はっちゃんZのブログ小説

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11.捜査2(上田の情報)(第7章:私の中の誰か)

瑠海へ偏執していた男の名前は、「上田武知也」。
25歳無職。警視庁幹部の息子。
上田の実家は吉祥寺駅から少し離れた場所にある大きな屋敷だった。
その広い庭には3頭のドーベルマンが番犬として放たれている。
恵理那が話した上田の警察官に捕まった話や調書の内容を知るためには
警察内部の記録を知る必要があり、それは宮尾警部に頼まないと出来ない。
瑠海ちゃんのことがまだ事件かどうかがわからない段階で
警視庁上層部幹部の息子である上田の事を
宮尾警部達へ事情を詳しく話すわけにもいけないし、
仮に記録を調べて貰ってその動きが敵にばれた場合、
警察内部の人間に証拠隠滅などをされる可能性が高いと考えていた。

遼真は上田邸の近くの有料駐車場へ停めると夜が更けるのを待った。
月が中天に差し掛かる頃、助手席の窓を開けて迷彩ドローンを放す。
ドローンは上田邸の広い庭を横切り、2階の「上田武知也」の部屋へ向かう。
今日は暖かかったため、窓は少し開けられている。
ドローンから昆虫型盗聴監視用のクモ助と天丸を窓際へ降ろす。
クモ助は少し開いている窓から部屋へ入り、
天丸は窓枠へ降りると窓ガラスの外側から監視に入った。
室内の映像がパソコンへ流れてくると、遼真は管狐の『キイン』に声を掛けた。
「キイン、お前の目で見てきておくれ」
キインは、遼真の瞼にそっと口をつけると助手席から飛び出した。
これで遼真と霊獣キインの目が同調し、キインの見た光景が遼真へと流れ込む。

部屋の中から「上田武知也」の声が漏れてくる。
「この制服はいいなあ。それにこの匂い・・・ふう・・・興奮するなあ」
「ああ、この綺麗な髪の毛・・・」
「へえ、まだまだ小さいけど、こんなブラをつけてるんだ。何か甘い匂いがする」
天丸からは『制服』や『髪の毛』を顔に押し付けては
ベッドの上で転げまわっている上田の姿が送られてきている。
キインは天井際で『涙を流しじっと睨みつける瑠海』の姿を捕らえた。
遼真は今夜真美を連れてこなかったことを心から安堵した。
まあ色々とネットでは情報として挙がってくるが、
まさか中学生に劣情を抱き、こんな事件を起こす男がいることは驚きだった。
ましてや家も裕福で何の不自由もない生活をしており、
大人なのでそういう風俗店へ行けば、
顧客の秘密は守られるし後腐れもなくそれなりの楽しめるにも関わらず、
なぜこんなまだ大人にもなっていない女の子に偏執するのかわからなかった。

遼真は盗聴した家族の会話やネットなどでの情報を元に上田の調査に入った。
国立大学法学部を出て警視庁幹部候補生となった父と
大学教授の家に生まれた母の間の次男坊として上田武知也は生まれた。
子供の頃から若いメイドがいて家族みんなから可愛がられて育った。
幼い頃から世界中の様々な場所へ旅行へ行き、
綺麗で美味しいものを食べている写真が本棚の上に飾られている。
武知也の兄である上田家長男の源一郎は、
父と同じ国立大学法学部を卒業し大学院へ進み犯罪心理学を研究し、
現在はアメリカのFBIでサイコパス犯罪心理学などの研究を続けており、
帰国後は警視庁に入庁し警察庁幹部になることは約束されている。
両親との衛星回線での会話では兄源一郎も両親同様に愚弟の将来を危惧している。
それと武知也が13歳の時、信号無視した車に挽かれて亡くなった3歳下の妹がいた。
武知也はこの妹を大層可愛がっていたため、その時から武知也の性格が変わった。
小中学校と成績も良かったが、高校生となり不登校となりとうとう中退した。
不登校の理由としては、同級生から虐めにあったのではないかと両親は考えている。
しばらくして両親が『高校中退では世間体が悪い』と言い始めたため
仕方なく大学受験の資格を取るために大検は取るが、
結局大学受験も何校も失敗し浪人したが大学にも興味を無くした。
そして無職となったが、両親から『大学に行かないのなら働け』と言われ、
煩くて仕方ないので父親のコネもあり
何とか小さな会社に勤めても同僚上司とすぐに喧嘩して辞める。
他の会社をの面接を受けるも態度が悪いためどこも受からなかった。
最後には、親から資金を借りて現在ブームとなっている投資を始めた。
偶然なのかその道の才能もあったのか、時代が良かったのかわからないが、
とんとん拍子で上手く行き、親から借りた資金は数年で返済し、
今では株やFXで毎年何千万円もの利益を出せるようになっている。
武知也個人としては、税務署へキチンと税金も払っており
世間一般の労働者よりは多く儲けている自負もある。
この家から出て都内のどこかにマンションの部屋を買ってもいいのだが、
定職に就かない我が子の将来を心配な両親がそれを許さなかった。
このたびの瑠海へのストーカー行為で警察に捕まった件は、
父親が警察内部の知人の力を使ってもみ消しているため、
警視庁のコンピュータにその記録は存在しないことになっている。
『そのおかげで毎年大金が必要になり、ご先祖様の遺産が食いつぶされている』
と父親は苦虫を嚙み潰している。
父親自身は、息子がハングレ組織『レッドシャーク団』と関係が有り、
ましてや木村瑠海の殺害を依頼していたことは全く知らなかった。

たまに上田の部屋を訪れる悪友の|大河噴信《たいがふくのぶ》がいる。
大河とは、上田の小学校の時の同級生で高校中退でブラブラしている時に
ゲームセンターで偶然会いそれからずっと付き合っている。
大河は、仕事はしていないがなぜかお金には困っていないようだった。
その大河から上田が大人になっていない女性を好む理由が明らかになった。
これはクモ助に付いている盗聴装置『聞き耳タマゴ』からもたらされたもので、
上田の部屋に来た大河のジャンバーの襟元裏側へ『聞き耳タマゴ』を縫い留めた。
大河はいつも行くクラブに気に入ったホステスがいて、
そのホステスが偶然元上田家メイドだったのだ。
そのメイドだったホステスと深い関係になって彼女の寝物語から情報が取れた。
元メイドの彼女によると、武知也がまだ13歳だった頃、
交通事故で亡くなった妹のことが忘れられず、いつも悲しそうな顔をしていた。
二人は幼い時から非常に仲が良く小学校高学年まで一緒にお風呂へ入っていたらしい。
そんな時、当時18歳だったそのメイドがまだ幼い武知也へ悪戯心で、
誰もいない部屋に二人きりで入り、
「坊ちゃん、いつも寂しそうでかわいそうだから良い事してあげます。
 ご家族には内緒にして下さいね。気持ち良い事してあげますよ」
とキスをして抱きしめた。
武知也は『綺麗だな』と思っていた女性に口づけをされて嬉しかったそうな。
そんな日が何度も続き、やがてまだ成長していない性器は摘まみ出され、
撫でられ擦られ大きく硬くされた。
武知也は人生で初めて知った快感に身も心も震えた。
同時にそのメイドは自らの綺麗な胸や性器を武知也に触らせた。
実はそのメイドの性器は脱毛処理をしていた。
でもそういうことを知らない当時の武知也は、
そのツルツルとした毛の無い性器に夢中になった。
武知也が話すには、妹みたいな綺麗な性器だと喜んでいたらしい。
その元メイドのホステスが、大河と事が済んだ後に、
ベッドでタバコを燻らせ大笑いしながら話したものだった。

ここからは大河と上田が酒を飲みながら聞こえて来た話である。
大好きだったメイドもいつしか解雇され屋敷から居なくなった。
武知也は毎日の様にそのメイドとのことを思い出しては
自慰をしていたが本物の性行為を知った後では全く満足できなかった。
中学生の時も必死で女の子に言い寄ったがキスくらいしか進まなかった。
やっと高校生となった武知也は、必死で可愛い女の子に言い寄り、
デートをして色々なところへ連れて行っては、誕生日にはプレゼントしたり、
何とかその関係に持って行こうとするが、まだ高校生では無理だった。
キスや胸までは触らせてくれるがそれ以上は断られてしまう。
まあ武知也の通う高校は、紳士淑女育成で有名な学校のため当然ではあった。
ある時、我慢できなくなって、無理矢理に性器を触ってしまう。
彼女は驚いて武知也を突き飛ばして泣きながら部屋から出て行った。
武知也はその時にショックを感じた。
無理矢理触った時、掌にザラっとした毛の感触が残ったのだった。
それは武知也が好きだったツルツルの性器ではなかったからだった。
それ以降、彼女から一切連絡も無くなり、学校でもなぜか同級生に嫌われた。
学校に行っても面白く無く、『変態だ』と噂されるようになって不登校となった。
その後、年を偽ってファッションヘルスに入ったりホテトル嬢を呼んだが、
妹やメイドの様にツルツルの綺麗な女性は居なかった。
武知也はだんだんと大人の女性から興味が無くなっていったのだった。

上田が食事とかで部屋から長時間出て行く時、
クモ助は潜んでいる机やカーテンの裏から出て机の上のパソコンの側へ降りた。
そして、口から端子を伸ばしてパソコンのデータを読み取り始めた。
そのデータを一気に遼真の元へ送信する。
クモ助や天丸が常に画像を撮っているので暗号は簡単にわかっている。
この車のコンピューターは、
新宿にある桐生探偵事務所の量子コンピューターのRyokoと連結されている。
この日から上田や上田の家族の不在時は、
父親や家族や上田のパソコンのデータも順次入手することとなる。
上田が眠っている時は、可能ならスマホからの情報を取った。
上田の記憶媒体の中身は、殆どが小学生や瑠海の画像ばかりで気持ち悪かった。

父親と上田のパソコンの中にはハングレ組織『レッドシャーク団』の情報もあった。
父親は息子とハングレ組織『レッドシャーク団』との関係は知らないが、
警察としては注意している組織の一つの様だった。
ただ父親のパソコンには消された筈の息子の調書は写真で残っていた。
やはり遼真が危惧していたように、
警察組織として警察官の暗部は表に出る前に消される可能性が高く、
もし宮尾警部などに話していたら、たちまち捜査の痕跡が父親へ漏れて、
現場へいつ捜査中止命令が出る可能性も高かった。
これは遼真から都倉警部へ話していても同じ様になる可能性が高かった。
遼真はこの事件は捜査も行動も慎重に進める必要のある事を理解した。
京都の祖父、狐派頭領の令一が他派とも打ち合わせる必要があると話すはずだった。