はっちゃんZのブログ小説

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2.遼真、出発する。(第5章:真美を救え)

遼真は一度家に戻り書置きをして、リュックサックに
携帯電話、守り札、地図、磁石、飲み物、食べ物や二人分の雨具を詰め、
愛車である自転車”龍星《りゅうせい》号”と
いつも使っている木刀の愛剣”龍尾《りゅうび》”と共に家を出た。
先ずは真美がいつも遊んでいる公園へふたたび訪れた。
この公園には『ミミちゃん』と言う子供の霊が住んでいる。
真美も景香《けいか》も時々一緒に遊んでいる子だった。
さっき来た時には見えなかったので気になったのだった。
しばらく待っていると『ミミちゃん』は林の奥から現れた。
「こんにちは、ミミちゃん、僕は桐生遼真と言います」
「知っています。お兄ちゃんのことは真美ちゃん達から聞いています」
「それは良かった。真美が居なくなったんだけど何か知らない?」
「知っています。怖いから隠れていたの。
 突然、大きな猿が林から現れて真美ちゃんをさらっていったの」
「大きな猿?」
「そう、真美ちゃんの3倍くらいの大きさ。
 真っ赤な顔に、大きな口、金色の丸い目、
 それと、頭からお尻まで長い白い毛が生えていたわ。
 私、怖くて仕方なかったからずっと今まで隠れていたの」
「それは怖かったね。真美に怪我はしてなかった?」
「ううん、怪我はしてなかったわ。
 真美ちゃんは私の前に立って守ってくれたの。
 だから私の代わりに化け物猿に捕まったの」
「ねえ、その化け物猿はどっちに方向に行った?」
「えっとね、こっちの方向だったわ」
と北の方向を指差した。
まだミミちゃんが、何か言い足りなさそうなので
「ミミちゃん、他に何か気付いたことある?」
「すみれちゃんのことなの。
 すみれちゃんとはいつも公園で一緒に遊んでいたの。
 すみれちゃんのお母さんは近くにいたけど、
 いつも手の中の四角の小さな箱ばかり見ていて
 一緒に遊んでくれないから寂しいって言ってた。
 それに家の中でもお母さんは男の人と遊んでばかりで
 すみれちゃんは部屋でずっと一人ぼっちなの。
 だからいつも私とこの公園の砂場とか色々な場所で遊んだの。
 すみれちゃんが来ない時には真美ちゃんとも遊んだわ。
 それと少し前にすみれちゃんは死んでしまったの。
 でもその時からすみれちゃんの魂が無くなったの」
「ああ、確かにこの前の事故だね。
 すみれちゃんの魂が無くなっているの?
 それは寂しいよね。
 いつも一緒に遊んでいたんだもんね。
 わかった。すみれちゃんも何とか探してみるね。
 またここには来るから何か思い出したことがあったら教えてね。またね」
遼真には、『真美の行方不明』と『すみれちゃんという子供の事件』に
何か繋がりがあるように感じた。

今までに真美から聞いた話では、
ミミちゃんは、幼い頃、咳が止まらない熱の出る病気で亡くなり
この公園の木の根元に埋葬されてそれからずっとここで生きて来たらしい。
いつ生まれたか本人は知らないようだが、
遼真にはミミちゃんの姿がテレビの時代劇と同じで
おかっぱ頭の赤い木綿の着物の姿だったのでたぶん江戸時代と感じた。

遼真は公園から北の方向へ自転車”龍星《りゅうせい》号”で走った。
時々止まっては、真美の気配を探りながら走った。
やはりミミちゃんの話は確かだった。
幼い時から一緒に遊んでいる慣れた真美の気配が強くなってきている。
地図を広げて確認するとこの方向には、鞍馬山があった。
遼真は、携帯で師匠である祖父の令一へ連絡を入れた。
「師匠、真美の居そうな場所がわかりました。
 真美を襲ったのは、人間くらいの大きさの大猿で
 頭からお尻にかけて白い毛があるそうです。
 もう近くに来ていますが、どうやら鞍馬山付近に居そうです。
 僕は続けて探りますから、師匠は準備をして下さい。
 真美の場所がわかり次第、すぐに連絡します。
 それと真美の誘拐に関しては、
 新聞に載っていた萩原すみれちゃんの事件とも関係がありそうです」
「わかった。鞍馬山だな?
 遼真、決して一人で無理はするな。
 我々が着くまでじっと待っているのだぞ」
「はい、何も無ければそうします。では」
「おい、何もって・・・、もう、切りおったわ。
 あいつはあの年齢では考えられないくらいの力があるから逆に心配だ」と呟いた。

そんな時、
夢見術のできる夢乃さんは、頭領の指示で|景香《けいか》と共に
謎の事件で亡くなった萩原すみれの母親マリコに会っていた。
「萩原さんのお宅ですか?」
「はい、萩原ですが、どなたですか?」
「このたびのすみれちゃんの話を聞いて驚いてお焼香でもと思い・・・」
「すみれの?」
「ええ、この子がいつも遊んでいたもので・・・」
夢乃さんの隣には景香《けいか》が、悲しそうに立っている。
「そうですか。それはそれは、どうぞ」
すみれちゃんが亡くなってそれほど時間が立っていない筈だが、
仏壇は無くただ箪笥の上に白い布に包まれた骨壺があるだけだった。
花もお供え物も無く、申し訳程度に線香立てがあるだけだった。
普通、娘が亡くなれば悲しい顔をして、お線香も欠かさないものだろうし、
『一緒に遊んでいた』と聞けば、どんな風に遊んだのか聞きたがるものだが、
マリコは全く興味無さ気に、『早く終わればいいのに』と言う仕草である。
「どうもすみれちゃんのお母さん、ありがとうございました。
 すみませんでしたね。お嬢さんを思い出させたみたいで」
「いえいえ、わざわざありがとうございます」
と頭を下げて、顔を上げた瞬間に夢乃さんは胸元からお札を出して額へ貼った。
マリコはフッと意識を失って倒れかけたが夢乃さんが支えて畳に横にした。
「景香《けいか》、良く見ておいで、今から夢見術を始めるからね」
「はい、わかりました」
「景香《けいか》や、何か感じたのかい?」
「この人、本当にすみれちゃんのお母さんなのかな?」
「お前はどう感じた?」
「うーん、何かすみれちゃんが居なくなっても悲しくないみたい。
 逆にそれが嬉しいみたいに思っていると感じました」
「ほう、良く読めたね。お前の力も出始めたね。
 確かにお前の感じたようにこの女は娘が死んでも悲しんでいない。
 その理由を今から探るから見ておきなさい。
 お前もいずれこの様な力を授かるかもしれないからね」
その時、部屋がノックされた。
「はい、お前さん、遅かったね」
「すまんすまん、頭領から色々と聞いていてな」
「何か新しい話はあったかね」
「ああ、遼真様が真美ちゃんの場所を早くも見つけ始めているそうだ」
「えっ?まだ居なくなってそれほど時間も経っていないけど」
「それが、今さっき携帯で連絡があったらしいぞ。鞍馬山の近くにいるらしい」
鞍馬山?まだ7-8歳なのにえらく遠くまで行ったものだねえ。
 さすが頭領の孫だけはあるね。
 以前からすごい力があるとは聞いてたけどねえ」
「だから、鞍馬山に関する何かを手に入れる必要があるから頼むぞ」
「わかったよ。じゃあ、早速潜るから頼むよ」
「じゃあ、景香《けいか》は見ていなさい」
夢乃さんが萩原マリコの記憶へ入って行く。