はっちゃんZのブログ小説

スマホの方は『PC版』『横』の方が読みやすいです。ブログトップから掲載されています作品のもくじの章の青文字をクリックすればそこへ飛びます。

4.襲撃(第6章:母と共に)

やがて社殿正面の深い白い霧の中から
『ペチャ、ペチャ』
濡れたヒレで歩く音が聞こえてくる。
その数は1匹や2匹では無かった。
そしてその音が消えた。
八重は急いで多くの霊糸を周りの空間へ張った。
八重の心臓の鼓動が早くなった。
遼真の見ている風景が脳裏へ映る。

突然、
『シャー』
『シャー』
『シャー』
と白い霧の中から3本の白い槍が二人へ向かってくる。
どうも二人の手足を狙っている様な攻撃の仕方であった。
八重は、その全ての槍を霊糸で弾いた。
するとその槍はその場で水へ戻っていく。
それは非常に強い圧がかかった水柱で、
仮に身体に当たればその部分は穴が開くと思われた。

今度はすぐさま、
『ズシャー』
と黒い槍が迫ってくる。
1本の霊糸で弾こうと迎え撃ったが、逸らすことが出来なかった。
黒い槍は二人の方へ向かっているため、
八重は、急いで霊糸を編んで太くするとその黒い槍へぶつけた。
『ガキッ』
と音がしてその黒い槍を弾くことができたが、
その時、同時に編んでいた霊糸も砕けて溶ける様に消えた。
白い槍と比べて黒い槍はとても硬かった。
ただこの霊糸は八重の力が続く限り無限に出すことができた。

八重は遼真の身体を守る様に後ろから遼真を抱いている。
遼真は母の胸の前に立ち両手で木刀を持って構えている。
祖父の令一や一族の者から毎日木刀で手ほどきを受けているため、
その小さな体を母八重の前に立たせて母を守ろうとしている。
当然のことながら遼真はまだまだ幼くその力は弱い。
だが遼真は母を守ろうと心に決めた。
遼真の瞳にモヤモヤと不思議な色が浮かび上がってきている。

しばらくすると白い霧の中から数えきれないほど多くの黒い影が現れた。
それらの影は、よく昔から絵にされている魔物、
頭に茶色の皿、黄色い|嘴《くちばし》、背中に緑色の甲羅、手足にヒレのある『河童』だった。
その姿が現れた途端、その口から再び無数の水が槍となって襲ってくる。
『シャー』
『シャー』
『シャー』
八重は彼らがその口から吐き出す「水槍」を「霊糸」で弾き霧散させた。
八重は遼真を守りながら『ただこのまま守るだけではいずれは体力が尽きて二人とも倒されてしまう』と焦った。
何とかしなければと八重は霊糸を太い霊糸を太い鞭の様に編み直した。
そして、その霊糸の鞭で河童達へ攻撃した。
『ギュー、ブチン』
その霊糸の鞭は河童の首に巻き付くとその首を真二つに切り離した。
『ギャー』
と河童の悲鳴が上がり、カッパの身体が緑色の液体へと変わっていく。
河童達がいくら逃げようとしても霊糸は素早く巻き付いて首を切り離していく。
河童達の姿が少しずつ減り地面の緑色の液体に変わってきている。
河童達は八重を恐れて水槍を発しなくなった。

その時、遼真の耳には母の心臓の音が早く大きく聞こえてくる。
そして母の口から洩れる息へ苦悶の声が混じり始めている。
最初立って戦っていた母八重はもう膝を地面につけている。
『このままでは母様の身体が大変なことになってしまう』と遼真は不安を感じた。
「母様、大丈夫ですか」
「遼真、大丈夫よ。
 ハアハア、母様は強いから安心して。
 遼真、お前にお願いがあるの」
「何ですか?」
「遼真はこの場所から逃げて、この事を家のみんなに知らせて欲しいの」
「そんなことしたら母様が・・・。遼真と一緒に逃げましょう」
「遼真、残念ながら母はもう歩けません。
 ただお前が戻ってくるまでじっとこの身を守って待っています」
「そんな・・・?!」

八重の脳裏に遼真の見ている風景が見えてきた。
小さな森の方向の白い霧の中から
鱗に覆われた黒ずんだ大きな猫のような生き物の姿が映る。
その身体から吹き上がる紫色の妖気で
その力は河童の比でないことは八重の長年の経験から一目でわかった。
八重は動かない足を無理矢理に動かし、
二人で逃げようと思い遼真を抱きかかえたが、
それを察知したかのようにその生き物は、
二人の頭上を高く飛び越えて、二人の逃げる方向へ降りて牙を剥いている。
その姿は頭にお皿のある河童ではなく、
身体は小さいが全身を爬虫類の様な鈍く光る硬そうな鱗に覆われていた。

『ズシャー』
『ズシャー』
その魔物の口から黒い霧が吐かれ、黒い槍となって襲ってくる。
『バキッ』
「うっ、はあはあ・・・」
八重は霊糸を編んで太くして黒槍にぶつけて逸らしたが、
何本もの黒槍が飛んでくると逸らし捌くことが出来なくなり、
その黒槍の一本が八重の肩へ突き刺さってしまう。
遼真には我が身を守る母の腕の力が弱くなっていくことがわかった。
遼真の耳には母の早鐘の様な心臓の音が聞こえてくる。