はっちゃんZのブログ小説

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1.テロ(第8章:占い死)

ある夏の夕方、政権与党である皇国民主党の馬場健太元総理が、
新人候補への応援演説中、テロリストに襲われる事件があった。
場所は渋谷駅前の忠犬ハチ公前広場。

忠犬ハチ公の像の近くで小さな演台へ立ち、明るい笑顔を立ち止まる聴衆へ向け、
彼のトレードマークでもある外国人にも体格負けしない大きくがっちりとした身体で
大きなジェスチャーで手を動かしながら演説していた。
「皆さん、皇国民主党の馬場です。
 我が党は、政権与党として責任を持って、日米同盟を基軸として、
 日本、いや世界の平和を目指して行動しています。
 今度の選挙では、この鶴田鼓太郎君をお願いしたいと思っています。
 彼は若い時から大使館員としてアメリカを含めた海外での勤務も多かったため、
 多くの国の要人と肝胆相照らす仲となり、日本のための尽くしてきました。
 この度、国会議員として立候補しました。
 皆様より、我々に対して、最近の政治は停滞しているとか、
 居眠りばかりで何をやっているかわからないとかの苦言を頂いていますが、
 国民のことを全く考えていないのかわかりませんが、
 代替案も無く反対しか言わない野党の態度にも困っています。
 こんなことを言うと又もや国会で私が文句を言われてしまいますね(笑)。
 とにかく現在は、ほんの一日で世界が大きく変わる時代であるため、
 我が政権与党皇国民主党も私も含めて毎日の動静に気を配り身を引き締めています。
 その中で彼は政界の暴れん坊として、七つの武器を持って
 現在の皆さんが感じて居られる停滞感を打ち破る男として期待されています。
 今度の選挙では是非とも彼に皆様の一票をお願いしたい」
聴衆は、彼が総理大臣の時から続く経済路線、長年低下してきた日本経済を復興させようとする彼の試みに期待し、その自信に満ちたにこやかな笑顔を見つめていた。

その時、フードを被ってマスクをした大きな紙袋を下げた若い男が、
馬場元総理の後方から近づき、
ひしめく聴衆の中を押しのけてフラフラと前へ前へと歩いていく。
その若い男が、大きな紙袋を下に置いた瞬間に、
「皆さん、危ない。その男から逃げてください」
とその広場へ走り込んで来た長身の男から大声が発された。
一瞬、その場に居た人間は凍り付いた様に動けなかったが、
そのフードを被った若い男は、
慣れた手つきで紙袋から手製の銃を出して、
銃口を馬場元総理へ向け引き金が引かれた。
『ドーン』
と耳を劈く銃声が響き、馬場元総理は胸腹部へ銃弾を受けて倒れた。
それを見てニヤリと笑った若い男はフラフラと二発目を聴衆へ向けた。
その瞬間に大きな声を掛けた長身の男は
銃を持った若い男に飛びついて銃を空へ向けさせた。
銃口から空に向かって散弾銃の複数の銃弾が何発も撒き散らされた。
「邪魔をするな。お前も殺す」
と握られた銃を長身の男へ向けようと叫んでいたが、
すぐさま、警察官が急行し襲撃した若い男は、
警棒で肩を殴打され取り押さえられた。
辺りは惨憺たる状況で、多くの聴衆は引き攣った顔でスマホ撮影をしている。
大きな身体の馬場元総理は、演台から崩れ落ちて路上へ倒れている。
胸腹部だけでなく口からも出血していて、心臓は停止していたようで、
その場に居た医療の心得のある人により人工呼吸と心臓マッサージが行われ
止まった心臓の鼓動を再開させようとしていた。
被害者は馬場元総理だけでなく聴衆の数人が、
撒き散らされた銃弾で手足に怪我を負いその場で倒れて介抱されている。
この出来事は、多くの警官に警備されているにも関わらず、
テロリストが政治家を手作りの武器で襲撃することができた事件で、
世界中へその出来事と映像は発信されて大きな話題となった。
馬場元総理は病院へ運ばれ長時間の手術の甲斐も無く亡くなった。
銃弾の一部が心臓そのものへ撃ち込まれていたと報道された。
また国民の多くは「安全な日本」という神話の崩壊を目の当たりにした。

逮捕されたテロリスト出口元治は、自分が宗教2世で母親が生活費の殆どを浄財として寄付したため苦しい生活で自分の人生が変わったとその宗教法人を憎み、その宗教法人と選挙目的で仲の良かった元総理を襲ったと自供しているが、あまりに荒唐無稽な発想で一部のマスコミは信じなかった。ただ馬場元総理が進める日本の防衛力増強計画に近隣国家への忖度または昔の学生運動を忘れられず何にでも反対したい一部のマスコミや有識者は、この事件の原因を宗教関係事件と矮小化させて報道している。
実際に桐生一族が調べた情報では、このテロリスト出口は、母親の入信している教団を脱会後に新しく所属していた組織は、隣国のスパイ組織『東アジア平和会』で日本国が防衛費などを増やして防衛力を高めることを推進させない様に世相を誘導する組織の一つで、有事にはメンバーはテロリストとして活動する可能性も考えられた。過去にこの会に所属していたメンバーが、ヤクザ相手に爆破事件を起こした前科もある組織である。
与野党の政治家の中にはこの組織を始め、よく似た組織から政治献金などを受け入れて、その組織の国へ招待され、ハニー&マネートラップに嵌り最早スパイと同様のグダグダな状態で議員として国会へ登院しているという情けない状況だが、長い時間を掛けて国民の精神という根元から腐らされた戦後体制では簡単には元に戻らないのだった。

現場へ走ってきて馬場元総理への襲撃を知らせ、
まだ増えたであろう聴衆の被害を救った男は、一躍マスコミの寵児となった。
彼の名前は、『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』
職業は、渋谷にある最近有名な占い師の秘書だった。
彼はこのたびのことを警察やマスコミへ
「突然、姫巫女様へ高次元の霊様から神託があり、
 テロリストの服装や顔つきをお聞きして、
 その惨事を防ぐために急いで現場へ行きました。
 時間が無かったため警察へ連絡する時間はありませんでした」
と伝え、マスコミは姫巫女と真面目で少しシャイな彼の笑顔を大きく取り上げた。
マスコミは一斉に『奇跡の神の使徒』と報道した。

警察は当初あまりにタイミングが良すぎた彼を容疑者の一人としても捜査したが、
彼『|宍戸《ししと》 |鷹《おう》』の行動は、
16時00分:姫巫女から神託のあった時刻
16時05分:占いの館を出た時刻
16時09分:占いの館から現場へ到着した時刻
16時10分:テロリストが犯行を行おうとした時刻
テロリスト自身が彼の事を全く知らないと答えているし、
彼とテロリストの接点は全く見いだせなかった。

そうなれば、『奇跡の神の声』として、
今度は彼の働く占いの館『シシトー神の館』が注目され始めた。
占い師の名前 『シシトー姫巫女』
降臨する神様 『シシトー神』
この店は、最近渋谷では若い女性に一番人気があり、
SNSやインスタグラムやユーチューブでも話題で沸騰している。
マスコミの街角インタビューでも多くの女性が訪れた経験があるようだった。
恋や仕事などの方向を指し示してくれることで有名だった。
その占い師は若い女性で、相談者の選んだ物で占ってくれるらしい。
最初に面会時、氏名と誕生日を記載して提出し、
相談者が目の前に置かれている水晶、タロットカードなどを選んで占う。
一番の人気は「降霊術による自動書記」との評判だった。
その占い師が、高次元の霊をその身体へ降ろし、
その高次元の霊の導きで目の前の紙へ解決方法を記載していくらしい。

テロリスト出口元治は、なぜか逮捕の翌日に留置場で突然死していた。
検視の結果、「心筋梗塞による突然死」とされた。
まだ若く基礎疾患も無く血管奇形もなかったが、左冠動脈主幹部が完全に狭窄し、
左心房や左心室への血流が全て止まったために死亡したとの話だった。

たちまち全国からその占いの館へ予約が殺到し、
予約無しでは占い師へ面会も出来なくなっているが、
予約申し込みは減ることなく増え続けているのだった。
そうしている間に、
その占い師を教祖として全国の都市部に『シシトー教団支部』が出来始めた。
占い師に面会した多くの人間が入信し、若い層を中心に信徒が一気に増えた。
この教団は、他の教団の様に『寄付』を強要される事は無かった。
仕事をしながら通常の生活を送り、
ユーチューブで配信されるものを会員登録して見ておけば良かった。
そうなれば襲撃事件も相まって信徒の数はうなぎ上りに増え始める。
そんな信徒の中で、若い層の票田を狙って政治家が近づき始め、
多くの与野党の政治家や経済界重鎮は「特別信徒」となり始めた。
彼らは普通の信徒とは異なる場所と時間に相談事の神託を受けた。
その内容も料金に関しても不明で誰からも一切漏れてこなかった。

この事件から、今まで何度も問題にもなっては消えていた新興宗教の問題、
『寄付』という名の『搾取』する団体、
『教育』という名の『洗脳』する団体、
『脱退した信者』を『悪魔』として信者による日常的な虐めを是とする団体、
全てのマスコミが洗い出し始め、国民もそれに注意し厳しい視線を向け始めた。
ただマスコミの態度は、CMのスポンサーの団体には何も報道しない自由を行使し、
報道の方向性を偏向させている。
しかし、心ある一部の政治家も問題意識を持ち始め、
乱立する新興宗教への何らかの規制が必要ではと考え始めた。
日本では従来、宗教法人には非課税であったが、
『国会で宗教法人の選別方法に対して法案が出されるのでは?』
『公の場で何か奇跡などを示すことの出来ない宗教は
きっと嘘の宗教なのだからそんな宗教は課税対象とすればいいのでは?』
オウム事件を始めとして戦後の新興宗教に問題行動が多いため、
特に戦後の新興宗教を対象とすべき』との発言をする政治家の声も増え始めた。

新興宗教関係者からは、
信教の自由を盾に既成宗教との対応方法の違いに不満を表明した。
『なぜ新興宗教だけが対象になるのか?』
『昔からの既成宗教も対象にならないのはおかしいのではないか?』
それに対して、既成宗教関係者は、
聖徳太子の時代から日本へ定着し、国民の多くが何世代にも渡って信仰してきている仏教が対象になるのはおかしいのではないか』
『太古の昔からこの日本国が出来た頃から信仰されている神道は新興とは別格である』
などと多くの意見がマスコミを賑わせているが、実際の所、多くの宗教法人が戦々恐々としているのが現状であった。