はっちゃんZのブログ小説

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3.深き淵に潜むモノ(第6章:母と共に)

それは川の深い淵に潜んでいた。
それは己の解放された森への何者かの接近が感知できた。
すぐに水面を使って、神社の手水舎から森にある神社の境内を見つめた。
そこにいたのは、己に危害を為す可能性のある力を持つ母子であった。
それはこの母子の顔を覚えた。
その魔物の名前は、昔より”水虎《すいこ》”と呼ばれた。

ここで水虎についてである。
中華文明圏内の情報では、8世紀初頭の『襄沔記《じょうべんき》』に記述されており、明の時代に編まれた『本草綱目』にも引用され広く知られる。
水虎の生息場所としては、湖北省襄陽市を流れる川が漢江にそそぐ合流点にいたと記されている。その姿は、3・4歳の児童ぐらいの大きさで、体は刀も矢も通さないほど硬い鱗に覆われていると言われている。

日本では本来、中国の水虎と全く同じ妖怪はいないが、「河童たちを総称した水虎」という呼び方に起因する混用から、地方によっては「スイコ」という言葉は河童の別名のような感覚で用いられてもおり、東北地方や九州地方など各地に見る事が出来る。
しかし、寺島良安『和漢三才図会』では、「水虎」に続いて「川太郎」(河童)を別項目にしており、観察における相違点から日本の河童と水虎は異なるものとしている。川にいるモノの総称として用いられている場合もあるが、水虎と河童が特徴や性質において異なる点があるという認識は、小野蘭山『本草綱目啓蒙』でも同様で、本文は日本の河童の情報、注として中国の水虎についての引用文を分けて掲載していることからも分かる。
そして鳥山石燕『今昔画図続百鬼』には、「水虎はかたち小児のごとし。甲は綾鯉《せんざんこう》のごとく、膝頭虎の爪に似たり。唐土の速水の辺にすみて、つねに沙の上に甲を曝すといへり」とあり、これは前記した『和漢三才図会』の内容をそのまま下敷きにしており、河童ではなく中国の水虎をそのまま用いられている。

神社から戻ったその夜、
八重は回収した『割れた卵の様な石』の鑑定を一族の専門の者に依頼した。
その物体は最初は機器で解析され、その後残留している思念へ霊的な解析が為された。
機器による解析結果として、
紋に関して、
表面に付着している花粉から周王朝(紀元前1046-256年)の時代の物体と判明。
場所は、花粉の種類から揚子江中流域付近と推定。
描かれた紋様は古代中国文字と推測されるが現在使用されておらず効果は不明。  
石の材質に関して、
種類は、黒雲母片岩(黒雲母に富んだ褐色から黒褐色の層と、石英などの白色の鉱物からなる層との互層からなる岩石)。
内壁に硬い物(爪状)で削られた痕跡を発見。
内壁に生物学的付着物質は無し。但し内壁に径2センチほどのエメラルドの結晶有り。
全体的な割れ方としては、直接金属製の物で垂直に割られている。
霊的解析として、
全体的に魔物を封印した様な効果を残しており、内側のエメラルドから特に封印様の力が漏出している。
結論として、どのような方法かは不明だが、
約3000年前に揚子江中流域にて、何者かが何かをこの丸い自然石へ封印した。それが理由も経路も不明なまま日本へ持ち込まれ、この神社の森の奥で封印が解かれ、封印されていた何かがこの京都へ放たれたと思われた。
実は頭領の祖父令一からの連絡では、
京都だけに限らず北海道と青森県日本海側にも同様の物が見つかっているおり、
京都と同様にその辺りは川の事故が増えていると言う。
ただ被害の大きさでは京都が一番大きいとの話だった。

最近のニュースを調査していると、その関与が疑われるニュースが見つかった。
それは日本へ観光に来た隣国の外国人数名が行方不明になっている事件だった。
彼らは京都観光に訪れていて、ある日突然行方を断ったらしい。
彼らの目的は京都市内の神社観光を中心に行動していたとの証言もある。
彼らは日本に存在する隣国の地下組織の人間だとの噂もあって真相はわからない。

八重と遼真の二人だけの時間が過ぎていく。
父は遼真が生まれて1年で死んだと聞かされていたが、
遼真はいつも母が近くにいるので寂しくはなかった。
ある夜、遼真はいつもの様に寝る前に母から父の活躍とその力の様を聞き、
父には『霊滅《れいめつ》』と言う凄い力があったことを知った。
祖父の令一にも同様の力があり、
その力は一族でも限られた者にしか発現しない力だという事も知った。
遼真は
「母様、私にもそんな力があればいいな」
「遼真、心配しなくてもいいわ。きっとお前にも出てくる筈よ。
 だってお前は|父様《とうさま》にそっくりなのだから」
「父様と僕はそっくりなの?へえ、嬉しいな。
 私も父様のように世の中の人を守って見せます」
そう言って、
八重を見つめて笑う遼真の笑顔と亡き夫龍司の笑顔が重なった。

ここで『霊滅《れいめつ》』の力の説明だが、
その発現の様態は発現する人間によって異なっている。
例えば、祖父令一の場合は、『|炎滅《えんめつ》』と言って
霊体を構成する物質そのものを高温の炎で浄化消滅させる。
遼真の父親の龍司の場合は、『|握滅《あくめつ》』と言って、
霊体を狭い空間に閉じ込めて一点に収縮させて潰す。
霊体を構成する物質が圧により変化して霊魂は別物質へ変性させると言われている。
そんな話を聞くと遼真は
「私がもしそのような力を持つことが出来たなら、
 敵の霊体には痛みを感じさせない様に少しずつ粉々に分解させてあげたいな」
と八重に話した。
「遼真は、優しいわね。確かに痛みを感じさせないのは良い事ね」
「はい、もしだけどね。そんなすごい力を使えるようになったらすごいな」
「大丈夫よ。焦らず母様と一緒に修行しましょう。」
「はい」と言って遼真は八重の胸に顔を埋めるのだった。

ある日、いつものように二人で散歩していると以前の神社が見えてくる。
その時、二人は突然発生した真っ白い深い霧に包まれた。
八重の脳裏に遼真の見えている風景が映っている。
その霧は流れの無い古くなった水の様な生臭い匂いに満ちている。
八重は嫌な予感に襲われた。
このままじっとしていると360度から攻撃される可能性が高いため、
八重は遼真の小さな手を強く握り、
脳裏へ映る薄っすらと浮かぶ神社の鳥居を目標に急いで神社へ向かう。
鳥居を潜り境内へと進む。
やがて社殿が見えてきた。
社殿の周りの空間の白い霧は消えている。
どうやら社殿の神様が魔物の接近を拒んでいるようだ。
八重は背後からの攻撃を防ぐため、
遼真と二人で社殿の階段を上がり正面扉の廊下へ立った。