言っている様に思え、その子猿の形の石を持って帰った。
その子猿の形によく似た石を部屋のどこかに置いた筈だが
マリコはそれをいつの間にか忘れた。
ただその夜から、不思議と夢に『声』が聞こえるになった。
困った時には、なぜか夢での『声』を信じ、その通りにしていくと、
やることなすことトントン拍子で願い事がうまく運ぶようになった。

ある時、優しい会社員の男性と知り合いすぐに結婚し子供を身籠った。
夫は体力があり、毎晩のようにマリコを喜ばせ、
マリコも夫の求める行為全てに従い、歓喜の表情で夫へ尽くした。
しかし、その夫は高慢で我儘な性格だった。
職場や得意先とも喧嘩してうまく行かなくなり、
すぐに休むようになり、とうとう会社も辞めて、
毎日パチンコ競艇競馬などギャンブル三昧で遊んで暮らすようになった。
だんだんと夫やマリコの蓄えた生活費も少なくなり始めた時、
夢の中で『夫婦で生命保険を掛けなさい』と言われ、
夫にそのことを恐る恐る話すと

なぜか夫も乗り気になり大金の出る生命保険を契約した。
契約後、すぐになぜか真夜中の十字路で夫は交通事故に遭い死んでしまう。
その時、多額の生命保険金が支払われてマリコの懐は豊かになった。
マリコはそれまで買えなかった服や宝石を一気に買い毎日贅沢三昧をした。
その後すぐに、
マリコを優しくしてくれる男が現れてその男からの懇願ですぐに再婚した。
再婚後、前夫と同様に夫婦で生命保険へ入り、
保健会社に勧められてついでに娘のすみれも新しく加入させた。
今度の夫は、異常に独占欲が強く、嫉妬心が激しかった。
マリコの行動は当然のこと、娘のすみれの行動まで口を出すようになり、
やがて躾と称して前の夫との子供のすみれを虐め始めた。
『すみれをいじめるのは止めて』とお願いしても、
『母親のお前が悪い』と今度はマリコへ暴力を揮い始める。
マリコはだんだんと『私が殴られるのはすみれのせいでは?』と考え始めて、
自分の身を守るために、娘のすみれが邪魔になって来るのだった。
しかし、そんな時、
なぜか前夫と同じ十字路にて真夜中に、
再婚したDVの夫も交通事故に遭い死んでしまう。
再度、マリコへたくさんの生命保険金が入って来た。
保健会社としては妻マリコの犯行を疑ったが、
警察が調べても事件性が無いので支払うしかなかったようだ。
その後、保険金で大金が入ったマリコは、
常に男に大事にされることが好きでホストクラブに狂い始めた。
娘を放置しての派手な生活を送っていたが、とうとうお金が少なくなった。
ある夜の夢の声は
『お前の子供を捧げよ。さすればお金を与えよう』と聞こえた。
「わかりました。すみれを捧げます。
 一日でも早く持って行ってください。
 死んだ男の子供だから邪魔だったのでちょうどいいです」
もうマリコの心には『我が子すみれの存在』というものが無くなり始め、
男との睦み合いと服や宝石から得られる快感を求める欲望だけが大きくなった。
その後、すみれが十字路で亡くなったが、
『これで私は自由だわ。もっと遊ぶわよ』とマリコは喜んでいた。
すみれの部屋の遺品を捨てようと片づけをしていると
部屋の隅に『猿の形の石』が転がっていた。
『この石って何かしら、どこかで見たことがあるけど・・・
 きっとすみれがどっかで拾って来たのね』と思い、
すみれをよく遊びに連れて行っていた近くの公園に行き適当に埋めて捨てた。
夢乃さんは、吐き気を抑えながら今度はマリコの過去世を観た。
親に死なれ都の外れで餓死した子供の人生、
野党に食べ物を盗られ殺された農民の人生、
盗賊となり裕福な家へ押し入り全員を殺し、最後には仲間に裏切られ殺された人生、
野党となり若い女と見れば襲い仲間と輪姦し最後には女を殺した人生、
その中には”懇願する妊婦を襲い犯した上に腹を割って殺す”という凄惨な姿も見える。
その妊婦の最後の姿は、あまりの哀れさに深く夢乃さんの脳裏に刻まれた。
痛みを遮断している夢乃さんでさえも胸の痛みを覚えるほどのものだった。

夢乃さんは、遼真から聞いた”鞍馬山”についての情報を観て頭領へ報告した。
マリコの魂に、”色摩”と”餓鬼”が憑依していると言うより、
魂そのものが”色摩”と”餓鬼”へ変性していることがわかった。
すでにマリコの記憶からすみれの記憶が消え始めていることに気が付いた。
少し前に死んだ娘のことさえ忘れ始めている酷薄な女。
マリコの魂は、もう人間《ひと》としての感情そのものが無くなってきている。
マリコは、すでに人間《ひと》ではなく、
この世ですでに生きながら”亡者《もうじゃ》”となっているのだった。
母の愛を無条件に信じ慕っている亡くなったすみれの魂自身が、
母親の魂に最初から『娘への愛情』が全く無いことを知った時のショックを考えて、
母親マリコの記憶から微かに残るすみれの記憶さえも全て消した。
夢乃さんは、箪笥の上にある”すみれちゃんの骨壺”は持って帰った。
すみれちゃんの魂を見つけた後で、もし母親のことを聞かれたら
嘘を言うのは心苦しいが、
『お母さんは亡くなってもうこの世には居らずあの世に行った』と伝え、
公園で良く遊んだ景香と一緒に一族で天国へ送るつもりだった。